ドイツで実施されている気候変動を学ぶツアー・プログラム

環境先進国と呼ばれるドイツでは、2045年までに、温室効果ガス実質ゼロを意味する「カーボンニュートラル」を義務化する目標を掲げ、様々な取り組みを行なっています。
他にも、2038年までに石炭火力発電の全廃や再生可能エネルギーの割合を電力消費の80%以上にする、2035年以降、EU全体で新車のガソリン・ディーゼル車販売を禁止するなど、多くの目標を掲げています。
ドイツにおけるこのような取り組みは、他国からの注目も高く、お手本にする国もあります。サステナブル・ツーリズムやリジェネラティブ・ツーリズムに力を入れている旅行会社や研究機関、学校などで、ドイツを訪れて気候変動について学ぶツアー・プログラムを実施しています。
実際にはどのようなツアーやプログラムが実施されているのでしょうか?
EFツアーズが推奨する持続可能な都市開発プロジェクトの見学
EFツアーズは、1965年にスウェーデン・ルンドで設立され、現在は、スイスのチューリッヒに拠点を構える国際的な教育企業として、世界100か国以上に拠点を持っています。
同社は「Sustainable Living in Germany and Switzerland」というツアーを実施しており、ベルリン、フライブルク、スイスのルツェルン地方を巡り、各地の再生可能エネルギー、都市農業、エコツーリズムにおける最先端モデルを見学し、サステナブルな取り組みを学ぶ10日間のプログラムが組まれています。

Day 1: Fly overnight to Germany
Day 2: Berlin
Meet your Tour Director at the airport
Take a walking tour of Berlin
See the East Side Gallery
Day 3: Berlin
Take a guided tour of Berlin
With your expert local guide you will see:
- Brandenburg Gate
- Kurfürstendamm
- Remains of the Berlin Wall
Tour an urban sustainable development project
Explore the future of the environment and technology at the Futurium museum
Day 4: Berlin
Visit a working urban farm
Visit an innovative local company
Day 5: Berlin • Freiburg
Travel by train to Freiburg
Day 6: Freiburg
Explore the green city of Freiburg through the eyes of an environmental sustainability expert
Day 7: Freiburg • Lucerne region
Travel via the Black Forest to the Lucerne region
Tour Hofgut Sternen’s sustainable facilities
Learn how to make flammkuchen
Day 8: Lucerne region
Ride a cable car to the top of the Swiss Alps
Take a walking tour of Lucerne
With your Tour Director you will see:
- Lion Monument
- Kapellbrücke
- Lake Lucerne
Day 9: Lucerne region
Hike with an environmental scientist through the Entlebuch Biosphere, a UNESCO natural reserve
Tour the UNESCO Entlebuch Biosphere with an expert local guide
Take an expert-led tour through an underground bunker system
Explore Lucerne on your own
Day 10: Depart for home
ベルリンでは、科学、技術、社会の未来に関する展示やコミュニケーションの場を提供している「Futurium(フューチュリウム」を訪問し、持続可能な都市開発プロジェクトについて学びます。
「未来の家(Haus der Zukünfte)」と呼ばれている同館は、2019年に設立され、ドイツ連邦教育研究省が主導のもと、マックス・プランク協会、ヘルムホルツ協会、フラウンホーファー協会といった研究機関が連携して運営しています。屋上には「スカイウォーク」と呼ばれる展望スペースがあり、ベルリン市内を一望することが可能です。
「ソーラーシティ」とも称されているフライブルクでは、環境専門家とともに街を散策します。フライブルクは、2050年までに、100%再生可能エネルギーで賄うことを目標としており、すでに太陽光発電を活用した建物が多く存在します。
ヴォーバン地区の「ソーラー・セトルメント」と呼ばれる地域では、59戸ある住宅すべてが年間を通して、消費エネルギーより多くのエネルギーを生産する「プラスエネルギー住宅」になっています。
ルツェルン地域では、ユネスコ生物圏保護区に認定されている「エントレブッフ・ユネスコエコパーク(Biosphere Reserve)」を散策します。
ここは、スイス国内で最も広大で多様な湿原地帯を擁し、特にシュラッテンフルー(Schrattenfluh)と呼ばれるカルスト地形を見ることができます。また、湿原地帯には国際的に重要とされる多くの希少種の生息地となっています。
ドイツの主要都市で学ぶSTEM教育ツアー
世界各地に拠点を構え、海外でドイツ語を学ぶことを奨励し、国際的な文化交流を促進しているドイツの文化機関「ゲーテ・インスティトゥート(Goethe-Institut)」では、「大西洋横断アウトリーチ・プログラム(Transatlantic Outreach Program)」が実施されています。これは、2002年にアメリカ支部でスタートした研修旅行で、アメリカとカナダ拠点の社会科教育者、STEM教育者、ドイツの徒弟制度モデルに関心を持つ人材開発専門家などを対象に行われています。
ドイツの2、3都市に滞在し、学校、企業、政府機関、非営利団体、市民団体、史跡、博物館などを訪問し、教育者に現代のドイツとEUの重要問題を多面的に理解させ、生徒のグローバル・コンピテンシーを高める指導に活用できる情報、リソース、ネットワークを提供することを目的としています。
STEM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字を取ったもので、問題解決能力、論理的思考、創造性、協働力などを育むことを目的としています。知識を教えるだけでなく、実際に社会の課題に対して学んだ知識を応用する教育です。アメリカでは、2000年代初頭から職業教育として盛んに取り組まれており、同ツアーには、これまでに1,900人以上の教育者が参加しています。
ミネソタ大学が推奨する再生可能エネルギーについて学ぶプログラム
ミネソタ大学では、再生可能エネルギーで100%賄われる都市や地域を目指し、様々な取り組みを行なっているデュッセルドルフ、ザールベック、ミュンスターなどの都市を訪れ、再生可能エネルギーの貯蔵、熱電併給、太陽光発電、風力発電などについて学ぶプログラムが実施されています。参加者は、ドイツの政治家、政府関係者、研究者、教育者、大学生と交流し、近年の政治的リーダシップの変化やロシアによるウクライナ侵攻が持続可能なエネルギーシステムへの転換を加速させていることなどを学びます。
恵まれない家庭の生徒を対象とした環境教育
1995年に設立された「エコロジック・インスティテュート」は、環境研究と政策分析を行う研究所です。同研究所は、ドイツ連邦自然保護庁(Bundesamt für Naturschutz – BfN)の委託を受け、プロジェクトパートナーとともに、ドイツの国家自然再生計画の策定と実施を支援しています。特に生態系の状態評価や内陸と沿岸の生態系の保護、再生のために専門知識を活かしたプロジェクトを積極的に実施しています。
「プラスティック・パイレーツ・プラス・プロジェクト」とは、貧困家庭の子供が多い学校に焦点を当てたプロジェクトで、敷居が低く、実践的なプログラムを通じて、子供たちが科学の世界にアクセスできるようにすることを目的としています。プロジェクトへの参加は無料のため、誰でも参加することができる仕組みとなっています。
プロジェクトの一環として、遠足でバルト海沿岸を訪れ、プラスチックごみ汚染を調査します。科学的な方法を用いて、廃棄物をマッピングし、分類し、発生源の可能性を分析することによって、子供たちは実際に研究者が行なっている研究を学ぶことができ、同時に、環境に対する意識を高めることができます。
同プロジェクトは、2016年に発足し、2024年5月の時点で、ドイツ国内の1,400を超える学校のクラスにて実施されました。しかし、バルト海に面し、ドイツで最も人口密度が低いメクレンブルク=フォアポンメルン州の学校では、ほとんど実施されてきませんでした。こういった差別化を埋めるため、今年、同地域から選ばれた3つの学校クラスに対し、教師のための個別サポートや教材の無料提供、バルト海への遠足を計画し、実施するための組織的支援が実現しました。
最後に
上記に挙げた以外にも、バイエルン州ヴォルンツァッハ近郊のヒュルに位置する研究所「The Hüll Hop Research Centre」では、気候変動に対応するため、耐乾燥性や病害抵抗性を備えた新しいホップ品種の開発に注力しています。これらの取り組みは、ビールの風味を保ちつつ、持続可能な農業を推進することを目的としています。また、同研究所は教育活動にも力を入れており、農家や醸造家向けに持続可能な栽培技術や気候変動への適応策に関する講義やワークショップを提供しています。これにより、伝統的なビール文化の継承と、将来の世代への知識の伝達を図っています。
気候変動によって起こる様々な環境破壊問題に対して、ドイツは国を挙げて政策を行い、世界のリーダー的役割を担っていると言えますが、個人的にツアープログラムやワークショップに参加することによって、普段の生活がどんな影響を与え、どんなことを改善できるのか学ぶことができるだけでも意味があるのではないでしょうか。