社員の幸せと企業成長をつなぐ旅 | ワーケーション・リトリートの真価

近年の企業経営では、社員の幸福度向上が企業の成長につながるという考え方が広まっています。その手段として期待されているのが、ワーケーションやリトリートです。
ワーケーションは仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた新しい働き方、一方のリトリートは、日常から離れて心身を癒す旅の形です。どちらも社員のウェルビーイング向上に役立つ取り組みだと考えられています。
本記事では、ワーケーションやリトリートがもたらす具体的な効果や、日本企業の実践事例などについて詳しく解説します。
社員のウェルビーイングと旅の関係

旅が人々のウェルビーイング向上に効果的であることが、国内外の研究や企業事例から明らかになっています。具体的には、ストレスや不安感の減少、生産性や創造性の向上などが確認されています。
そのため、ウェルビーイングと旅の関係を理解すれば、社員の満足度を向上させつつ、企業を成長させることが可能です。
旅はウェルビーイングの向上に効果的
旅にはストレスや不安を軽減する効果があり、人々の幸福度を向上させることが多くの研究で明らかになっています。
また、別の研究では、森などを訪れる自然ベースのツーリズムが、抑うつやストレス解消に有効であるという報告もあります。[2]
こうした科学的な裏付けからも、旅がストレスや不安の軽減に役立ち、人々の幸福度向上に寄与することは明らかです。
ワーケーションやリトリートを活用した旅行機会の創出
ワーケーションとは、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語です。テレワークなどを活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごす働き方を指します。[3]
仕事をしながら余暇も楽しむことで、日常では得られない気付きや学び、交流が得られ、新たな価値創出といった効果も期待できます。
一方、リトリートは忙しい日常から離れ、ゆったりとした時間を過ごす旅の形です。[4] 豊かな自然に触れたり、おいしい食事を味わったりと心身を癒す活動を通じて、リフレッシュと内省を促す機会として活用されています。
| 項目 | ワーケーション | リトリート |
|---|---|---|
| 主な目的 | 新たな気付きや学びの獲得、心身の回復 | 心身のリフレッシュや内省 |
| 過ごし方 | テレワークをしながら自分の時間を楽しんだり、新たな体験をしたりする | ゆったりとした時間を過ごし、本来の自分を取り戻す |
ワーケーションとリトリートは違う特性を持ちながら、どちらも人々の生産性やモチベーションの向上に役立つ取り組みです。そのため、多くの企業は、こうした取り組みを単なる福利厚生ではなく、人的資本への投資と位置付けています。
ワーケーションやリトリートで期待できる5つの効果

ワーケーションやリトリートにはさまざまなメリットがあります。普段とは異なる環境で過ごしたり、新しい体験をしたりすることで、社員や企業、地域などに以下のような効果をもたらします。
集中力と創造性を高める
ワーケーションやリトリートは、集中力と創造性の向上に効果的です。とくに自然環境でのアクティビティは、これらの能力を大きく高めることが多くの研究で明らかになっています。
たとえば、2016年に発表された論文では、自然環境で活動したグループは、そうでなかったグループに比べて集中力が高まっていたと報告されています。[5]
また、2022年に台湾のチームが発表した論文によると、自然環境は集中力と創造性を高めるという結果が示されました。[6]
メンタルヘルスの改善に寄与する
精神的な健康の維持と回復を目的とした「メンタルヘルス・ツーリズム」という活動も行われており、その有効性は科学的にも証明されています。[7]
チームワークの向上に活用できる
ワーケーションやリトリートを用いてチームワークを高めるには、以下のようなアプローチが効果的だとされています。[8]
- チームで講義を受けるなどの学習を機会を設ける
- チームの目的や目標について話し合い、ケーススタディを一緒に進める
- チームタスクを模倣したシミュレーショントレーニングを行う
通常の業務時間にこうした活動を行うのは容易ではありません。しかし、ワーケーションやリトリートを取り入れることで、こうした取り組みに集中して向き合える時間を生み出せます。
人材育成に活用できる
近年のビジネスシーンは不確実性が高く、変化のスピードも速まっています。そのため、従来の研修だけでは対応しきれない場面が増えてきました。しかし、ワーケーションなら不確実な状況に対応する力を身につけられます。普段の環境と異なる場所で仕事をしたり、これまでに経験のないアクティビティに触れたりすることで自然と対応力が養われるためです。
たとえば、新潟県の妙高市では、自然から「変化への対応力」を学ぶことを目的としたワーケーションを提供しています。[9]
単なる知識や情報ではなく「生きた学び」が得られるのは、ワーケーションならではの特徴です。
地域活性化につながる
ワーケーションやリトリートは、社員や企業の成長だけでなく、訪れる地域の活性化にもつながります。
企業が継続的に地域へ足を運ぶことで、宿泊や交通、飲食など地域での消費行動が増加するためです。また、ワーケーションに関連するビジネスが地域から生まれたり、都市部企業などと連携したサポートビジネスが生まれる可能性もあります。[10]
日本企業が実践するワーケーション・リトリートの事例7選
ワーケーションやリトリートがもたらす効果に着目し、制度として導入する日本企業が増えています。多くの企業では、以下のような目的でさまざまなプログラムが開発されています。
- 社員のウェルビーイング向上
- 生産性の向上
- チームビルディング
- 地域貢献
事例をもとに、ワーケーションやリトリートがもたらす効果や活用方法について学びましょう。
富士通株式会社|ワーケーションによる「地域課題解決」と「ビジネス創出」

総合電機メーカーである富士通は、ワーケーションを積極的に活用している日本企業の一つです。全国13の自治体と「富士通ワーケーションパートナーシップ」を締結し、社員に対してワーケーションの実践を推奨しています。[11]
とくに2024年に長崎県で実施された異業種交流型ワーケーションプログラムは、地域課題の解決と、ビジネスの創出を両立した革新的な取り組みです。[12]
参加者からは「地方創生を自分事としてとらえることができた」という声が多数寄せられました。また、参加企業からは「地域課題の解決を進めることで新たなビジネスチャンスが生まれると感じた」との声もあり、地域課題解決とビジネスの創出を両立したワーケーションとなっています。
株式会社野村総合研究所 | 本気の学びを目指した「ワーク+ワーク」スタイル

コンサルティングやITソリューションを提供する野村総合研究所では、2017年から徳島県三好市にて、ワーケーションプログラムを開催しています。[13]
「三好共創ベースキャンプ」と名付けられたプログラムの特徴は、本業と滞在先の課題解決を組み合わせた「ワーク+ワーク」スタイルにあります。[14]
通常のワーケーションでは単なる体験で終わってしまうことが少なくありません。そこで野村総合研究所はリアルな社会課題の解決策を提案するプログラムを開発しました。
本業とは異なる課題に真剣に向き合うことで、通常業務では得られにくい学びをもたらすプログラムとなっています。
日本航空株式会社(JAL) | 感性を養い自己成長へとつなげる体験型ワーケーション

大手航空会社である日本航空株式会社(以下JAL)は、2017年の夏からワーケーションを導入しています。JALでは有給休暇の取得率向上を目的に、休暇利用中にテレワークを行う「休暇型のワーケーション」を採用しました。[15][16]
具体的には、以下のようなプログラムやツアーを開催しています。
- 和歌山県白浜でのテレワーク体験
- 熊野古道・道路補修体験
- 北海道でのビール醸造体験
- 愛媛県での農業体験
JALのワーケーションプログラムは、地方で新たな体験をすることに重きを置いているのが特徴です。地域で感性を養い、自己成長へとつなげる機会を生み出しています。
ユニリーバ・ジャパン | ワーク・イン・ライフを重視したWAA制度

洗剤やヘアケア用品などの生活用品を提供するユニリーバ。当社では、仕事と生活の調和を取る「ワークライフバランス」ではなく「ワーク・イン・ライフ」という考え方を重視しています。
ワーク・イン・ライフとは「仕事と生活は天秤にかけるものではなく、仕事は人生の大切な一部である」という考え方です。全ての人がいきいきと働き、健康で、楽しく豊かな人生を送ることを目指しています。
制度導入から10カ月後の社員アンケートによると、回答者の92%が少なくとも一度はWAAを利用したと回答しています。また、利用者のうち75%が「生産性が上がった」、33%が「幸福度が上がった」と回答しています。
株式会社リコー | 目的別に設計された多様なワーケーションプログラム

複合機やプリンターなどのオフィス機器を提供しているリコーでは、2020年11月からワーケーションを推進しています。リコーが実施するワーケーションの特徴は、目的ごとに多様な活動を行っている点です。[18]
たとえば、エンゲージメント向上を目的とした研修型のワーケーションを実施しています。
また、地域の社会課題解決のためには、グループ会社や他社と共同でグループワーク形式のワーケーションを実施しています。
参加した社員へのアンケートでは、エンゲージメント向上や地域課題解決への意識の高まりなどの効果が確認されています。
株式会社LIFULL | ワーケーション・リトリート施設「LAC」の提供

不動産・住宅サービスを手掛ける株式会社LIFULLでは、ワーケーションやリトリートのための施設「Living Anywhere Commons(以下LAC)」を提供しています。[19]
LACは、1泊から月額定額まで、ライフスタイルに合わせて利用できる長期滞在可能な施設です。自宅とLACを行き来する二拠点生活や、全国に点在するLAC拠点を訪れる多拠点生活に利用できます。
ただ施設を提供するだけでなく、通常の旅行ではできない次のような体験を提供している点も特徴です。
- 地域で行うマリンスポーツ
- 地域連携の体験プログラム
- LACユーザーが開催するイベント
また、ユーザー同士が協力して宿泊施設の清掃やイベントの企画・運営を行うなど、新たなコミュニティの創出効果もあります。
効果的なワーケーション・リトリートを行うポイント
ワーケーションやリトリートは、導入すれば必ず効果が出るというものではありません。効果的にワーケーションやリトリートを行うためには、プログラムの設計や企業文化の整備、地域との連携など、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
自然体験・アクティビティを取り入れる
効果的なワーケーションやリトリートを行うためには、自然体験やアクティビティを積極的に取り入れることが重要です。
豊かな自然環境での活動は、気分の改善や疲労感を軽減させる効果があります。また、スポーツや地域での文化体験といったアクティビティは、心身のリフレッシュだけでなく、創造性や柔軟性の向上にも効果的です。
自然の中で適度に体を動かし、五感を刺激する体験は、日常業務では得られない貴重な価値を社員にもたらします。
ワーケーションやリトリートに参加しやすい制度・企業文化を整える
ワーケーションやリトリートの効果を最大限に引き出すためには、テレワークやフレックスタイム制度といった、働き方の自由度を高める仕組みが不可欠です。
また、制度を整えるだけでなく、制度を利用しやすい雰囲気づくりも重要です。ワーケーションやリトリートを「特別なもの」ではなく「当たり前の選択肢」として位置づけることで、社員の利用に対する心理的なハードルを下げることができます。
地域や自治体との連携を行う
地域や自治体との連携も、効果的なワーケーションやリトリートを行うポイントです。ワーケーションを通じて企業と地域のつながりを作ることで、双方が以下のようなメリットを享受できます。
- 企業:新たなビジネスアイデアの獲得や社会に貢献する機会の創出
- 地域:地域課題解決のための経済的・人的サポートの確保
最近は、コワーキングスペースやアクティビティプログラムの提供など、積極的に企業のワーケーションを支援する自治体も増えています。
まとめ | 旅がつなぐ人的資本への投資としてのワーケーション・リトリート
ワーケーションやリトリートは、社員のウェルビーイング向上と企業成長を両立させる効果的な取り組みです。多くの研究でも、旅や自然環境での体験は集中力・創造性の向上やメンタルヘルスの改善といった効果があることが示されています。
旅という非日常の体験を通じて、新たな気づきや学びが生まれます。その積み重ねが、を得ることで、組織全体の活力や企業価値の向上につながっていきます。
ぜひ本記事を参考に、自社に合ったワーケーション・リトリートの導入を検討してみてください。
参考文献
[4] リトリートぐんま – 群馬県ホームページ(観光リトリート推進課)
[6] The influence of natural environments on creativity – PMC
[7] メンタルヘルス・ツーリズムとしての短期旅行が従業員の精神的健康に及ぼす影響
[10] コラム vol.15 ワーケーション自治体協議会|ワーケーション&ブレジャー
[11] Fujitsu Workation Partnership ワーケーションへの取り組み | 富士通
[12] 企業の成長と地域貢献を両立~異業種交流型のワーケーションのメリットと事例紹介
[13] 導入企業事例:株式会社野村総合研究所(NRI)|ワーケーション&ブレジャー
[14] ワクワク(Work+Work)で成長を促す「三好共創ベースキャンプ」 | NRI JOURNAL | 野村総合研究所(NRI)
[15] 導入企業事例:日本航空株式会社|ワーケーション&ブレジャー
[16] 特集3 ワーケーションが生み出す可能性 – 観光文化
