海外シニアが「また来たい」と思う日本のリジェネラティブツーリズム|地域の再生と観光

海外のシニア旅行者が、日本の地域再生に参加しながら、深い文化体験を楽しむ。そんな新しい観光のかたちが、今、注目を集めています。
リジェネラティブツーリズム(再生型観光)とは、滞在前よりも良い状態をその土地に残していくことを目指す旅のかたちです。
過疎化や空き家問題に悩む地域にとって、時間とお金にゆとりがあり、社会貢献への意欲も高い海外シニア層は、理想的なパートナーといえるでしょう。
海外シニア層が日本のリジェネラティブツーリズムに求めるもの

海外から訪れるシニア旅行者は、いわゆる定番観光ではなく、「本物の日本」に触れたいと考えています。
また、65歳以上のシニア層は、有名観光地そのものよりも、その土地ならではの個性や背景といった「その土地をユニークにしている要素」に強い関心を示しています。[1]
リジェネラティブツーリズムは、まさにこうしたニーズに応えられる観光スタイルです。地域の人々と交流しながら文化を学び、同時に地域課題の解決にも関わることができます。
このような「意味のある旅」は、人生経験が豊かなシニア層の心を強く惹きつけるでしょう。
一方で、言語や医療面への不安も大きいため、安心して参加できる受け入れ体制を整えることが欠かせません。
深い文化体験への関心

海外シニア層が日本に求めるのは、茶道や禅、武道、食文化など、精神性を伴う体験です。なかでも茶道体験は訪日外国人のあいだで特に人気が高く、「日本の美意識に触れられる」と高い満足度を得ています。岡倉天心が1906年に執筆した「茶の本」は、現在も海外で日本文化の入門書として読み継がれている名著です。[2]
北海道ニセコでは、訪日外国人向けの茶道体験プログラム「Authentic Tea Ceremony – 京都の本格茶道体験」を開催しています。昨シーズンの実施時には、オーストラリア、シンガポール、アメリカなど、10か国以上から参加者が集まりました。
好評を受けて、同プログラムの第2回が今年も12月8日から開催予定です。[3]こうした本格的な文化体験は、シニア層のリピート訪問を促すうえで重要なコンテンツといえます。観光事業者には、表面的な「体験メニュー」にとどまらず、地域の文化や伝統の継承と結びついた、深みのあるプログラム設計が求められるでしょう。
言語・医療面での安心体制の重要性

近年、訪日旅行者向けの多言語対応や医療情報の提供は少しずつ整いつつあり、高齢の旅行者にとっても日本を選びやすい環境が広がってきています。
一方で、海外シニア層にとっては依然として「言葉の壁」と「医療体制への不安」が、旅行をためらう大きな理由となっています。
一方で、翻訳アプリの普及により状況は少しずつ改善しています。地方自治体の職員を対象とした調査では、通訳・翻訳サービスの導入検討において「通訳アプリ」が68.5%と高い支持を獲得。
「いつでも利用できる」「難しい文章でもニュアンスまで伝わる」といった理由が挙げられ、現地で丁寧に対応すれば、言葉の問題が深刻化しないケースも多いようです。[5]
宿泊施設向けの多言語対応ツールも充実しており、109言語以上に対応可能なサービスも登場しています。[6]
観光事業者は、こうした安心につながる情報や体制を積極的に発信することで、シニア層にとっての来訪ハードルを下げられるでしょう。
日本のリジェネラティブツーリズムの具体事例
日本各地では、旅行者が地域再生に参加するプログラムが始まっています。観光を通じて空き家活用や伝統文化の継承、自然環境の保全などに取り組み、「訪れる側」と「受け入れる側」の双方にメリットをもたらす試みです。
文化資源を再生する、古民家プロジェクト。

愛媛県大洲市は、歴史的資源を活用した観光まちづくりで国際的評価を受け、2023年にはグリーン・ディスティネーションズ・ストーリー・アワーズ「文化・伝統保全」部門で世界1位となりました。[7]
空き家を客室に活用した分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」が2020年に開業しました。
収益の5%を町の保全活動に寄付する体験プログラム「OZU STORIES」により、旅への参加そのものが文化を次世代につなぐ仕組みになっています。[8]
兵庫県丹波篠山市の「集落丸山」も示唆に富む事例です。
「里山暮らし4泊5日ツアー」などの長期滞在型プログラムは、ゆったりと過ごしたいシニア層のニーズにも適しています。[9]
自然保全に参加できる離島プログラム

東京都の伊豆諸島や小笠原諸島などの島しょ部では、観光客が自然環境の保全に参加できるプログラムが展開されています。英語対応のガイドやパンフレット、比較的短時間のコース設定などにより、海外からの観光客、とくに体力面に配慮が必要な層でも参加しやすくなっています。
神津島は2020年12月、ダークスカイ・インターナショナル(旧・国際ダークスカイ協会)の「星空保護区」に認定。光害を抑える街灯への交換や住民への環境教育を通じて、美しい星空を守っています。[10]
地元住民がガイドを務める星空観察ツアーも人気で、旅行者は星座や季節の天文現象を学びつつ、島の保全活動にも触れられます。歩く距離を抑えたコース設定や、星座や季節の天文現象をわかりやすい英語で説明する工夫がされています。
小笠原諸島では、観光客がウミガメ保全に参加できるプログラムを実施。小笠原海洋センターが、ウミガメの生態を学ぶ教室や卵の再埋設、放流体験などを提供しています。「特別な思い出を通じて環境保護の大切さを伝える」姿勢が特徴で、感動した参加者が寄付者になることも多く、リジェネラティブツーリズムの好例といえるでしょう。[12]
農村・里山と暮らしを支える地域参加型体験

農村での滞在体験も、リジェネラティブツーリズムの重要な形態です。株式会社TRIPLUSは、日本各地で50歳以上の住民をホストとして迎え、訪日外国人へ「暮らすような日本体験」を提供しています。[13]
農業体験、料理教室、将棋、居酒屋めぐりなど、日本の「日常」そのものをコンテンツ化。シニア世代のホストには収入と生きがい、地域とのつながりを維持できる社会参加の機会を生み出しています。一方で、ゆっくりと人と交流しながら旅を楽しみたい海外シニアにとっては、同世代のホストと生活を共にすることで安心感が生まれます。
京都府綾部市の「一汁一菜の宿 ちゃぶダイニング」では、東京から移住した夫婦が築100年以上の古民家で農泊を運営。小さな自給農体験や地元住民との交流を通じ、「本物の豊かさ」を味わえるプログラムが好評です。
観光事業者のための海外シニアに選ばれるプログラムづくり
海外シニア向けのリジェネラティブツーリズムを成功させるには、次の点を押さえることが重要です。
- 禅や茶道、伝統工芸、農作業など、多様な関心と地域課題をどう結びつけるか
- 安心して参加できるよう、多言語対応・医療サポート・アクセシビリティをどう整えるか
自分の参加が地域にどう役立っているかを実感できる設計にすると、海外シニアの満足度やリピート意向は高まりやすくなります。
シニアの価値観と地域課題を結びつける体験設計

海外シニア層の関心は、禅・瞑想、茶道・華道、武道、食文化、伝統工芸など多岐にわたります。これらを単なる「体験メニュー」としてではなく、地域の課題解決と結びつけることがリジェネラティブツーリズムの要です。
空き家問題を抱える地域なら、古民家再生プロジェクトへの参加型プログラムが挙げられます。
重い資材運びや危険な工程は職人が担い、参加者は安全に配慮された範囲で作業に関わります。合間には囲炉裏や縁側で郷土料理を味わいながら、職人や地域住民の物語に耳を傾ける時間もあり、体力に不安のあるシニア層でも無理なく参加可能です。
旅行者を「観光客」ではなく「プロジェクト参加者」として迎え、達成感と貢献実感を得られます。[15]
鳥取県の「山陰リジェネレーション・ヘルスツーリズム」は、心身をゆっくり整えたいシニア向けの要素が組み合わされたプログラムです。
三徳山での無理のない修行体験や湯治文化が残る三朝温泉での滞在、座って取り組める牛ノ戸焼きなどの工芸体験を通じて、静かな環境の中で癒やしと学びを得られる構成に。体力に不安のある海外シニアでも参加しやすい内容です。[16]
安心・安全・アクセシブルな受入体制の構築

シニア層を受け入れる際は、安心・安全な体制づくりが最優先となります。受入体制のポイントとしては、以下の4つが挙げられます。
- 医療連携
- 多言語サポート
- 移動手段への配慮
- 明確な情報提供
まず医療面では、2025年3月末時点でJMIP認証医療機関が全国に69施設あり、多言語対応や海外旅行者向け医療サポートが整った地域と連携することが有効です。
24時間対応の宿泊者サポートコールセンターを活用すれば、外国人宿泊者の安心感を高められるでしょう。
移動手段への配慮も欠かせません。多くの分散型ホテルでは駅からの送迎を行っており、NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町でも、伊予大洲駅からの予約制送迎を提供しています。[17]
長時間の歩行が難しいシニア層に配慮した動線設計に加えて、体験プログラムの所要時間や難易度を明記し、参加者が自分の体力に合わせて選べるようにすることが重要です。
まとめ|リジェネラティブツーリズムがもたらす価値
リジェネラティブツーリズムは、海外シニアが「また来たい」と思う体験を生み出しながら、旅行者・地域・事業者の三者に価値をもたらす新しい観光のかたちです。旅行者にとっては、古民家再生や自然保全、農村での暮らし体験などを通じて、「学ぶ・つながる・貢献する」という実感を得られ、高いウェルビーイングにつながります。
地域にとっては、観光収益を文化継承や環境保全、人材育成に還元することで、暮らしや自然を次世代につなぐ基盤づくりが進みます。大洲市のように、行政・金融機関・民間が連携して仕組みを整えることで、「観光が地域の再生につながっている」という実感が地域内にも生まれます。
事業者にとっては、海外シニアや富裕層に向けた高付加価値の体験型商品を通じて、価格ではなく体験の質で選ばれる持続可能なビジネスモデルを構築できる点が大きなメリットです。
シニア層の価値観と地域課題を結びつけた体験設計と、言語・医療・移動手段など安心して参加できる受入体制がそろってはじめて、「また訪れたい」「また受け入れたい」と双方が思える関係が育まれます。
これこそが、これからの日本の観光に求められるリジェネラティブツーリズムの価値といえるでしょう。
参考文献
[2]【海外駐在員が実践】茶道と着物でおもてなし | 外国人向け伝統文化体験|モテナス日本
[3]【冬季限定】京都の本格茶道と蕎麦づくりをニセコで体験!【SANSUI NISEKO】[4] 令和6年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に 関するアンケート」調査結果
[5] 【インバウンド対応に追われる自治体職員|「翻訳機 vs 通訳アプリ」人気なのは?】約7割が「通訳アプリ」、2割強が「翻訳機」 それぞれのメリットが明らかに!
[6] JTB|受入環境整備 | インバウンド | サービス | 自治体・行政機関向け
[7]「世界の持続可能な観光地」文化・伝統保全部門で世界1位を獲得しました。 – 大洲市ホームページ
[9] 丹波篠山の宿:集落丸山 -空家古民家を生かした集落再生の仕組み- 兵県丹波の森協会・丹波の森研究所
[11] Regenerative Travel in Tokyo’s islands | SUSTAINABILITY | Tokyo Tokyo Official Website
[12] 日本の世界自然遺産|満点の星が輝く夏の小笠原諸島で、アオウミガメの放流体験
[13] INTERVIEW シニア層の多様な人生経験を日本体験として海外旅行者に届ける「TRIPLUS」
[14] 農泊体験 | 農家・古民家に宿泊!気軽に田舎暮らし体験 | VELTRA(ベルトラ)
[15] 空き家を地域資源に変える「山陰ツアー」を販売開始 | リベルタ株式会社 | コーポレートサイト|Liberta Inc.
[16] San’in Regeneration Health Tourism | Natural Wanders | JAPAN. WHERE LUXURY COMES TO LIFE
