都会より大自然?欧州におけるサステナブルツーリズムのトレンド分析

近年、ヨーロッパでは環境保護、伝統や文化の保護、地域経済の発展を重視したサステナブルツーリズムに移行する動きが活発化しています。その背景には、EU(欧州連合)が掲げた欧州グリーンディール(The European Green Deal)」と呼ばれる環境政策が存在し、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルを目指すなど、様々な目標があります。
日本でも京都などで、訪日外国人が急増したことによりオーバーツーリズムが問題視されていますが、欧州グリーンディールでは、オーバーツーリズム対策も含まれており、観光地として爆発的な人気を誇るスペインのバルセロナでは、2024年10月より、宿泊客の市税を1泊4ユーロ、5つ星ホテルの場合は7.5ユーロへと値上げしました。。インバウンドの急激な増加は、地域社会や環境へ影響すると懸念され、地元住民によるデモが起きるまでの問題へと発展してしまうのです。
しかし、近年では旅行者の間でも環境に対する意識が高まってきていると言われています。普段の生活にサステナブルを取り入れている人々は、旅行においても同様に環境に配慮するのではないでしょうか?そんな今回は、環境先進国の北欧やドイツだけに限らず、ヨーロッパ諸国で行われているサステナブルツーリズムについて、詳しく紹介していきます。

欧州グリーンディールとは?
「欧州グリーンディール(The European Green Deal)」では、主に以下の達成目標が掲げられています。
- 2050年までにカーボンニュートラルを達成
- 2030年までに温室効果ガス排出を1990年比で少なくとも55%削減
- 環境負荷の少ない経済成長(グリーン経済)の促進
- 持続可能なエネルギーや交通、農業の推進
- 循環型経済(サーキュラーエコノミー)の強化
環境先進国ドイツでは、石炭火力発電の全廃を目標に掲げ、2030年までに達成予定となっています。また、風力・太陽光発電の割合を増やして再生可能エネルギーを拡大することによって、2045年までにカーボンニュートラル達成を目指しています。
他にも、補助金制度や充電インフラを拡充させて、EV(電気自動車)普及を促進する動きがありましたが、すでに補助金の支給は終了し、ベルリンのような都市部でしか充電インフラが整っていないことから、ドイツ全体での普及率は伸び悩んでいるという結果が出ています。

フランスでは、CO₂を排出しないエネルギーとして原子力発電を推進しており、再生可能エネルギーと組み合わせることを目指しています。イタリアでは、グリーン建築補助金(エコボーナス)と呼ばれる環境に優しい住宅リフォームに補助金が支給される取り組みが行われ、スペインは、ヨーロッパトップの発電量を誇る太陽光発電の拡大やバルセロナなどの都市で自動車規制を強化し、自転車や公共交通での移動を推進しています。
サステナブルな暮らしが根付いているオランダでは、肉や乳製品の生産に対して環境規制を強化し、畜産業の環境負荷を低減させています。スウェーデンは、ヨーロッパ最速の脱炭素化を目指し、木材を使ったエコ建築を推進しています。デンマークでは、エネルギー自給型のモデル地域として、ボーンホルム島(Bornholm)を今年中にカーボンニュートラルを達成し、2040年までに、化石燃料の使用を完全に廃止する目標を掲げています。
このように、ヨーロッパ内でもその国の気候や土地に合わせた独自の目標を掲げ、それぞれの政策を行っていることが分かります。
ヨーロッパで最もサステナブルな観光地とは?
ヨーロッパの旅行に特化したプラットフォーム「European Best Destinations(EBD)」では、毎年最も人気のある観光地や都市をランク付けする「ベスト・デスティネーション」を発表しています。2009年に設立された「EBD」は、ヨーロッパにある300以上の観光局と提携し、旅行に関する情報だけでなく、地域の文化や歴史など、多様な情報を提供し続けており、旅行観光業界からも高い評価を得ています。
サステナブルに特化した情報も多数発信しており、ランキングも発表しています。中でも、ヨーロッパで最もサステナブルな旅行先をランキングした「ベスト・サステナブル・デスティネーション」では、環境に考慮した旅をしたい人には興味深く、参考になる結果になっているのではないでしょうか?今年もすでに発表されていますが、上位3位をご覧下さい。

第1位:アゾレス諸島
見事、第1位に選ばれたのは、ヨーロッパ大陸と北アメリカ大陸の間にあり、大西洋の中央部に位置するポルトガル領のアゾレス諸島です。サン・ミゲル島、サンタ・マリア島、グラシオサ島、テルセイラ島、サン・ジョルジェ島、ピコ島、ファイアル島、フローレス島、コルボ島の9つの島からなるこの火山郡島は、豊かな自然を遺産として次世代に残すため、保護活動に最も重点を置いています。
島にはそれぞれの特徴や魅力があり、火山湖、天然温泉、ハイキング、美しいビーチ、田園風景、乗馬、地熱を利用した郷土料理やワイン、チーズなどを堪能することができます。
第2位:フェロー諸島
フェロー諸島は、伝統的な捕鯨に関する論争が続いているにもかかわらず、再生可能エネルギー、環境保護、持続可能な観光管理における野心的な目標を掲げ、熱心に取り組んでいることから上位にランクインしました。アイスランドとノルウェーの間に位置し、北大西洋に浮かぶデンマーク領の自治地域で、18の火山島からなる郡島で、手つかずの自然が残っており、自然愛好家、バードウォッチャー、ハイカーにとって楽園と呼ばれています。壮大なフィヨルド、野生動物、ヴァイキング文化を体験することができます。
第3位:アイスランド
3位にランクインしたアイスランドは、レイキャビクやブルーラグーンは人気観光地としてすでに知られています。しかし、サステナブルツーリズムの観点からは、オフシーズンの人里離れた大自然を指します。最も持続可能な方法でアイスランドを堪能するには、混雑のないオフシーズンにエコ認定されている宿泊施設に長期滞在しながら、地元の旬の食材を提供するレストランで食事をし、地元のビール醸造所のクラフトビールを味わうことで、本物のアイスランドを体験することができます。
氷河をトレッキングしたり、間欠泉の噴出を見たり、人里離れた天然温泉に浸かったりと、都市では味わえない自然の恵みに存分に触れることができます。

最後に
第4位には、ノルウェーのロフォーテン諸島がラインクインしていますが、上位全てにおいて、豊富な自然を保護し、伝統文化を引き継ぎ、人間の手が入っていない自然の中で生きる野生生物や植物、海洋生態系が存在するなど、都会では絶対に不可能な自然環境が整っています。
排出ガスによる大気汚染やオーバーツーリズムによるゴミ問題や自然破壊などの深刻な問題から、大都市が取り組む持続可能な政策が目立っているように思えますが、実際には、人里離れた大自然を人間の手によって破壊されないように本来の姿のまま保護し、永久的に残していくことがサステナブルツーリズムの原点であり、最も重要なことかもしれません。
ドイツの首都ベルリンに長年住んでいる筆者ですが、デジタルの普及による利便性を実感しながらも不必要な都市開発やジェントリフィケーションによる物価高騰に懸念を抱くことも多いです。街の喧騒や人混みから遠く離れ、大自然の中で、郷土料理を味わったり、豊かな文化的伝統を探求したり、野生生物を観察したり、希少な植物や手つかずの海洋生態系を発見したり、これらの貴重な体験をすることで都会での暮らしや旅行先を見直すきっかけになるのではないでしょうか。

