ガストロノミーウォーキングとは?国内外の事例とビジネス活用・市場動向・戦略を徹底解説

ガストロノミーウォーキングは、地域の食文化を味わいながら景観や歴史に触れる、持続可能かつ高付加価値な体験型ツーリズムとして、国内外で注目を集めています。
観光資源の差別化が求められる今、歩くことで地域の魅力を再発見し、「味わう旅」から「共感される旅」への転換を実現するコンセプトです。
本記事では、ガストロノミーウォーキングの定義から、そのビジネス的な価値、市場トレンド、そして日本・ヨーロッパの成功事例までを網羅。
さらに、自治体や企業が実際に取り組むうえでの活用戦略についても具体的に解説します。地域活性化や観光ビジネスの可能性を広げたい方は、ぜひ参考にしてください。
ガストロノミーウォーキングとは?
ガストロノミーウォーキングとは、地域の食文化や特産品を味わいながら歩く観光スタイルです。
食を楽しむだけでなく、その土地の歴史や文化を学び、自然なども満喫できるのが特徴です。「ガストロノミーツーリズム」[1] の一種であり、特にウォーキングを通じて食と地域のつながりを体験できる点が魅力です。
観光事業者にとっては、地域の独自性を打ち出し、持続可能な観光資源としての価値を高める機会となるでしょう。
ガストロノミーウォーキングのビジネス的価値
ガストロノミーウォーキングの魅力は観光客の満足度向上にとどまらず、地域経済や企業活動にも具体的なメリットをもたらします。以下では、この取り組みが生むビジネス的な価値を3つの視点から分析します。
1. 地域経済の活性化
地域の生産者や中小事業者と連携することで、観光が地元経済の実需を生む仕組みを構築できます。旅行者が地域での食体験を通じて商品を購入・共有することで、消費の接点が広がります。
また、食をベースとした観光コンテンツは、年間を通じた収益モデルを実現する有効な手段でもあります。結果として、地域内の経済循環が促進され、地域の自立的成長につながります。
2. 持続可能な観光資源の開発
ウォーキングを基盤とする旅行スタイルは、移動時のCO2排出を抑えられ、環境負荷の小さいツーリズムとして評価されています。さらに、地域に根ざした食文化や歴史を体験型コンテンツへと昇華させることで、他にはない独自性と深みを持つ観光価値を創出します。
こうした“ストーリー性”を備えた観光資源は、旅行者の記憶に残りやすく、再訪意欲を高めるとともに、地域全体のブランド力向上にも直結します。単なる消費行動にとどまらず、観光を地域資源への「投資」として位置づけ直すことが、真に持続可能な観光モデルの鍵となるでしょう。
3. ターゲット市場の拡大
特に高所得者やミレニアル世代を中心に、体験型・価値共感型の旅行への関心が高まっています。これらの層は、「地域社会への貢献」や「サステナビリティ」といった視点にも高い感度を持っています。
また、CSR活動や従業員へのインセンティブとして、こうしたツアーを導入する企業も増えています。BtoC、BtoBともに付加価値型観光の市場を拡大する可能性を秘めています。
ガストロノミーツーリズムの市場動向
食を中心とした観光「ガストロノミーツーリズム」は、ここ数年で急速に市場規模を拡大しています。2024年の世界市場規模は1,090.5億米ドルと評価され、2033年には4,210.2億米ドルに達すると予測されています[2]。
従来の観光スタイルとは異なり、地域の食文化や生産者との接点を通じた“体験”を重視するトレンドが、世界中で加速しています。ここでは、その市場成長の要因と地域ごとの動向を整理し、今後のビジネス展開におけるヒントを提示します。
市場成長の要因
まず、市場拡大の大きな背景として「食文化への関心の高まり」が挙げられます[2]。旅先でしか味わえない料理や、その土地ならではの食の背景を体験したいというニーズが、観光客の間で顕著に増加しています。特にストーリー性のある食体験や、地域の人々との交流は、消費者に深い満足感を提供しています。
次に、「持続可能な観光」の考え方が浸透し、環境への配慮を前提とした観光コンテンツの需要が高まっています[2]。輸送・移動に伴うCO2排出を抑えつつ、地域資源を有効活用する食中心の観光は、まさにそのニーズと合致しています。
さらに、「高所得層やミレニアル世代」の志向性も大きな推進力となっています[2]。これらの層は、モノ消費ではなくコト消費に価値を置き、個性的で持続可能な体験を求める傾向があります。ガストロノミーツーリズムは、まさにそのライフスタイルや価値観と親和性が高いといえるでしょう。
地域別の動向
ヨーロッパでは、ガストロノミーツーリズムは成熟した観光市場の一部として定着しています。イタリアのワインツアー、フランスのチーズとパンを巡る旅、スペインのタパス体験など、食と文化が密接に結びついたコンテンツが豊富に存在します。これらの国々は、伝統と革新のバランスを取りながら、食による観光価値の最大化に取り組んでいます。
アジア太平洋地域でも、独自の食文化を背景にガストロノミーツーリズムの需要が急速に拡大しています。日本では和食や地域ごとの郷土料理が、タイや韓国では屋台グルメや市場体験が高く評価されており、外国人観光客を惹きつける大きな要素となっています。各国とも、食と地域性を活かした観光資源の開発が進んでいます。
北米では、「ファーム・トゥ・テーブル」や地元産クラフトビールを活用したツアーが広がりを見せています。サステナビリティへの関心が高いことに加え、地元コミュニティとの接点を持てる体験型ツーリズムが支持されており、特に都市部を中心にマーケットが拡大しています。
日本のガストロノミーウォーキング事例
日本各地でも、地域資源を活用したガストロノミーウォーキングが着実に成果を上げつつあります。ここでは、観光と食文化を融合させた代表的な地域の取り組みを紹介し、今後の展開に向けたヒントを探ります。
鳥取県鹿野温泉
鳥取県鹿野温泉では、地域特有の食と温泉を掛け合わせたガストロノミー型観光が展開されています。牛骨ラーメンや鹿野地鶏といった地元ならではの食材を取り入れたルートに、温泉街の風情が加わることで、訪れる人々に独自性の高い体験を提供しています[3][4]。
この取り組みは町おこしの一環として、自治体と観光事業者が連携して企画・運営をしており、地域住民の協力も巻き込む形で持続可能な観光モデルの確立を目指しています。
香川県小豆島
瀬戸内海に浮かぶ小豆島では、特産品であるオリーブオイルや醤油、手延べ素麺などを軸にしたウォーキングツアーが注目を集めています[5]。ツアーは美しい海岸線や棚田の風景を背景に、食の体験と景観の魅力を融合させた設計が特徴です。
味覚と視覚の両方に訴えるこの取り組みにより、小豆島は高付加価値な観光地としてのブランド力を高めています。地元産業の認知向上や販路拡大にもつながる好例です。
長崎県波佐見町
長崎県波佐見町では、約400年の歴史を持つ伝統工芸・波佐見焼と郷土料理を組み合わせた体験型ツアーが実施されています[6]。参加者は陶器づくりの工房を訪問し、職人の技を間近で見学した後、地元食材を使った食事が楽しめます。
このように、工芸と食文化を掛け合わせることで、観光の“深度”を高め、地域に対する理解と共感を促進しています。単なる観光資源の消費ではなく、新たな価値の創出に成功している事例といえるでしょう。
千葉県いすみ市
地域の豊かな食文化と自然を楽しむ「ONSEN・ガストロノミーウォーキング」が毎年開催されています。このイベントは、参加者が約10キロのコースを歩きながら、地元の特産品や料理を味わい、地域の魅力を体感するものです。
2025年3月23日に実施さえれた第5回目のイベントでは、いすみ市が誇るイセエビ、マダコ、ヒラメ、タイなどの新鮮な魚介類や、高品質な「いすみ米」、地元産のチーズや日本酒など、多彩な食材を使用した特別メニューが提供されました。
また、ウォーキングコースでは、太東埼灯台や飯縄寺などの観光スポットも巡り、地域の歴史や文化にも触れることができます。

ヨーロッパのガストロノミーウォーキング事例
食文化を観光資源とする取り組みは、ヨーロッパにおいて成熟した市場として確立されています。とりわけ「歩いて巡る」ことを軸としたガストロノミーツーリズムは、地域の持続可能な発展や高付加価値の観光モデルとして注目を集めています。
以下では、イタリア・フランス・スペインの代表的な事例を紹介します。
イタリア・トスカーナ

イタリア中部のトスカーナ地方では、ワイナリーやオリーブ農園を訪ね歩くガストロノミーツアーが定番化しています[7]。移動には徒歩を取り入れることで、景観や生産現場との距離を縮め、持続可能な農業への理解促進と体験価値の向上を同時に実現しています。
ツアーでは地元のスローフードを楽しめるランチや、造り手との対話も盛り込まれており、旅行者にとっては単なる消費ではなく「学びと共感」の機会に。富裕層や欧米のミドルエイジ層を中心に高い支持を得ており、地域ブランドの確立にも寄与しています。
ツアー情報提供 | ツアー情報 | サイトURL |
---|---|---|
イタリア・トスカーナ州公式ツーリズム | Wine and Olive Oil Roads | https://www.visittuscany.com/en/interests/wine-and-olive-oil-roads/ |
フランス・ブルゴーニュ

フランスのブルゴーニュ地方では、著名なワイン街道「Route des Grands Crus(特級畑の道)」に沿ったウォーキングツアーが展開されています[8]。ツアー参加者は名門ワイナリーやブドウ畑を徒歩で巡りながら、テロワール(土壌・気候)の違いを実体験として理解できます。
加えて、ワインに合わせた郷土料理を提供するプログラムも組み込まれ、地元の食材や文化との接点が豊富です。こうした構成により、訪問者にとっては高価格でも満足度の高い体験が提供され、プレミアムな観光価値を確立しています。
ツアー情報提供 | ツアー情報 | サイトURL |
---|---|---|
フランス・ブルゴーニュ地方ツーリズム | The Burgundy Grands Crus long-distance hiking trail | https://www.burgundy-tourism.com/on-foot-by-bike-on-horseback-or-by-boat/hiking-some-of-the-great-trails/the-grands-crus-hiking-trail/ |
スペイン・バスク

美食の都として知られるサン・セバスチャンを擁するバスク地方では、ピンチョス(小皿料理)を提供するバルを巡るウォーキングスタイルのフードツアーが人気を集めています[9]。街歩きと食べ歩きを組み合わせることで、観光客は街のリズムと地元文化を同時に体感することが可能です。
さらに、バスク地方独特の発泡性白ワイン「チャコリ」やリンゴ酒「シードル」とのペアリング体験が加わることで、食と伝統の多層的な魅力を発信。観光消費の中心を“体験”にシフトさせるこのスタイルは、飲食、農業、観光産業の連携による地域経済活性化の好例ともいえます。
ツアー提供 | ツアー情報 | サイトURL |
---|---|---|
サン・セバスティアン・ピンチョス・ツアー | The Burgundy Grands Crus long-distance hiking trail | https://www.sansebastianpintxos.com/en/ |
ガストロノミーウォーキングの活用戦略
ガストロノミーウォーキングは、食・自然・文化を有機的に組み合わせた持続可能な観光モデルとして注目されています。地域における独自の食や文化を活かす点で、企業の新規事業創出や自治体の観光施策と高い親和性を持ちます。活用戦略を3つの視点から整理します。
1. 地域ブランディングの強化
ガストロノミーウォーキングは、地域の食文化や風土を“体験”として伝えることで、他地域との差別化を図る強力なブランディング手法となります。郷土料理や地元食材、伝統的な調理法などをツアーの中に組み込むことで、「ここにしかない物語性」を伝えることが可能です。
また、環境に配慮した観光形態であるため、企業や自治体のCSR(企業の社会的責任)やSDGs対応の文脈でも展開しやすく、社会的評価にもつながります。ブランド価値を「売る」のではなく、「共感される地域」として認識される土台作りに貢献します。
2. 新規ビジネス機会の創出
地域の農家、漁業者、飲食店、工芸事業者などとの連携によって、ガストロノミーウォーキングは新たなツーリズムビジネスの土台となり得ます。歩きながら味わい、知る、という体験型ツアーは、価格競争に巻き込まれにくく、利益率の高い観光商品として成立します。
特に、富裕層やインバウンド旅行者をターゲットにすることで、平均単価の高い商品設計が可能です。1人当たりの体験単価を上げつつ、地元経済への直接的な波及効果を生み出せるモデルとして、今後の観光マーケティングの中核となる可能性を秘めています。
3. 観光資源の持続可能性確保
従来型の大量集客型観光と異なり、ガストロノミーウォーキングは少人数制・予約制を基本とするため、自然環境や地域コミュニティへの負荷を最小限に抑えられます。
また、地域資源を“守りながら使う”という考え方に基づき、文化財や風景、伝統産業などを持続的に活用できる点も大きな特長です。こうした観光モデルは、短期的な利益だけでなく、中長期的な地域価値の維持・向上に直結する重要な戦略となります。
ガストロノミーウォーキングは地域観光の未来を切り拓く鍵
ガストロノミーウォーキングは、地域の食文化・自然・歴史を融合させた体験型ツーリズムとして、今後の観光戦略において非常に高いポテンシャルを持っています。日本国内外の成功事例からも明らかなように、単なる食の楽しみだけでなく、地域ブランディングや経済活性化、そして持続可能な観光資源の構築にまで波及する多面的な価値を提供します。
市場動向を見ても、高所得層やミレニアル世代を中心にガストロノミーウォーキングへの関心は年々高まりつつあり、企業・自治体にとっては今まさに取り組むべき重要な施策といえるでしょう。
今後の観光開発においては、「食で地域を歩かせる」新しい体験価値を起点に、地方創生・サステナブルツーリズム・観光収益の最大化を実現していくことが求められます。ガストロノミーウォーキングはその実現に向けた、確かな一歩となるはずです。

参考文献
[1] ABOUT US | 温泉ガストロノミーツーリズム 公式サイト ONSEN & Gastronomy Tourism Association
[2] Culinary Tourism Market Size, Statistics & Forecast, 2033
[3] 満員御礼☆★第3回ONSEN・ガストロノミーウォーキングin 鳥取市鹿野温泉with鳥の劇場
[4] 第2回ONSEN・ガストロノミーウォーキングin 鳥取市鹿野温泉with鳥の劇場
[5] 初開催 ONSEN・ガストロノミーウォーキング in 小豆島を開催しました。
[6] 2025/03/29 | ★☆満員御礼☆★第7回ONSEN・ガストロノミーウォーキングin 長崎・波佐見
[7] Strade del Vino e dell’Olio | Visit Tuscany
[8] The Grands Crus hiking trail amid the vineyards | Burgundy, France