スイスの鉄道沿線で太陽光発電!世界で初めての新しい挑戦

スイスは、環境保護と再生可能エネルギーへの取り組みに力を入れている国として世界的に知られています。
このプロジェクトを進めているのは「Sun-Ways(サンウェイズ)」という企業であり、同社の創業者のジョセフ・スクデリ氏は「家の屋根に太陽光パネルを設置するのと同じだ」と語っています。
この実験が成功すれば、将来的に5000kmに及ぶスイス国内の鉄道網で年間1TWh(テラワットアワー)もの電力を発電し、全国30万世帯に供給できるようになると期待されています。
鉄道沿線に注目した理由について
スイスが再生可能エネルギーの導入に際し、鉄道沿線に注目したのは以下の理由からです。
- 空き地が少ない:大規模な太陽光発電施設を建設するための土地が限られています。
- 厳しい環境・文化遺産保護規制:新たな用地取得や環境破壊を伴う開発が難しいです。
- 既存インフラの活用:鉄道沿線という既存のスペースを利用することで、新たに土地を用意したり、環境を破壊したりすることなく、再生可能エネルギーの供給源を増やせます。
- 景観への配慮:個人の土地や民間の建物、山岳地帯などでは太陽光パネルの導入が制限される場合もありますが、線路のレールの間であれば、見た目の問題が少なく、環境や景観に影響を与えずに設置できます。
これらの理由から、スイスはこれまで活用されてこなかった鉄道沿線の空間を再生可能エネルギーの新たな供給源として注目しました。
スイスのエネルギー企業「Sun-Ways(サンウェイズ)」について

Sun-Ways(サンウェイズ)は、太陽光発電を鉄道のインフラ(鉄道の機能を支えるために必要な設備)に統合できる特許技術を持つ会社です。適応性の高いシステムで、線路の間に設置されたソーラーパネルを簡単に取り外すことができます。
このシステムの特長は、新たな土地を一切必要としない点です。開通済みの線路にソーラーパネルを設置・撤去する技術は、世界でSun-Ways(サンウェイズ)だけだと世界中から注目されています。
Sun-Ways(サンウェイズ)の目標とは
Sun-Waysは、持続可能な社会への貢献を目指し、以下のような目標を掲げています。
Sun-Waysの太陽光発電設備は、鉄道網と電気モビリティのためのエネルギー生産を変革する可能性を秘めています。
太陽光発電を鉄道のエコシステムに統合することで、再生可能エネルギーで列車に直接電力を供給するだけでなく、電気自動車の充電ステーションにも電力を供給し、CO2排出量を削減に貢献します。
これにより、スイスの公共交通機関全体のエネルギー自給率を高めることができるのです。[1]
スイスならではの2つの好条件
スイスの鉄道沿線が太陽光発電に適しているのには、主に以下の2つの理由があります。
- 広大な自然環境の利用
- 高い鉄道電化率
それぞれ詳しく紹介します。
広大な自然環境
スイスには約5300kmに及ぶ鉄道路線が存在し、その多くが山間部や広大な自然環境を通っています。
このような場所は、太陽光パネルの設置にとって理想的です。特に日照時間の長い夏の時期は発電効率が高く、標高の高い地域では太陽光が強く届くため、より多くの電力を生み出すことが期待できます。
スイスの鉄道はほぼ100%が電気で運行
スイスの鉄道は世界で最も電化率が高く、ほぼ100%の路線が電気で運行されています。
この高い電化率のおかげで、鉄道沿線にソーラーパネルを敷くことで、太陽光によって発電された電力を直接鉄道の運行に活用できる循環型システムが実現できます。
参考までに、2025年時点での世界の鉄道電化率ランキングは以下の通りです。
【世界の鉄道電化率ランキング(2025年時点)】
順位 | 国名 | 電化率 |
---|---|---|
1位 | スイス | ほぼ100% |
2位 | ルクセンブルク | 約94% |
3位 | スウェーデン | 約75% |
気になる日本の鉄道の電化率は約67%という結果でした。[2][3]
電力の消費量の比較3選
線路沿線の間に設置したソーラーパネルで発電できる電力と、鉄道会社や一般家庭で使用する電力をそれぞれ比較してみましょう。
路線に設置したソーラーパネルで発電できる電力
サンウェイズの試算では、1kmあたりの線路に設置したソーラーパネルで、年間約2000〜2500kWhの電力が発電されるとされています。
これはスイスの一般家庭の月間使用量に相当するエネルギー量です。
この発電量により、長期的に見れば鉄道会社にとってもコスト削減につながる可能性があります。エネルギー自給率の向上は、電力価格の高騰に左右されない、持続可能な鉄道運営の重要な基盤となることでしょう。
鉄道会社が使用している電力の消費量
スイスの鉄道は1年間で2,400GWhの電力を使用しています。これは、約63万世帯の消費電力とほぼ同じです。[4]
一般家庭で使用する電力量
2020年、スイスの国民一人当たりの電力消費量は6.45MWhでした。[5]
太陽光発電が環境の再生に与える影響
太陽光発電が環境に与える良い影響は、主に以下の2点です。
温室効果ガスが減ることで気候が安定する
温室効果ガスによって地球温暖化が進み、地球がどんどん温められています。
ですが、太陽光発電は発電時にCO2などの温室効果ガスを排出することがないため、環境負荷を減らしてくれると評価が高まっています。
土地のリジェネラティブな(再生を促す)活用
太陽光発電は、農地や耕作放棄地など、環境的にも再利用が可能な土地に設置されることがあります。
これにより作物と発電、二足の草鞋で環境の再生に貢献しようという動きがあります。
太陽光発電を取り入れている鉄道の電力量や環境に与える影響の違い
太陽光発電を取り入れている鉄道とそうでない鉄道を比較した結果がこちらです。
太陽光発電を取り入れている鉄道 | 太陽光発電を取り入れていない鉄道 | |
---|---|---|
環境負荷 | CO2排出がなく、地球温暖化を大幅に抑制 | 化石燃料を使用し、CO2を排出するため地球温暖化を加速 |
コスト | 初期費用はかかるが、長期的に電気代を抑制可能(自給自足のため) | 電気代が高くなる可能性がある |
安定供給 | 電力会社に依存せず、災害時の電力不足のリスクが低い | トラブル等で発電所が停止した場合、電力供給が不安定になる可能性あり |
このように、太陽光発電を取り入れた鉄道は、環境に優しくコスト面や安定供給の面でも多くのメリットがあると言えます。
技術と安全面
鉄道の線路に太陽光パネルを設置するアイデアは以前からあり、イタリアの「Greenrail(グリーンレール」と英国の「Bankset Energy(バンクセット・エナジー)」の2社が、線路の枕木にソーラーパネルを取り付ける方法を実施しています。
一方Sun-Ways(サンウェイズ)の方法は、ソーラーパネルを簡単に着脱できる点が画期的な新しい技術です。この世界初の技術は、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)との共同開発で誕生し、特許も取得しています。
生産した電力はインバーターを通して送電網に送られ、稼働していくシステムです。
スイスの村「ビュット」と「フルリエ」の区間では、年1万6000kWhの生産が可能になると見込まれています。
これは、4〜6世帯分の電力に相当すると試算されており、鉄道保守・運用上の制約を初期段階から慎重に反映させる実用的な技術開発戦略により、とても厳しいインフラ基準や安全規制に対応した技術へと進化しています。[6][7]
ソーラーパネルの耐久性やメンテナンス
Sun-Ways(サンウェイズ)のソーラーパネルは、耐久性とメンテナンス性も考慮して設計されています。
主な特長は以下の通りです。
- 簡易着脱式構造:線路の清掃や保守作業に支障が出ないよう、簡単に取り外せる構造を採用しています。
- 自己清掃機能と防汚コーティング:雪や砂埃が付着しにくいよう、パネル自身に自己清掃機能や防汚コーティングが施されています。
メンテナンスの方法や積雪や落石、振動といった鉄道特有の環境条件の対応など、慎重な設計と実証実験が不可欠になります。
初期段階では20m〜100m程度の区間に太陽光パネルを設置して、発電量や耐久性、列車運行への影響などを検証しています。
例えば、スイス西部ヌーシャテル州の小さな村Buttes(ビュット)の実験では、枕木に48枚の太陽光パネルが設置されました。
スイスの保線企業Scheuchzer(ショイヒツァー)が開発した専用機械と手作業を組み合わせることで、数時間あれば約1000m²相当の設置・撤去が可能となります。
以上を踏まえて、メンテナンスは比較的簡単に行えると言えるでしょう。[8]
国際的な関心と未来への展望
スイスの再生可能エネルギーを使用した挑戦は、世界から注目されています。
これは、従来使われてこなかった鉄道沿線の空間を利用することで景観を損なうことなく太陽光発電ができるという、世界初の画期的なアイデアだからです。
スイスの新しい挑戦は世界に注目されている
このスイスの技術は、すでにヨーロッパ諸国やアジアの鉄道事業者からの評価がとても高いです。
実際にDeutsche Bahn(ドイツ鉄道)やSNCF(フランス国鉄)も技術視察を行っており、各国がスイスの挑戦に積極的な関心を見せています。
今後技術が進歩していくことで、鉄道全体が「賢くエネルギーを管理・利用する仕組み(スマート・エネルギーインフラ)」として機能する未来も見えてきました。
グリーンインフラとしての価値
鉄道沿線と太陽光発電の融合の技術は、単に電力を供給するだけでなく、鉄道というインフラ全体を「より環境に優しいもの(グリーン化)」にすることに貢献できます。
スイスではほぼ100%の路線が電化されており、CO2排出量の交通手段として高い評価を得ています。
この鉄道をさらに再生可能エネルギーで動かすことで、より持続可能な社会を実現します。
また、発電した電力は鉄道網だけでなく地域の電力に供給することも想定されており、、地域経済のエネルギー自給率を高める効果も期待できます。
日本導入への主な課題
日本の鉄道沿線にソーラーパネルを敷くことで考えられる主な課題は、以下の通りです。
- 技術面:台風や積雪など自然災害が起きた時の耐久性
- 許認可:国土交通省や鉄道事業法にもとづく許可の取得が必要
- 運行管理:安全に運行ができるように、故障時や災害時の体制と整える
今後の展望
スイスでは、世界初のクリーンエネルギーの新たな可能性が切り開かれようとしています。
それに伴い、太陽光発電とともに蓄電池技術やAIによる電力管理システムとの統合が進むことで、鉄道全体がスマートエネルギーインフラとして機能する未来が見えてきました。
スイスの線路沿線に広がる太陽光発電の取り組みは、自然を壊すことなく既存のインフラを活用した持続可能なモデルとして注目されています。
環境への配慮により、鉄道と再生可能エネルギーの融合は、リジェネラティブ(再生を促す)の見本として地球温暖化を止める第一歩となっていくことでしょう。

参考文献
[2]Global Share of Electrified Rail Lines in Total Rail Network by Country
[6]Removable Carpet Solar Panel on a Railway track Generating electricity – NatNavi
[7]線路内ソーラー発電、スイス西部で実証開始 日本も研究急ぐ – SWI swissinfo.ch
[8]Switzerland turns train tracks into solar power plants – SWI swissinfo.ch