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ウォーカブルシティとは?都市の健康・交流・環境を育む新しいまちづくり

2025 12/01
社会(ヘルス、まちづくり、ジェンダー)
ウォーカブルシティ サステナブルツーリズム 地域の事例 持続可能な観光
2025-12-18

近年、新たなまちづくりの概念として「ウォーカブルシティ」が注目を集めています。ウォーカブルシティとは、徒歩や自転車で快適に移動できるように設計された「歩きやすいまち」です。

国土交通省は、人口減少や少子高齢化、中心市街地の衰退といった社会課題に対応するため、このウォーカブルシティの推進を重要施策の一つとして位置づけています。

本記事では、ウォーカブルシティの基本概念や注目されている背景、具体的な効果、国内外の事例、日本の支援制度について詳しく解説します。

目次

ウォーカブルシティとは?

画像出典:国土交通省

ウォーカブルシティとは、自動車に頼らず徒歩や自転車などで快適に移動できるように設計された「歩きやすい街」のことです。国土交通省では「居心地が良く歩きたくなるまちなか」と表現し、人々の暮らしの質を高めるまちづくりとして推奨しています。[1]

ウォーカブルシティでは、歩道の整備だけでなく、以下のような点も重要視されています。[2]

  • 公園や広場といった、多様な人が交流できる場が整っていること
  • 学校や職場、食料品店、医療機関など生活に必要な施設が徒歩や自転車圏内にあること
  • 子育て世帯から高齢者世帯、独身者までさまざまな人が暮らしやすい環境であること

また、国土交通省は、ウォーカブルシティを作るためのポイントをまとめた「WEDO」というキーワードを提唱。WEDOは以下の4つの頭文字を取ったものです。

  • Walkable:居心地が良く、出かけたくなったり、歩きたくなったりする空間
  • Eye level:歩行者の目線から店内が見える
  • Diversity:さまざまな使い方ができ、多様な人の交流の場となる
  • Open:芝生や椅子があり、開かれていて心地よい空間

このように、ウォーカブルシティとは単に歩きやすいまちづくりを目指すだけではなく、新たなコミュニティの創出や生活環境の整備も含めた「人中心」のまちづくりを意味しています。

ウォーカブルシティが広まった背景・日本で注目されている理由

近年、日本でもウォーカブルシティへの関心が急速に高まっています。

もともとは欧米で発展した都市計画の考え方であり、持続可能で人にやさしいまちづくりのモデルとして世界各地に広がりました。

欧米から広まったウォーカブルシティ

ウォーカブルシティは元々は欧米で推奨されていた考え方です。

たとえば、アメリカ・シアトルでは、1994年からウォーカブルシティを基盤とした都市計画「アーバンビレッジ戦略」が進められてきました。[3] この戦略は、住居・商業施設・職場などを徒歩圏内に配置し、車に依存しない生活を目指すことを目的としています。シアトルは古くから「ネイバーフッド(隣人感)」と呼ばれる近隣住民とのコミュニティを重視する文化があり、世界的にもウォーカブルなまちづくりが進んでいます。

また、フランスでは、2016年にソルボンヌ大学のカルロス・モレノ教授によって「15分都市」という考え方が生まれました。[4]

15分都市とは、住民が徒歩または自転車で15分以内に職場・学校・商店・公園などへアクセスできる都市構造を目指す考え方です。コロナ禍によって広範囲の移動が制限されたことで、2019年頃からこの考え方が一層注目を集めるようになりました。

ウォーカブルシティが日本で注目されている理由

日本でウォーカブルシティが注目を集めている背景には、以下のような社会課題があります。

  • 人口減少
  • 少子高齢化
  • 地方都市にある中心市街地の衰退

こうした課題の解決策として、国土交通省は車中心の都市構造から、人中心の都市空間への転換を進めています。地域コミュニティの再生や多様な人が出会う場を作ることが目的です。

また、ウォーカブルシティは「人が心地よく滞在できる環境づくり」を重視している点が特徴です。そのため、単なる歩道整備にとどまらず、都市再生や観光振興の観点からも有効な取り組みとして注目されています。

ウォーカブルシティがもたらす3つの効果

ウォーカブルシティの推進は、地域社会にさまざまなポジティブな影響をもたらします。主な効果は以下の3つです。

  • 地域コミュニティの活性化
  • 住民の健康促進と幸福度向上
  • サステナブルな都市への貢献

1. 地域コミュニティの活性化

ウォーカブルシティの整備は、地域コミュニティの活性化に効果的です。

さまざまな学術研究で、歩きやすい環境が地域の社会的な結びつきを高めることが報告されています。

たとえば、アメリカの研究では、歩きやすい地域ほど住民同士の社会的な交流が活発であることが明らかになっています。[5]

他にもアメリカ・テキサスで行われた研究では、歩きやすい環境への移住した後、社会的な交流や結束力が向上した、という結果が示されました。[6]

このように、ウォーカブルシティは単に、利便性を高めるだけでなく、地域コミュニティの活性化にも有効です。

2. 住民の健康促進と幸福度向上

ウォーカブルシティの推進は、住民の健康促進と幸福度向上にも効果的です。

歩く距離や頻度の増加が、健康促進に良い影響を与えることは多くの研究が示しています。[7]

また、ある研究では、住民が歩きやすいと感じる地域ほど幸福度が高く、孤独感が低いという結果が報告されました。[8]

さらに別の研究では、歩行しやすい環境が住民の主観的な幸福感に影響を及ぼす可能性も示されています。[9]

このように、ウォーカブルシティは住む人が日常的に歩く機会を自然にもたらし、健康と幸福度を向上させる都市戦略といえます。

3. サステナブルな都市への貢献

ウォーカブルシティの推進は、サステナブルな都市づくりにも貢献します。

移動手段を徒歩や自転車中心にし、車の利用が減れば、CO2や一酸化炭素などの有害物質の発生を抑えられます。[10]

また、ウォーカブルシティは環境面だけでなく、文化や地域コミュニティの創出という面でもサステナブルな都市づくりに効果的です。

居心地が良く滞在しやすいまちを整えることで、人との自然な交流が増え、地域の文化や伝統の保護につながります。

ウォーカブルシティの国内事例3選

現在、日本各地でウォーカブルシティへの取り組みが進められており、地域の特性を活かした多様なまちづくりが実践されています。ウォーカブルシティの代表的な国内事例として、以下の3つの地域について解説します。

  • 神門通り(島根県出雲市)
  • さかさ川通り(東京都大田区)
  • 魚町サンロード(福岡県北九州市)

神門通り(島根県出雲市)

画像出典:島根県

島根県出雲市にある神門通りは、明治45年に開業した国鉄大社駅から出雲大社への参詣道として整備された通りです。かつては旅館街が形成され、にぎわいを見せていましたが、自動車の普及やJR大社線廃止によって人通りはほとんどなくなり、次第に衰退していきました。

神門通りを再びにぎわいのある通りへ再生させるため、平成25年に行われた出雲大社御本殿の修造工事をきっかけにさまざまな取り組みが行われました。[11]

とくに注目すべきは、生活道路としての利便性と観光道路としての快適性を両立した道路整備です。欧州などで導入されている「シェアド・スペース」という手法を採用し、以下のような改修が行われました。

  • 歩行者と自動車を縁石などで分離せず、双方の安全意識を高める
  • 車道幅を縮小して歩行空間を広げる
  • 石畳舗装によって特別な空間を演出することで自動車の速度低減を図る

整備完了から2年近く経った時点でも歩行者と自動車が関わる事故は報告されていません。

自動車の走行速度は平均で時速5.3km低減され、安全な道路空間を作ることに成功しました。

さかさ川通り(東京都大田区)

画像出典:おいしい道

東京都大田区にあるさかさ川通りは、古くは蒲田町の中心として栄えていた全長180mの通りです。大田区活性化計画の一環として、さかさ川通りの整備が望まれ、地元から提出されたデザイン案をもとに2014年に改修が行われました。[12]

「訪れた人の五感に優しい自然素材を使用した、ベーシックで風化しないデザイン」と「いつも何かが行われている街路の楽しみ」をテーマにしたデザインが特徴的。

イベントの実施のしやすさや、街の一体感を感じさせるためのさまざまな工夫が凝らされています。

なかでも、ポケットパーク(都市部などで見られる小さな公園)に配置された約20種類の樹木と、独特なストライプの舗装パターンは、全国でもめずらしい試みです。

2015年に国家戦略道路占用事業に指定されてからは、年に数回季節に応じたイベントを実施しており、地域のにぎわいを生み出しています。

魚町サンロード(福岡県北九州市)

画像出典: 魚町サンロード商店街

魚町サンロード商店街は昭和56年7月に完成したアーケード商店街です。かつては多くの人でにぎわっていましたが、建物の売却やテナント転換、閉店の増加により、次第に活気を失っていきました。そこで、2015年にアーケード撤去とともにデザイン舗装を実施し、開放的な空間へと改修。その後は、地域団体が中心となってオープンカフェやマルシェを実施することで、日常的なにぎわいを生み出しています。[13]

これらの取り組みの結果、歩行者数や沿道の店舗数が増加するなど、商店街の再生と地域の活性化に貢献しています。

ウォーカブルシティの海外事例3選

世界の主要都市では、ウォーカブルシティのための先進的な取り組みが進められており、日本のまちづくりにも影響を与えています。代表的な以下の3つの事例について解説します。

  • ニューヨーク(アメリカ)
  • パリ(フランス)
  • ロンドン(イギリス)

ニューヨーク(アメリカ)

画像出典:New York City

アメリカ・ニューヨークでは、「New Metrics for 21st Century Streets」という街路デザイン評価ガイドラインが策定されています。[14]

本ガイドラインの特徴は、従来の「車両の流れ」を中心とした交通指標に代わり、歩行者・自転車・公共交通の快適性、安全性、滞在の質など、人中心の評価軸を導入している点です。

本ガイドラインは、タイムズスクエアやブロードウェイ通りの歩行者空間づくりなどで活用され、歩行者事故の減少や地域経済の活性化につながっています。[15]

パリ(フランス)

画像出典:European Science Foundation

フランス・パリにおける、ウォーカブルシティへの代表的な取り組みは「15分都市」という都市構想です。

15分都市とは、自宅から徒歩または自転車で、学校、職場、食料品店、医療機関、公園、スポーツ施設など、日常生活に必要なスポットに15分以内でアクセスできる都市構想を指します。

2016年にフランスの科学者によって作られた考え方で、コロナ禍以降、感染リスクを抑えながら生活できる環境として急速に広まりました。

また、他にもパリのさまざまな地域において、通年または期間限定で車両の乗り入れを禁止し、歩行者天国とする取り組みなども行っています。

これらの施策により、市民が車に依存せず快適に移動・滞在できる都市環境が整備されつつあります。

ロンドン(イギリス)

画像出典:Transport for London

イギリス・ロンドンでは「Healthy Streets Approach(ヘルシーストリート・アプローチ)」という取り組みが行われています。

Healthy Streets Approachは、ロンドン市交通局が2017年に導入した、人を中心にした都市デザイン政策です。

車中心の交通計画から脱却し、歩行や自転車、公共交通を優先することで、市民の健康と幸福を支える街づくりを目指しています。

このアプローチは「歩きやすさ」「空気のきれいさ」「安全性」「誰もがアクセスできること」など、10の評価指標に基づき街路をデザインしている点が特徴です。

たとえば歩道幅や信号間隔、休憩スペースなどを総合的に評価し、健康的に移動できる環境づくりを進めています。

導入後、ロンドンでは歩行者や自転車利用が増加し、大気汚染や交通事故の減少が確認されました。[16] この取り組みは英国全土の都市政策にも影響を与え、ウォーカブルシティの先進モデルとして国際的にも注目されています。

ウォーカブルシティを推進するための日本の制度・取り組み

日本政府はウォーカブルシティの実現に向けて、さまざまな支援制度や取り組みを整備しています。

いずれの制度も、街のオープン化や整備に対して補助金や税金面での優遇措置を与えるものです。これらの制度を通し、日本各地でウォーカブルシティが広がるよう、取り組みが進められています。

まちなかウォーカブル推進事業

画像出典:国土交通省

「まちなかウォーカブル推進事業」は「居心地が良く歩きたくなるまちなか」空間の創出を目的に、国土交通省が令和2年度に創設した制度です。[17] 自治体や民間事業者が、道路・公園・広場などの公共空間を整備・修復する際に、国がその費用の一部を支援します。

制度の概要は以下の通りです。

  • 事業主体:市町村、都市再生協議会、都道府県、民間事業者など
  • 国の支援割合:基本的に整備・修復にかかった費用の2分の1
  • 対象区域:都市再生特別措置法で規定された滞在快適性等向上区域であることに加え、複数の要件を満たす区域

滞在快適性等向上区域(通称:まちなかウォーカブル区域)とは、快適性や魅力向上のために整備が必要とされる区域を指します。国は今後も本制度を通じて、全国各地に「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を広げていく方針です。

ウォーカブル推進税制

「ウォーカブル推進税制」は、まちなかウォーカブル区域での整備や改修を後押しするために設けられた税制優遇制度です。市町村が道路や公園などの公共施設を整備するのに合わせて、民間事業者などが自分の土地をオープンスペース化したり、建物の低層部分を開放的にしたりした場合に、固定資産税や都市計画税の軽減措置を受けることができます。[18]

具体的には以下の特例が用意されています。

特例の種類民地のオープンスペース化に係る課税の特例建物低層部のオープン化に係る課税の特例
優遇内容民有地を誰もが使えるよう解放した場合、固定資産税などの課税標準(税金を計算するための基準金額)が軽減される建物の低層部分をカフェや休憩所などとして開放し、誰でも自由に利用・滞在できるスペースを設けた場合、固定資産税などの課税標準(税金を計算するための基準金額)が軽減される
課税標準の軽減対象オープンスペース化した土地(広場、通路など)と、その上に設置された償却資産(ベンチ、芝生など)建物のうち、不特定多数の人が無料で利用できるように解放したスペース部分
軽減期間5年間5年間
軽減割合1/3~2/3(市町村により異なる。)。国が定める基本的な割合は1/21/3~2/3(市町村により異なる。)。国が定める基本的な割合は1/2

本制度の代表的な例として、神奈川県川崎市の「こすぎコアパーク」での活用事例があります。都市公園と駅施設を改修し、一体化することで、休憩や交流のためのスペースを生み出しました。

また、静岡県静岡市の複合施設「ARTIE(アルティエ)」では、ボウリング場の建替えにあわせて、全天候型で誰でも利用できる交流広場を整備。地域のにぎわいを創出しています。

まちなか公共空間等活用支援事業

「まちなか公共空間等活用支援事業」は、まちなかウォーカブル区域内で行われる、快適でにぎわいのある空間づくりを支援する制度です。

都市再生推進法人がベンチの設置や植栽、カフェの併設などを行い、交流や滞在の場を充実させる場合に、低利での資金融資(貸付)を通じて整備を支援します。[19]

制度の概要は以下の通りです。

  • 貸付対象:都市再生推進法人
  • 貸付金額:総事業費の2分の1を上限
  • 貸付期間:最長20年

愛知県豊田市では、本制度を活用し、豊田市駅周辺の複合施設の改修を行いました。交流スペースの整備や歩道への植栽、ベンチの設置などにより、建物内外が一体となった快適な空間を生み出しています。

まとめ | ウォーカブルシティが描くこれからのまちづくり

ウォーカブルシティは、単なる歩道整備にとどまらず、人々の健康、地域のつながり、環境の持続可能性を同時に育む総合的なまちづくりの考え方です。車中心から人中心の都市構造へ転換することで、地域コミュニティの再生や住民の健康・幸福度の向上、CO2排出削減など、社会全体に多面的な効果をもたらします。

近年、日本でも支援制度が整備され、地方自治体や民間事業者による取り組みが着実に広がっています。居心地が良く歩きたくなるまちなかづくりは、人口減少や高齢化といった社会課題への解決策として、今後ますます重要性を増していくでしょう。

参考文献

[1] ウォーカブル政策の展開について

[2] ウォーカブルシティに関する考察

[3] 2023.02.09 第5回マチミチ会議(オンライン実施) 開催レポート

[4] Definition of the 15-minute city: WHAT IS THE 15-MINUTE CITY?

[5] Neighborhood walkability, neighborhood social health, and self-selection among U.S. adults – ScienceDirect

[6] Walkable communities: Impacts on residents’ physical and social health: Researchers from Texas A&M University studied residents in a newly developed ‘walkable community’ in Austin, Texas to see how it changed their habits for physical activity and whether it increased social interaction and cohesion in the community – PMC

[7] 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023

[8] Associations between Perceived Neighborhood Walkability and Walking Time, Wellbeing, and Loneliness in Community-Dwelling Older Chinese People in Hong Kong – PMC

[9] Is Easy Access Related to Better Life? Walkability and Overlapping of Personal and Communal Identity as Predictors of Quality of Life – PMC

[10] Frontiers | Walkability and Its Relationships With Health, Sustainability, and Livability: Elements of Physical Environment and Evaluation Frameworks

[11] 島根県:神門通り線(1工区)(トップ / 環境・県土づくり / 都市計画・土地 / 地方機関 / 出雲)

[12] 蒲田東口おいしい道計画 公式ウェブサイト

[13] 魚町サンロード商店街公式サイト | 魚町サンロード商店街

[14] ウォーカブルなまちづくりの海外事例紹介

[15] Measuring the Street: New Metrics for 21st Century Streets

[16] New data shows drop in people killed on roads four times greater in London than the rest of the country

[17] まちなかウォーカブル推進事業について

[18] ウォーカブル推進税制の概要及び適用事例

[19] まちなか公共空間等活用支援事業




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