再生型スタディツアーの作り方 | “見るだけ”から”貢献する旅”へ

近年、災害の頻発や地方の人口減少により、観光のあり方が見直されています。そのような背景から注目されているのが「リジェネラティブツーリズム・スタディツアー」です。
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーでは、訪問者が地域住民との対話や体験型アクティビティを通じて、地域の再生に関わることができます。
本記事では、リジェネラティブツーリズム・スタディツアーの基本から実践事例、効果的な設計ポイントまで詳しく解説します。
リジェネラティブツーリズム(再生型観光)・スタディツアーとは

リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、再生型観光と体験学習を組み合わせた観光スタイルを指します。再生型観光とは、旅行者が訪れた地域をよりよい状態にすることを目指す観光です。
このような観光スタイルが注目される背景には、以下のような社会の変化があります。[1][2][3]
- 災害の頻発
- 地方の人口減少
- 観光客の増加に伴う環境負荷・地域負担の増大
こうした課題を受け、社会課題を解決する施策の一つとして、リジェネラティブツーリズム・スタディツアーが注目を集めています。
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーがもたらす3つのメリット

リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、いくつかの課題を抱えながらも、地域と参加者の双方に大きな価値をもたらす可能性があります。経済的な効果にとどまらず、訪問者の地域課題への理解を深め、行動の変化を促す点でも有効な取り組みといえるでしょう。さらに、外部からの関心や支援が地域の再生と成長につながっていきます。
地域経済への貢献
観光は、宿泊業や飲食業、サービス業など複数の産業に経済効果をもたらします。さらに、観光に直接関連していない農林業や製造業などにも波及するため、地域全体の経済活性化に効果的です。
また、観光関連の新たな仕事が生まれることで、地域での就業機会が増加します。これにより、若年層の人口流出抑制も期待できます。
参加者の学びと行動変容
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、参加者に深い学びをもたらし、日常生活における行動変容を促します。地域住民と直接対話や、地域課題に直接的な関わりを通じ、報道やインターネットだけでは得られない気づきが生まれるためです。
たとえば、復興現場での作業に参加することで、地域の現状や課題解決に必要な取り組みを肌で感じることができます。
こうした実践的な学びは、ツアー終了後も参加者の意識に残り、持続可能な社会づくりへの関心を高めます。
地域コミュニティのエンパワーメント
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、地域住民が自分たちの地域に対する誇りや自信を取り戻すきっかけにもなります。
観光による地域活性化は、その地域に住んでいる住民が、地域に愛着を持つきっかけになるためです。また、自身の住んでいる地域への誇りや愛着が強まれば、人口流出の抑制にもつながります。
住民が地域の担い手という自覚を持ち、積極的にツアー運営や地域づくりに関わることで、持続的なコミュニティが形成されます。
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーの実践事例5選
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、日本国内でもさまざまな形で実践されています。被災地の復興支援と学びを組み合わせたプログラムや、過疎地域での体験アクティビティなど、訪問者が地域の課題解決に積極的に関われる取り組みが広がっています。
山梨県小菅村 | 村を一つのホテルに見立てた地方創生事業

山梨県小菅村は多摩川源流に位置する、自然豊かな村です。人口がピーク時の約2,200人から、3分の1の約700人にまで減少するなど、かつては深刻な過疎高齢化に直面していました。
そこで、地域プロデュース会社や村役場が連携して、以下のような取り組みを行いました。
- 道の駅や温泉施設等の運営会社の設立支援
- 山女魚のアンチョビなどの商品開発
- 村づくりイベント「ゾンビ村コスゲ」の企画・運営
- 村の情報発信サイト「こ、こすげぇー」の制作
- 関係人口を巻き込むためのポイントカードシステムの企画・設計
また、周辺の自然散策や自転車での村巡りなど、村全体の魅力を感じられる体験も提供しています。四季折々の村の楽しみ方を、村人でもあるホテルスタッフが提案。ホテルで提供される食材の産地を直接見学することも可能です。このような体験を通して訪問者は滞在期間中に、小菅村の歴史や文化、暮らしを学ぶことができます。
福島県ホープツーリズム | 複合災害の教訓を未来へつなぐ学びのプログラム

福島県では、2011年の東日本大震災で得た教訓をもとに、スタディツアープログラムを実施しています。本プログラムは、持続可能な社会・地域づくりを探究し、創造することを目的としています。[6]
福島県は地震・津波、原子力災害、風評被害という「複合災害」を経験した唯一の場所です。そこで発生した課題をローカルな問題にとどめず、持続可能な社会づくりのための発信活動として展開しているのが「福島ホープツーリズム」です。
プログラムの特徴は「見る」「聞く」「考える」の流れを通した、アクティブラーニングにあります。
施設見学やフィールドワークによって、報道だけではわからない福島の「今」を体感。復興に向けてチャレンジする人々との対話を通じて、訪問者に深い学びをもたらします。
受動的に学ぶだけでなく、能動的な思考を促すワークショップも開催。災害の教訓を未来にどう活かすかを参加者自身が考え、自分ごと化できるように設計されています。
参加者の学びが深まるだけでなく、地域経済への貢献や継続的な関係人口の創出にもつながっています。[7]
美杉Inaka Tourism(いなかツーリズム) | 限界集落の暮らし学べる体験型観光

美杉町は三重県津市の山間部、奈良県との県境に位置する町です。
本プロジェクトでは、中山間地域のありのままの暮らしをツーリズムと融合。学びとエンターテインメント性に富んだ、以下のような体験を提供しています。
- 林業体験
- 禅体験
- 森林セラピー
- わら細工体験
- 伊勢本街道節句文化体験
- 伊勢本街道歴史めぐり
美杉町ならではの魅力を体験できるアクティビティは多くの注目を集め、観光客誘致につながっています。美杉町を訪れるのは日本国内の人々だけではありません。訪日外国人も多く、カナダからは森林浴を推進する団体が視察に訪れるほどです。
Inaka Tourismは、プロジェクト初期から採算性を重視している点が特徴です。体験プログラムと宿泊事業を組み合わせることで、持続的な事業運営を実現しています。
中能登スローツーリズム | 地域住民が提供するスローな暮らし体験

石川県中能登町は、少子高齢化や人口減少による過疎化が問題となっている地域です。
中能登町では、地域活性化の手段として「スローツーリズム」と呼ばれる観光形態を取り入れています。
スローツーリズムとは、効率の良さを追い求めるのではなく、時間をかけて良いものをじっくり味わう旅の形です。
中能登町では、地域の「衣・食・住」に焦点を当てた体験を提供しています。[10][11]
例えば「衣」部門では、麻糸・麻布の原産地であることを活かし、きもの文化についての学習体験を多数用意。訪問者は機織り作業の見学や体験を通して、きもの文化の継承に貢献できます。
中能登町のスローツーリズムで特徴的なのは、行政や事業者ではなく、地域住民で構成された一般社団法人が中心となって活動している点です。地域一丸となって取り組み、得られた利益が地域に還元される仕組みを整えています。
また、中能登町は能登半島、富山県、岐阜県白川郷など周辺観光地へのアクセスにも優れた地域です。この立地の良さを活かしして滞在型観光の拠点を担うことで、関係人口の増加も目指しています。
オープン・フィールド・ミュージアム釜石 | 地域全体を博物館に見立てた持続可能な観光づくり

岩手県釜石市では、過疎化や地域の主要産業であった水産業の担い手不足といった課題が発生していました。また、東日本大震災では、沿岸市街地と漁村集落合わせ大小14におよぶ地区が甚大な被害を受けています。
釜石市の自然を活かしたアクティビティの提供や、防災学習施設での展示などを行っています。 [12]
例えば「いのちをつなぐ未来館」では、東日本大震災がもたらした被害や、震災から得た教訓を後世に伝えるための展示やガイドを実施。避難経路体験や防災リュックの中身を考えるワークショップなど、実践的な体験を提供しています。
さらに、釜石市では、地域の歴史や文化、地産品などの「地域の宝」と呼ばれるコンテンツの磨き上げにも注力。その結果、以下のような経済効果や環境保全効果が生まれています。
- 関係人口・移住者の増加を促進し、まちの人口を維持する
- 観光客の継続来訪を促すことで経済的な持続性を確保する
- 歴史や伝統文化、記憶を保存し、未来へ継承する
- 自然環境を保全し、まちの魅力を保ちながら新たな観光資源を発掘する
「屋根のない博物館」というコンセプトは、訪問者が地域の魅力に触れるのに最適です。来訪者が経済活動を行ったり、関係人口として関わったりするきっかけを生み出しています。
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーが抱える課題

リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、地域をより良くする観光の形として注目を集めていますが、以下のような課題も存在します。
- 参加者の心理的なハードル
- 社会貢献と収益化のバランス
- 地域側の受入れ負担
持続的にツアーを運営していくには、こうした課題を理解し、あらかじめ解決策を用意することが重要です。
「見るだけでは申し訳ない」という心理的ハードル
被災地や過疎地を訪れるツアーには、心理的な抵抗を感じる参加者もいます。とくに被災地を訪れる場合は罪悪感を覚えたり、被災地を訪れる行為自体が不謹慎ではないかと感じたりする人も少なくありません。
こうした心理的なハードルを下げるためには、参加者が地域の再生に関わり、貢献していると実感できるような設計が重要です。体験型のプログラムなど、訪問者が積極的に参加できる活動を整えましょう。
収益化と倫理観のバランス
スタディツアーを持続的に実施するには、一定の収益を確保する必要があります。しかし、地域の課題をビジネスとして扱うことには、多くの人が倫理的な抵抗を感じるでしょう。ツアーが単なるエンターテインメントとして消費されるリスクも無視できません。
こうしたジレンマを乗り越えるためには、適正な価格設計をおこなうことに加え、収益を地域に還元する仕組みを整えることが重要です。経済的な持続可能性と倫理的な配慮を満たす設計の両立が不可欠だといえるでしょう。
地域側の受入れ負担の増加
スタディツアーの実施において、受け入れる地域側の負担も大きな課題の一つです。
ツアーにより訪問者が増加すれば、それだけ受け入れ体制を強化する必要があります。しかし、多くの被災地や過疎地域には、十分な経済的・人的リソースがありません。
段階的に受け入れ体制を整備したり、支援制度を活用したりするなど、地域の負担を軽減するための工夫が必要です。
効果的なリジェネラティブツーリズム・スタディツアーを設計するポイント

効果的なリジェネラティブツーリズム・スタディツアーを行うには、参加者の学びと地域への貢献を両立させる設計が欠かせません。単に被災地や過疎地を訪れるだけでなく、参加者が主体的に学び、課題解決に関わる仕組みが求められます。
成功するスタディツアーにはいくつかの共通する要素があります。まず、体験型アクティビティを組み込み、実践的な学びの場を作り出すことです。地域での生活体験や地域住民との対話は効果的なプログラムだといえるでしょう。知識として話を聞くだけでなく実際に現場を体験することで、参加者は課題を自分ごととして捉えやすくなります。
また、参加者の貢献を見える化することも重要です。ツアーによって生まれた経済効果や人口の増加、復興の進捗などを具体的な形で示しましょう。貢献が見える化されることにより、参加者は達成感を感じます。その結果、ツアー終了後も社会課題に関心を持ったり、環境に配慮した行動を取ったりする可能性が高まります。
まとめ|リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは社会課題を解決する
リジェネラティブツーリズム・スタディツアーは、再生型観光と体験学習を組み合わせた新しい観光の形です。参加者が地域の課題に向き合い、学びながら実際に貢献できる仕組みは、さまざまな効果を生み出します。
効果的なスタディツアーを設計するには、参加者の学びと地域への貢献を両立させる設計が欠かせません。
本記事で紹介した実践事例やポイントを参考に、地域と参加者の双方が成長できるスタディツアーの設計を行いましょう。
参考文献
[1] 令和5年版 防災白書|特集1 第2章 第1節 自然災害の激甚化・頻発化等 : 防災情報のページ – 内閣府
[3] 「オーバーツーリズム(観光過剰)」? 都市観光の予測を超える成長に対する認識と対応
[4] 山梨県小菅村 地方創生総合プロデュース | 株式会社さとゆめ
[5] 「NIPPONIA小菅 源流の村」が5周年を迎えました! | 小菅村総合情報サイト こ、こすげぇー
[7] 【5月28日付社説】ホープツーリズム/学びの質高め視察者増やせ:社説:福島民友新聞社
