天候リスクを「環境学習の好機」に変える全天候型施設のビジネスモデル

気まぐれな天気に、集客やキャンセル対応で振り回されていないでしょうか。屋外コンテンツに依存したままでは、豪雨や猛暑が増えるこれからの時代、安定した運営はますます難しくなります。そこで注目されているのが、雨でも風でも提供できる「全天候型の環境学習施設」です。
室内で行うエコ体験や環境ワークショップは、天候リスクを抑えるだけではありません。旅行者の記憶に残る学びの場にもなります。
本記事では、雨の日を「環境を深く学ぶチャンス」と捉え直し、新たな価値を生むビジネスモデルを解説。リジェネラティブ(再生型)ツーリズムの視点も取り入れ、地域の再生と収益化を両立する国内外5つの先進事例を紹介します。
なぜ今、全天候型の環境学習施設が求められるのか

全天候型の環境学習施設が必要とされる大きな理由は、気候変動によって「天候が読めない時代」になっているからです。かつては季節ごとの天気傾向を前提に商品設計ができましたが、いまは豪雨や猛暑、強風などで想定外の中止が起こりやすくなっています。この変化は、屋外アクティビティに依存する観光地ほど大きなリスクになります。
室内で完結するエコ体験は、こうしたリスクを抑えつつ、環境学習という社会的価値も同時に生み出せる手段だといえます。さらに旅行者側でも、「ただ遊ぶ」だけではない体験への関心が高まっています。環境や地域について学べる、教育性のあるコンテンツを持つ施設は選ばれやすくなっている状況です。
気候変動リスクを「安定収益」へ転換する
従来の観光モデルでは、悪天候によるキャンセルや稼働率の低下は避けられないコストでした。しかし、気候変動が常態化する今、天候リスクへの対策は経営の必須課題です。
工場や屋内施設を活用した全天候型プログラムは、当日キャンセルの受け皿となります。売上の底を支える役割も担えるでしょう。また、企業研修や学校の校外学習など、事前に日程を決める団体は「中止リスクの低いプログラム」を好みます。全天候型の環境学習施設は、こうした団体需要を取り込みやすく、平日の稼働率向上にもつながります。
その結果、気象条件に左右されがちな収益構造を、より読みやすく、計画を立てやすい形へ変えていけます。
質の高い体験を求める旅行者が増えている
もうひとつの理由は、「どこにでもある遊び」ではなく「そこでしかできない体験」を求める旅行者が増えていることです。写真映えするスポットを巡るだけの旅から、その土地の環境課題や暮らし、資源循環の仕組みを理解したいというニーズが年代を問わず広がっています。
廃材を使ったアップサイクル体験や、資源がどのようにリサイクルされるのかを知る見学プログラムは、こうしたニーズに応えるコンテンツです。室内であれば、説明や対話の時間を十分に確保できます。そのため「楽しかった」で終わらず、「考え方が変わった」と感じてもらいやすくなります。
観光事業者にとっては、価格競争に陥りにくい高付加価値メニューを作れます。加えて、環境への取り組みを具体的に見せる場にもなり得ます。
ビジネスモデル別・全天候型エコ施設の先進事例
雨の日でも体験価値を落とさず、むしろ学びと収益を伸ばす施設が各地で生まれています。宿泊、農業、工場、都市、産業教育の5つのモデルを取り上げます。
1. 【宿泊×廃棄物】上勝町「ゼロ・ウェイストセンターWHY」(日本・徳島)

ごみ処理場を、人が集うランドマークへ変えた革新的な事例です。
最大の特徴は、「ごみを、ごみにしない」滞在体験にあります。宿泊客はチェックアウト時、滞在中に出したごみを自ら分別する体験(ウェイスト・セパレーション)が必須です。ごみステーションでは、住民と同じように細かなカテゴリーに分けていきます。公式サイトでは「13品目45分別」とされており、その作業を通じて資源循環の現実を肌で感じられます。
また、併設の「くるくるショップ」は、住民が持ち込んだ不要品を無料で持ち帰れるリユース拠点です。地域内の資源循環が見える形で示されている点も魅力でしょう。
建築デザインにも理念が反映されています。上空から見ると「?」の形をした建物は、地元の杉材や廃材を活用して建設されました。宿泊収益に加え、企業や自治体向けの視察・研修プログラムも提供。雨の日でも深い学びが得られる施設として機能しています。
2. 【農業×ラグジュアリー】Babylonstoren(南アフリカ)

南アフリカにある「Babylonstoren(バビロンストーレン)」は、現存するケープ・ダッチ様式の農園のなかでも、とくに保存状態が良いことで知られています。
敷地内では、自家栽培のブドウを使ったワインを最新のワイナリーで醸造。ワインテイスティングやセラーツアーを通して、気候や土壌とワインづくりの関係を学べる場も用意されています。[2]
テイスティングルームはワインセラーに隣接し天候に左右されず、座ってゆっくりテイスティングを楽しめます。
さらに、地下のワイントンネルやワインミュージアム「The Story of Wine」では、展示と解説を通してワインの歴史や文化を体験可能です。室内で楽しめるコンテンツも充実しています。
「農園」という屋外要素が強い場所でも、洗練された屋内施設とプログラム体験を整えることで、どんな天候でも快適な滞在と学びを提供している好例といえるでしょう。
3. 【工場×五感体験】Celestial Seasonings(アメリカ・コロラド)

米国コロラド州ボルダーにある「Celestial Seasonings(セレスシャル・シーズニングス)」は、年間10万人以上が訪れる人気のハーブティー工場です。[3]
工場見学ツアーのハイライトは、有名な「Mint Room(ミント・ルーム)」です。保管されているペパーミントの強烈な香りを全身で体験でき、単なる見学を超えた、五感に残る思い出をつくれます。[4]
ツアーでは、原材料のブレンドから箱詰めまでの製造工程を見学可能。同時に、ごみを出さないティーバッグの仕組みなど、同社のサステナブルな調達や品質管理への姿勢も学べます。見学の前後には、テイスティングルームで多様なお茶を試飲できるほか、歴代パッケージの原画が飾られたアートギャラリーも見どころです。[5]
製造現場の透明性を公開することでブランドへの信頼を高め、併設ショップでの購入につなげるモデルです。製造業と観光産業を融合させた成功例といえるでしょう。
4. 【都市×アップサイクル】Zenbird / 横浜サーキュラーデザインツアー(日本・横浜)

横浜のサステナブルWebメディア「Zenbird」が主催するこのツアーは、都市部の既存施設を活用した全天候型の学習プログラムです。[6]
訪問先には、廃棄物の選別・圧縮を行う「武松商事(現・J&T環境)」のリサイクルセンターがあります。食品廃棄物をバイオガスエネルギーに変える「J-Bio Food Recycle」も代表的です。[7]古着の回収・リサイクルを行う「ナカノ株式会社」なども挙げられます。
さらにツアーには、「Rinnebar(リンネバー)」でのアップサイクル体験が組み込まれています。楽しみながら資源循環を学べる設計です。[8]
大規模な施設を自社で保有するのではなく、地域の既存プレイヤーと連携して学びを編成しています。都市型モデルとして参考になる事例といえるでしょう。
5. 【産業×教育】北九州市エコタウンセンター(日本・福岡)

北九州市エコタウンセンターは、かつての公害都市から「環境未来都市」へと再生した北九州市の取り組みを象徴する施設です。[9] [10]
このセンターは、日本初のエコタウン事業として整備された「北九州エコタウン」の総合案内施設として機能しています。訪問者はセンター内の展示で環境学習を行った後、エリア内に集積するさまざまなリサイクル工場を見学できます。
見学可能な施設には、自動車リサイクル工場、家電リサイクル工場、風力発電施設などが含まれます。資源が再生される実際の工程を間近で見られる点が特徴です。
産業観光として確立されており、工場内の見学ルートは屋内に整備されています。そのため、天候の影響を受けにくい設計です。修学旅行や企業研修など、教育目的の団体旅行の受け入れ先として定着しています。
観光事業者が取り組むべき収益化と設計のポイント
全天候型の施設を「雨の日対策」で終わらせないためには、収益の柱を増やし、誰にとっても使いやすい体験設計に落とし込むことが欠かせません。ここでは、安定収益につながる事業モデルの組み立て方と、選ばれ続ける施設にするための設計ポイントを整理します。
B2B研修と会員制でつくる多層的な収益モデル
安定経営の鍵は、一般旅行者(B2C)に加えて法人需要(B2B)も取り込むことです。上勝町や北九州市のように、企業のサステナビリティ研修や自治体向け視察は平日の需要を支えます。単価も上げやすく、収益の軸になりやすいのが特徴です。
さらに会員制度(メンバーシップ)を導入すれば、天候に左右されにくい「通う理由」をつくれます。学びや交流の場として、地域のサードプレイス化を進められます。結果として、継続的なストック収入の確保にもつながるでしょう。
誰もが安心して学べるユニバーサルデザインの徹底
シニア層を含む多様なゲストを受け入れるには、物理的なアクセシビリティの確保が欠かせません。段差の解消や休憩スペースの配置に加え、多言語対応も重要です。視覚・聴覚への配慮など、ユニバーサルデザインを徹底していく必要があります。
また、換気や動線まで計算された空間は、感染症対策の面でも安心感を生みます。誰もがストレスなく過ごせる設計こそが、持続的な集客の土台になるといえるでしょう。
全天候型施設が地域にもたらす波及効果
全天候型施設は、単なる一企業の収益事業にとどまりません。雨の日でも旅行者が地域に滞在し、食事や宿泊につながることで、地域経済全体にお金が落ちる波及効果を生み出します。
さらに、住民と旅行者が交わる拠点ができることで、地域コミュニティの再生にもつながります。地域への誇りであるシビックプライドの醸成にも寄与するでしょう。地域のプレイヤーが連携し、資源や学びが巡るハブとして機能すること。そこにこそ、リジェネラティブツーリズムの本質的な価値があるといえます。
まとめ
天候リスクは、見方を変えれば「じっくり環境に向き合う時間」を届けるチャンスになります。上勝町、南アフリカの農園、米国の工場などの事例が示すように、屋内だからこそ提供できる質の高い体験は、気候変動時代の新しい観光資源です。
「雨の日を資産に変える」という発想への転換が、世界の旅行者を惹きつけ、地域の未来を切り開く鍵にもなるでしょう。
参考文献
[2] Babylonstoren Wine Tasting Experiences
[3] The Celestial Seasonings Tea Tour Is Back After 3 Years – Travel Boulder
[4] Celestial Seasonings Tea Factory Tour | Boulder, CO
[6] Sustainable & Circular Economy Tours in Japan (for organizations) – Zenbird Life
[8] 後編・国連開発計画(UNDP)フィリピンによる訪日視察ツアーを開催しました【イベントレポート】 | Circular Yokohama-横浜のサーキュラーエコノミーを加速する
