進むサンゴ礁の衰退・白化──生態系だけでなく地域の文化や観光への影響も

国際サンゴ礁イニシアチブ(ICRI)1は、サンゴの白化現象が世界的に拡大しており、海洋サンゴ礁の実に84%が影響を受けていることを明らかにしました。世界的なサンゴ礁の白化現象の発生は1998年以降にたびたび発生しており、2024年4月15日で4回目です。とくに今回は過去最大規模となっています。
サンゴが衰退・白化する原因は?

環境省のウェブサイト「サンゴ礁保全の取り組み」によると、「世界中の58%ものサンゴ礁が過度の衰退か、あるいは危機に直面していると推定され」「特に人口密集地近くで深刻」であるとしています。
では、こうしたサンゴ礁の衰退・白化はなぜ起こるのでしょうか。同サイトには、「サンゴ礁はさまざまな要因によって世界的に衰退傾向にある」と記されています。中でもサンゴの白化現象について、ICRIのホームページでは「熱などの環境ストレスによって、サンゴ内部に生息する色鮮やかでエネルギーを生み出す藻類が排出され、白くなってしまう現象」であると説明されています。
また、「大規模なサンゴの白化現象の主な原因は、海水温の上昇」にあるとし、その改善策については「環境が速やかに正常に戻れば、サンゴは藻類を再生させ、健全な状態に戻ることができる」と指摘しています。
つまり、地球温暖化が海水温の上昇を招き、それがサンゴ礁の白化・衰退へとつながっているのです。
サンゴ礁が死滅するとどうなるのか?

環境省の同サイトによれば、「サンゴ礁は、熱帯雨林と並び、地球上で最も生物多様性が高い場所の一つ」とされています。また、全海洋生物の約25%がサンゴ礁とその周辺に生息しているとの報告もあり、サンゴ礁の衰退は多くの海洋生物を存亡の危機に追い込む可能性があります。
さらに、地球全体の生態系は繊細なバランスのうえに成り立っており、サンゴ礁の衰退が地球全体の生態系に悪影響をもたらすおそれもあります。
もちろん、人間の活動も無関係ではありません。サンゴ礁は漁業をはじめとして、地域ごとの暮らしの中で経済的・社会的、そして文化的にも、人々の営みと密接に関わってきました。
観光においても例外ではなく、サンゴ礁の美しい景観は多くの観光客を引きつけてきました。現在でも海水浴やスキューバダイビングといったレジャーを通じて、サンゴ礁は観光資源として活用されています。しかし、このままの状況が続けば、将来的にそれらすべてを失ってしまうかもしれません。
パラオのサンゴ礁の取り組み

南太平洋に位置するパラオ共和国は、多様なサンゴ礁環境が存在していることから、世界でも有数の生物多様性を誇っています。栗原ほか(2019)の報告によれば、約78属425種のサンゴ類のほか、約1287種の魚類、さらには259種の藻類が生息しているとされています。
またこの報告では、「多様なサンゴ礁生物を求めて、毎年多くのダイバーがパラオを訪れ、観光産業(なかでも海に関連するマリンレジャー)はGDPの3/4を、さらに雇用の約40%を占め、パラオの経済を支える基幹産業となっています」とされており、サンゴ礁が人々の暮らしと深く関係していることがわかります。
一方で、気候変動による影響の進行や観光客の急増などにより、サンゴ礁環境への複合的な影響が懸念されていました。しかし栗原ほか(2019)の調査によって、パラオでは他のサンゴ礁海域と比べて海洋環境が健全に維持されていることが明らかになりました。
白化についても、これまでのところ回復力が比較的高く保たれており、およそ10年以内で大規模白化から回復できる可能性が示されています。こうした回復力の背景には、「海洋保護区や環境税など国家的な環境政策が大きく関係しており、パラオ国民の環境保全に対する意識の高さが大きく寄与している」と、同論考では指摘されています。
日本のサンゴ礁の取り組み豊島ほか(2016)によれば、日本は世界のサンゴ礁生態系分布域の北限に位置しており、沖縄県や鹿児島県を中心に豊かなサンゴ礁生態系を築いています。特に南西諸島のサンゴ礁生態系は、世界遺産であるオーストラリアのグレートバリアリーフにも匹敵するほどの高い生物多様性を持ち、非常に価値の高い生態系であるとされています。
一方で同じ報告では、南西諸島では1970年代ごろから、陸域からの土砂や汚染水の流入、オニヒトデの大量発生、高水温による造礁サンゴ類の白化現象などが確認されており、人間活動の影響によるさまざまなストレスによって生態系の劣化が見られるようになりました。
こうした近年のサンゴ礁の生息環境の悪化に対しては、鈴木(2017)が指摘するように、行政やNGO、地域住民、そして専門家らが協議を重ねながら対応を進めているのが現状です。
豊かなサンゴ礁を守るため
サンゴ礁を守るためには、ステークホルダー間での協議はもちろん、国レベルでの保護区域の設定や、観光でサンゴ礁を利用する際の料金・税の徴収といった政策が必要です。
また、私たち一人ひとりも、観光に関わっているかどうかにかかわらず、日常生活の中で環境への配慮を意識していくことが求められます。私たちの意識が、サンゴ礁の衰退を食い止め、人類の暮らしを守り、そしてサンゴ礁を観光資源として活用し続ける未来へとつながっていくでしょう。
- サンゴ礁の持続的利用と保全に関わる全ての関係者が対等な協力関係のもとで集い議論することができる、ユニークな環境国際パートナーシップのこと(環境省ホームページより)
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【参考文献】
- 栗原晴子・渡邉敦(2019)気候変動下におけるパラオ共和国のサンゴ礁保全.日本サンゴ礁学会誌(21)
- 鈴木倫太郎(2017)造礁サンゴの大規模白化現象におけるNGOによる活動とサンゴ礁保全の取組.日本サンゴ礁学会誌(19)
- 豊島淳子・灘岡和夫(2016)日本のサンゴ礁域における観光業と漁業者の利害調整過程に 関するケーススタディと生態系サービスへの支払い(PES)の活用可能性の考察.日本サンゴ礁学会誌(18)
- 国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)
- 84% of the world’s coral reefs impacted in the most intense global coral bleaching event ever | ICRI