【2026年版】リジェネラティブツーリズム最前線 |世界と日本でいま何が起きているのか。そして2026年に何が終わり、何が始まるのか。

2025年、世界の観光は大きな節目を迎えました。気候変動の深刻化、国際社会の不安定化、そして人気観光地のオーバーツーリズムによる「過密化」が世界各地で表面化し、観光の価値そのものが問い直される一年となりました。
同時に、地域の自然や文化、人とのつながりを守り育てながら、訪れる人自身の価値観を深く変化させていく「リジェネラティブ(再生)」の流れも加速しています。旅は「単一的な消費」から、「再生と学びの喜びに満ちた体験」へと静かにシフトし始めています。
この記事では、
- リジェネ旅編集部が振り返る:2025年の世界サステナブルツーリズムのトレンド
- 2025年に世界で実際に起きたリジェネラティブツーリズム事例と世界情勢
- 2026年に到来するリジェネラティブツーリズム主要トレンド(編集部予測)
について、わかりやすくまとめました。
2026年、観光は「未来につなぐ基盤産業」へとさらに進化します。その中で、自治体・観光事業者・地域住民・旅行者…すべての関係者に新しい役割が問われはじめています。
リジェネ旅編集部が振り返る:2025年の世界サステナブルツーリズムのトレンド
2025年の観光は、気候変動・社会不安・観光地の過密化など、あらゆる外部環境が大きく揺れた一年でした。その中で、編集部が年始に掲げた「8つのトレンド予想」がどれほど現実と一致したのか。

ここでは、一年を通じての世界の動きを振り返りながら、各項目を検証します。
1. カーボンニュートラル旅行の拡大
2025年の観光を語るうえで、カーボンニュートラル旅行はまさに中心的テーマとなりました。欧州を中心に、航空会社による排出量の開示や鉄道移動の積極的なプロモーション、“低炭素な旅程”を組み込んだツアー商品の提供が広がり、年始に編集部が予測していた流れは大きく的中したと言えます。
アジアでも同様の傾向が見られ、韓国や台湾では「列車旅の復権」や、国内移動の中で排出量を抑えた「クリーンツーリズム」への関心が着実に高まりました。気候危機が一層深刻さを増すなかで、「どの国へ行くか」「何をするか」だけでなく、「どう移動するか」「どれだけ炭素を出さないか」が、旅行者の重要な選択基準として定着し始めた一年でした。

2. 地域主導型の観光が標準化へ
欧州、オセアニア、南米などを中心に、「住民参加型の観光マネジメント」がいよいよ主流として定着し始めました。ニュージーランドやフィンランド、スペインの農村部では、自治体や観光局が主導するのではなく、地域住民が意思決定の中心に立つ動きがさらに加速しています。
具体的には、
- 住民が計画段階から関わる、住民参加型の観光マネジメント
- 地元の人びとが主体となってコースづくりや維持管理を行う市民主導のトレイル整備
- 地域企業と住民が協働し、雇用や学びの機会も生み出す共同プログラムの開発
といった取り組みが各地で広がり、観光を通じて地域のレジリエンス(しなやかな持続力)を高める動きが明確になってきました。
このように、「地域が意思決定の中心に立つ」観光のあり方は、国際的な潮流として定着しつつあるだけでなく、日本国内の地方部でも着実に広がっており、当初の予測を上回るスピードで変化が進んだ一年だったと言えます。

3. 自然と深くつながる旅が再評価
2025年は、「どれだけ自然で遊んだか」ではなく、「どのように自然と向き合ったか」が問われた一年でした。アウトドア人気自体は引き続き高まりましたが、一方で各地で相次いだ熱波・山火事・豪雨などの気候災害により、「自然とどう安全に関わるか」「リスクとどう共存するか」が大きなテーマとして浮かび上がりました。
特に日本では、「2025年のヒグマ問題」が大きな社会課題として浮上しました。気候変動による山の生態系変化が影響し、野生動物が人里近くに出没するケースが急増。これにより、観光においても「ただ自然を楽しむ」だけでなく、「野生動物との境界線をどう守るか」「彼らの生態系をどう理解し、尊重するか」という、より深くシビアな自然理解が求められるようになりました。
その中で、単にアクティビティを消費するだけの体験から一歩進み、
- 生態系や気候変動について学びながら参加するネイチャーツアー
- 野生動物の痕跡を辿り、共存のあり方を学ぶワイルドライフツアー
- 森林保全や里山再生活動と組み合わせたトレッキングやキャンプ
- サンゴ礁保全や海岸清掃と一体化したマリンアクティビティ
など、自然の「理解・保全・再生」に関わる旅が各地で広がりました。
結果として、ネイチャーアクティビティは“量の拡大”から“質の向上”へと軸足を移し始め、本格的に「量から質への転換」が進んだ一年だったと言えます。

4. デジタルとスマートツーリズムの融合
混雑予測システム、防災アラート、観光地の環境負荷を可視化するアプリ、歩行者中心の都市設計など、いわゆる「観光DX」は、もはや一部の先進事例ではなく、インフラレベルで定着し始めました。
都市部では、リアルタイムな人流データや混雑状況をもとに、歩行者の動線を最適化する「歩行者中心のスマート観光」が進展。観光客は、アプリを通じて混雑を避けながら、街歩きや公共交通を組み合わせたストレスの少ない移動ができるようになりつつあります。
一方、地方では、「環境負荷を見える化するアプリ」や「混雑予測ツール」の活用が広がりました。例えば、特定の観光スポットに集中する自家用車の台数やCO2排出量、特定シーズンのオーバーユース傾向などを表示し、訪問時間帯の分散や公共交通利用を促す取り組みが各地で始まっています。
これらの動きは、単に便利さを追求したデジタル化ではなく、「環境への負荷を抑えつつ、旅行者の体験価値をどう高めるか」という視点から、観光のあり方そのものをアップデートするプロセスとも言えます。


5. 気候変動への適応型ツーリズム
2025年は、猛暑・豪雨・山火事といった極端な気象が各地で相次ぎ、観光プランを「安全第一」で設計することが欠かせない一年となりました。自然災害リスクと連動した観光オペレーションは、もはや特例ではなく、観光地にとっての重要テーマになっています。
実際に世界各地で、
- 熱波の影響を受けて観光シーズンそのものを見直す
- 山火事の危険性から自然保護区を一時閉鎖する
- 大雨や土砂災害リスクに備えてルートやプログラムを再設計する
- 海面上昇や高潮に対応するため、沿岸観光のあり方を再編成する
といった、「気候変動に適応せざるを得ない」対応が進みました。気候変動への適応は、予測をはるかに超える重要性を帯び、2025年の観光に最も現実的な影響を与えた動きのひとつだったと言えます。


6. 観光客の倫理観の高まり
観光において、「旅先への敬意」「文化への配慮」「環境負荷の低減」への意識が、今年は一気に高まりました。観光客自身がただ消費するだけでなく、学び、参加し、自らの行動に責任を持つ旅のスタイルが主流になりつつあります。
旅先の人々や暮らしに敬意を払い、その土地ならではの文化や歴史を理解しようとする姿勢、そして環境への配慮を重視する傾向は、昨年までと比べても明らかに強まりました。
SNS上でも「エシカルトラベル」や「レスポンシブルツーリズム」といったキーワードとともに、具体的な実践例や気づきのシェアが増加。観光地側もそれに呼応する形で、マナーやルールの明確化、行動規範の発信・説明をこれまで以上に強化しています。
こうした変化は、年始に立てた予測を大きく上回るスピードと広がりで、社会全体に強烈な潮流として現れた一年だったと言えます。



7. 観光への循環型経済(サーキュラーエコノミー)の適用
「本格的な普及はもう少し先」という印象を受けました。リユース食器やリターナブル容器、食品ロス削減など、旅の現場での“循環”を生み出す取り組みは、実際の事業として各地で立ち上がり始めています。
食品ロス削減、リユース容器、地域資源の循環利用といった動きは着実に増えている一方で、「観光全体での実装」という観点では、まだ道半ばと言えます。
2025年は、あくまで実証段階が広がった一年であり、予測どおりの進展ではあるものの、その普及スピードはやや緩やかだったと言えるでしょう。


8. 健康とウェルビーイング重視の旅
マインドフルネスや自然療法、農的暮らしの体験など、人々の“心身の回復”を目的とした旅が、今年は世界的に一気に存在感を増しました。中でもキーワードとなったのは「精神の回復」です。
都市生活による慢性的なストレス、不安定な社会情勢や将来不安などを背景に、
- 雑念から離れて、自分自身と向き合うマインドフルネスツーリズム
- 森の静けさや香り、光を感じながら心と体を整える森林療法
- 温泉地を拠点に、ヨガや瞑想、食養生などを組み合わせたウェルビーイングプログラム
- 土に触れ、種をまき、収穫までを体験する農的暮らし体験
といった、「心の健康」を軸にした旅が、世界各地で高い人気を集めました。
日本国内でも、こうしたプログラムを打ち出す地域や宿泊施設が増え、海外の動きと呼応するように需要が急増。結果として、当初の予測を大きく上回るスピードで市場が拡大した一年だったと言えます。
マインドフルネス、自然療法、農的暮らし体験など、人々の“心身の回復”を目的とした旅が世界的に活発化しました。



リジェネ旅編集部が予測する:2026年のリジェネラティブツーリズム主要トレンド
2026年、世界の旅はさらに大きな転換点を迎えます。気候危機への対応、地政学リスクの高まり、自然資源の制約、そして人々の価値観の変化が重なり合い、「どこへ行くか」以上に「なぜ・どのように旅をするか」が問われる時代に入ります。
こうした流れのなかで、私たち編集部は、これからの旅を形づくるカギとして、次の8つの動きを重要なテーマとして捉えています。この8つの視点から、2026年のリジェネラティブツーリズムと観光ビジネスの未来を読み解いていきます。
1. “グリーンモビリティ”が観光を変える年

EVバスやe-bikeの普及、パブリックトランスポートの再編により、「移動そのものが環境再生を促す」新しい旅のモデルが生まれつつあります。
たとえば、再エネ電力で運行するEVバスや、地域の森林や農地と連動したカーボンオフセット付きのe-bikeツアーなど、移動がそのまま地域の自然保全や脱炭素への投資につながる仕組みが広がっていきます。
2. 地域コミュニティへの“価値還元”が必須条件になる

観光が地域にもたらす価値は、これまでの「経済効果」だけでは語れなくなっています。2026年以降は、観光が地域の自然・文化・人材を“再生するエンジン”として機能する仕組みづくりが本格化します。
具体的には、森林保全や里山管理、伝統芸能の継承、地域人材の育成など、従来は行政や地域団体が担っていた領域に、観光事業者がパートナーとして参画する動きが加速。観光の収益を地域の再生事業へ循環させる「リジェネラティブ・ファンド」の創設や、観光客が参加できる半日ボランティア、地元事業者と協働する文化体験の共同プログラムなど、地域と観光の境界が曖昧になる取り組みが広がっています。
観光事業者はこれから、単なる“サービス提供者”ではなく、地域とともに未来をつくる「共創パートナー」へと役割を進化させていきます。地域と協働しながら、自然資源・文化資源・人的資源を次世代につないでいく。そんな観光の新しい形が主流になっていくでしょう。
3. “メンタルウェルビーイング×旅”が大きな市場へ

研究の蓄積により、自然や人とのつながりが心身の回復にもたらす効果が、科学的にも明確になりつつあります。こうしたエビデンスを背景に、森林・海・温泉地・里山などで、ストレス軽減やメンタルヘルスの改善を目的とした「心の再生ツーリズム」が一層伸びていきます。
単に“癒やされる”だけでなく、自分の内面と向き合い、生き方や働き方を見つめ直すための滞在プログラムが各地で増えていくでしょう。
4. 都市の観光地は“リジェネラティブ都市”として再設計される

都市の構造は「車中心」から「人中心」へと大きく舵を切り始めています。歩行者や車椅子利用者、公共交通、自転車を軸にした移動設計が進み、スピードよりも安全性や快適性、多様な人にとってのアクセスしやすさが重視されるようになります。
観光においても、ゆっくり歩ける回遊動線や、バリアフリーな交通インフラを備えた「人に優しいまち」への変革が本格的に始まっていきます。
5. ローカル文化の再発見・再編集が進む

民謡や食文化、方言や物語、伝統芸能など、地域に眠っていた文化資源を、単なる観光メニューではなく“旅の学びのコンテンツ”としてリデザインする動きが加速します。
土地の歴史や暮らしの知恵をひもときながら体験できるプログラムが増え、旅行者は「見て終わり」ではなく、「知り・感じ・持ち帰る」深い学びの旅へとシフトしていきます。
6. 気候変動適応ツーリズムが各国で制度化

気候変動の影響が年々大きくなるなか、観光の現場では“安全に旅を楽しむための仕組み”が標準装備になっていきます。特に近年は世界的に熱波や豪雨、山火事などの極端な気象が増えており、観光地もこれまで以上に対策が求められています。
たとえば、
- 熱波に対応した時間帯別の観光プラン(早朝・夕方に屋外体験を移動)
- 大雨・土砂災害時のルート変更や避難ガイドの整備
- 季節変動に合わせた営業期間やアクティビティの最適化
などが、特別な取り組みではなく“当たり前の運営”として導入されていきます。
初心者でも安心して旅を楽しめるよう、観光事業者は「気候と安全のマネジメント」を前提にした運営へと移行し、より安全でストレスの少ない旅が実現していきます。
7. 地域資源の“流域単位”でのツーリズムが広がる

自然のエコシステムは、本来「川の流れ=流域」を単位としてつながっています。日本は山が多く、山の湧水から川を下り、やがて海へとそそぐという地形がはっきりしているため、この“流域”という考え方で自然を捉えやすい国です。
そのなかで、今後とくに日本で広がると予想されるのが、「水源地から川・街・海までをひとつの物語として旅する」観光スタイルです。上流の森(里山)での保水機能や林業、中流の田畑や町の暮らし(里川)、下流の漁業や海の生態系(里海)までを一連のつながった世界として体験するツアーが、世界的にも増えつつあります。
日本でも、里山・里川・里海がつながったこうした“流域まるごとツーリズム”が注目され、単に景色を楽しむだけでなく、「森の状態が川や海の豊かさをどう支えているのか」を学び、再生や保全に関わる旅として広がっていくと考えられます。
8. 旅が「市民教育(シティズンシップ)」の場になる

旅先で、その土地が抱える環境・文化・社会の課題について「知る・考える・参加する」ことができる、“旅×学び” 型のプログラムが増えていきます。
ごみ問題や気候変動、伝統文化の継承、高齢化や過疎化といったテーマを、ガイドの解説やフィールドワークを通じて学び、そのままビーチクリーンや里山保全、伝統芸能の継承プロジェクトなどに参加できる仕組みが整っていきます。
単に見物して終わるのではなく、「学んだことを自分の行動に変えていく旅」。そんな、学びと実践がセットになった旅のスタイルが、これから一層広がっていきます。
2026年、旅は「世界を再生する力」へと進化する
2026年、観光は単なる消費活動ではなく、「自然・文化・地域コミュニティを豊かにする社会的な装置」へと本格的に進化していきます。
旅はこれから、地域経済を支えるだけでなく、森や海、里山などの自然資源を守り育て、次世代へとつなぐ仕組みの一部となっていきます。同時に、地域で働く人・暮らす人の学びや成長を後押しし、新しい仕事や役割を生み出す「人づくりの場」にもなっていきます。
そして何より、その旅を体験した一人ひとりの中で、価値観や人生観の変化が静かに起こります。自然との距離感、地域との向き合い方、自分の生き方。旅は、そうした内面をも“再生”していくきっかけになります。
リジェネ旅編集部は、2026年も、世界のリジェネラティブな実践例や、地域でひっそりと芽吹く小さな再生の種、旅がもたらす気づきと変化のストーリーを、丁寧にすくい取りながら発信していきます。読者のみなさんとともに、「旅が未来をよくしていくプロセス」を追いかけていきます。
