シンガポールの観光ブームと持続可能性の課題

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)はシンガポールが2025年に海外から到着する入国者数が過去最高記録を更新する見込みであることを2025年2月20日付のプレスリリースで発表しました。予測される年間訪問者数は約1,600万人。これはパンデミック前に過去最高だった2019年より9.6%多い数字です。なりより、2024年6月時点でのシンガポールの人口は約600万人[1]。その3倍以上ということになります。
シンガポールには及びませんが、タイ、フィリピン、マレーシアといった東南アジアの多くの国で観光産業は急激な成長を見せています。いずれの国でも2025年の訪問者数が過去最高に近づくか、あるいは上回ると見込まれています。
WTTCのジュリア・シンプソン会長兼CEOは上プレスリリースの中で次のように述べています。
シンガポールは世界の観光成長を牽引しており、過去の記録を更新するばかりか、その成長度は地域のライバルを上回っています。インドからの訪問者数の急増と中国人旅行者の復帰によって、シンガポールの観光産業を動かすエンジンは全開です。これは単なる回復ではなく、変革と呼ぶべきです。シンガポールはイノベーションと持続可能性で世界をリードしています。その旅行・観光分野の役割はこれまで以上に大きくなり、今後何年にもわたって雇用、成長、経済的繁栄を促進するでしょう
シンプソン氏の言葉にある通り、シンガポール経済において旅行・観光分野は主要産業のひとつです。2024年にはGDPの約9.8%を占め、過去最高となる57万人の雇用を支えました。約10人に1人が観光産業に従事していることになり、その数は今後も伸び続けると予想されています。
現代はどの分野においても経済成長と持続可能性は不可分の関係にあります。シンガポールも環境保護に大きな力を注いでいますが、その成果はまだ十分ではありません。
上プレスリリースによると、シンガポールの観光産業による温室効果ガス排出量は2019年から2023年の間に年間4.1%減少し、同分野が全体に占める割合は23.5%から18.4%に減少しました。しかし、低炭素エネルギーは同分野が消費するうちのわずか2.5%未満に留まっています。
昨今、世界中の航空業界で大きな注目を集めている持続可能な航空燃料(SAF)については、2026年からシンガポールを出発するすべてのフライトに対して、1%のSAFを組み込むことが義務付けられたばかりです。英国や日本などの他の主要な観光経済国は、2030年までに10%のSAF導入を目標に設定していることと比較すると、シンガポールが掲げた目標はいささか低いようです。皮肉なことに世界最大のSAF工場はシンガポールにあります。
急成長を遂げているシンガポールの観光産業ですが、今後も他地域との競争の激化や環境問題など、対応するべき課題はけっして少なくありません。国際的な人気観光地として発展し続けると同時に、持続可能な観光を推進していくことが求められているからです。


参考資料
[1]https://www.population.gov.sg/our-population/population-trends/overall-population/