ゼロウェイストツーリズム|未来を創る持続可能な旅のかたち

旅先で使い捨てのペットボトルを買わず、地元の食材を使ったレストランで食事をしたり、観光地でごみ分別を体験し、環境保護の大切さを学んだりなど、「ゼロウェイストツーリズム」と呼ばれる新しい旅のスタイルが世界中で広がりつつあります。
観光産業における環境への負荷を抑えつつ、地域経済を活性化する仕組みとして、観光事業者からも注目されているのです。
本記事では、ゼロウェイストツーリズムの基本概念から国内外の先進事例、さらに観光事業者が実践できる取り組みまでをご紹介します。
ゼロウェイストツーリズムとは
ゼロウェイストツーリズムとは、観光活動にともなう廃棄物の発生をできるかぎり抑え、環境への負荷を最小限にすることを目指す旅行のかたちです。
「ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)」と「ツーリズム(観光)」を組み合わせた言葉で、使い捨て製品を避け、リサイクルや再利用を徹底し、焼却や埋め立てに頼らない仕組みを目標としています。
持続可能な観光の一分野として位置づけられ、環境保護と観光産業の発展を両立させる新しい可能性を示す概念です。
ゼロウェイストの基本理念
ゼロウェイストを実現するためには、以下の「5R」と呼ばれる5つの原則があります。[1]
| 原則 | 英語表記 | 内容 |
|---|---|---|
| 1R | Refuse(ことわる) | 不要な物を受け取らない |
| 2R | Reduce(減らす) | 消費を減らす |
| 3R | Reuse(再利用) | 繰り返し使う |
| 4R | Recycle(リサイクル) | 資源として再活用する |
| 5R | Rot(堆肥化) | 生ごみを堆肥にする |
これら5つの原則を観光の場で実践することが、ゼロウェイストツーリズムの核となります。
観光産業が直面する廃棄物問題
観光産業では、毎年膨大な量の廃棄物が発生しています。
さらに、プラスチック製品の多用、食品ロスの増加、エネルギーや水の過剰な消費など、観光産業が抱える環境問題は幅広いのが実情です。こうした状況から、持続可能な観光への転換が急がれています。
ゼロウェイストツーリズムが重要視される背景
気候変動や海洋プラスチック汚染が深刻化し、観光産業全体に変革が求められています。旅行者の環境意識も高まり、サステナブルな旅を重視する傾向が強まっています。
環境問題への対応と旅行者のニーズが高まる今、ゼロウェイストツーリズムは観光事業者にとって競争力を高める重要な戦略になりつつあるといえるでしょう。
国内のゼロウェイストツーリズム事例
日本国内でも、ゼロウェイストの理念を観光に取り入れた先進的な取り組みが各地で展開されています。地域の特性を活かしながら、環境保護と観光振興を両立させる事例をそれぞれ1つずつ解説していきます。
徳島県上勝町|日本初のゼロウェイストタウン

徳島県上勝町は、2003年に日本で初めて「ゼロウェイスト宣言」を行った自治体です。[5]
2020年には、宿泊しながら取り組みを体験できる「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」を開業しました。[6]宿泊者は滞在中に出たごみをチェックアウト時に自ら分別。地元食材の食事を再利用可能な容器で味わいます。
無駄な包装を減らすため、地元ビールやクッキーは量り売り用の容器を貸し出しています。建物には町内の古い建具や地元産木材を再利用。建築自体がゼロウェイストの理念を示しています。[7]
これらの取り組みにより、上勝町は環境意識の高い旅行者を惹きつけるエコツーリズム拠点として世界から注目されています。
背景には、伝統産業の「葉っぱビジネス」があります。日本料理の“つまもの”に使う季節の葉や花、山菜などを栽培・出荷・販売する農業ビジネスです。上勝町ではこれを生かし、作業体験プログラムや地元食材の料理教室を実施。
旅行者は環境に配慮しながら地域の文化や暮らしを学ぶことができ、エコツーリズムの価値が一層高まっています。[8]
石垣島ユーグレナ・ガーデン|沖縄初のゼロウェイスト認証取得施設

沖縄県石垣島の中心部にあるカフェ「ユーグレナ・ガーデン」は、2020年9月に沖縄県で初めてゼロウェイスト認証を取得しました。[9]
同施設の成功は、島という限られた環境だからこそ、廃棄物管理の重要性が高まることを示しています。旅行者に対しても、環境保護の取り組みを積極的に情報発信し、旅行者の意識向上に貢献しているのです。
ホテル業界に広がるゼロウェイストの実践例

日本国内のホテル業界でも、廃棄物削減に向けた多様な取り組みが進んでいます。
堆肥は提携農園に提供され、そこで育てられた野菜が再びホテルのレストランに戻る循環システムを20年以上継続しています。
また、星のリゾートでは、使い捨てアメニティの削減や給水器の設置により、ペットボトルの使用を減らす工夫をしています。[12]
JR東日本ホテルズグループは、宿泊時に発生するCO2排出量を実質ゼロにする「CO2ゼロSTAY」を11ホテルで導入し、食品廃棄物由来の再生可能エネルギーの利用も開始しました。[13]
帝国ホテルや東京ステーションホテルも、プラスチック製アメニティの代替素材への切り替えや、リサイクルプログラムの拡充を進めています。[14]
海外のゼロウェイストツーリズム事例
世界各地でも、ゼロウェイストの理念を観光に取り入れた革新的な取り組みが進んでいます。それぞれの事例から、ゼロウェイストと観光をどのように両立させているのかを見ていきます。
イエローストーン国立公園|世界初のゼロウェイストツアー

参加者には再利用可能なマグやカトラリーをまとめた「ゼロウェイストツールキット」を支給。ツアー車両には堆肥化とリサイクルのシステムを備え、通常は処理が難しい包装紙もテラサイクル社の技術で対応しました。食事は地元産食材を使用し、プラスチック製食器は不使用。食べ残しは堆肥化しました。
同社サステナビリティ責任者コート・ウィーラン氏は「これは将来の保全旅行の一部であり、年間約700回のツアーに向けた理解を深める投資です」と述べています。[17]
週間で集まった廃棄物は50.9ポンド(約23kg)で、半分以上が食品廃棄物でした。残り1%未満は透明容器にまとめられ、成果が視覚的に示されました。
フランス・モンサンミッシェル|観光地の廃棄物削減モデル

ユネスコ世界遺産モンサンミッシェルには年間約240万人が訪れ、かつては1日1トンのごみが出ていました。これを改善するため、自治体は2021年10月から観光案内所や土産店、レストランと連携し、ゼロウェイストに向けた取り組みを進めています。[18] [19]
充填レベルセンサーで満杯前に清掃チームへアラートを送り、収集の回数とタイミングを最適化して作業効率を高めています。あわせてマイボトルやポケット灰皿の利用も促しています。
ごみの分別方法やマイボトル利用、ピクニックごみの持ち帰りを分かりやすく案内しています。[20]
これらの取り組みは、フランス政府の「2025年までに埋立廃棄物を50%削減」という目標に貢献し、COVID-19後に増えたテイクアウトごみにも対応する観光地のゼロウェイストモデルとなっています。
ギリシャ・ティロス島|世界初のゼロウェイスト島

エーゲ海の人口約750人の小島ティロス島は、2023年7月に世界初のゼロウェイスト認定島となりました。[21]
中心となったイスラエルのスタートアップ、ポリグリーン社は、住民に「リサイクル可能物」「バイオ廃棄物」「リサイクル不可能物」の3分別を教育。各家庭に専用の袋・箱を配布し、QRコード付きの青いバッグを特別車両が戸別訪問で収集・計量する仕組みを構築しました。
回収ごみは「循環イノベーションセンター」でさらに25種類に分類され、リサイクルや肥料として活用されます。住民は「Just Go Zero」アプリで自分の排出量やリサイクル状況をリアルタイムに確認し、家庭ごとの目標管理に役立てています。
島からは公共ごみ箱が撤去され、埋立地も完全閉鎖。夏季に1日平均3,500人の旅行者が訪れながらも成果を上げており、小規模コミュニティでも実現できるモデルとなっています。
ゼロウェイストツーリズムに向けた取り組み
観光事業者がゼロウェイストツーリズムを進めるには、施設運営から旅行者とのやり取りまで、幅広い工夫が欠かせません。
宿泊施設でできる取り組み

宿泊施設では、廃棄物削減のための設備投資や運用見直しが有効です。客室アメニティを使い捨てから詰め替え式ポンプボトルに変えると、シャンプー類のプラスチック容器使用と小型容器の廃棄量を大きく削減できます。
客室のごみ箱は、リサイクル・堆肥化・一般ごみに分別できる容器にし、多言語と写真付きラベルで外国人も分別しやすくします。連泊時のリネンやタオル交換を希望制にすれば、不要な洗濯を抑えられるでしょう。
食品ロス対策として、朝食ビュッフェはポーションと調理量を需要に合わせて調整し、残った食材は堆肥施設や飼料化企業と連携して埋め立てごみを減らします。施設内にコンポストを設置できれば、生ごみをその場で堆肥化し、庭園や提携農園で再利用可能です。
また、客室やロビーに浄水機能付き給水器を置き、チェックイン時に再利用ボトルを渡すか、マイボトル持参を促すことで、ペットボトル使用を削減できます。
飲食施設での廃棄物削減
飲食店では、食品ロスの削減が最優先です。メニューの段階から、食材を余すことなく使い切るレシピを工夫し、皮や茎も活用します。食べきれる量を選べるように、ハーフサイズやシェアメニューを用意する方法も有効です。
食器は使い捨てではなく、陶器やガラスなど洗って再利用できる素材を使用。ストローやカトラリーも、プラスチックから竹やステンレスに替えることで、廃棄量を大きく減らせます。
地産地消を進めることで、輸送に伴う包装廃棄物も抑えられます。地元農家から直接仕入れるため、過剰な包装が不要になり、鮮度の高い食材を提供できる点も利点です。余った食材や料理は、フードバンクや地域団体に寄付する仕組みを整えると、社会貢献にもつながるでしょう。
紙の使用を減らすため、デジタルメニューやオンライン予約システムの導入も有効です。
観光施設・アクティビティでの工夫

観光施設では、来訪者がゼロウェイストを身近に体験できる環境を整えます。ごみ箱は数をむやみに増やすのではなく、入口など主要な場所に集約し、分別を促す分かりやすいサインを設置します。こうすることで、ごみの総量を抑えつつ、管理の効率化も図れるでしょう。
エコツアーでは、再利用できる水筒やカトラリー、布製バッグをセットにしたゼロウェイストキットを配布。ツアー中は使い捨て製品を使わない環境を整え、終了後はそのまま持ち帰ってもらうことで、日常でも実践が続けやすくなります。
ガイドツアーでは、地域のゼロウェイスト活動や環境保護の取り組みを紹介する時間を設けます。上勝町のように、実際のごみ分別施設を見学し、分別を体験してもらうことで、旅行者の環境意識を高められるでしょう。
旅行者とのコミュニケーション戦略

旅行者の協力を得るためには、事前の案内が不可欠です。予約確認メールやウェブサイトで、ゼロウェイストの方針と、旅行者に協力してほしい内容を明確に伝えます。「マイボトルをお持ちください」「使い捨てアメニティはありません」などの案内を事前に送ると、準備がしやすくなります。
施設内では、取り組みを視覚的に示すことが大切です。ごみ削減量やリサイクル率を掲示し、どれだけ環境負荷が減ったかを数字で示すことで、旅行者の参加意識が高まります。協力してくれた人に感謝のメッセージや小さな特典を用意する方法も効果があるでしょう。
また、SNSやウェブサイトで施設のストーリーを発信することも重要です。どのような工夫をしているのか、なぜ取り組みを始めたのかを写真や動画とともに紹介することで、共感を得やすくなります。環境意識の高い旅行者を引きつける効果も期待できるでしょう。
認証制度の活用

ゼロウェイストやサステナビリティに関する第三者認証は、単なる評価ではなく、事業者としての倫理的責任と本気度を社会に示す手段です。
TRUE(Total Resource Use and Efficiency)認証は、廃棄物転換率90%以上の施設に与えられる国際認証で、その取得プロセス自体が、資源をていねいに使い切ろうとする姿勢を社内外に示します。[23]
徳島県上勝町と一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンによる「ゼロ・ウェイスト認証制度」は、「ごみ・無駄」をゼロにめざす事業者を独自基準で公的に認証し、取り組みをわかりやすく可視化します。[24]
宿泊施設向けESG認証「サクラクオリティグリーン」は、地域との関わりや脱プラスチック、エネルギー効率化などを評価する仕組みで、その認証基準はGSTCに承認されています。[25][26]
ゼロウェイストツーリズムがもたらす効果

ゼロウェイストツーリズムの実践は、環境保護にとどまりません。事業面でも多くのメリットをもたらします。投資に見合うリターンを理解することが、取り組みを続けていくうえでの大きな原動力になります。
環境負荷の削減につながる
廃棄物を減らすことは、そのまま環境負荷の軽減につながります。埋め立て処分されるごみが減れば、温室効果ガスの排出が抑えられ、気候変動対策にも貢献できます。また、プラスチック廃棄物を削減することは、海洋プラスチック汚染の防止にもつながるでしょう。
ブランド価値が高まる
環境への真摯な取り組みは、企業ブランドのイメージ向上にも直結します。環境意識の高い旅行者はサステナブルな施設を選ぶ傾向が強く、ゼロウェイストの取り組みを発信することで、こうした顧客層の支持や競合との差別化につながります。
さらに、国際認証の取得はメディアや予約サイトでの露出や評価を高め、広告費を抑えながら認知度とブランド価値を向上させる有効な手段となりえるでしょう。
コスト削減と収益改善に寄与する
ゼロウェイストの取り組みは、廃棄物処理費やエネルギー・水道などの光熱費を抑えることで、長期的なコスト削減につながります。地産地消や地元農家との直接取引により、輸送コストや中間マージンも減らせます。
さらに、サステナブルな施設としての評価が高まれば、環境意識の高い旅行者や富裕層から選ばれやすくなり、適正なプレミアム価格を設定しながら収益性を高めることも期待できるでしょう。
地域社会との関係性が強化される
ゼロウェイストツーリズムは、地域と共に成長するための有効な手段です。
また、旅行者由来のごみを減らすことで、廃棄物処理施設への負担を軽減でき、地域住民からの信頼も得やすくなります。さらに、施設を環境学習の場として学校や団体に開放すれば、地域全体の環境意識を高める取り組みにもつながるでしょう。
従業員のモチベーションが向上する
ゼロウェイストの実践は、従業員のモチベーション向上にもつながります。研修などを通じて環境に関する知識やスキルが身につけば、キャリア形成にもつながり、「自分の仕事が社会に役立っている」という実感が高まります。
こうした前向きな意識は、職場全体の一体感を生み、取り組みを継続・発展させる原動力となるでしょう。
まとめ|ゼロウェイストツーリズムが拓く未来
ゼロウェイストツーリズムは、環境負荷を抑えつつ観光産業と地域経済を支える「これからの標準的な旅のかたち」です。AIやIoT、生分解性素材などの技術と、補助金・認証制度・観光税といった政策支援が組み合わさることで、中小規模も含め多様な事業者が取り組みやすくなっています。
上勝町のように環境への取り組みを観光資源とし、地域産業と連携して資源循環を生み出す地域が広がれば、ゼロウェイストツーリズムは地域創生と循環型社会を牽引する観光モデルとなるでしょう。
小さな一歩の積み重ねが、観光全体の変革と、美しい地球と豊かな文化を次世代へ引き継ぐ力になります。
参考文献
[1] 今日からはじめる5R~5Rでごみを減量しましょう!~|江東区
[2] Study Reveals Lack of Awareness of Waste Challenges Facing US National Parks
[3] EPA|Trash Free Waters Article Series
[4] 旅行・観光におけるサステナビリティへの意識調査 【楽天トラベル】
[6]「上勝町ゼロ・ウェイストポータルサイト "ZERO WASTE TOWN kamikatsu"」を開設しました!
[7] ゼロ・ウェイストの町、徳島県上勝町を歩く。 – OnTrip JAL
[10] 気づけばSDGs | ホテルニューオータニ(東京)
[11] 食品ロス実質ゼロを叶える「コンポストプラント」 | 詳細ページ | ホテルニューオータニ(東京)
[12]【星野リゾート】星のやブランドにおけるペットボトルフリーへの第一歩として 客室にウォータージャグを設置
[13]【日本ホテル㈱】運営11ホテルで「CO2ゼロSTAY®」を導入。宿泊時のCO2排出量を実質ゼロに、持続可能な社会づくりに貢献
[14] 帝国ホテル 東京:サステナブルなホテルを目指して サステナビリティ
[15] Nat Hab Creates World’s First Zero Waste Travel Adventure in Yellowstone
[16] No Time to Waste: The World’s First Zero Waste Adventure
[17] Food is biggest stumbling block on zero-waste nature tour
[18] La Baie du Mont Saint-Michel : Objectif Zéro Déchet
[19] Poubelles connectées : le Mont-Saint-Michel vise le zéro déchet
[19] Poubelles connectées : le Mont-Saint-Michel vise le zéro déchet
[22] Tilos – Just Go Zero by Polygreen
[23] TRUE program for zero waste certification
[24] For Businesses(事業者向け) | ZERO WASTE JAPAN
[26] Experience Sakura Quality
[27] ‘Sakura Quality An ESG Practice Standard’ Announced as a GSTC-Recognized Standard
[28] Award-winning AI technology helps IHG hotels track, measure and reduce food waste
