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大企業と地域がともに紡ぐ、観光からはじまる新しい共創のかたち

2026 3/27
リジェネラティブツーリズム
取材 宜野座 持続可能な観光 気候変動 沖縄
2026-3-27

沖縄本島を北へと走る道の途中に、ふと現れる小さな村がある。水と緑と太陽に包まれ、暮らしそのものが息づく場所、宜野座村。恩納村のリゾートでもなければ、美ら海水族館を擁する名護でもない。多くの人にとって、この村は、ただ通り過ぎていく場所だったかもしれない。

しかし今、この場所で、これからの観光のあり方を静かに問い直す試みが始まっている。それは、「観光を通じて、環境や地域をどう再生するのか」という問いであり、同時に、「企業は地域の中で何ができるのか」という問いでもある。

観光は、村民の幸せにつながっているだろうか

「地域と企業の枠を超えた未来を共創・伴走する」フューチャーセッションズが宜野座観光協会と連携して開催した「共創型モニタリングツアー」。宜野座村で行われたこの取り組みは、単なる環境配慮型の観光プログラムではなかった。そこにあったのは、「観光は何のためにあるのか」という静かな問いと、その問いに対する明確な意思だった。

観光は、村民が自分たちの暮らしの価値に気づくためのもの。

宜野座村が掲げる「水と緑と太陽の里」という言葉は、単なるキャッチコピーではない。ここで目指されているのは、観光地ではなく、暮らしそのものに触れる場所。畑で育つ野菜の手触り、季節ごとに受け継がれる祭り、日々の営みの中に息づく文化。この村には、観光のために作られたものではない、本来の風景がそのまま残っている。

古くからの集落である松田・宜野座・惣慶・漢那の4つの区では、十五夜あしびや綱引き、エイサー、村芝居、獅子舞、棒術、角力など、さまざまな伝統行事が今も受け継がれているが、かつて貴族が暮らしていた地域と、農の文化が根付く地域では、祭りのかたちにも違いが見られる。

その違いは、見せるために整えられたものではなく、積み重ねられてきた時間そのものだ。だからこそ、この村の観光は、何かを“消費する”体験ではない。違いを知り、背景を感じ、人とつながっていく時間である。

 企業は「実験」を持ち込むことができる

今回のツアーで特徴的だったのは、大企業が「完成された商品」ではなく、“開発途中の製品やサービス”を持ち込んだことだ。

電動アシスト自転車や産業用ロボット、マリン製品など幅広い事業を展開するヤマハ発動機は、今回、開発中のマイクロプラスチック回収機を宜野座村に持ち込んだ。同社の主力の一つであるマリン事業は、海と深く関わる産業である。その海で今、プラスチック汚染が深刻化している。この現実に対して、企業としてどのように向き合うのか。その問いから、この取り組みは始まっている。

参加者と村の人々は一緒にビーチへ向かい、回収機を実際に使いながら海岸を歩いた。しかし、ここで大切なのは「プラスチックごみを拾うこと」そのものではない。誰と、どのような関係性の中で、その時間を過ごすのかという点にある。

子どもたちも加わり、会話が生まれる。そのなかで、海の問題は「遠い環境課題」から、「自分たちの暮らしとつながる身近な問題」へと変わっていく。

一方、総合スポーツ用品メーカーのミズノは、「Baseball5(ベースボールファイブ)」という新しいスポーツを持ち込んだ。Baseball5は、ボールひとつあればできる5人制の野球型スポーツで、バットやグローブを使わず、手でボールを打って走るのが特徴だ。ルールもシンプルで、子どもから大人まで、経験の有無に関わらず誰でもすぐに楽しむことができる。

村の人々と参加者が一緒に体を動かすと、そこには観光客と住民という境界はなくなる。ただ同じ時間を共有し、笑い合う人たちがいるだけだ。

日本では人口減少とともにスポーツ人口の減少も進んでいる。ミズノはこうした社会課題に向き合いながら、「誰もが気軽に参加できるスポーツ」を通じて、新しいコミュニティのかたちを模索している。スポーツは、人と人を再びつなぐ装置になり得る。

これら2つの取り組みに共通しているのは、「企業が答えを持ち込まない」という姿勢だった。完成されたサービスではなく、あえて未完成の問いを持ち込み、地域の中で試し、対話しながら形を整えていく。

そのプロセスそのものが、企業と地域がともに未来を探る「実験」となり、地域における新たな観光コンテンツ開発という視点から、共にできることを探りながら共創を模索するきっかけとなっている。

サステナブルツーリズムは、商品ではない

宜野座村で過ごすなかで、ひとつ、強く心に残ったことがある。それは、「サステナブルツーリズム」という“商品”は、本来存在しないのではないか、という感覚だった。

多くの地域では、「サステナブルな体験」や「環境に配慮したコンテンツ」をつくろうとする。それ自体は決して間違いではない。むしろ、これまでの観光のあり方を見直す上で重要な取り組みでもある。

しかし宜野座村にいると、その考え方が少し違って見えてくる。

ここでは、サステナビリティが前面に掲げられることはほとんどない。「環境にやさしい」「サステナブル」といった言葉が強く主張されることもない。それでも、この村のあり方そのものが、結果として持続可能性を体現している。

たとえば、地元で採れた食材を中心にした食事。畑と食卓が近く、季節の恵みがそのまま料理に映し出される。赤土が海へと流れ出ないようにするための配慮。目には見えにくいが、確かに続けられている日々の工夫。

観光も、外からつくられたものではなく、地域の人々が主体となって育てている。そこには「迎える側」と「訪れる側」という単純な関係を超えた、ゆるやかなつながりがある。

そして何より、自然とともに生きる暮らしそのもの。特別な演出があるわけではない。ただ、そこにある日常が、豊かに流れている。

これらは、観光のために後付けされた要素ではない。もともとこの土地に根付いていた営みが、そのまま息づいているだけだ。だからこそ、訪れた人はそれらを「体験する」というよりも、気づけば「感じている」。

言葉で説明される前に、空気や時間の流れの中で、その価値がじんわりと伝わってくる。この違いは、とても大きい。

サステナビリティを“売るもの”にするのか、それとも、暮らしの中に静かに宿るものとして存在させるのか。宜野座村は、その後者のあり方を、さりげなく、しかし確かに示している。

なぜ大企業は地域に関わるのか

その理由は、単なるCSRやサステナビリティ活動、マーケティングといった枠組みでは語りきれない。むしろ、世界経済が拡大し、グローバルにビジネスを展開する大企業が社会に与える影響力を強めるなかで、地域や住民に対して「どのように関わり、何をもたらすのか」という選択肢そのものが広がっていることにある。

企業は、もはや単に製品やサービスを提供する存在ではない。社会や地域のあり方に関与し、その未来に影響を与える存在になっている。

だからこそ、問いは変わり始めている。「何を売るか」ではなく、「どのように関わるか」へと。

たとえば、マイクロプラスチックの回収技術。それは単なる環境対策のための技術ではない。その技術が人々の行動をどう変えるのか。海との向き合い方や、日々の選択にどのような変化をもたらすのか。そして、それが地域の中でどのように受け入れられ、根付いていくのか。

こうした問いに対する答えは、大都市の会議室の中では見えてこない。実際に人が暮らし、自然とともに生きる現場の中でこそ、初めて輪郭を持ちはじめる。

同様に、スポーツも単なるプロダクトではない。道具やルールを提供するだけでは、その価値は完成しない。それが人と人をどうつなぎ、どんな関係性を生み出すのか。
コミュニティにどのような変化をもたらすのか。

その可能性は、実際に人が集まり、身体を動かし、時間を共有する場の中でしか確かめることができない。つまり地域とは、単なる「導入先」ではなく、社会に実装される前のアイデアや技術が、人との関係性の中で試される場所でもある。

企業にとって地域に関わることは、自らの存在意義を問い直し、社会との新しい関係性を探るプロセスでもある。その一歩一歩が、結果として、企業と地域の双方にとっての新しい価値を生み出していく。

人気観光地ではない宜野座村だからこそ

宜野座村は、いわゆる「完成された観光地」ではない。むしろ、これから形づくられていく発展途上の場所だと言える。

実際に向き合うべき課題も少なくない。恩納村や名護といった人気観光地の間に位置しているため、どうしても通過されやすい。宿泊施設も限られており、滞在型の観光を受け入れる体制は、まだ十分とは言えないのが現状だ。

また、「宜野座といえば阪神タイガースの一軍キャンプ地」という認知はあるものの、それ以外に強く想起される象徴的なコンテンツはまだ少ない。地域の魅力は点在しているものの、それらをつなぐ観光導線の整備も、これからの課題となっている。

しかし、こうした“未完成さ”こそが、この村の大きな可能性でもある。

観光客で溢れすぎていないからこそ、地域本来の暮らしや風景が色濃く残っている。昔ながらのコミュニティが今も息づき、人と人との関係性がしっかりと保たれている。さらに、農業と日々の生活が近く、自然との距離も近い。

こうした条件は、沖縄の中でも決して当たり前のものではなく、むしろ非常に貴重な資源だと言える。

そして何より重要なのは、すでに村民との対話が始まっているという点にある。観光協会が中心となって取り組みを進めながらも、あくまで主体は地域にある。外から与えられる観光ではなく、地域の人々自身が考え、選び、育てていく観光。

宜野座村では、観光は「外から持ち込まれるもの」ではなく、「自分たちの暮らしの延長として、自分たちの手でつくっていくもの」として捉えられている。その姿勢こそが、この村のこれからを形づくる、大きな力になっていくはずだ。

宜野座村は最初の一歩として、「サステナGINOZA」のウェブサイトを公開した。

沖縄の原風景が広がるその景色には、海、風、森、生活、まちなみ、そして価値観が息づき、どこか懐かしさを感じさせる。心までも包み込み、自然とともに生きている実感が静かに広がっていく。

この“ふるさと”の感覚を、これまでも、そしてこれからも感じてほしい。沖縄本来の自然や暮らし、価値観がサステナブルであり続けるために。旅行を通じて出会う“ふるさと”を、ともに未来へつないでいこう。そんな呼びかけが込められている。

観光は、関係性をつくる装置になる

今回のツアーを通じて見えてきたのは、観光の本質的な役割だった。それは、単に何かを「体験する」ことでも、「消費する」ことでもない。人と人との関係性を育んでいくこと、そのものにある。

ゴミを拾うことや、スポーツを楽しむことは、あくまできっかけに過ぎない。本当に価値があるのは、その時間の中で自然と生まれていくものだ。

同じ場所に立ち、同じ風景を見ながら交わす会話。立場や背景を越えて共有される時間。ふとした瞬間に生まれる共感や、小さな気づき。

そうした一つひとつはとてもささやかで、目に見えるものではない。しかし、それらがゆっくりと積み重なっていくことで、訪れる人と地域との関係は少しずつ変わりはじめる。

「観光客」と「受け入れる側」という関係から、ともに時間を過ごす「関わり合う存在」へと変わっていく。

そして、その関係性の変化はやがて、地域そのものにも影響を与えていく。外からの視点が新たな気づきをもたらし、地域の人々が自分たちの暮らしの価値を再発見していく。その循環が生まれたとき、観光は単なる経済活動を超え、地域の未来を少しずつ形づくっていく力へと変わっていく。

これからの観光のかたち

世界は、沖縄のリゾート地としての魅力に気づきはじめ、これから確実に開発が進んでいく。外部資本が流入し、土地の価値が動き、人の流れも大きく変わっていく。観光はさらに拡大し、地域にとって重要な産業であり続けるだろう。

しかし、その流れの中で問われるのは、単に「どれだけ成長するか」ではない。本当に問われているのは、「何を残し、何を未来へ手渡していくのか」という選択である。

その問いに対して、宜野座村は派手さはないものの、ひとつの静かな答えを示している。

観光は、何かを消費する行為ではなく、人と人との関係性を育むものではないだろうか。

宜野座村が掲げる「水と緑と太陽の里」という言葉は、単なるキャッチコピーではない。ここで目指されているのは、いわゆる観光地ではなく、暮らしそのものに触れる場所である。

観光は、村民が自分たちの暮らしの価値に気づくためのもの。外から人が訪れ、関わりが生まれることで、地域の人々自身が日々の営みの豊かさや意味をあらためて見つめ直していく。

その中で、企業の役割も変わりつつある。企業は一方的に価値を提供する存在ではなく、地域とともに価値をつくり出す共創者となる。そして地域もまた、守られるだけの存在ではなく、外との関わりの中で少しずつ変化し続けていく。

もちろん、この取り組みに明確な正解があるわけではない。むしろ、答えはまだ見つかっていないと言えるだろう。それでも確かなのは、この場所で生まれている一つひとつの試みが、これからの観光のあり方を考える上での重要なヒントになっているということだ。

静かな村で始まった小さな実験は、やがてより大きな問いへとつながっていく。

私たちは、観光という手段を通じて、どのような未来を描き、どのような社会をつくっていくのだろうか。




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