子どもと一緒に体験できる自然再生活動10選|ファミリー層を惹きつける体験プログラム

子どもと一緒に自然の中で過ごす時間は、かけがえのない思い出になります。ただ見て楽しむだけでなく、「遊んでいること自体が自然を守る行動になる」体験であれば、その思い出はさらに特別なものになります。
世界では今、観光客が参加するアクティビティ自体が、科学的なモニタリング調査や生態系の保全に直接つながる「リジェネラティブ・ツーリズム」が広がりつつあります。
本記事では、観光事業者やサステナビリティ担当者の方が自社プログラムを設計する際のヒントとして、子どもと一緒に体験できる自然再生活動を10個に厳選して紹介します。
なぜ今、「遊び」を「再生」に変えるのか

自然再生活動とは、人が与えた影響を修復し、生態系の健全さを取り戻す取り組みです。近年は、観光客や子どもが参加し、科学的データの収集や保全の実務を担う事例が増えています。
背景には、科学者だけではすべての自然を監視しきれない状況があります。たとえば世界中のサンゴ礁をモニタリングするには、専門家の数が足りていません。
観光事業者がこうしたプログラムを提供すれば、参加者は「見て楽しむ」だけでなく「関わって育てる」体験ができます。その結果、旅の満足度が高まり、リピーターや口コミにもつながりやすくなります。
観光プログラムに「科学的な価値」を加える意味
観光プログラムに市民科学を取り入れると、参加者の集めたデータが保全活動や行政の意思決定に活用されるようになります。単なる体験にとどまらず、社会的インパクトを生む仕組みです。[2]
たとえばオーストラリア・グレートバリアリーフでは、観光船のスタッフや乗客がサンゴの健康状態を記録し、そのデータが海洋公園管理機関の報告書に反映されています。このように「遊び」を「科学」に変える設計ができれば、観光プログラムの付加価値は大きく高まるでしょう。[3]
子どもにとっても、「自分の記録が専門家に届く」という実感が、環境への関心を持ち続ける大きなきっかけになります。
本記事で紹介する10選の評価軸
本記事では、単なる自然体験ではなく、「リジェネラティブ(再生型)」と呼べるプログラムに絞って紹介しています。選定にあたっては、次の4つの評価軸を設定しました。
環境へのプラス影響度
植生の回復や野生生物の増加など、生態系の修復・保全が具体的な成果として見えるかどうかを重視しました。
科学的モニタリングへの貢献度
参加者が行う観察や記録が、研究機関や行政などの科学的なモニタリングに活用されているかを評価しています。
子どもの学びの深さ
自然の中での体験を通じて、「観察する」「記録する」「振り返る」といったプロセスが学びとして設計されているかをチェックポイントとしました。
地域社会との連携度
単発のイベントにとどまらず、地域と継続的につながりながら一緒に取り組んでいるかどうかを評価しました。
【サンゴ礁編】海の健康を色で診断する2つの活動
サンゴ礁は、海洋生物の約4分の1が暮らす「海の熱帯雨林」と呼ばれる生態系です。
すべてのサンゴ礁を科学者だけで監視することはできません。そこで、ダイバーやスノーケラー、子どもたちが簡単な方法でサンゴの状態を記録し、世界中からデータを集める市民科学プログラムが生まれました。
観光事業者がこれをツアーに組み込めば、「きれいだった」で終わらない深い学びと、海域管理に役立つ長期データの両方を生み出せます。
CoralWatch(コーラルウォッチ)

CoralWatch(コーラルウォッチ)は、2002年にオーストラリア・クイーンズランド大学が始めた市民科学プログラムです。参加者は「Coral Health Chart」と呼ばれる色見本カードでサンゴの色を6段階評価し、記録します。[5]
この手法は科学的に検証されており、特別な訓練がなくても誰でも白化の程度を評価できるのが特徴です。
教育機関向けには、オーストラリアのカリキュラムに準拠した教材や、小学1年生〜高校生向けのレッスンプランが無料提供されています。分類、食物連鎖、水循環などを海洋環境と結びつけて教えることが可能です。[7]
観光事業者は、スノーケルツアーに色見本と記録スレートを加えるだけで、「サンゴの健康診断」という科学的な体験価値を提供できるでしょう。
Eye on the Reef(アイ・オン・リーフ)|グレートバリアリーフ

グレートバリアリーフ海洋公園管理局が運営する「Eye on the Reef」(アイ・オン・リーフ)は、観光船やダイビング事業者、一般の来訪者がサンゴ礁の健康状態を記録し、管理機関に報告する仕組みです。[8]
参加者は、サンゴの占める割合(被度)や白化状況、海洋生物の目撃情報をフォーム入力や写真で報告します。集められたデータは、海洋公園の管理計画やReef 2050統合モニタリングプログラムに組み込まれ、実際の保全施策に活用されています。[9]
この仕組みは現在、ケアンズやポートダグラス発の観光船で標準採用されています。
さらに、高校生が市民科学者としてサンゴやシーグラスの健康状態を記録するプロジェクトも進行中で、若い世代が「リーフの守り手」として育つ土壌が整いつつあります。
【沿岸生態系編】ブルーカーボンを守る2つの活動
海草(シーグラス)やマングローブは、二酸化炭素を長期に貯蔵し、海岸線を守り、ジュゴンやウミガメの餌場にもなる「ブルーカーボン生態系」として注目されています。[10]
一方で、陸からの流出物や気候変動の影響で劣化が進行。そのため、地域住民や観光客が調査や植樹に参加し、保全と再生を担う取り組みが広がっています。[11]
Seagrass-Watch(シーグラス・ウォッチ)

Seagrass-Watch(シーグラス・ウォッチ)は、1998年にオーストラリアで始まった世界規模の海草モニタリングプログラムです。科学者と市民がパートナーシップを組み、標準化された手法で海草の状態を記録しています。[12]
子どもたちは、海草の部位や識別方法、ジュゴンやウミガメとの関係、海草へのダメージの原因とモニタリング手法を学びます。
集められたデータは、水質報告書や沿岸管理計画に反映され、市民科学が公的な意思決定を支える好例となっています。観光事業者がこの手法を取り入れれば、干潟や浅瀬での体験に科学的な裏付けを加えられるでしょう。[13]
マングローブ植樹とブルーカーボン教育

マングローブは、海岸線を守り、二酸化炭素を貯蔵し、多様な生物のすみかとなる重要な生態系です。しかし、世界中で劣化や減少が進んでおり、コミュニティ主導の再生活動が注目されています。[14]
Mangrove Action Project(マングローブ・アクション・プロジェクト以下、MAP)は、1990年代から活動するNGOで、30カ国以上でマングローブの保全・再生に取り組んできました。独自の手法により、地域住民が主体となって持続可能な再生を進めています。[15]
MAPは受賞歴のある学校向けカリキュラムを開発し、これまでに50万人以上の生徒がマングローブの重要性を学んできました。子どもたちは植樹だけでなく、樹高測定や土壌サンプルの採取を通じて、ブルーカーボンの概念を体験的に学びます。[16]
企業研修にマングローブ植樹を取り入れれば、カーボンニュートラル戦略と現場の自然再生を結びつけた学びを設計できるでしょう。
【流域・淡水系編】水の命を取り戻す2つの活動
湿地は水を浄化し、洪水を和らげ、多様な生物を育む重要な生態系ですが、開発や農地化で世界的に失われてきました。[17]
子どもたちが湿地や川の再生活動に参加することで、「水の循環」や「生態系サービス」といった抽象的な概念を体験的に理解できます。同時に、地域の水質改善や生物多様性の回復にも貢献できるのです。
湿地再生と子ども参加プログラム

アメリカ・カリフォルニア州ポイント・レイズ国立海岸では、学校グループが湿地再生プロジェクトに参加。
子どもたちは、以下を通じて湿地の役割を学びます。[18]
- 在来植物の植栽
- 侵略的外来種の除去
水生生物の観察サンフランシスコ湾岸の高校生は、1〜2週間の集中プログラムで、海洋科学や湿地生態学や潮間帯モニタリング、生息地復元の手法を体験し「自分たちの記録が公園管理に使われる」実感を得ています。
観光事業者が湿地体験プログラムを設計する際は、地元の自然保護団体や公園管理機関と連携することで、参加者の活動が実際の保全計画に反映される仕組みを構築できるでしょう。
水源林を体感する|サントリー「水育(みずいく)」

サントリーが20年以上継続している「水育」は、親子で参加できる日本を代表する環境教育プログラムです。「森と水の学校」では、白州(山梨)、北アルプス(長野)、奥大山(鳥取)、阿蘇(熊本)の4拠点で、専門講師と共に水源林を探検します。
子どもたちは、スポンジのように水を蓄える「ふかふかの土」を踏みしめたり、実際に川に入って水生生物を観察したりすることで、森が水を育むメカニズムを五感で学びます。
単なる座学ではなく、自然の中での原体験を通じて「未来の水のために何ができるか」を考えるきっかけを提供しています。[21]
【生物多様性編】種を発見し記録する2つの活動
生物多様性を守るためには、まず「どこに何がいるか」を知ることが必要です。しかし、すべての場所を専門家が調査することはできません。そこで、一般の人々がスマートフォンを使って生き物を記録し、データベースに貢献する市民科学プラットフォームが発達してきました。[22]
iNaturalist(アイ・ナチュラリスト)と親子バイオブリッツ(短期集中型の生物調査)

iNaturalist(アイ・ナチュラリスト)は、世界中の人が野生生物を観察・記録・共有できるオンラインプラットフォームです。写真をアップロードすると、AIと専門家コミュニティが種を同定してくれます。
7〜20歳を対象にした研究では、iNaturalistの利用によって科学的能力や環境理解が深まり、観察と同定を繰り返すことで「自分は科学者だ」という意識が育まれることが示されています。[23]
家族で使えば、近所の公園や旅先で見つけた生き物を記録し、世界の生物多様性データベースに貢献できます。
観光事業者がバイオブリッツ(短期集中型の生物調査)をプログラムに組み込めば、参加者全員が「市民科学者」として活動できるでしょう。[24]
City Nature Challenge(シティ・ネイチャー・チャレンジ)

City Nature Challenge(シティ・ネイチャー・チャレンジ 以下、CNC)は、世界中の都市が参加する、年に一度の生物多様性調査イベントでiNaturalistアプリを用いた生物観察プログラムです。4日間で都市の野生生物を観察・記録し、どの都市がもっとも多くの種を発見できるかを競います。[25]
2025年4月に東京でも開催され、参加スタイルは2つ。スタイル1は自由参加で、東京都内で好きな時間に観察できます。スタイル2は、多摩川河川敷で専門家と一緒に観察し、調査結果を振り返るイベント形式です。参加費無料で、小学生から大人まで参加可能です。[27]
CNCは学校や家族での参加を歓迎しており、教育者向けのツールキットも提供されています。観光事業者がCNC期間中に「バイオブリッツツアー」を企画すれば、旅行者が地域の生物多様性調査に貢献しながら楽しめるプログラムを提供できるでしょう。
【海と陸の保全編】クリーンアップと調査の2つの活動
海岸と海洋環境の保全には、汚染物質の除去と同時に、生き物の実態を把握することが重要です。子どもたちが参加できるプログラムを通じて、環境問題を「自分ごと」として理解し、行動する力が育まれます。
International Coastal Cleanup(インターナショナル・コースタル・クリーンアップ)

Ocean Conservancyが主催するInternational Coastal Cleanup(インターナショナル・コースタル・クリーンアップ 以下、ICC)は、30年以上続く世界最大級のビーチクリーンアップです。
特徴は、回収したごみの種類と量をデータとして記録する点です。参加者はClean Swellアプリでごみを分類・記録し、そのデータが海洋汚染の傾向分析や政策提言に活用されています。[29]
観光事業者がこの枠組みを活用してビーチクリーンを取り入れれば、環境への貢献ができるだけでなく、国際的に共有される科学データの一部として、地域の現状を可視化することも可能になります。[30]
Great Backyard Bird Count(グレート・バックヤード・バード・カウント)|野鳥調査

Great Backyard Bird Count(グレート・バックヤード・バード・カウント 以下、GBBC)は、毎年2月に開催される4日間の世界規模のバードカウントイベントです。参加者は、自宅の庭や近所の公園で15分以上鳥を観察し、見た種類と数をオンラインで報告します。[31]
オーデュボン協会とコーネル大学鳥類学研究所が共同で運営しており、参加は無料です。
家族や友人と気軽に参加でき、子どもは「自分の観察が科学に貢献する」実感を得られます。観光事業者はこの期間に合わせてバードウォッチングツアーを企画することで、滞在価値を高められるでしょう。
事業者が自社プログラムを設計するためのポイント
ここまで紹介した10の事例はいずれも、「遊び」を「科学」に変え、観光客の行動を生態系保全につなげる仕組みを持っています。
事業者が自社プログラムを設計する際は、集めたデータが誰に、どのモニタリングや保全判断に使われるのかを明確にし、科学的な問いとデータ標準、参加者へのフィードバックをあらかじめ設計することが重要です。
また、目標を「知識の獲得」だけでなく、守り手意識や管理への貢献まで含めることで、子どもや地域住民が継続的な担い手として残り、短期滞在の旅行者はそのネットワークを支える仲間となります。
こうした構図をつくることで、一過性の体験ではなく成果が積み重なる再生型ツーリズムが実現するでしょう。
まとめ
子どもと一緒に取り組む自然再生活動は、「思い出づくり」にとどまらず、科学的なデータ収集や生態系保全の実務にも貢献できる貴重な機会です。
本記事で紹介した10のプログラムはどれも、「遊び」を「科学」へとつなぎ、参加者が自然の「守り手」として関われる仕組みを備えています。
こうした仕組みを取り入れることで、旅を通じて生態系の長期的な再生に寄与するプログラムづくりに役立てることができるでしょう。
参考文献
[1] CoralWatch: Monitoring Coral Health Globally | SeaKeepers
[2] Citizen Science for Change – Great Barrier Reef Foundation
[3] Citizen Science across the Great Barrier Reef
[4] Coral Bleaching 2025: What It Means for the Reef – Great Barrier Reef Foundation
[5] About/CoralWatch | Coral Watch
[7] Curriculum Linked Materials | Coral Watch
[9] Citizen Science project wrap: Stories of impact – Great Barrier Reef Foundation
[13] Seagrass-Watch – SciStarter
[14] projects restoring vital mangrove forests around the world | One Earth
[15] Our History – Mangrove Action Project
[16] Youth Education – Mangrove Action Project
[17] Wetlands Education for Students and Teachers | US EPA
[19] River Stewards Program Overview – Michigan Trout Unlimited
[23] Young people in iNaturalist: a blended learning framework for biodiversity monitoring – PMC
[24] iNaturalist Will Get Your Family Off the Couch and Outdoors! – Screen Time
[26] City Nature Challenge 2025 Global Results · iNaturalist
[27] City Nature Challenge 2025-Tokyo | 一般社団法人 生物多様性アカデミー
[28] Cleanups & ICC – Ocean Conservancy
[29] Start a Cleanup – Ocean Conservancy
[31] Join the Great Backyard Bird Count! – K-12 Education[32] 2025 Final Results – Great Backyard Bird Count
