アメリカ史上最大のダム撤去プロジェクトが示唆する、自然環境再生と観光振興の可能性

2024年、アメリカ・カリフォルニア州北部からオレゴン州南部を流れるKlamath(クラマス)川で、100年以上にわたって河川を遮断していた4つのダムを撤去するプロジェクトが完了しました。アメリカ史上最大のダム撤去プロジェクトとされています。
すでに上流まで鮭の遡上が確認されるなど、川の自然環境がはやくも再生しつつあります。かつて流域に暮らしていた先住民たちも伝統漁業や儀礼との結びつきを取り戻しています。
その象徴的なイベントとして、先住民の若者43名が源流から海へ310マイル(約500㎞)を約1か月かけてカヤックで下ったことが2025年7月にAP通信で報じられました。[1]

ラフティング、川釣り、エコツアー、自然観察など、アウトドア活動を中心とした観光資源としても環境が整いつつあります。2025年5月には、川沿いに複数の新しい公共アクセス拠点が開設されました。現在はボートを下ろすスロープや簡易トイレなど、限られた施設に留まっていますが、周辺のトレイルを整備するなどの計画も進行中です。
カリフォルニアとオレゴンの州境近くを流れるクラマス川周辺は都市部からは遠く離れています。カリフォルニア側のサンフランシスコからは約550km、オレゴン川のポートランドからは約460km。どちらからも5~7時間ほどのドライブを覚悟しなくてはなりません。
そのため、一気に観光地化が進むことは想定されませんが、アウトドアやエコツーリズム志向の旅行者にとっては「秘境」「自然の再生地」として注目を集めています。
クラマス川のダム撤去は唐突に行われたものではありません。近年、アメリカではダムを撤去する動きが各地で活発になっています。環境保護団体アメリカン・リバーズの報告によると、米国の河川では1912年から2024年までに2,200基以上のダムが撤去されましたが、そのほとんどは過去20年間に行われたものです。[2]
このクラマス川の事例はその象徴でもあり、また最大の例でもあります。生態系の回復、先住民文化の復興、そして観光資源の創出という多面的な再生モデルとして国際的にも注目されています。
日本には1級河川だけでも109水系、支流を含めると1万本を超える川があります。そのほとんどにダムが存在し、その数は約2,700基以上と見られています。[3] 多くは1960〜80年代に建設されたもので、すでに築40年を超えた施設がその大半を占めます。
今後は日本でも機能を終えたダムの撤去や転用、あるいは河川の再生を通じた観光資源化が本格的に議論される段階に入るでしょう。
とくに、地方の観光振興策として「川を生かす」発想は、自然体験型観光やリジェネラティブツーリズム(再生型観光)に活かすことができ、過疎地域の活性化や観光客の誘致とも結びつけやすいテーマではないでしょうか。


参考文献
[1]Native American teens kayak major US river to celebrate removal of dams and return of salmon
[2]American Rivers Report: 2024 Tied for Most Ever Dams Removed in US, Underscoring Momentum for River Restoration