森のようちえんの魅力と教育効果 | 自然と共に育つ新しい教育のかたち

近年、世界中で「森のようちえん」が注目されています。森のようちえんとは、自然の中で子どもたちを育てる保育・教育スタイルです。
1950年代にデンマークで始まり、北欧を中心に世界各地へ広がりました。現在は日本でも実践する団体が増加しています。従来の園舎中心の保育とは異なり、森や野山、海辺などと言った自然の中での活動を重視するのが特徴です。
本記事では、森のようちえんの概要や特徴、教育効果、日本における事例などについて詳しく解説します。
森のようちえんとは?

森のようちえんとは、自然の中で子どもたちが主体的に遊び、学ぶことを大切にした保育・教育のスタイルです。この取り組みは、1950年代にデンマークで始まったとされており、現在では北欧をはじめ、日本を含めた世界各地へと広がっています。
森のようちえんの概要
森のようちえんとは、自然体験を中心とした子育て、保育、乳児・幼児期教育を指します。[1]
日本の森のようちえんでは、多くの団体が以下のような活動理念を掲げています。
- 自然の中で、子ども、親、保育者が、共に育ちあうこと
- 仲間との遊びを通じて、心と体のバランスのとれた発達を促すこと
- 自然の中でたくさんの不思議な体験と出会い、豊かな感性を育むこと
- 子どもの力を信じ、自ら考え行動できる環境をつくること
「森のようちえん」という名称ですが、活動の場は森だけに限りません。海や川、野山、里山、畑、都市公園など、さまざまな自然環境が活動フィールドです。
また、対象となる施設も多岐にわたり、幼稚園や保育園だけでなく、自主保育、自然学校、育児サークル、子育てサロンなどが含まれます。
森のようちえんの始まり・歴史
森のようちえんという考え方は、20世紀半ばの北欧から発展しました。
始まりは1950年代初頭のデンマークです。エラ・フラウタウという女性が、子どもたちをもっと自然に触れられるようにしたいと考え、近くの森で自主的な保育を始めたのがきっかけとされています。[2]
また、同時期のスウェーデンでも、1957年に「Skogsmulle」という自然を教材にした幼児教育プログラムが生まれ、北欧で自然保育の文化が育まれていきました。
その後、ドイツで1960年代に「Waldkindergarten」または「Waldkitas」と呼ばれる、現在の森のようちえんに近い形態の学校が増加。1993年に、ドイツ北部のフレンスブルクで初めて公認施設として森のようちえんが開設されました。[3]
それ以来、森のようちえんの人気は高まり続け、ドイツでは2005年時点で約450施設、2017年末頃には1,500を超える森のようちえんが設立されるまでになりました。
森のようちえんの特徴

園舎や既製のおもちゃに頼らず、自然の中で五感を使った体験を重視するのが大きな特徴です。
季節の移り変わりや天候の変化も学びの素材とし、自然環境そのものが教材・遊具の役割を果たします。
自然環境を教室にする学び方
森のようちえんでは、木、葉、石、水といった自然物を教材に教育を行います。[4] 決められたカリキュラムに沿うのではなく、子どもたちが自然と直接触れ合いながら学ぶことが基本です。
具体的な活動内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 枝や葉、石、泥を使った創作・遊び
- 倒木や小川を使った探検
- 昆虫観察
- 火の扱いを学ぶ焚き火活動
- 焼き芋やスープ作りといった簡単な料理体験
また、季節ごとの行事も重要な学びの機会です。春から秋にかけては田植えや稲刈り、収穫祭を行い、冬には落ち葉での工作や雪遊びを楽しむ施設も多くあります。
自然の中での体験は子どもの五感を刺激し、探究心や身体能力、社会性といったさまざまな能力を育みます。
子どもの主体性を大切にする方針
森のようちえんでは、大人が一方的に教えるのではなく、子ども自身の興味や関心を大切にするのが特徴です。子どもの「主体性」を大切にし、子どもが自ら選び、試し、失敗しながら学ぶ過程を大切にしています。[5]
また、保育者の役割も森のようちえんでは重要です。子どもの行動を安全に見守りながら、必要以上に介入せず、興味を受け止めて自由に探究を促す姿勢が求められます。
森のようちえんの教育効果
森のようちえんでの自然体験は、子どもたちにさまざまな能力を育みます。その主な効果として、以下の5つが挙げられます。
- 創造力
- 適応力
- 協調性と社会性
- 感情の回復力と安定性
- 身体能力と五感
従来の園舎中心の保育では得られにくい、自然の中での刺激や体験が、子どもの心身の発達を促します。
創造力を育む
森のようちえんは、子どもの創造力を大きく伸ばす場です。[6] 自然の中には決まったおもちゃや遊び方がなく、子ども自身が遊びをつくり出す必要があるため、創造力や発想力が自然に育まれます。
実際に、日本の森のようちえんが発信する活動レポートでは、子どもたちが自然物を使って創意工夫を凝らす姿が確認できます。
たとえば、山梨県の「森のピッコロようちえん」では、入園当初は森での遊びかたがわからなかった子が、いつのまにか松葉をそうめんに見立てたり、葉っぱをお皿に見立てて遊び始めたりする変化が見られたそうです。
このような自然の中の「制約のない環境」が、創造力を最大限に引き出す土壌となっています。
適応力を育む
森のようちえんは、子どもの適応力を育てる最適な環境です。自然環境は日々変化し、気温や天候、地形などが常に異なるため、子どもたちは自ら工夫して行動する必要があります。
たとえば、雨が降れば滑りやすい場所を避けて歩き、暑い日には木陰を探すといった判断を、子どもたち自身が行います。こうした環境の変化に対応する経験が、柔軟な思考や環境への適応力を育むのです。
海外の研究では、森の中での授業はより柔軟な思考力を育み、子どもたちの対応力を向上させることが示されました。[7]
厳しい自然の中での体験は、室内の整えられた環境では得られない、実践的な適応力を育みます。
協調性と社会性を育む
森のようちえんでは、協調性と社会性が自然に育まれます。屋外での活動には危険を伴う場面や、仲間との協働が不可欠な場面が多いためです。
また、従来の幼稚園に比べて自由に活動する時間が多いことも、社会性を育む要因です。決められたカリキュラムに縛られず、、子どもたちが自ら遊びを選ぶ環境も社会性の育成につながります。自分の意見を伝えたり、、友達や大人と自由に交流したりする中で、自然とコミュニケーション能力が磨かれていくのです。
実際に海外の研究では、自然体験を重視した幼児教育を受けた子どもは、社会性や協調性が高い傾向にあることが確認されています。[8]
感情の回復力と安定性を育む
自然に囲まれた環境は、子どもの心を落ち着かせ感情の安定をもたらす効果があります。
木々のざわめきや鳥のさえずり、風の音といった自然の刺激が、心を落ち着かせる働きをするためです。実際に、森林や緑には「回復効果」があり、ストレス軽減や集中力の回復を促すことが海外の研究で証明されています。[9]
また、自然の中で失敗や挑戦を繰り返す経験も、感情の回復力や安定性を育む要因です。たとえば、木登りに何度も挑戦して失敗しながらも最後は成功する、といった経験をすることで、厳しい環境に耐える力が培われます。
身体能力と五感を育む
森のようちえんでは、身体能力が自然と高まります。
舗装されていない地形を歩いたり、木に登ったりする経験が、バランス感覚や筋力を鍛えるからです。平らな床の上を歩くのとは異なり、でこぼこした地面や斜面を歩くことで、足裏の感覚や体幹が自然と鍛えられます。
自然の音・匂い・手触りといった刺激によって五感が育まれることも、森のようちえんの重要な教育効果の一つです。[10] 鳥のさえずりや風の音を聞く、土や葉の匂いを嗅ぐ、木の幹や水の冷たさを手で感じるといった体験の積み重ねが、身体全体で自然を感じ取る力を育てます。
自然の中の遊びは、まさに子どもの体と感覚を総合的に育む「最高の体育」といえるでしょう。
森のようちえんの運営形態
森のようちえんの運営形態はさまざまです。
一年を通して常に自然の中で活動する施設もあれば、週や月ごとに自然体験を行う施設もあります。
また、全国の森のようちえんをつなぎ、情報共有を行ったりする組織も活動しています。
多様な運営スタイル
森のようちえんの運営形態は大きく分けて「通年型」「融合型」「行事型」の三つに分類されます。[11]
それぞれの特徴は以下の通りです。
| 通年型 | 融合型 | 行事型 |
|---|---|---|
| 一年を通して森で過ごす運営形態。毎日森に入って活動し、園舎をもたない場合もある。 | 一般の幼稚園が週または月ごとに森で活動する運営形態。通年型の森のようちえんと連携して活動する場合もある。 | 自然学校やNPO法人などによる運営形態。都度参加者を募集し、森での活動を行う体験型プログラム。 |
また、以下のような、認可の種類によって分類されます。
- 認可を受けた幼稚園
- 認可保育所
- 認可外保育施設
- 保護者らによる自主保育
- 自然学校やNPO法人による運営
このように、目的や運営組織によって、活動形態や認可の有無が異なります。
「森のようちえん全国ネットワーク」の役割
全国の森のようちえんをつなぐ中心的な存在が、「森のようちえん全国ネットワーク」です。[12]「森のようちえん」の特質を活かした幼児教育、幼児の育ちの場を広め、それを担う事業者や大人たちの連携を深めることを目的をしています。
主な活動内容は以下の通りです。
| 事業種別 | 主な活動内容 |
|---|---|
| 普及啓発事業 | 森のようちえんの普及啓発イベントの開催、支援 YouTube「森ようチャンネル」の配信 |
| ネットワークの構築事業 | 森のようちえん全国交流フォーラムの共催地域ネットワークミーティングの開催 |
| 指導者養成事業 | 森のようちえん指導者養成講座の開催テキスト、ワークブック等の作成 |
| 安全講習・認証登録事業 | 森のようちえん安全講座の開催森のようちえん団体安全認証 |
| 調査研究事業 | 子どもと環境研究会の開催森のようちえんや自然保育に関する調査研究、及び調査研究への協力 |
| 保育に関わる事業 | 勉強会や語り場の開催保育セミナーの開催幼児教育・保育に関する施策への提言 |
日本にある森のようちえんの事例
日本各地には、数多くの森のようちえんが存在します。それぞれの施設が地域の自然環境や特性を活かし、独自の理念や運営スタイルを持ちながら活動中です。
以下の3つの施設を参考に、森のようちえんの具体的な取り組みや工夫について解説します。
野外保育とよた森のたまご

野外保育とよた森のたまごは、愛知県豊田市松平地区で活動する森のようちえんです。[13] 2019年度より松平地区にある森・里山を拠点に、3歳児から5歳児までの子どもを対象とした保育を行っています。
また、畑作業や野外料理などの自然と生活をつなぐ活動も同時に実施。子どもたちは四季の移ろいを感じながら、自然の循環を体感します。
保育スタッフだけでなく、保護者も保育に参加する「共同保育」も特徴のひとつです。保護者が週に1〜2日程度、保育当番を交代で行い、保育スタッフとともに子どもたちと過ごします。施設の運営に関わり、子どもの成長を見守る仕組みを通じて、家庭と園が共同で育ちあえる環境がうまれています。
森のようちえん芽

森のようちえん芽は、東京都八王子市を中心に活動を行う森のようちえんです。[14] 八王子市にある都立長沼公園周辺や浅川、周辺の田んぼや畑、宇津木の森などを中心に活動しています。
以下の保育理念を軸に、自然での遊びを通して、子どもたちの創造性や社交性、豊かな感性などを培うことを目指しています。
- あそぶとまなぶ
- 自然と共に在る
- 共に育つ
また、活動場所にもこだわりをもち、季節や保育内容によってフィールドを決めている点も当施設の特徴です。長沼町の豊かな自然を活かし、子ども一人ひとりを大切にする森のようちえんとして、多くの保護者から高い評価を得ています。
かぷかぷ山のようちえん

かぷかぷ山のようちえんは、東京都青梅市を中心に活動する森のようちえんです。[15]
- 植物を使った工作
- 味噌作りなどの食体験
- 畑仕事体験
当施設では、保育施設としての活動以外に、自然体験ができるイベントの開催や地域と連携した啓発活動も実施。自然体験の場では、年齢によるクラス分けをせず、さまざまな年齢の子どもたちが一緒に活動しています。この環境が、子どもたちの協調性や社会性を育んでいます。
まとめ|森のようちえんから学ぶ自然教育の価値
森のようちえんは、自然の中で主体的に遊び、学ぶことを通じて、子どもたちの創造力や適応力といったさまざまな力を育む教育のかたちです。既製のおもちゃや施設に頼らず、自然そのものを教材とすることで、子どもたちは予測できない環境に対応する力や、仲間と協力する力を自然と身につけていきます。
日本でも、森のようちえんは年々増加しており、今後ますます注目を集めると考えられます。森のようちえんの理念や活動を通じて、自然とともに学ぶことの価値を改めて見つめ直してみましょう。
参考文献
[1] 森のようちえんとは | NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟
[2] FAQ’s | Learn More | Forest School Foundation | Outdoor Learning, Bright Futures
[4] 森のようちえんの1日 – withnatura ページ!
[5] 私たちの理念|森のようちえん|大阪府豊中市|とよなか文化幼稚園
[7] Learning among the trees in Denmark | The UNESCO Courier
[11] 自然体験を重視する保育の課題と展望: 森のようちえんの理念と指導法に注目して
[12] 私たちについて | NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟
