地域と未来を育むエネルギー:「そらべあ発電所」に学ぶ、サステナブルな企業連携と地域貢献モデル

持続可能な社会への関心が世界的に高まる中、観光産業においても「サステナブルツーリズム」は単なるトレンドではなく、事業継続と成長のための必須要件となりつつあります。
環境負荷の低減、地域文化の尊重、そして地域経済への貢献。これらを統合的に推進していく上で、個々の観光事業者やDMOの役割はますます重要になっています。
しかし、「具体的に何から始めれば良いのか」「自社のリソースでどのような貢献ができるのか」といった課題を感じている事業者様も少なくないでしょう。
本記事では、注目すべき企業のCSR活動であり、地域貢献の優れたモデルケースとして、ソニー損害保険株式会社(以下、ソニー損保)がNPO法人そらべあ基金(以下、そらべあ基金)と協働で進める「幼稚園にソーラー発電所を☆プログラム」をご紹介します。
「幼稚園にソーラー発電所を☆プログラム」は、企業の事業特性を活かしたユニークな仕組み、NPOとの効果的な連携、そして地域コミュニティ(特に次世代)への貢献という複数の側面を持ち合わせており、地域全体の持続可能性を追求する上で多くの示唆を与えてくれます。
2009年の開始から16年目を迎え、2025年4月時点で累計40基の寄贈をしてきた継続的な取り組みから、観光事業者やDMOが自社の事業や地域の価値向上、そして持続可能な成長に繋げるためのヒントを探ります。
本業と社会貢献を結びつけるCSV発想:「そらべあ発電所」のスキーム
「幼稚園にソーラー発電所を☆プログラム」の最大の特徴は、ソニー損保の主力事業である自動車保険の仕組みを、社会貢献活動へと巧みに結びつけている点にあります。
これは、企業が事業活動を通じて社会課題の解決に貢献し、経済的価値と社会的価値を両立させる「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」の考え方を体現していると言えるでしょう。
「幼稚園にソーラー発電所を☆プログラム」発足のきっかけは、2008年12月にソニー損保の自動車保険保有契約件数が100万件を超えたことでした。
企業規模の拡大に伴い、より大きな社会的責任を果たしたいという想いから、「事業を通じて生じる環境負荷を軽減し、環境保全に貢献する活動」を模索し始めました。自動車の運転がCO2を排出し、地球温暖化の一因となるという事実に真摯に向き合った結果です。
そこで生まれたのが、「保険料は走る分だけ」という同社の自動車保険の特性を活かした寄付スキームです。
ソニー損保の自動車保険では、契約時に1年間の予想走行距離を申告しますが、実際の年間走行距離が予想より短かった場合、CO2排出量が削減されたと捉えます。
ソニー損保は、契約者の環境貢献をさらに促進・活用するため、予想走行距離に対する実走行距離の差に基づき算出した額を、そらべあ基金へ寄付しています。
そらべあ基金は、この寄付金を活用し、全国の幼稚園・保育園・こども園等に太陽光発電設備「そらべあ発電所」を寄贈する「そらべあスマイルプロジェクト」を運営。再生可能エネルギーの普及啓発と、未来を担う子どもたちへの環境教育の実践を通じて、地球温暖化防止に貢献することを目的としています。
「そらべあ発電所寄贈」の取り組みを支えるのは、企業とNPOの効果的な「協働」体制です
具体的には、ソニー損保等の協賛企業が資金・事業基盤を提供し、対してそらべあ基金は環境教育や再エネ普及における専門知識を活かし、寄贈先の公募・選定から設置後のフォローアップまでの実務を担っています。
この事例は、リソースやノウハウが限られる中小企業であっても、地域課題に取り組むNPO等と戦略的に連携することで、単独では実現が難しい規模・専門性の社会貢献活動が可能になることを示唆しています。
「そらべあスマイルプロジェクト」の確かな実績と社会的評価
そらべあ基金が運営する「そらべあスマイルプロジェクト」は2008年の開始以来、着実に実績を積み重ね、2025年現在で17年目を迎えます。
その活動範囲は北海道から沖縄まで全国に広がり、文字通り日本各地の園にクリーンなエネルギーと学びの機会を届けてきました。そして前述の通り、2025年には記念すべき100基目の「そらべあ発電所」設置が予定されており、プロジェクトの継続性と着実な広がりを物語っています。
こうした継続的な取り組みと社会への貢献は高く評価されており、2010年には地球温暖化防止活動環境大臣表彰、2012年には低炭素杯 東日本大震災被災地域貢献活動賞および第1回ソーラーアワード プロジェクト部門を受賞するなど、その活動の意義と成果は客観的にも認められています。
これらの受賞歴は、「そらべあスマイルプロジェクト」の信頼性を高めるとともに、同様の取り組みを目指す他の事業者にとっても、目標達成への励みとなるでしょう。
なぜ地域の子どもたちへ?:未来への投資と地域エンゲージメント
「そらべあ発電所」 の寄贈先選定において幼稚園・保育園・こども園が重視される背景には、慈善活動の枠を超えた戦略性がうかがえます。具体的には、以下の三つの重要な視点に基づいています。
1.環境負荷低減へのコミットメント
ソニー損保は、自動車保険事業に伴う環境負荷への責任を認識し、再生可能エネルギー導入支援という具体的な対策を講じています。
この取り組みは、観光産業における「移動」に伴う環境負荷という共通課題に対し、解決策の一つの方向性を示唆しています。地域内での再生可能エネルギー利用促進は、サステナブルツーリズムの基盤強化にも寄与します。
2.次世代育成を通じた持続可能な地域づくりへの貢献
未来を担う子どもたちへの環境教育は、長期的な視点において地域社会の持続性を高める重要な取り組みと位置づけられます。
特に幼少期におけるエネルギーや環境問題への体験的な学びは、将来的な環境配慮行動を促進し、意識の高い市民育成の基盤となります。これは、地域の持続可能性確保において不可欠な要素です。
3.地域コミュニティとの良好な関係構築
幼稚園や保育園・こども園は、地域の子育て世代が集うコミュニティ拠点としての役割を担っています。こうした施設への支援は、地域住民とのエンゲージメント強化に繋がり、ひいては企業の地域におけるレピュテーション(評判)向上に貢献します。
地域社会からの信頼と支持は、特に地域との結びつきが強い観光関連ビジネスにとって、事業継続の重要な基盤を強化するものと言えるでしょう。
具体的な支援内容とプロセス:透明性と計画性の重要性
企業が地域貢献活動を行う上で、支援内容の具体性やプロセスの透明性は、関係者からの信頼を得るために不可欠です。「そらべあ発電所寄贈」の取り組みは、この点においても参考になる要素が多く含まれています。
寄贈されるのは、標準で5kW相当の太陽光発電設備一式(太陽光パネル、パワーコンディショナー、室内モニター等)です。
設備の設置に必要な標準的な工事費用は寄贈に含まれますが、設置後の維持管理費用は寄贈先の園が負担します。費用負担に関する取り決めが明確である点は、「そらべあ発電所寄贈」の取り組みの持続可能性と責任の所在を明確にする上で重要です。
また、寄贈先の選定プロセスは公募制を採用し、透明性が確保されています。審査では、設置希望に加え、「園としての環境問題への取り組み状況」や「寄贈された発電所を環境教育にどのように活用したいか」といった具体的な計画性と熱意が重視されます。これは、支援の効果を最大化し、単なる設備提供に終わらない、生きた活用を促すための重要な点です。
【導入事例】熊本・山鹿こども園:「そらべあ発電所」が地域にもたらす価値

では、実際に「そらべあ発電所」が寄贈された地域では、どのような価値が生まれているのでしょうか。
ソニー損保にとって38基目の寄贈先となった熊本県山鹿市の社会福祉法人敬和会 山鹿こども園の事例から、具体的なインパクトを見ていきましょう。
背景:地域ニーズとの合致 – 環境教育への高い意識
山鹿こども園が寄贈先に選定された主な理由として、同園が従来から有していた環境問題への高い関心と、積極的な教育実践が挙げられます。
園では、子どもたちの環境への興味・意識向上を目的とし、地球温暖化、水や森の保護、食やモノの大切さ、節水・節電といった「エコ」をテーマにした紙芝居や絵本を活用した環境教育を継続的に実施していました。

このように、自然エネルギーの利活用に関心を持ち、環境教育に熱心な同園のニーズと、「そらべあスマイルプロジェクト」の目的が合致したことが、「そらべあ発電所」の寄贈先に選定された理由だと考えられます。
実践:体験型環境学習の場としての寄贈式典

その寄贈を記念して開催された式典は、単なるセレモニーにとどまらず、体験型の環境学習イベントとしての側面を持っていました。
当日は、園外会場の山鹿市民交流センターに園児や保護者、関係者が集まり、キャラクターの「そら」と「べあ」も登場。そらべあ基金による紙芝居の読み聞かせや環境クイズ、手回し発電機を使った発電体験など、楽しみながら学べるプログラムが展開されました。
子どもたちがクイズに元気に答えたり、一生懸命に発電機を回したりする姿からは、日頃の環境教育の成果と、エネルギーや環境への高い関心がうかがえました。
年長園児による合唱披露もあり、会場全体が一体となって未来への希望を共有する場となりました。地域イベントや教育プログラムにおいて、こうした参加型・体験型の要素を取り入れることの重要性を示唆しています。
効果①:具体的な経営・環境メリット – エネルギーコストとCO2排出の削減
「そらべあ発電所」の導入は、具体的な経営メリットと環境貢献にも繋がります。
山鹿こども園の場合、設置された発電設備(5kW相当)により、園の年間消費電力量の約15.64%(予測値)を賄える見込みです。これは、電気料金の削減という直接的な経済効果をもたらすと同時に、化石燃料由来の電力使用量を削減することによるCO2排出量の削減にも貢献します。
サステナビリティ経営を目指す上で、再生可能エネルギー導入が具体的な数値効果をもたらすことを示す好例と言えるでしょう。
効果②:地域への波及 – 環境学習拠点とコミュニティ連携の可能性
発電所の設置と式典での体験は、子どもたちの環境意識をさらに高める契機となります。
園内に設置された発電モニターは、日々の発電量を目で見て学ぶことができる「生きた教材」です。太陽の光という地域資源が、自分たちの生活を支えるエネルギーに変わるプロセスを実感することで、エネルギーの大切さや環境問題への理解が深まります。
将来的には、この「そらべあ発電所」が、地域の環境学習拠点として機能する可能性も秘めています。
他の学校や地域住民、さらには観光客向けの学習プログラムや見学ツアーなどに活用できれば、地域の教育資源の充実と新たな交流の創出に繋がるでしょう。
また、一つの園での成功事例が、周辺の施設や事業者における再生可能エネルギー導入や環境配慮への関心を高め、地域全体でのコミュニティ連携を促進するきっかけとなることも期待されます。
企業の貢献が持続可能な地域づくりに必須
「そらべあ発電所寄贈」の取り組みや山鹿こども園の事例は、サステナブルツーリズムを推進する観光事業者やDMOにとって、多くの実践的なヒントを提供しています。
1.地域資源(再生可能エネルギー)の活用とコスト削減
自社施設への太陽光発電導入は、環境負荷低減とエネルギーコスト削減を両立させる有効な手段です。
2.コミュニティとの連携強化による価値創造
地域の教育機関やNPOなどと連携し、環境教育プログラム等を支援・実施することは、地域貢献と良好な関係構築に繋がります。
3.環境・社会貢献活動によるブランディング
積極的な取り組みとその発信は、企業・地域のブランドイメージを高め、「責任ある観光」を求める層への訴求力を持ちます。
4.多様な主体との「協働」モデルの構築
自社だけで完結せず、強みを持つ他者と連携することで、より大きなインパクトを生み出すことが可能です。
5.次世代育成による持続可能な地域づくりへの貢献
地域の子どもたちへの投資は、長期的な視点で地域の未来を創る重要な活動です。
まとめ:持続可能な地域とビジネスの未来のために
サステナビリティは、もはや観光産業におけるオプションではなく、事業の根幹に関わる必須課題です。ソニー損保の「幼稚園にソーラー発電所を☆プログラム」は、本業と連携した社会貢献、地域連携、未来への投資の好例であり、16年にわたる継続的な活動とその成果がその価値を裏付けています。
さらに、そらべあ基金では、2021年より寄贈設備の拡充や環境教育活動支援の充実を図っており、時代の変化に対応しながら「そらべあスマイルプロジェクト」を推進していく姿勢も、持続可能な取り組みを目指す上で参考になります。
重要なのは、この事例から学び、自社の事業や地域が持つリソースと、解決すべき地域課題を結びつけ、具体的なアクションプランへと落とし込むことです。
規模の大小に関わらず、一つ一つの事業者がサステナビリティへの意識を高め、創意工夫を凝らした取り組みを実践していくこと。それが、地域全体の価値を高め、旅行者から選ばれ続けるデスティネーションとなり、ひいては自社の持続的な成長を実現するための道筋となるでしょう。
「そらべあ発電所」が灯す光が、皆様の事業と地域の未来を明るく照らす一助となることを願っています。