星空保護区とは? 認定取得のメリットや手順、国内外の取り組み事例を紹介

現代社会では、光害の影響で美しい星空が見えにくくなっていることをご存じでしょうか。星空保護区は、貴重な暗い夜空を守り、次世代へと引き継ぐための取り組みです。
地域自治体がこの制度に取り組むことで、生態系に対する配慮だけでなく、観光資源としての活用や地域振興にもつながります。星空保護区の設立により、地域の魅力を高め、持続可能な観光を実現できるでしょう。
本記事では、星空保護区の重要性やメリット、取得手順について解説し、地域での取り組みを進めるためのヒントをご紹介します。
星空保護区とは?
夜空に広がる無数の星々は、私たちに感動と畏敬の念を抱かせます。しかし、現代社会の過剰な照明、いわゆる光害の影響で、星空が見えにくくなっている地域が増加しています。このような状況に対して、貴重な暗い夜空を守り、次世代へと伝えるための取り組みが「星空保護区(ダークスカイプレイス)」の認定制度です。[1][2]
この制度は、単に星空が美しく見える場所を選ぶことだけを目的としていません。光害対策に積極的に取り組み、地域住民や事業者が一体となって暗い夜空を守る活動を続けている地域に認定が与えられます。星空保護区の認定は、その地域の自然環境の価値を高めるとともに、新たな観光資源としての可能性を広げる効果もあります。
定義とその役割
星空保護区認定制度は、光害の影響を受けない暗く美しい夜空を保護・保存する優れた取り組みを評価する制度です。国際ダークスカイ協会(IDA、現在はダークスカイ・インターナショナル)によって、2001年に創設されました。
この制度の役割は、光害対策を通じて生態系サービスを保全し、科学研究や教育の機会を提供することです。また、地域社会の持続可能な発展にも貢献しています。美しい星空は、私たち全員の文化遺産でもあり、それを守り継承することは私たちにとって重要な使命です。
星空保護区の目的と背景
星空保護区の主な目的は、光害から暗い自然の夜空を守り、将来の世代のためにその質を保つことです。その目的には、現代社会における光害の深刻化が背景にあります。
過剰または不適切な人工照明は、天体観測を妨げるだけでなく、生態系に悪影響を与え、エネルギーの無駄遣いや人間の健康に潜在的な悪影響を及ぼすことが指摘されています。
星空保護区の設立は、光害問題を認識し、地域で積極的な対策を講じている地域を支援し、その取り組みを広く啓発することを目的としています。
星空保護区認定を取得する3つのメリット
星空保護区の認定は、単なる称号にとどまりません。地域にとって多くの具体的なメリットをもたらす制度です。
観光資源としての活用やブランド価値の向上、そして自然環境の保護という3つの観点から、認定が地域にもたらす恩恵について紹介します。
1.観光資源としての魅力向上
星空保護区の認定は、地域にとって新たな観光資源となり、その魅力を大きく高める可能性を秘めています。夜空の美しさは、古くから多くの人々を魅了してきました。現代では、人工の光に遮られずに満天の星空を見られる場所は非常に限られており、特別な体験を求める観光客にとって大きな魅力となっています。
こうした星空を活かした観光は、宿泊施設や飲食店、交通機関など地域経済全体へ波及する効果も期待できます。さらに、夜間の観光コンテンツは滞在時間の延長を促し、観光客一人あたりの消費額の増加にもつながるでしょう。星空保護区の認定は、持続可能で付加価値の高い観光を実現するための有効な手段だといえます。
2.地域のブランド価値向上
星空保護区の認定は、観光客の誘致だけでなく、地域そのもののブランド価値を高める効果もあります。美しい星空を守るという取り組みは、環境保護意識の高い地域という印象を与え、住民の誇りにもつながります。
また、国際的に認められた星空保護区であることは、地域の知名度向上にも貢献します。環境意識が高まるなか、光害対策に積極的な地域というブランディングは、企業誘致や移住促進などさまざまな面で良い影響を及ぼす可能性があるでしょう。他地域との差別化を図り、独自の魅力を発信する強力な手段となり得ます。
3.自然環境の保護
星空保護区の認定に向けた取り組みは、地域の自然環境全体の保護にも直結。光害対策の一環として屋外照明の見直しや改善を行うことで、エネルギー使用量を抑え、二酸化炭素の排出削減にもつながります。
人工的な光は夜行性動物の活動や生態系に悪影響を及ぼすことが知られており、昆虫の繁殖が妨げられたり、渡り鳥の移動に混乱が生じたりする場合があります。星空保護区の認定基準に基づく光害対策は、これらの問題を軽減し、生物多様性の維持にも貢献するでしょう。
美しい星空を守ることは、その地域固有の自然環境を守ることでもあります。星空保護区の認定は、持続可能な地域づくりに向けた重要なステップといえるでしょう。
星空保護区認定の取得手順
星空保護区の認定を取得するプロセスは、地域がその暗く美しい夜空を保護し、保存するための優れた取り組みを行い、国際的に認められるための重要なステップです。この認定を受けるには、まず国際ダークスカイ協会(DarkSky International、旧IDA)の定める基準を満たす必要があります。[3]
新規申請・認定の流れ
申請から認定までの手順は以下の通りです。
- ダークスカイ・ジャパンや星空保護推進機構(DPA)への相談
- 地域内での調査・啓発活動チームの結成
- 長期的な星空調査の実施
- 自治体や関係機関との協議
- 屋外照明の改修
- IDA本部への申請書類提出
- 審査委員会による審査
- 認定後の継続的な活動と年次報告
星空保護区の認定を目指す場合、最初にダークスカイ・ジャパンなどの国内支部や星空保護推進機構(DPA)に相談することが推奨されます。これらの機関は、申請準備段階から、申請主体およびIDA本部との連携を支援してくれます。
申請の準備には、地域内で複数の担当者が中心となり、長期的な調査や啓発活動、自治体や関係機関との協議、屋外照明の改修などが必要です。
準備が整ったら、IDA本部に申請書類を提出します。提出された申請書は、IDAの専門スタッフや過去に認定された地域のスタッフで構成される審査委員会により審査されます。現地調査は通常行われません。
審査の結果、基準を満たしていれば星空保護区として認定されます。認定後は、継続的な教育啓発活動や夜空の明るさのモニタリングが義務付けられ、年に一度、IDAに報告する必要があります。認定後も基準を維持していれば、認定に有効期限はありません。
認定の基準、評価方法
星空保護区の認定には、単に星空が美しいだけではなく、地域が光害対策や星空保護に対する理解と取り組みを持っていることが求められます。星空保護区の認定基準には以下の具体的な項目が含まれています。
- 夜空の暗さの測定値が基準値(21.2 mag/arcsec²)をクリアすること
- 屋外照明に関する厳格な基準の遵守
- フルカットオフ型照明器具(水平より上に光が一切漏れない形状)の使用
- ランプの相関色温度は3000ケルビン以下(電球色)
- 上方光束ゼロ%の照明器具
- エリア内の公的な屋外照明について光害対策基準を定めた照明管理計画の発効
- 申請時に既存の屋外照明の67%以上が基準に準拠していること(カテゴリーによっては100%準拠が必要)
- 看板照明の点灯時間・輝度・面積の制限
- 地域における光害に関する教育啓発活動の実施(星空観察会や講演会など)
- 夜空の暗さを継続的に測定・モニタリングする体制が整備されていること
これらの基準に加えて、認定を受けるカテゴリーによって固有の条件が適用されます。
認定カテゴリー
星空保護区には、地域の特性に応じて異なるカテゴリーがあり、それぞれに固有の認定条件があります。主なカテゴリーは以下の通りです。
カテゴリー | 概要 |
---|---|
ダークスカイ・コミュニティ | 町や市など自治体単位で、質の高い屋外照明使用に関する条例の施行や、地域住民の支援を行っている地域が認定される |
ダークスカイ・パーク | 自然公園や森林公園などで、非常に暗い環境を保ちつつ、星空観察イベントなどを提供する場所が対象 |
ダークスカイ・リザーブ | 700平方キロメートル以上の広大な土地で、暗い環境を保つために地域間で協力し合い、屋外照明規制を行っている地域が対象 |
ダークスカイ・サンクチュアリ | 非常に暗い環境が保たれている、周囲に屋外照明がほとんどない場所が対象 |
アーバン・ナイトスカイプレイス | 都市近郊で明るい都市の影響を受けつつも、光害に配慮した取り組みが行われている場所が対象 |
申請の際には、地域の特性に最も適したカテゴリーを選択することが重要です。各カテゴリーの詳細な条件は、星空保護区の公式サイトで確認できます。
国内の星空保護区の取り組み事例
2025年4月現在、日本には4つの星空保護区が認定されており、それぞれの地域が独自の特色を活かしながら、美しい夜空を守り、地域活性化にも貢献しています。これらの取り組みは、今後認定を目指す自治体や事業者にとって参考になるでしょう。
西表石垣国立公園(沖縄県石垣市・竹富町)
沖縄県の八重山諸島に位置する西表石垣国立公園は、2018年3月に日本初の星空保護区として認定されました。[4]カテゴリーはダークスカイ・パークで、亜熱帯特有の自然が広がり、多くの希少動植物が生息しています。特に、ヤエヤマヒメボタルなど、暗闇を必要とする固有種が生息しています。
これは理想的な自然状態に非常に近いもので、この暗さでは肉眼で数千の星や天の川の複雑な構造が鮮明に観測可能だと言われています。
認定時、既存の屋外照明には改修が必要で、石垣市と竹富町は屋外照明管理計画を策定し、2023年度までに全照明を光害対策型に改修する計画を進めています。
この認定は、日本国内での暗い夜空への関心の高まりを示すもので、地域観光の振興とともに、八重山諸島の生態系保護に貢献することが期待されています。
神津島村(東京都)
東京都伊豆諸島の神津島村は、2020年12月に日本で2番目の星空保護区として認定されました。[5]
カテゴリーはダークスカイ・パークで、IDAから「ダークスカイ・アイランド」という呼称が認められています。神津島は、都心から比較的近い離島ながら、非常に暗い夜空を保ち、観光客にも人気のスポットです。
村は光害防止条例を新たに制定し、屋外照明の改修工事を実施しました。特に、人口が集中する居住エリア全域で光害対策が行われたのは、日本初の試みです。神津島は今後も星空ツアーなどを通じて観光誘致を進め、「ダークスカイ・アイランド」としてのブランド確立を目指しています。
井原市美星町(岡山県)
岡山県井原市の美星町は、2021年11月に日本で3番目の星空保護区として認定されました。[6]カテゴリーはダークスカイ・コミュニティで、アジア初の認定です。美星町は、天文学者にとっては天体観測の聖地として知られており、1989年には国内初の光害防止条例を制定しました。
認定取得に向けた取り組みが加速し、国際基準に合わせた条例改正や屋外照明の改修が行われました。特に、ダークスカイ・コミュニティ認定の重要な基準である光害対策条例の施行が高く評価されました。
この条例に基づき、2021年3月までに町内全ての屋外照明の改修工事が完了し、星空に優しい照明環境が整備されました。さらに、地域の事業者や住民が連携して「星の郷まちづくりコンソーシアム」を立ち上げ、観光環境の整備を進めています。
これらの総合的な取り組みが、アジア初のダークスカイ・コミュニティ認定につながりました。美星町は、星空保護と地域活性化の両立を目指し、積極的に活動を展開しています。
大野市南六呂師区(福井県)
福井県大野市の南六呂師区は、2023年8月に日本で4番目の星空保護区として認定されました。[7]カテゴリーはアーバン・ナイトスカイプレイスで、アジア初の認定です。
このカテゴリーは、都市部からのアクセスが良好な立地にあり、都市近郊で明るい都市の影響を受けつつも、優れた夜空環境の保護が行われている地域を対象としています。他のカテゴリー(より厳格な基準の「ダークスカイ・パーク」や「ダークスカイ・コミュニティ」など)では認定が受けられない地域でも、星空保護活動の普及を促す重要な役割を担っています。
南六呂師区は、標高約500メートルの高原にあり、2005年には環境省の全国星空継続観察で日本一美しい星空に選ばれたこともあり、全国でも有数の星空観察スポットとして知られています。
大野市は、福井工業大学やパナソニック株式会社と連携し、エリア内の360基の屋外照明を改修しました。
また、地域全体で光害対策に取り組んでおり、その結果、2023年に認定を受けました。南六呂師区は、都市部からのアクセスも良好で、新たな星空観光の拠点としての発展が期待されています。
世界の星空保護区の取り組み事例|星空保護区の最高位「ゴールドティア」
世界には、素晴らしい星空を守るためにさまざまな取り組みを行っている地域があり、その数は2025年4月現在で211ヶ所に達しています。[8][9]
これらの地域は、単に美しい星空を提供するだけでなく、光害対策に積極的に取り組み、自然の暗い夜空を守る先進的な場所と言えるでしょう。中でも、最も厳しい基準を満たし、卓越した暗闇と星空を持つ地域に与えられる最高位の評価が、「ゴールドティア」の認定です。
今回は、ゴールドティアを受けた3つの地域をご紹介し、それぞれの地域がどのようにして貴重な星空を守り、その魅力を活かしているのかを見ていきます。
テカポ湖 ニュージーランド
ニュージーランドのマッケンジー地域にあるアオラキ・マッケンジー国際ダークスカイリザーブは、4,367平方キロメートルという広大な面積を誇り、南半球最大の星空保護区です。[10][11]
この地域が素晴らしい星空を持つ背景には、1980年代初頭から実施されている厳格な屋外照明規制があります。これにより、マウントジョン天文台への光害を最小限に抑えると同時に、エネルギーの節約や野生生物の保護にも貢献しています。
テカポ湖周辺は、その美しい景観と満天の星空が魅力で、世界中から多くの観光客が訪れます。夜空を見上げるツアーや天体写真を楽しむ人々も多く、地元ではこの貴重な星空を地域の資源として捉え、環境に配慮した観光を推進しています。澄んだ空気と広大な自然、そして人々の努力によって守られてきたテカポ湖の夜空は、訪れる人々に深い感動を与えています。
アイベラ半島 アイルランド
アイルランド南西部のケリー州にあるアイベラ半島は、ケリー国際ダークスカイリザーブとして知られ、ヨーロッパでも有数の星空観測地です。
約700平方キロメートルの広さを持ち、ケリー山脈と大西洋に挟まれた地形が光害の影響を軽減しています。この地域では、新石器時代から星の動きを観測していた跡が見つかるなど、古くから天体観測が行われていました。[12][13]
ケリー国際ダークスカイリザーブ内には、星空観察に適した複数の観測地点が整備されており、駐車場や犬連れでも楽しめる場所も提供されています。
地域住民は、この貴重な夜空を未来に残すため、光害防止の意識を高め、持続可能な観光を推進しています。夜空には、天の川を肉眼で捉えることもでき、古代の人々が見上げていたであろう星空を体験できます。
ナミブ砂漠 ナミビア
アフリカ南西部のナミブ砂漠にあるナミブランド自然保護区は、地球上で最も暗い場所の一つとして知られ、アフリカ初のゴールドティア国際ダークスカイリザーブに認定されています。[14][15]広大な面積2,022平方キロメートルを持つこの地域では、手つかずの自然が残り、驚くほどクリアな夜空を楽しむことができます。
ナミブランド自然保護区では、光害が動植物に与える影響を最小限に抑えるため、厳格な照明ガイドラインが設けられており、保護区内の人工照明は国際ダークスカイ協会の基準を満たすように管理されています。
保護区内にあるNaDEET(ナミブ砂漠環境教育トラスト)センターでは、環境教育プログラムの一環として、夜空に関する学習や屋外での宿泊体験が提供され、参加者はベッドに寝ながら満天の星空を観察することができます。
ナミブ砂漠の静寂の中で見上げる星空は、都会の喧騒を忘れさせ、宇宙の広大さを感じさせてくれます。
星空保護区の未来
世界中で光害から貴重な夜空を守ろうとする取り組みが広がっており、星空保護区の数は年々増加しています。この取り組みは、単に美しい星空を保護するだけでなく、地域経済の活性化や環境保護意識の向上にもつながっています。
成功事例を見てみると、自治体や地域住民、観光自業者が一体となって光害対策に取り組み、地域資源としての星空を最大限に活用している点が共通しています。
今後、さらに多くの地域が星空保護区の認定を目指し、世界的な取り組みとして発展することが期待されるでしょう。そのためには、地域住民一人ひとりが光害問題への意識を高め、責任ある照明の利用を心がけることが重要です。
また、観光自業者も、星空の魅力を損なわない持続可能なツーリズムを推進する必要があります。かけがえのない夜空を未来世代へと繋いでいくために、私たち一人ひとりができることを考え、行動していくことが求められます。
まとめ
星空保護区の認定は、単なる美しい夜空を守る取り組みにとどまらず、地域の生態系保護や観光資源としての活用、さらには地域ブランドの向上にもつながります。認定を受けるためには、光害対策や屋外照明の見直しなど、地域全体での努力が必要ですが、その結果は地域経済の活性化や持続可能な観光の促進につながります。
今後、さらに多くの地域が星空保護区の認定を目指し、世界的な取り組みとして広がっていくことが期待されます。星空を守るためには、私たち一人ひとりが光害問題に対する意識を高め、持続可能な未来に向けて行動することが求められます。地域での星空保護活動に参加し、貴重な夜空を未来に残すための一歩を踏み出してみませんか。


参考文献
[7]星空保護区®|福井県大野市「南六呂師」が星空保護区認定
[8]星空保護区® | 世界に211ヶ所のダークスカイプレイス
[9]International Dark Sky Places
[10]International Dark Sky Places| Aoraki Mackenzie
[11]Stargazing & Astrophotography – Mackenzie Region, New Zealand
[12]International Dark Sky Places| Kerry
[13]Kerry International Dark Sky tourism