海外の企業が導入している再生型インセンティブ旅行事例

海外では、社員へのごほうび旅行に「ボランティア」や「地域貢献」を組み込む動きが広がっています。成果を出した社員をただ海外に連れて行くのではなく、現地のコミュニティや自然環境とともに、より良い未来づくりに参加する体験へとつなげる発想です。
本記事では、観光事業者や企業のサステナビリティ担当が、自社の研修やインセンティブツアーに応用しやすいように、欧米企業の公式情報をもとに、わかりやすく事例とポイントを整理します。
再生型インセンティブ旅行とは
再生型インセンティブ旅行は、社員の成果をねぎらいながら、訪れる地域や自然環境もよりよくしていくことをめざす取り組みです。単なる「環境に配慮した旅行」ではなく、参加したあとに地域住民や自然が、いっそう元気になっている状態をめざす考え方です。
観光事業者にとっては、宿泊やアクティビティを売るだけではありません。企業の人材育成やサステナビリティ戦略とつながるプログラムを共創できるチャンスでもあります。社員にとっても「ごほうび」「学び」「社会貢献」が一度にかなう体験になりやすいしくみです。
なぜいま観光事業者が注目すべきか
観光事業者にとって、再生型インセンティブ旅行は新しい収益源であると同時に、地域と長くつながるためのしくみにもなりうる存在です。
その結果として、「単なる旅行」よりも「社会的な影響も生むプログラム」を求める担当者が増えています。
こうした企業と組むことで、地域のNPOや自治体と連携したプロジェクトを継続的に生み出すことができるでしょう。
IBM「Service Corps」

2008年の創設以来、世界各地のコミュニティを支援してきました。
一般的なインセンティブ旅行と異なり、中心は観光ではなくプロジェクトですが、その経験自体が大きなごほうびになります。企業にとっては次世代リーダー育成とブランド価値向上を同時にねらえる施策であり、観光事業者にとっても「受け入れ側のパートナー」として関わる余地が大きいプログラムです。[1][2]
プログラムの仕組みと参加者体験
IBMの「Service Corps」では、各プロジェクト期間は通常4〜6週間です。参加者は10〜15人ほどの多国籍チームとなり、受け入れ国の行政機関やNPO、中小企業などとともに、課題解決プロジェクトに取り組みます。テーマは起業支援や交通、教育、政府サービス、医療、災害復興など多岐にわたります。
IBMはこのプログラムを「Peace Corps(平和部隊)」の精神を参考に設計。社員がグローバルリーダーとして成長することを狙っています。単なる海外視察ではなく、現地社会の一員として数週間働く「生活者としての体験」が、深い学びと自己変容を生み出しています。[3]
社員育成とブランド価値への効果
IBMの「Service Corps」は、社員育成と企業イメージ向上の両面で、重要な役割を果たしています。日中は現地パートナーとプロジェクトに取り組み、同時に地域の文化や自然に触れることで、新興国市場や暮らしへの理解が深まります。
IBMが世界各地のコミュニティに継続的に貢献する姿は、ステークホルダーからの信頼にもつながります。観光事業者は、宿泊や移動、フィールドワークのコーディネートを担うことで、プログラム全体の質を高めることが可能です。
Patagonia「Environmental Internship Program」

所属部門を問わず、社員は最長2か月間通常業務を離れ、環境団体でフルタイムのインターンとして働くことが可能です。その間も給与と福利厚生は維持され、旅費も会社が負担するため、社員は生活の不安なく活動に集中できます。
これは「ボランティアを兼ねた長期インセンティブ旅行」といえる制度で、自然の中での実践を通じて、社員はブランドの価値を自分ごととして体感します。その経験は商品づくりやお客さま対応にも自然と反映されていくでしょう。[5]
環境団体との共同モデル
活動先は、気候変動や生物多様性、河川保全などを扱う団体です。期間中は給与・福利厚生に加え、旅費もサポートされ「仕事の一部として環境団体で働ける」ユニークな体験となっています。
観光事業者の視点では、こうした長期滞在インターンシップと、滞在中の自然体験や地域コミュニティとの交流プログラムを組み合わせる余地が大きいといえるでしょう。
アウトドアブランドが地域結びつく意義
Patagoniaは「私たちの故郷である地球を救うこと」をミッションに掲げており、このプログラムはそのメッセージを内側から支える仕組みです。
環境団体で活動した社員は、現場で感じた課題や成功事例を会社に持ち帰り、その気づきが製品素材の選定やサプライチェーン改善につながります。
観光地にとっても、こうした社員を受け入れる団体やフィールドを育てることが、長期的な関係性とブランド協業の土台になります。単発の視察ツアーではなく、2か月単位で地域に関わる人が増えることで、より本質的な「再生型」の流れが生まれていくでしょう。
Salesforceのグローバルボランティア文化

顧客管理システム(CRM)で世界トップのIT企業Salesforce(セールスフォース)は、創業当初から、時間・製品・株式の各1%を社会に還元する「1-1-1モデル」を採用してきました。社員には、年間7日間(56時間)の有給ボランティア休暇と、年間最大1万ドルの寄付マッチング制度を提供しています。[6][7][8]
こうした文化は「ボランティアを組み込んだインセンティブ旅行」の土台となり、観光事業者にとっても、より意義あるプログラム設計を可能にします。[9][10]
有給ボランティア休暇と寄付の仕組み
Salesforceの社員は、年間7日間の有給ボランティア休暇を使い、学校での活動やオンラインメンタリング、プロボノなど多様な社会貢献に参加できます。寄付についても、社員の拠出額に対し年間1万ドルまで会社がマッチングします。
さらに、一定のボランティア時間や在籍年数といったマイルストーンを達成した社員が応募できる特別助成金も用意。これにより「ごほうび旅行+ボランティア」の企画でも、社員の金銭的・時間的ハードルが下がり、企業と観光事業者は現地NPOへの寄付と活動を一体で設計しやすくなります。
世界各地の活動から見える「マルチプライヤー効果」
Salesforceは、社員ボランティアの具体的な事例も公開しています。
- スイス:自然保護団体と連携した外来植物の除去や生物多様性保全
- インド:大学生向けの就職支援プログラムでのデジタルスキル教育
こうした活動を通じ、社員は「会社の一員として社会に貢献している」という実感を得ています。
観光プログラムとして見れば、一人ひとりの体験が地域コミュニティと企業双方に広がる「マルチプライヤー効果」が生まれているといえるでしょう。
Microsoftなど大企業のボランティア制度

社員と会社の寄付額は合計2億6,300万ドルに達成。これは、ボランティアが一部の熱心な人の活動ではなく、企業文化として根づいていることを示しています。こうした企業と連携することで、観光事業者は多様な国・地域からの社員グループを受け入れる機会を広げられます。
世界110か国に広がる制度
Microsoftのボランティアは、教育、気候変動対策、地域コミュニティ支援など多岐にわたります。
社員は現地活動だけでなく、オンラインでの支援やスキル提供も行います。
また「Change Agent Program」では、非営利団体のデジタル変革を社員が支援。こうした仕組みにより、企業がインセンティブ旅行で社員を海外に派遣する際、受け入れ先の選択肢が豊富になります。[13]
他社のボランティア制度から見える共通点
世界的な経営コンサルティング・会計事務所であるDeloitte(デロイト)はスキルベースのボランティア活動を推奨しており、1日のワークショップから6ヶ月のプロジェクトまで、週2~5時間の活動を支援しています。
特にインドとブラジルでは、100万人以上の若者が地域社会や気候変動などの課題解決に取り組みながら、将来のキャリアに必要なスキルを身につけられるようサポートしています。[15][16]
これらに共通するのは、「社員・市民を主体とした社会参加の場」を企業が用意していることです。観光事業者がインセンティブ旅行を企画する際も、既存のボランティア制度と組み合わせることで、企業内の合意形成が進みやすくなるでしょう。
事例から読み解く「再生型インセンティブ旅行」の成功要因

再生型インセンティブ旅行が企業と地域の双方に価値をもたらすのは、いくつかの要素が重なっているためです。
まず、地域と企業双方にメリットがある仕組みであることです。IBMの「Service Corps」では、現地パートナーと社員がチームで地域課題に取り組み、Salesforceも長年のボランティアを通じて多くの非営利団体を専門性で支えてきました。
次に、社員の成長とエンゲージメント向上を前提に設計されていることです。社内調査では、多くの社員が「企業文化とのつながりが強くなった」「仕事の意味や目的をより深く感じられた」と回答しており、内面の変化が大きいことがわかります。
さらに、継続することでブランド価値と社会からの信頼が蓄積されることです。IBMの「Service Corps」は長年続いており、参加社員の離職率が低いと報告されています。こうした継続的な姿勢そのものが企業評価を高めています。
これらの要素を組み込むことで、再生型インセンティブ旅行は単なる旅行商品ではなく、企業にとって戦略的なプログラムとなります。
観光事業者が再生型インセンティブ旅行を設計するポイント

社員が主役となり地域や自然と関わる場をつくれば、人材育成とブランド価値向上を同時に図れます。そのためには、行政やNPO、事業者など受け入れ側と早い段階から対話し、「地域が本当に助かること」と「社員が学べること」が重なるテーマを共創することが欠かせません。
あわせて、参加社員の変化や地域へのインパクトを整理しましょう。CO2削減量や植林本数といった指標もまとめ、企業と一緒に物語として発信することで、「宿泊+観光+社会貢献」を一体化した新しい商品としての価値を高めることができます。
まとめ
再生型インセンティブ旅行は、社員へのごほうびであると同時に、受け入れ地域や自然をより良くする投資でもあります。IBMの海外派遣プログラムやPatagoniaの環境インターンシップ、SalesforceやMicrosoftのボランティア文化などは、その最前線の姿を見せてくれます。観光事業者がこうした企業と組むことで、「泊まって終わり」の旅行から、「人と地域の未来を一緒につくる体験」へと進化させることができます。
まずは、身近な地域の団体や自治体と対話をはじめ、小さくても「再生型」の要素を組み込んだプログラムづくりに挑戦してみましょう。その一歩が、企業にとっても地域にとっても、新しい価値の出発点になるはずです。
参考文献
[2] IBM: Corporate Service Corps
[3] IBM’s Corporate Service Corps: A Catalyst for Social Impact
[4] Patagonia Employee Internship Program
[5] Employee Benefits | Patagonia
[7] The Ripple Effect of Giving: How Salesforce Employees Volunteer for Impact
[8] Increase Employee Engagement With Volunteer Time Off – Salesforce
[9] Employee Volunteering and Giving | Salesforce
[10] Salesforce Employees Reach 10M Volunteer Hours, with Impact Felt Around the World
[11] Our people ❤️ to give – Microsoft On the Issues
[12] Employee Giving & Corporate Giving Program | Microsoft CSR
[13] Learn What is a Change Agent? | Microsoft
[14] Pro Bono and Skills-based Volunteering | Deloitte US
[15] Upskilling young people is essential to the future | Unilever
[16] Empowering Gen Z with four future-fit skills for the workplace
