建設分野で広がるサステナブル建材|注目の導入事例とメリットを紹介

持続可能な社会への関心が高まるなか、「サステナブル建材」が注目を集めています。サステナブル建材とは、環境への負担をできるだけ少なくし、地球や社会にやさしい未来をめざす建築材料のこと。
リサイクル素材や自然素材、持続的に生産されている地域の木材などが代表的で、見た目や性能だけでなく、社会的・経済的な価値も高まっています。
この記事では、サステナブル建材の基本から、ホテルや旅館などの宿泊施設での導入事例、建材の種類・選び方までをわかりやすく紹介します。
サステナブル建材とは?
宿泊・商業施設の建設分野でも注目を集める「サステナブル建材」。これは、地球環境にやさしく、使う人や地域にもプラスの影響をもたらす建築資材のことです。
単にエコな素材を使うのではなく、「建物の作り方や使い方そのものを見直す」という発想が土台にあります。
サステナブル建材は、次の3つの視点で注目されています。
【環境的側面】
- 資源の枯渇やCO2排出、廃棄物の発生を抑える建材
- 例:再利用プラスチック、再生可能エネルギー由来素材、CO2吸収素材 など
【社会的側面】
- 健康や安全に配慮し、人や地域社会に好影響を与える建材
- 例:シックハウス症候群を抑える自然素材(漆喰・珪藻土)、地元産の木材など
【経済的側面】
- 耐久性や施工のしやすさがあり、メンテナンスコストを抑えられる建材
- 例:劣化しにくく長く使える建材、無垢材、地元で調達しやすい資材など
このように、サステナブル建材は「環境・社会・経済」の3つの面でバランスのとれた建材として、宿泊施設でも導入が進んでいます。
宿泊・商業施設でサステナブル建材が注目される理由とその効果
サステナブル建材は、環境への配慮だけでなく、実用性やブランド価値の向上といった面でも注目されています。
ここでは、導入が進む背景や、メリット・デメリットについて整理していきます。
経営とブランディングの両面で重要
サステナブル建材が導入されているのは、単なる“環境配慮”だけが理由ではありません。いまや環境対策は、経営課題として避けて通れないテーマになっています。
背景にはカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった世界的な潮流があり、行政による支援も加速しています。
こうした動きから、サステナブル建材の導入は社会貢献だけでなく、経営とブランディングの両面で重要な戦略といえるでしょう。
サステナブル建材の導入による4つのメリット

サステナブル建材には、「エネルギー効率の向上」「環境貢献」「快適性の向上」「ブランド価値アップ」という4つの大きなメリットがあります。
エネルギー効率にも貢献する
再生素材や自然素材で作られた断熱材などは、環境への配慮だけでなく、冷暖房効率の向上にもつながることがあります。
サステナブルでありながら、快適な空間づくりやコスト削減にも寄与します。
環境への貢献
再生素材や自然素材を使うことで、カーボンフットプリントの削減が可能になります。
また、地域で採れた木材などを使えば、輸送のエネルギーも抑えられ、地球にも地域にもやさしい選択になります。
快適な室内環境をつくる
調湿性・断熱性に優れた素材(例:漆喰・無垢材)は、夏は涼しく冬は暖かい空間を保ち、結露やカビの発生も抑えます。
宿泊者の健康や快適性を支える大きな要素です。
顧客満足とブランディング
環境への意識が高い旅行者にとって、「エコな施設かどうか」は選ぶ理由のひとつです。導入することで、企業のイメージアップや他社との差別化にもつながります。
導入前に知っておきたいサステナブル建材のデメリット
サステナブル建材にはメリットが多い一方で、「初期コスト」「施工の難しさ」「品質のばらつき」といった注意点もあります。導入前にこれらのリスクを理解しておくことが大切です。
初期コストの高さ
高性能な断熱材や自然由来の建材は、一般的な建材より価格が高い傾向があります。
ただし、長期的な光熱費削減や補助金の活用を考慮すれば、トータルで費用対効果の高い選択となる場合もあります。
施工の難しさとノウハウの不足
一部の素材は、扱いに慣れた職人や業者でないと性能を十分に発揮できない可能性があります。導入を検討する際は、実績のある施工会社を選び、工期や対応体制を事前に確認しておくことが大切です。
耐久性や品質のばらつき
自然素材は湿度や気温に左右されやすく、製品ごとに特性が異なることがあります。心配な場合は、使用実績や口コミ、第三者機関の評価などを参考にしながら選定すると安心です。
こうした課題を踏まえ、信頼できる素材や施工パートナーを選ぶことが成功のカギとなります。
サステナブル建材の種類

サステナブル建材にはさまざまな種類があり、素材の特性や目的によって活用の仕方が異なります。宿泊・商業施設の立地や方針に合わせて選ぶことが重要です。
以下は、ホテルや旅館で導入が進んでいる代表的な建材です。
- リサイクル・アップサイクル建材
- 自然素材と長寿命建材
- 地域産材(国産材)
- 注目の建材と最新トレンド
リサイクル・アップサイクル建材
使用済みのプラスチックや木材、ガラスなどを再利用した建材は、資源の循環やごみの削減に役立ちます。
最近では、再利用だけでなく新たな価値を生み出す「アップサイクル建材」への注目も高まっています。例えば、再生木材の床材、廃プラ再加工のデザインタイルなどは、見た目と環境性の両立が可能です。
2025年の大阪・関西万博でも、廃プラスチックや木材のアップサイクル建材が商業施設「EARTH MART(アースマート)」に活用され、話題を呼んでいます。[3]
自然素材と長寿命建材
漆喰や珪藻土といった自然素材は、室内の空気を清浄に保ち、湿気の調整やにおいの軽減にも役立ちます。化学物質を含まないため、シックハウス症候群のリスクを下げられる点も特徴です。
また、無垢材などの長寿命建材は、耐久性に優れ、劣化しにくいため、長期的にはメンテナンスコストの低減にもつながります。
地域産材の活用
地域の木材や石材を使うことで、輸送エネルギーやCO2排出を抑え、脱炭素社会の実現に貢献できます。[4]
地元資源の活用は地域経済の活性化にもつながり、地域との関係性づくりにも役立ちます。
特に国産材は森林の循環利用を促進し、旅館やリゾート施設とも相性が良い素材です。
注目の新素材と建材トレンド
近年は「機能性」だけでなく、「体験価値」を持つ建材にも注目が集まっています。たとえば、CO2を吸収するコンクリートや、竹・麻を使った自然素材は、環境負荷を抑えつつデザイン性も両立できます。
川崎重工業と鹿島建設が共同開発したCO2吸収型コンクリートは、大阪・関西万博の「CUCO-SUICOMドーム」にも採用されました。[5]
また、断熱ガラスや太陽光パネルを組み込んだ外壁といった複合建材は、省エネ性と快適性の両方を実現しています。[6]
このような素材は、単なる建築資材ではなく、訪れる人に独自の体験をもたらす重要な要素です。サステナブルな価値を提供しながら、施設の魅力やブランド力を高めるツールとしても活用されています。
サステナブル建材を導入した宿泊施設の事例
サステナブル建材を実際に取り入れているホテルは、国内外で少しずつ増えてきています。
ここでは、実際に導入を進めている国内のホテルや旅館の事例を紹介します。
北川村温泉 ゆずの宿|高知県

高知県にある「北川村温泉 ゆずの宿」では、地域産スギ材を活用したCLT(直交集成板)を建材に採用。木の温もりを感じる内装は、訪れる人に安らぎを与え、口コミでも高評価を得ています。
地元材の利用は、輸送エネルギーの削減や森林の循環利用といった環境配慮に加え、地域経済への貢献にもつながっています。[7]
TRUNK(HOTEL)|東京都

渋谷の「TRUNK(HOTEL)」では、間伐材やアップサイクル素材を家具・内装に取り入れ、都市型ホテルでありながら自然との調和を体現。
リサイクル木材や廃棄プラスチックを用いたデザインは、環境への意識と先進性を感じさせ、企業の価値観を伝える要素としても機能しています。
「サステナブルとスタイリッシュの両立」というコンセプトが共感を呼び、国内外から注目を集めています。[8]
カミツレの宿 八寿恵荘

2015年に日本国内で初めて「BIO HOTEL®認証」を受けた、長野県、北安曇郡池田町の山あいにたたずむ宿。施工時には、池田町産のアカマツや長野県産スギなど、地元の森林から調達した無垢材をふんだんに使用しています。
床や階段、建具、客室のルームキーに至るまで、合成接着剤を使用せず、自然素材のやさしい触感を活かしています。

室内の環境デザインにおいても、漆喰の壁、木製サッシ、合成塗料の不使用など、建物全体が自然素材に包まれた設計となっており、アレルギーへの配慮も行き届いています。[9]
建材選びのポイントと補助制度の活用法
サステナブル建材を導入する際は、「性能」だけでなく「施設との相性」や「管理のしやすさ」など、総合的な視点で選ぶことが大切です。
施設に合った建材選びの4つのチェックポイント
サステナブル建材を選ぶ際は、素材の性能だけでなく「施設との相性」や「コンセプトとの整合性」も大切な視点です。以下のようなポイントを押さえておくと選びやすくなります。
- 施工のしやすさ:専門業者が対応できるか、工期に無理がないか
- 快適性:断熱性・調湿性・消臭性など、居心地の良さにどうつながるか
- ストーリー性:地域材を使っているか、施設のコンセプトと一致しているか
- メンテナンス性:長期間にわたって使えるか、管理が難しくないか
建材は見た目だけでなく、使っていく中でどう感じられるかまで見越して選ぶことが重要です。
サステナブル建材購入に活用できる補助金・支援制度
サステナブル建材の購入には初期費用がかかるケースも多いため、補助金や支援制度の活用を検討するのもひとつの方法です。
たとえば国交省の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」では、省エネ性をはじめ、環境配慮に優れた木造建築に対し、設計・建築費の一部が補助されます。[10]
さらに、自治体ごとの支援制度もあります。たとえば、京都府では、「ひろがる京の木整備事業(非住宅タイプ)」を通じて、府産木材を使ったホテル建築などに補助金が交付されるケースがあります。[11]
制度の内容は年度や地域によって変わるため、導入前に最新情報を確認しておきましょう。
施設に合ったサステナブル建材を選び、未来につながる空間づくりを
サステナブル建材は、環境配慮だけでなく、宿泊・商業施設の快適性やブランド価値の向上にも貢献します。
省エネ・資源循環・顧客満足など多面的なメリットがあり、導入事例も増加中です。一方で、コストや施工面の課題もあるため、事前の計画が欠かせません。
社会全体がサステナブルな方向へ進む今こそ、建材選びにも長期的な視点と柔軟な判断が求められています。サステナブルな価値観を体感できる空間づくりを通じて、環境にやさしく、心地よい滞在体験を提供するためにも、サステナブル建材の導入を前向きにご検討ください。

参考文献
[1]環境省「地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業(2022年1月)」
[2]日本政策投資銀行・JTBアジア「欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査(2024年)」
[3]EARTH MART公式サイト「2025年大阪・関西万博 EARTH MART」
[4]林野庁「持続可能な木材利用について」
[6]株式会社トプコン「サステナブル建築と測量技術」
[7] CLT協会「北川村温泉 ゆずの宿」
[9]カミツレの宿 八寿恵荘公式サイトhttps://yasuesou.com/
