正しさより、“楽しさ”で人は動く。沖縄が仕掛ける「エシカルトラベル」は、観光客の行動変容をどうデザインしたか?
地域経済を「循環」させる
沖縄ではいま、外部へ流出していた富や資源を、地域内で回し続ける「循環」の再定義が進んでいる。それは、単なる廃棄物の再利用にとどまらない。
廃棄物を媒介に、地域の農家や職人と繋がり直す。あるいは、命のすべてを使い切ることで、失われつつあった「生命への畏敬」と「地域の富」を同時に再生させる試みだ。
創造性が「循環」を加速させる|CLIFF GARO BREWING
沖縄市にあるクラフトビール醸造所 CLIFF GARO BREWING(クリフ・ガロ・ブリューイング)。店名の「GARO(画廊)」には、沖縄の土地に眠る面白さやクリエイティビティを拾い上げたいという想いが込められている。
醸造家の宮城クリフさんは、英国で10年間活動した画家・アーティストという異色の経歴を持つ。現地で培ったサステナブルな視点と感性が、現在のビール造りの土台となっている。

「地球に優しいこと、ローカルと深く繋がることが、活動の大きなテーマです」そう語る宮城さんの醸造所には、500リットルのタンクが並び、1回の仕込みで約1,400本のビールが生み出される。ここで徹底されているのが、製造過程で出る副産物の「循環」だ。
例えば、1回の仕込みで約140kgも出る「麦芽粕」。通常は産業廃棄物となるこの粕を、宮城さんは北中城村(きたなかぐすくそん)の農場へ運び、有用微生物群(EM)で発酵させて土の肥やしへと変える。その豊かな土で育ったトマトや野菜が、再び醸造所の料理としてテーブルに並ぶ。

循環の輪はさらに広がる。
- ボトル: 回収した空き瓶を読谷村(よみたんそん)のガラス作家へ。溶かして「再生琉球ガラス」として蘇らせる。
- 麦芽袋: 丈夫な25kg用の袋は、バッグへとアップサイクルして店頭販売。
- 農業: 県内では珍しい大麦栽培に初年度から挑戦。地域の子どもたちと種まきから収穫までを共にする。
宮城さんは、素材選びも「体験の共有」と捉えている。レモンビールのための収穫作業には、農家や子どもたちを巻き込む。「食材の背景を現場で感じてほしい」という願いからだ。

こうした背景を持つビールには、一つひとつに深い物語がある。ラベルに描かれているのは、宮城さん自らが筆を執った「生産者のポートレート」だ


宮城さん:「エシカル」という言葉の完璧な理解は難しい。ですが、人や地域を深く自分の旅に関連付け、守っていく考え方だと思っています。
ここにあるのは「ごみを出さない」という消極的なエコではない。廃棄物を媒介に、農家や職人と繋がり、背景にいる「人」への愛おしさを循環させる、極めて創造的な経済圏なのだ。
命のすべてを使い切る「緩やかな下山の思想」|島豚七輪焼 満味
沖縄県名護市の山間に、全国から食通が足を運ぶ一軒の焼肉店がある。「島豚七輪焼 満味(まんみ)」だ。店主の満名匠吾さんが掲げるのは、「下山の思想」という独自の経営哲学である。
かつて満名さんは、百貨店の催事に奔走し、多店舗展開を目指す拡大路線の最前線にいた。しかし、そこで目にしたのは、消費のサイクルに摩耗していく自社ブランドと、自分自身の疲弊した姿だった。

「規模を追うことは、本当に幸せなのか」。ある日、名護湾に浮かぶ伝統的な帆掛け舟「サバニ」を見た満名さんは、舵を切り直す決意をする。エンジン全開で数字を追うのをやめ、風と潮を読み、身の丈に合った速度で進むこと。事業を広げるのではなく、足元の地域資源を深掘りし、他者が模倣できない「真正性(オーセンティシティ)」を高める道を選んだのだ。
満名さん:右肩上がりの経済成長や観光産業から、「下りる階段」を自分たちで作る必要があると感じています。何かの拍子に突き落とされるのではなく、自分たちで階段を作って、緩やかに下りていく。「緩やかな下山の思想」を持つことが大切なのではないでしょうか。

満味のビジネスモデルは、驚くほどローカルだ。提供される豚肉は、車で15分圏内の生産者から直接仕入れる。野菜も調味料も、やんばるの森と土が育んだものばかりだ。
グローバルな供給網が分断されれば脆くも崩れる現代において、顔の見える範囲で支え合う地域内循環(サーキュラーエコノミー)は、圧倒的な生存能力を持つ。遠くの誰かに売るために加工するのではなく、土地の恵みを、土地に来て食べてもらう。この極めてシンプルな構造が、環境負荷を最小限に抑えつつ、地域経済を潤す確実な原動力となっている。
そして、ここで語られる「エシカル」は、流行りの横文字ではない。沖縄の先人たちが紡いできた、生きるための知恵そのものだ。
満味では、肉だけでなく、内臓、血、皮に至るまで、文字通り「足跡以外すべて」を使い切る。かつて沖縄の人々にとって、豚は貴重な栄養源であり、家族の健康を守る薬であり、時には魂(マブイ)を込める儀式の対象でもあった。

一頭の命を余すことなく頂き、その循環の中に生かされているという感覚。「昔は綺麗だった、と過去形で語る大人にはなりたくない」と満名さんは語る。
損なわれた自然や文化を単に消費するのではなく、ビジネスを通じて再生させていく。満味での体験は、美食という枠を超え、私たちが忘れかけていた「生命への畏敬」を呼び覚ましてくれる。
“うれしい”がめぐるお菓子|ペストリーうんてん
豊見城市(とみぐすくし)にある洋菓子店「ペストリーうんてん」のショーケースには、作り置きのケーキが並んでいない。看板商品の「紅芋モンブラン」などは、すべて注文を受けてから仕上げる。それは「最も美味しい瞬間」を届けるためであると同時に、売れ残りによる廃棄をゼロにするための徹底したシステムでもある。

このユニークな洋菓子店を経営するのが、代表の仲間 暁子さんだ。かつて沖縄県外の企業向けに、無人島でのサバイバルレースやチームビルディング研修を企画していたという異色の経歴を持つ。
転機となったのは、現場で共に働いていたスタッフからの「農家さんを助けるお菓子屋がしたい」という一言だった。

当時、パティシエから聞いた業界の現実は、衝撃的なものだった。通常、菓子店では欠品を防ぐために、売れる見込みよりも多く作り、余った分は廃棄する。また、生産現場である農家においても、例えばマンゴーなら黒い点がつくだけで、味は極上でも約3割が値がつかずに弾かれてしまうのだという。

「優秀かどうか」で人を切り捨てるのではなく、その人の凸凹を生かす。チームビルディング事業で大切にしてきたその視点は、形が悪くても味が良い「規格外フルーツ」を救う活動と、仲間さんの中で合致した。
しかし、道のりは平坦ではなかった。 当初、「規格外を活用したい」と伝えたところ、農家から「規格外を出すために作っているわけではない」と叱られたこともあった。また、「規格外は安い」という既成概念を覆すため、あえて正規の価格で買い取ることに決めた。
素材への向き合い方も真摯だ。絶対にぶれない軸は、「素材の味で美味しいこと」と「お客様に嘘をつかないこと」。甘みを足せば美味しくなるわけではないため、素材本来の味を何より大切にしている。
旬へのこだわりも徹底し、納得のいく味が作れない時期は、無理に商品化せず、持ち越すこともあるそうだ。

取り組みを続けて3年。その理念に共感するファンは確実に増え、現在は東京・四谷にも出店を果たした。そこには、規模拡大への明確な意志がある。
仲間さん:沖縄の企業が県外に出て外貨を稼ぎ、それを持ち帰ることが、県内経済にとって重要だと考えています。沖縄の素材を使い、地元の農家にお金を払い、それを東京の方に食べていただくことで沖縄に還元したいです。
参照:うんてん洋菓子店
