北欧&バルト三国におけるスタディツアーの事例

北欧・バルト諸国は、気候変動対策や持続可能な観光事業についてさまざまな取り組みを行っており、近年は先駆的なアイディア・事例が、メディアなどで数多く紹介されるようになってきました。
しかし実際に個人の旅行で足を運ぶとなると、当人や企業の担当者から詳しく話を聞くことは、なかなか難しいかもしれません。
そこで今回は、北欧およびバルト三国で開催されているスタディツアーについて、いくつか事例を集めてみました。
3つの事例から、スタディツアーの趣旨や目的地・学びたい内容など、計画の参考にしてみてくださいね。
事例①地熱発電を知るスタディツアー(アイスランド)

最北の首都・レイキャヴィークを持つ島国アイスランドでは、国内の自然や文化・歴史など多方面にわたりツアーを企画・開催しているGeoCamp Icelandによるスタディーツアーが行われています。
アイスランドは再生可能エネルギーによる電力供給が、世界でも比較して高い国として知られています。
国内で供給されている電力の80%以上が再生可能エネルギーで賄われており、うち70%が水力発電、30%が地熱発電によるものです。
地熱発電は、火山活動が活発な土地を持つアイスランドだからこそ出来る発電方法であり、また化石燃料に変わる再生エネルギーの重要な発電源として、似たような地形を持つほかの国や地域からも注目を集めています。
GeoCampでは、さまざまなニーズに対応した旅のコーディネートを行っている一方、アイスランドの南部に位置するPeninsulaという地域で、10日にわたるスタティツアー「Geology, Renewable Energy and Climate Change tour in Iceland」を開催しています。
ツアーでは、アイスランドの地質学、再生可能エネルギー、気候変動について、それぞれの複雑なつながりを探求し紐解くためのプログラムが用意されています。
実際にアイスランドを訪れ、事例を知ってもらうことはもちろん、各参加者がツアーでの見学やディスカッションから学んだことを持ち帰り、それぞれの国・地域でできる取り組みを実践するきっかけづくりにもなりえます。
ツアーの主な内容
10日間のスケジュールには、以下のようなイベントが含まれています。
・Hellisheiði地熱力発電所の見学
・水力発電所の見学
・国立公園、氷河河川、原泉、火山など、アイスランド独特の地形や景観をもつ自然スポットの訪問
・10日間のツアー中は宿泊施設付きで、アイスランドの食事や文化を知るきっかけにも
ツアー中はすべてガイドが付き添いで案内をしてくれるため、より深い知識を得ることができるほか、気候変動や再生可能エネルギーなど幅広い問題について、参加者同士で理解を深めるチャンスもありそうです。
ほかにも、玄武石に二酸化炭素を溜め込む最新技術・Carbfixのを間近で見られたり、アイスランドの土地に広がる氷河の後退を実際に体感する機会も。近年、世界中で再生可能エネルギーを推進する要因のひとつである気候変動の実態・課題解決に向けた取り組みを知ることもできます。
スタディツアーを通して、アイスランドに根付く自然の変遷や現在地を、地質学・気候変動の観点から学べるほか、現代社会が抱える環境問題の解決に向けて、自然資源を上手に利用した取り組みの例を知ることが出来ます。
日本はアイスランド同様に火山大国であり、実際に地熱力発電所を有しているため、他国の再生可能エネルギー・気候変動対策の洗礼を学ぶことで、今後の参考になる部分も多いのではないでしょうか。
ツアーの対象は学生や教師だけでなく、地熱発電や地質学に関心のある人なら誰でも参加できるため、同じツアーに参加した人同士で交流を深められるかもしれません。
事例②他国の事例を通して、地域の気候変動対策を学ぶ(ノルウェー)

ここからの事例は、過去に行われた特定の団体向けのプログラムをご紹介します。
まずは、ノルウェーにて行われたスタディーツアーです。
参加者は、ハンガリーで気候変動問題に取り組む団体・Energiaklubが主催した「Climate Response – Local Adaptation Knowledge(気候責任、地域の気候に適応するための知識)」プログラムの修了者です。
具体的には、ハンガリー国内の市長や地方自治体の担当者のような地域の代表者をはじめ、観光関係者など合計16名が参加しました。
このプログラムでは、世界的に気候変動が急速に進む中、「気候適応」に関して学びます。
気候適応とは、気候変動が進む中で変化していく、国や地域のインフラや社会の仕組みを柔軟に適応させていいく考え方を指します。
気候適応ができていないと、例えば突然の台風や洪水に対応できず、街中に水が溢れて住民の暮らしがままらなない状態になるでしょう。気候変動による自然災害に対し、地域のインフラ・ルールづくりが十分でなければ、最悪の場合、住民の健康や命が脅かされる事態にもなりかねません。
参加者の出身地や居住地にあたる地域で、気候変動によって急速に変化していく状況から、気候適応の観点で何が出来るのか?地域の自然や文化慣習への対応・町のインフラ整備なども含め、今後どのように適応していくのが良いのか?などの課題から、気候適応についての知識を深めていきます。
今回のスタディーツアーでは、気候適応に関し先駆的な取り組みを行っている場所として、ノルウェーの首都・オスロの各所を4日間にわたり見学しました。
ツアーの主な内容
オスロは、コンパクトな都市ながらも市内外に川や緑地帯・森林といった豊かな自然を有しています。
また同時に、工業地帯の跡地を生かした再開発地区があり、国や自治体が主導して環境・気候変動問題の課題解決に取り組む都市としても知られています。
今回のツアーでは、主に以下のような内容が実施されました。
・河川沿いにあるVulkan地区の見学(ガイド付き)
・オスロ市の環境部署の訪問
・Ensjø地区にて、雨水管理についてのガイドツアー
・CICERO(国際気候・環境研究センター)でのプレゼン参加
・子ども給食センターの訪問
・2つの自治体Baerum、Fornebuの取り組みを知る
各所でガイドや部署の担当者による説明があり、実際の取り組みをより詳しく聞く機会が設けられました。
市内に流れるAkerselva川沿いでは、都市環境再生・自然空間再生をテーマとしたガイドツアーが行われ、自然(河川)を都市の一部として活かす取り組みを見学しました。
川沿いに位置する、元工業地帯のVulkan地区は、ローカルが集うバーやイベント会場・アートスポットとして親しまれています。
しかしVulkanはそれだけではなく、環境に配慮した300mもの深さの地熱井戸が設備されているほか、オスロ市内の建物の中でも格段にエネルギー効率のよい建築が採用されています。
また同エリアでは、建物だけでなく持続可能な都市計画の一部として、雨水を流す排水管や緑化させた屋根、太陽光パネルの設置などが行われており、長期的な解決策が必要な気候変動へどう適応するかが示された事例といえます。
ツアーでは、オスロ市の中心部だけでなく、隣接するモス市の郊外・Ryggeでも、小規模地自体として取り組める、気候適応の事例の見学が行われました。
他にも、オスロ市の環境部署、CICERO(国際気候・環境研究センター)を訪問し、地域や国による気候変動対策の具体事例や、気候変動に関する政策・規制といったルールづくりの部分を、専門家から直接話を聞く機会も設けられました。
自治体・国レベルで実践できる政策や仕組みづくりを学習するだけでなく、科学的・政治的に有効なアプローチの理解強化にもつながります。
4日間のスタディーツアーでは、ノルウェーでの自生を都市・地方の2つの社会システム層を見学したことによって、気候適応についてどのような取り組みができるか?を、ハンガリーのさまざまな自治体の規模にあわせた取り組みのヒントを集める機会となりました。
また、都市計画や自然資源の活用、教育、政策、地域開発といった多様な視点から、気候変動への適応に取り組むためのヒントにもなったのではないしょうか。
事例③子ども向け、自治体の環境への取り組みを学ぶツアー(リトアニア)

最後にご紹介するのは、2025年に行われたリトアニアのスタディツアーです。
リトアニアの首都ヴィリニュスは、2025年にEUのグリーン・キャピタルに選出されました。
毎年ヨーロッパの中から選出されるグリーン・キャピタルですが、ヴィリニュスは首都でありながら、土地の61%が緑に覆われており、町中には電力のみで稼働するバスが走っています。
自治体をあげて環境にやさしい取り組みを行っているということや、ヴィリニュスの魅力を、さまざまな年齢層の住民にも知ってもらおうと、ヴィリニュス市で廃棄物に関する啓蒙活動を行う団体・Atlieku Kulturaが1日ツアーを開催しました。
ツアーの主な内容
本ツアーは、小学生向けと大人向けに分かれており、以下のようなプログラムで構成されています。
<午前の部>
10:00 ヴィリニュスに到着。遠方から来る場合、できれば二酸化炭素排出量の少ない列車での到着が望ましいとしている。
もし電車で中央駅に到着した場合、ヴィリニュス中央駅に隣接する列車ミュージアムとハレス市場(屋内ローカル・マーケット)の見学が含まれる。
その後のツアーは、徒歩か自転車、電気スクーターでの移動。
旧市街に位置する大聖堂、ヴィリニュス大学、ゲディミナス城、教会など、町の歴史が学べるスポットの見学。
旧市街の西側、Užupis Republic(「共和国」を自称しているが実際は地区)の見学。
12:00 Pirmas blynas にて昼食。2018年にソーシャル・ビジネスの先駆者として受賞経験のある飲食店で、ランチを食べながら、障がいを持つ人々とどのように関われるか?について話を聞く機会も。
<午後の部>
14:00 企業を訪問し、サステナビリティに関する取り組みについて学ぶ。
16:00 ヴィリニュス技術・エネルギー博物館の見学。
18:00 ミュージアム内のカフェ「Elektrinė」で夕食。カフェのテラスからは、旧市街や中心部を含むヴィリニュスの壮大なパノラマビューを楽しめる。
19:00 ツアー終了後、バスまたは電車で帰宅。
企業の訪問・見学には、次のようなアクティビティが用意されています。
・”Green Dot” ごみの分別や管理について学び、分別していないゴミを捨てた場合の環境へのインパクトや、現代のごみ分別に関する機械技術の見学が可能。
・”Ignitis” どのようにグリーン・エネルギーが生産され、賄われているのかを知り、現代社会になぜそのような取り組みが大切なのかを学ぶ。
・”Vilnius Waters” 都市排水の仕組みについて学ぶ。工場内で使用されている再生可能エネルギーについても知る機会あり。
・ヴィリニュス空港 2025年夏に改装されたばかりの出発ターミナルを訪れ、空港のサステナブルな取り組みを知る。
その他、リサイクルコットンを使用したバスケットづくりのワークショップや、使用済みのプラスチック袋をリサイクルした製品について学ぶ時間も設けられており、盛りだくさんの内容です。
ヴィリニュスの旧市街は観光客にも人気のスポットですが、ガイドや取り組みを行っている当人たちから、普段あまり聞く機会のない、サステナビリティや社会貢献といった話を聞くことができます。
単純に観光ツアーというわけではなく、ヴィリニュスの歴史や持続可能なビジネス、地元民・企業・自治体といった各レベルでの社会的な取り組みなど、幅広い分野についてたっぷり学べます。
また、このツアーの特徴として、移動は基本的に二酸炭素排出量の少ない列車や電気スクーター、自転車といった手段を推奨している点です。
ヴィリニュスの旧市街周辺はコンパクトなため、バスが通れないエリアも多い(市内に電車は元々ない)ですが、遠方から来る小学生に向けて、バスではなく列車をすすめています。リトアニアでは、街と街と結ぶ交通機関としてバスと列車が挙げられますが、ツアーでは列車を選ぶ利点として「よりグリーンな移動手段であるだけでなく、列車の快適な乗り心地を体感してほしい」と述べています。
通常、大人数での移動はバスや車になってしまうことが多い中、こうした取り組みはユニークなポイントだといえそうです。
まとめ
今回は、北欧&バルト三国におけるスタディツアーの事例を3つご紹介しました。
近年はサステナビリティの観点から、観光やインフラ整備、ビジネスなど、さまざまな分野で先進的な取り組みが増えています。
その中で、個人の旅行や視察ではなかなか行くことの出来ない場所や手の届かない情報を網羅してくれるステディツアーは、北欧・バルト諸国を知る有益な機会だといえます。
スタディツアーを通じて、その場の空気感を体感することや人々の声を聞くことで、インターネットで調べるだけでは得られないヒントや刺激を受けられるかもしれません。
