自然と科学の共生へ。3Dプリンターでサンゴ礁を再生する試み。

近年、気候変動や人為的な影響により、世界中のサンゴ礁が深刻なダメージを受けています。サンゴ礁に被害が出ると、単に観光資源が失われるだけでなく、海に住む生き物のすみかがなくなったり、CO2の排出量が増えて地球温暖化を加速させてしまうなど、多くの被害がでます。この問題を解決するために、サンゴ礁を再生し、かつ保全するためのプロジェクトが各地で進行中です。そのなかでも3Dプリンター技術を活用した取り組みが注目を集めています。
3Dプリンターとは、デジタルデータをもとに立体物を一層ずつ積み上げて作り出す製造装置です。主に製造業の工業設計や試作、そして医療分野などで利用されています。その最先端技術がサンゴ礁の保全という自然環境の再生に活用されていることは、あまりイメージできないかもしれません。
ところが、3Dプリンターは従来の技術では不可能だったサンゴ礁の複雑な立体構造を再現するという難題を克服でき、実際に取り組みを行っている国もあります。自然のサンゴ礁の構造を模倣したリーフを人工で作成し、海洋生態系の回復を目指す。そんなプロジェクト例をいくつか紹介します。
米国フロリダ州
スミソニアン海洋ステーションとコーン大学の研究者たちの取り組みでは、3Dプリンターを使って生分解性プラスチック製のケージが開発され、サンゴ礁の保護に活用されています。このケージの目的は、サンゴの天敵である巻貝「カリブ海オニヒトデモドキ(corallivorous snail)」からサンゴを守ることです。
このプラスチックケージはPHAと呼ばれる生分解性プラスチックで作られており、特に塩水にさらされると自然に分解されるため、自然環境への影響も最小限に抑えられています。ケージのデザインは、サンゴに直接日光が当たるように工夫されており、成長を妨げることなく外敵からの攻撃を防いでいます。
出展: Can 3D-printed, biodegradable, plastic cages help protect Florida’s coral from predators?
米国ハワイ州
ハワイ・ワイキキ沖では、Oceanit社によるREEFrameプロジェクトが進行しています。このプロジェクトでは、モジュール型の3Dプリント人工リーフを設置し、サンゴの養殖と生息環境の回復を目指しています。
構造物は多孔質かつ複雑な形状で、サンゴの成長だけでなく、魚類やその他の海洋生物の住処としても機能します。また、設置場所の波の影響や水流の動きに応じて、最適な形状が選ばれています。
出典:Oceanit: REEFrame – Restoring Coral Reefs with Modular 3D Printed Coral Nurseries
香港
香港大学は、3Dプリンターを使ってテラコッタ製の人工リーフタイルを作成し、破壊されたサンゴ礁の回復に取り組んでいます。これらのタイルは六角形の蜂の巣構造をしており、海底に配置することでサンゴの付着と成長を助けます。
このプロジェクトは都市沿岸部でもサンゴ礁が再生できる可能性を示しており、将来的には海洋都市の生態系保全のモデルとなると期待されています。
出典:Euronews Green: 3D printing is helping to rebuild Hong Kong’s coral reefs
沖縄県
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、サンゴ礁の保全と再生を目的とした「OISTサンゴプロジェクト」を推進しています。このプロジェクトでは、サンゴや共生する褐虫藻、さらにはサンゴを食害するオニヒトデのゲノム解析を行い、サンゴ礁の健全性を科学的に評価しています。
また、環境DNA(eDNA)を活用したモニタリング手法を開発し、サンゴの分布や健康状態を非侵襲的に調査しています。これらの先端技術を駆使して、持続可能なサンゴ礁の保全と再生を目指しています。
出展: OISTサンゴプロジェクト
まとめ
上に挙げた例にとどまらず、3Dプリンターを活用したサンゴ礁保全の取り組みは、世界各地で多様な方法によって展開されています。再生可能で環境に優しい素材の使用、自然構造の模倣、地域特有の生態系への配慮など、技術と環境保護の融合が見られます。
3Dプリンターは、かつては工業や医療など「人間のための道具」として発展してきました。しかし今、その技術がサンゴ礁という自然の命を支えるためのツールとして進化しつつあります。
3Dプリンターがもたらすこの新たな可能性は、環境問題への革新的な解決策となるだけでなく、持続可能な未来への希望にもなっています。

