京都観光モラルとは? 推進宣言事業者の役割や具体的な行動基準を解説

近年、京都を訪れる観光客の急増に伴い策定された「京都観光モラル」という取り組みをご存知でしょうか?
京都観光モラル(京都観光行動基準)は、観光事業者・観光客・市民が共に守るべき行動基準として、京都市と京都市観光協会が策定した指針です。
本記事では、京都観光モラルの概要や事業者向けの取り組み、具体的な行動基準まで詳しく解説します。
京都観光の現状と課題:なぜ「観光モラル」が求められているのか?

京都では、2014年頃から外国人観光客が急増し、以下のような行為が問題となっていました。
- ごみをポイ捨てする
- トイレの使い方が悪い
- 芸妓さん・舞妓さんを無断で撮影する
土足で畳に上がる2019年に京都市が実施した観光客満足度調査によると、日本人観光客の44.7%が「残念に感じることがあった」と回答し、その理由として「人が多い、混雑」が1位、次に「観光客のマナーの悪さ」 が2位に続いています。[1]
こうした問題を解決するべく、京都市と京都市観光協会は、持続可能な観光に向けて「京都観光行動基準(京都観光モラル)」を策定。
観光事業者・観光客・市民が共に守るべき行動基準を明文化しました。
京都観光モラル(京都観光行動基準)とは?

京都観光モラル(京都観光行動基準)とは、「京都が京都であり続けるために、観光事業者・従事者、観光客、市民がともに守るべきこと」をまとめた行動基準です。[2] 京都市と京都市観光協会(DMO KYOTO)が策定しました。
京都の観光に関わる全ての人々がお互いを尊重しながら、持続可能な観光を一緒に創りあげていくことを目的としています。
たとえば、観光事業者には地域活動への協力や質の高いサービス提供、観光客には地域のルールや習慣を尊重した行動などが求められます。[3][4]
京都観光モラル推進宣言事業者とは?
京都観光モラル推進宣言事業者とは、京都観光モラルの理念に賛同し、持続可能な観光に向けて積極的に取り組むことを宣言した事業者のことです。
宣言事業者の目的や対象範囲、登録要件について詳しく解説します。
目的・趣旨
京都観光モラルに沿った取り組みを行っていることを宣言した事業者を「京都観光モラル推進宣言事業者」と呼びます。

宣言事業者には公式ステッカーの配布や、公式ホームページへの取り組み事例の掲載などが行われ、京都観光モラルに沿った取り組みを進める事業者を「見える化」することで、持続可能な観光への理解や共感の拡大を目指すのが目的です。[5]
対象事業者
京都観光モラル推進宣言事業者には、以下のような事業者や団体が対象になります。
- 市内観光関連事業者
- 市内で京都観光モラルの取り組みを推進する事業者やNPOなど、京都観光の質向上に貢献する幅広い団体[6]
登録要件
登録には、市内に事業所または店舗などがあることに加え、以下の6つ全ての取り組みを実践している、または今後実践する予定である必要があります。
- 観光客へのマナー啓発・対策、京都観光モラルの啓発、地域のルールや習わしの周知
- 従業員への京都観光モラルの理解・実践を促す取組
- 地域文化・コミュニティへの貢献、市民生活と観光の調和
- 質の高いサービス・商品の提供・人材育成
- 環境・景観の保全
- 災害や感染症等の危機に強い観光
登録の流れ
登録期間は令和7年6月2日(月)~令和8年2月27日(金)に設定されており、以下の流れで登録を行います。
- 京都観光モラル特設サイト内の申請用ページにアクセス
- 申請書をダウンロードし、記入
- 申請書・画像を専用アドレスに送付申請
- 事務局で申請内容を確認・審査
- ステッカーを交付、京都観光モラルサイト等で取組内容を公表
京都観光モラル推進宣言事業者に登録する3つのメリット
京都観光モラル推進宣言事業者に登録することで、事業者は以下の3つのメリットが得られます。
- 京都観光モラルの公式ステッカー・ロゴが使用できる
- 京都観光モラルなどの公式ホームページでPRできる
- 優良事業者として表彰される可能性がある
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
京都観光モラルの公式ステッカー・ロゴが使用できる
京都観光モラル推進宣言事業者に登録すると、公式ステッカーとロゴの掲示が可能になり、持続可能な観光に取り組む事業者であることをアピールできます。
公式ステッカーとロゴデータは登録後に提供され、店舗や施設の入口、パンフレットなど、さまざまな場所で使用可能です。

たとえば、ホテル・旅館などの宿泊施設の受付やレストランの入口にステッカーを掲示することで、観光客に対して「京都観光モラルを実践している信頼できる事業者」というメッセージを伝えられます。
また、ウェブサイトでのロゴ使用により、オンラインでも持続可能な観光への取り組みをアピール可能です。
京都観光モラルなどの公式ホームページでPRできる
京都観光モラル推進宣言事業者に登録すると、京都観光モラル公式ホームページや京都市観光協会の公式ホームページで取り組み内容が紹介されます。

さらに、京都市観光協会が発行するビジネス向けメールマガジン「京都観光MICENewsletter」でも取り組みが紹介されるなど、社内外に幅広くPR可能です。
京都市の公式プラットフォームで紹介されることにより、社会的信頼性の向上や新規顧客獲得が期待できます。
優良事業者として表彰される可能性がある
京都観光モラル推進宣言事業者の中でも、とくに優れた取り組みを行った事業者は「京都観光モラル優良事業者表彰」を受ける機会があります。

表彰を受けるためには、推進宣言事業者への登録に加え、ほかの事業者の参考となるような優良な取り組みを行うことや、地域団体から表彰についての推薦を受けていることなどが条件です。
優良事業者として表彰されると、表彰式への参加や京都観光モラル公式サイトでの紹介があり、持続可能な観光推進への貢献を強くアピールできます。
京都観光モラル推進宣言事業者が果たすべき4つの行動基準
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京都観光モラルでは、観光事業者・従事者が地域とともに持続的に発展していくための行動基準が定められています。
以降では、事業者が実践すべき4つの重要な行動基準について詳しく解説します。
1. 市民生活と観光の調和を意識する
京都観光モラルでは、観光事業者は単に収益を追求するだけでなく、地域住民と共生していく姿勢が求められます。そのため、地域文化・コミュニティへの貢献や、市民生活と観光の調和を図る努力は、重要な行動基準の一つです。

具体的には、地元産品の積極的な活用や地域イベントへの協力などが挙げられます。
さらに、観光客に対して地域独自のルールや習慣を伝えることも、観光事業者の重要な役割です。
地域のルールや習慣を周知することで、市民生活への影響を最小限に抑えながら、観光客にも地域文化を楽しんでもらう機会を提供できます。
2. 質の高いサービスの提供
観光客が感動し、京都を再び訪れたいと思えるような質の高いサービスの提供も、事業者の重要な役割です。

単に観光スポットを案内するだけでなく、京都の魅力や背景にある物語を伝えられる専門性を身につけましょう。
たとえば、寺院や神社の歴史的意義、伝統工芸の技術的背景、季節ごとの文化的行事の意味などを理解し、観光客に分かりやすく説明できる能力は質の高いサービスにつながります。
3. 環境・景観の保全
京都の美しい自然や街並みを将来世代に継承するため、事業者には環境と景観への配慮が求められます。具体的には騒音や廃棄物の発生を最小限に抑える、緑化推進に協力するなどの取り組みが挙げられます。

さらに、環境にやさしい事業活動の改善も欠かせません。以下のような取り組みを通じて、環境負荷の軽減に貢献しましょう。
- 省エネルギー設備の導入
- リサイクルやリユースの推進
- 地産地消の促進
- プラスチック使用量の削減
4. 災害対応等
観光客の安全確保や事業の継続、従業員の雇用維持のために、事業者には災害や感染症、事故などへの十分な備えと適切な対応が求められます。

具体的には、以下のような対策が挙げられます。
- 地震や台風などの自然災害に備えた避難計画の策定
- 緊急時の連絡体制の整備
- 必要な備蓄品の確保
感染症対策として適切な衛生管理の徹底緊急事態が発生した際には、地域の関係機関とも連携しながら迅速な対応を行い、持続可能な事業運営を目指しましょう。
京都観光モラル推進宣言事業者の行動基準の具体例
4つの行動基準を実際にどのように実践すればよいのか、具体的な取り組み例を通じて詳しく解説します。
観光事業者が日常業務で活用できる実践的な内容を確認していきましょう。
サステナブルツーリズムについて発信する
観光事業者には、自社の取り組みや地域の魅力を通じてサステナブルツーリズムの重要性を積極的に発信する役割があります。
自社のウェブサイトやSNS、店舗内での掲示物を通じて、環境配慮の取り組みや地域文化保護への貢献を日頃から発信しましょう。
たとえば、以下のような具体的なエピソードとともに発信すると効果的です。
- 地産地消の食材使用
- プラスチック削減の取り組み
- 伝統工芸品の紹介
- 地域イベントへの協力
観光客に対しても、単なる消費行動ではなく、地域の持続可能な発展に貢献する意識を持った旅行を促すことで、サステナブルな観光の周知に貢献できます。
観光客に文化体験ができる施設を紹介する
観光客に京都の伝統文化を深く理解できる体験施設を紹介することも、観光事業者の重要な役割です。
京都にはさまざまな文化体験施設やイベントがあるので、積極的に体験への参加を促し、京都の伝統文化を広めましょう。
たとえば、茶室での本格的な抹茶体験や茶事を通じて日本文化の心を学べる茶道体験、歴史的技法を学べる伝統工芸体験などは、観光客にも人気でおすすめです。
最近は、和菓子作りや舞妓さんの鑑賞体験ができる日本文化体験施設「庵an」のように、初心者でも楽しく学べるプログラムを提供する場所も増えています。
事業者が地域の文化体験施設と連携し、観光客に適切な情報提供を行うことで、観光を単なるレジャーではなく、文化を学ぶ機会へとつなげられます。
プラスチック製品の使用を削減する
観光事業者による環境配慮への重要な取り組みとして、プラスチック製品の使用削減があります。
たとえば、宿泊施設では以下のような客室のアメニティを見直す動きが活発化しています。
- 使い捨てミニボトルの代わりにポンプ式詰め替え容器の使用
- 竹製歯ブラシや木製ヘアブラシの提供
アメニティバーの設置など、プラスチック製品の使用を抑制する取り組みほかにも、飲食店でテイクアウト容器を紙製品に変更したり、ストローやカトラリーをバイオマスプラスチックや木製品に切り替える店舗が増加中です。
観光事業者がこうした取り組みを積極的に実践し、観光客にも協力を呼びかけることで、持続可能な観光地としての京都の魅力が高まります。
周囲の景観と調和した店構えにする
京都の美しい街並みを守るため、観光事業者には周辺環境と調和した店構えの実現が求められます。京都市の景観に関する規制は日本国内でもとくに厳しく、住宅や店舗を構える際には景観条例に配慮しなければなりません。
建物の高さや屋外広告物のデザイン・サイズに加え、建物の外観自体もそれぞれの地域の特性に合わせたデザインが求められます。
観光事業者がこうした地域特性を理解し、景観に沿った店構えを実現すれば、京都らしい美しい街並みの保全につながります。
設備点検や避難経路の確認をしておく
施設の設備点検や避難経路の確認といった、災害への対応も観光事業者の大切な務めです。
消防設備の動作確認や非常照明や避難誘導灯の点検、避難扉の開閉状況の確認などを定期的に行う必要があります。
また、観光客向けの多言語対応避難案内の整備や、緊急時の連絡体制の構築、必要な備蓄品の確保など、緊急時への対応も整えておきましょう。
京都が京都であり続けるために大切にしていきたいこと
京都観光モラルは従来の「観光地として利益を最大化する」考え方から「全ての関係者が尊重し合いながら持続可能な観光を創る」という新しい価値観へ変わりつつあります。
推進宣言事業者への登録は、観光事業者にとって単なる認定取得ではなく、地域コミュニティとの共生、環境保護、文化継承といった多面的な意味合いをもつ取り組みです。
京都観光モラルの実践を通じて「京都が京都であり続ける」未来づくりに参加し、持続可能な観光産業の発展に貢献しましょう。

参考文献
[1] 外国人観光客に向けたマナー啓発 | 一般財団法人 自治体国際化協会(クレア)経済活動
[2] 理念 | 京都観光行動基準(京都観光モラル) | 公益社団法人京都市観光協会
[3] 行動基準(観光客向け) | 京都観光行動基準(京都観光モラル) | 公益社団法人京都市観光協会
[4] 行動基準(事業者向け) | 京都観光行動基準(京都観光モラル) | 公益社団法人京都市観光協会