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【現地レポ】高みへと向かう希望。カナダ・IMPACTサミットが示す、観光業の「内なる変革」

2026 3/06
リジェネラティブツーリズム
カナダ 取材 持続可能な観光 気候変動
2026-3-6

気候変動やサステナビリティを語るため、数千人もの人々が大量の温室効果ガスを排出しながら、世界中から飛行機でひとつの場所に集う。私たちは、そんな巨大な矛盾を見て見ぬふりをしていないだろうか。

観光産業は長らく、同業者同士で集まり、観光の話だけを繰り返してきた。しかし観光とは本来、宿泊や移動といった単一の枠組みで完結するものではない。食、農業、建築、エネルギー、地域の暮らしまで、あらゆる産業と交差し、社会全体をつなぐ「窓口」であるはずだ。

カナダ・ビクトリアで開催されたサステナブルツーリズムの国際サミット「IMPACT」にて「高みへと向かう希望」をテーマにパネルディスカッションが行われ、以下の4名が登壇した。

  • ポール・ナーシー氏(モデレーター) Destination Greater Victoria CEO
  • セバスチャン・ベネディクト氏 TIAC(カナダ観光産業協会) CEO
  • パニア・タイソン=ネイサン氏 New Zealand Maori Tourism CEO
  • グウェンダル・カステラン氏 組織内変革の専門家

本稿では、同セッションで交わされた熱を帯びた議論から、業界の自己満足を打ち破るヒントを紐解いていく。観光をすべての産業と接続する「開かれた窓」へと変容させるための、マインドセットの転換と連帯の道筋を探りたい。

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新しい知見が育たない「不毛の地」からの脱却

New Zealand Maori Tourism CEOのパニア氏は、同業者同士でしか対話をしていない現在の観光産業を「新しい知見が育たない不毛の地」と表現した。サステナビリティを叫びながら気候変動会議(COP)へ飛行機で集まる矛盾や、これからの観光を支えるデータセンターが、どれほどの環境負荷を与えているかという「意図せぬ結果」。私たちはそうした不都合な真実から目を背け、「観光」という狭い枠組みの中で心地よい理想論を語り合っていないだろうか。

日本においても同様だ。全国各地のカンファレンスで「持続可能な観光」が叫ばれる一方で、ひとたび会場を出ればシビアな現実が横たわっている。

また、元政治家という経歴を持つセバスチャン氏は、政策決定のリアルな力学をこう指摘する。

政治家がマニフェストを作る際、必ず問うのは「有権者の投票の決め手は何か」ということだ。レストランで「サステナビリティは重要か」と聞かれれば、大半の人は「はい」と答える。しかし、いざ投票箱の前に立った時、人々の最優先事項は「サステナビリティ」ではなく、あくまで「経済」や「安全保障」なのだ。

政府の変化を待っていてもルールは変わらない。だからこそ、観光産業は「経済の起爆剤」という強力な看板を掲げ続けながらも、その中身をアップデートし、他の産業や市民を巻き込んでいく必要がある。

システムを変える「内なる変革」

同業者だけで集まり、内輪の理想論を語り合う。セバスチャン氏はこの現状を、同じ意見ばかりが反響する「(閉ざされた空間エコーチェンバー)」に陥っていると指摘する。では、この観光産業関係者のみで構成された閉じた空間を抜け出し、観光を他産業と接続するためにはどうすればよいのか。

組織内変革の専門家であるグウェンダル・カステラン氏は、国連のSDGsを真に達成するためには、まず私たち自身の世界観や思考法を変える「IDGs(Inner Development Goals=内面開発目標)」が不可欠だと説く。

自治体の観光課、地域密着型の宿泊施設、あるいは老舗の交通事業者。そうした既存の枠組みの中にいる人間が、あえて「観光とは無縁の場所」へ赴き、外部の知見を少しずつ組織内に持ち込んでいく。他産業のチェンジメーカーたちと交流し、観光というレンズを通して地域の課題(農業の後継者不足や空き家の増加など)を捉え直す。そうした草の根の「越境」こそが、知的荒野に新たな種を蒔く最初の一歩となる。

「文化の商業化」から「商業の文化化」へ

閉ざされた空間を抜け出し、新たなマインドセットを獲得する上で、私たちが学ぶべき最大のロールモデルが「先住民の叡智」である。

「私は川であり、川は私である」パニア氏は、マオリの深い自然観をそう表現した。彼らにとって自然は人間が管理・搾取する対象ではなく、自らの系譜そのものだ。魚を獲る時は必要な分だけに留め、最初の獲物は海へ還し、自然への敬意を示す。

こうした思想は、決して過去のノスタルジアや単なる精神論ではない。事実、マオリの伝統的知識やインドのアーユルヴェーダといった「自然の治癒システム」は、今や数千億ドル規模の巨大な経済的価値を持つと算定されているという。

ここに、観光業が迎えるべき決定的なパラダイムシフトがある。これまで観光産業は、地域の伝統、自然、そして人々の営みを、消費者のために分かりやすくパッケージ化して切り売りする「文化の商業化(Commercialising culture)」を続けてきた。しかし、その“搾取型”のシステムはすでに限界を迎えている。

今私たちに求められているのは、その逆のアプローチだ。先住民の自然と一体化した哲学や循環の思想を、現代のビジネスモデルの根底に据える「商業の文化化(Culturalising commerce)」への転換である。

利益を生むためのツールとして文化を消費するのではなく、文化や自然への畏敬の念を基盤にして、ビジネスのあり方そのものを再構築する。この痛みを伴うパラダイムシフトを受け入れない限り、真の意味でのリジェネラティブ(再生型)な観光は実現しない。

本質的な再生は、PRよりも「ビジネスモデル」を変える。

会場の参加者から「低予算の中で、環境保全の取り組みをどう世界へPRすべきか?」という問いが投げかけられた際、パニア氏はルワンダの事例を引き合いに出し、表面的な発信よりも「ビジネスモデルの転換」が先決だと説いた。

かつてルワンダの火山国立公園周辺では、絶滅危惧種であるマウンテンゴリラなどの密猟が絶えなかった。しかし、その根底にあったのは人々の「極度の貧困」である。家族の食糧や子どもの学費を得るために、やむを得ず森へ入り野生動物を狩っていた背景がある。

そこでルワンダが講じたのは、密猟者をただ力で排除するのではなく、彼らを環境保護の担い手や観光客の「ガイド」として雇用するという、大胆なビジネスモデルの転換だった。元密猟者たちが運営に参加する文化村が設立され、伝統舞踊の披露やガイド業務を通じて、かつての密猟時代よりも安定した収入を得られる仕組みが構築された。さらに国として、国立公園の観光収益の10%を地域コミュニティに還元する制度も徹底した。[1][2]

画像出典:Visit Rwanda

またパニア氏は、ルワンダの環境保護に対する妥協なき姿勢として、国境での使い捨てプラスチック(ビニール袋)の厳格な持ち込み禁止措置にも触れた。自然界に放置されたプラスチックごみは、美しい景観を損なうだけでなく、野生のゴリラや鳥類が誤飲・誤食してしまう致命的なリスクとなる。そのため、国内での流通を禁じるだけでなく、入国時の空港や国境の税関で旅行者の手荷物まで厳重に検査し、持ち込もうとすれば多額の罰金を科すという徹底した「水際対策」を行っている。[3][4]

見せ方を工夫するのではなく、ルールと経済の循環を根底から作り変えた結果、同国の観光業は劇的な好転を遂げた。2019年には火山国立公園だけで年間2,600万ドル(当時のレートで約28億円)もの観光収益を生み出し、激減していたゴリラの密猟も大幅に減少した。環境の保全と地域住民の豊かさが両立することを見事に証明したのである。[2]

テクノロジーの導入についても同様だ。AIの普及について問われた際、パニア氏は、かつてAirbnbの台頭がニュージーランドに深刻なホームレス問題を引き起こしたように、テクノロジーには必ず「意図せぬ結果(負の側面)」が伴うと指摘する。

グウェンダル氏もまた、AIを過大評価されている「光り輝く物体」と呼び、警鐘を鳴らす。拙速に技術を導入するのではなく、例えば、AIが地域文化や先住民の知的財産(IP)を単なる「データ」として吸い上げてしまわぬよう、まずは自分たちが何を大切にし、どのような未来を描きたいのか。その「価値観」をコミュニティで深く対話することが先決だ。

結局のところ、AIという強力なツールを前にして本当に問われているのは、技術的な最適化能力ではない。どれほど技術が進化しようとも、それを「地域の豊かさ」や「共生」のために使いこなせるか、それともただの消費の加速装置にしてしまうか。その分かれ道になるのは、ツールに振り回されず、自らの意志で進路を定め続けるための「マインドセット」の確立に他ならないのである。

最前線を飛ぶ者の背中を押す「仲間の気配」

こうした複雑な課題に対し、現場の中小事業者が単独で立ち向かうのはあまりにもリスクが大きい。だからこそ、DMOや業界団体は彼らに指示を下すのではなく、ハードルを下げる「リーダー」にならなければならない。

モデレーターのポール氏は、DMOを行政と民間の「中間領域」に位置する存在だと定義する。間に立つからこそ得られる柔軟性を活かし、バラバラな事業者を束ね、コミュニティの価値観を大きな戦略へと翻訳していくのだ。

サステナビリティの実践は痛みを伴う。環境配慮のために軽量なワインボトルを導入した企業が、「重いボトル=高級」という消費者の固定観念によって売上を落としてしまうジレンマもある。

しかし、グウェンダル氏が「上辺だけのサステナビリティは死んだ。一時の流行として群がっていた人々は去り、今残っているのは、本気で変化を起こそうとしている者たちだけだ」と表現したように、今はまさに「正念場」である。

最後にグウェンダル氏は、変革の最前線に立つ人々へのエールとして、空を渡る「カナダガンのV字飛行」のメタファーを贈った。

サステナビリティやDEI(多様性・公平性・包摂性)の推進に対し、社会的な逆風が吹くことはある。群れの先頭を飛ぶ鳥は、最も強い風の抵抗を一身に受ける。しかし、力強く羽ばたき続けることができるのは、すぐ後ろに同じ方向へ進む「群れ(仲間)」の確かな気配を感じているからだ。

私たちは今、新しい「観光の看板」を掲げる分岐点にいる。観光産業関係者のみで構成された閉じた空間を抜け出し、あらゆる産業と連帯しながら、向かい風の中でも進路を切り拓いていく。その果敢な歩みこそが、未来を創る「高みへと向かう希望」なのだ。

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本記事に関するお問い合わせ
株式会社アスエク「リジェネ旅」編集部
(※本記事はIMPACT Sustainable Travel & Tourism Summitのセッション内容を基に構成しています)

参考文献

[1]Emmanuel Harerimana, Ex-Poacher Turned Park Guide and Conservationist – Dian Fossey Gorilla Fund
[2]Rwanda: How rehabilitated poachers became champions saving Volcanoes National Park wildlife | Journal of African Elephants
[3]Authorization to Single use plastics and Plastic carry Bags
[4]Plastic Ban – Visit Rwanda




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