特区民泊とは?制度の内容や実情と影響、大阪市での新規受付停止について解説

最近注目を集めている「特区民泊」制度をご存知でしょうか?
特区民泊とは、国が定めた特定の地域において、通常とは異なる要件で民泊を運営できる制度です。東京都大田区や大阪府大阪市などで導入されており、新規事業者が参入しやすいことから注目を集めています。
しかし、最近ではゴミや騒音問題の増加など、特区民泊のネガティブな側面を指摘する声も少なくありません。
本記事では、特区民泊制度の概要から運用実態、各地域での影響、そして大阪市の新規受付停止の背景などについて詳しく解説します。
特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)とは?

特区民泊とは、特定の地域において主に外国人を対象に宿泊施設を提供する事業形態です。[1] 正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」といい、国家戦略特区と呼ばれる、政府が指定した特区内でのみ営業を許可されています。
一般的な民泊事業者は、旅館業法または住宅宿泊事業法に基づいて営業する必要があります。しかし、特区民泊はこれらの法律の適用が一部除外されており、通常の民泊よりも営業要件が緩和されている点が特徴です。[2]
特区民泊と一般的な民泊の違い
| 特区民泊 | 一般的な民泊 | |
|---|---|---|
| 年間営業日数の上限 | 上限なし | 180日以内 |
| 家主不在時の管理委託義務 | 委託義務なし | 委託義務あり |
特区民泊と一般的な民泊の最も大きな違いは、営業日数に上限がない点です。
また、管理者の委託についても違いがあります。一般的な民泊では、家主が不在中に物件を貸し出す場合、管理者への委託が義務づけられています。一方で、特区民泊では家主が不在でも、管理者委託の義務がありません。
こうした規制緩和の結果、特区民泊は収益性と運営の自由度において優れており、幅広い事業者に利用されています。
国家戦略特区とは
特区民泊は営業要件が緩和されている代わりに、国が定めた国家戦略特区内でしか営業できません。
国家戦略特区には以下の地域が指定されています。
- 東京都大田区
- 大阪府大阪市
- 千葉県千葉市
- 新潟新潟市
- 福岡県北九州市[3]
これらの地域では特区民泊のほかにも、外国人材の受け入れや法人設立手続きの簡素化といった、さまざまな規制緩和措置が実施されています。
特区民泊の実情

特区民泊は、地域での消費拡大や街の活性化などを目的として導入された制度です。ところが、実際の運営状況は必ずしも制度発足時の想定通りとはいえません。特区民泊の実情について、詳しく解説します。
95%は大阪市が占めている
特区民泊として運営されている宿泊施設のうち、約95%は大阪市に集中しています。
大阪市に特区民泊が集中する理由は、大都市でありながら観光地としても高い人気を誇るからです。また、2025年4月13日から10月13日まで開催される大阪・関西万博を見据え、多くの観光客が訪れることを見込んで民泊事業に参入した事業者も少なくないと考えられます。
4割以上が中国系事業者によって運営されている
特区民泊を運営している事業者の、4割以上が中国系だとされています。[5] 中国系事業者による運営が多い理由は、特区民泊特有の新規事業者が参入しやすい環境にあります。
一般的な民泊に比べ、特区民泊は運営のための要件が比較的緩めです。そのため、物件さえ確保できれば、実際の運営は代行業者任せでも十分に可能です。
その結果、海外に在住したままペーパーカンパニー(実態のほとんどない書類上だけの会社)を日本で設立し、代行業者に運営を任せる中国系事業者が増加しています。
また、日本への移住を目的とした「経営管理ビザ」を取得するために、民泊事業を始める中国系事業者も多いとされています。
経営管理ビザは、外国人が日本で起業や事業経営・管理を行うための在留資格です。
他国の同様制度よりも日本での取得は要件が緩く、移住目的で経営管理ビザを取得するケースが増加。その際、名目上の事業として利用されているのが特区民泊での民泊事業だとされています。
政府は本来の目的から外れたビザの取得を問題視しており、経営管理ビザを取得する要件の厳格化を検討しています。[6]
特区民泊がもたらすポジティブな影響

特区民泊にはさまざまな課題がある一方で、地域経済や観光産業に対してポジティブな影響ももたらしています。特区民泊がもたらす、以下の2つのポジティブな影響について解説します。
- 一定の経済効果があるとみられる
- 宿泊施設不足を補っている
一定の経済効果があるとみられる
特区民泊は、一定の経済効果をもたらしているとみられます。
特区民泊は通常の民泊と異なり年間営業日数の上限がないため、365日フル稼働での運営が可能です。そのため、収益性が高まり、宿泊業界や地域経済に一定の経済効果をもたらしていると考えられます。
ただし、施設の大部分が大阪市に集中しており、経済効果も特定の地域に偏っている可能性があるため、全国的な効果については詳細な検証が必要です。
宿泊施設不足を補っている
特区民泊の導入は、宿泊施設不足を補う効果もあります。
近年、観光地に過剰な人が集中する「オーバーツーリズム」が世界各地で問題となっており、各観光地で宿泊施設不足が生じています。日本も例外ではなく、東京や大阪などの大都市では、宿泊施設不足は深刻な問題です。[7]
観光客の受け入れ体制の強化につながっており、特区民泊は地域の観光産業にとって重要な役割を果たしています。
特区民泊の拡大がもたらした問題

特区民泊は経済効果や宿泊施設不足の解消といったメリットがある一方で、さまざまな問題ももたらしています。近隣住民とのトラブルや安全保障上の課題について詳しく解説します。
近隣住民とのトラブルが発生している
民泊に宿泊するゲストによってゴミのポイ捨てや騒音問題が発生し、近隣住民に迷惑をかけるケースが多数報告されています。
具体的には、以下のような迷惑行為が確認されています。
- アパートの塀にゴミを投げ捨てる
- 午後12時や午前1時に合唱しながら騒ぐ
- ゴミ捨て場の使い方が分からず、隣のビルのダストボックスにゴミを置く
- 植木に吸い殻を投げ捨てるなどの危険行為を行う
また、こうした問題が発生している施設の多くを、外国籍事業者が運営していることも問題です。
外国人による土地の購入が増加している
外国人による日本の土地購入につながっている点も、特区民泊の問題点です。
日本以外の国では外国人による土地売買に厳しい規制がかけられていますが、日本では規制が緩く、外国人でも特区民泊制度を活用すれば比較的簡単に土地を購入できます。
特区民泊は、外国人が経営管理ビザを取得して運営しているケースも少なくありません。
そして、特区民泊への利用をきっかけに、外国人による日本の土地購入が加速。外国人による売買は安全保障上の危険があるとして問題視されています。[8]
こうした問題から、外国人による土地購入により強い規制が求められており、今後は特区民泊制度の改革や経営管理ビザを取得する要件の厳格化が進むと考えられています。
大阪の特区民泊への対応
特区民泊の大部分が集中している大阪では、施設増加によるさまざまな問題を受け、特区民泊制度への対応が見直されつつあります。
大阪の特区民泊への対応として、2025年8月から9月に起きた以下の2つの大きな変化について解説します。
- 大阪市での特区民泊の新規受付停止
- 寝屋川市の特区民泊制度からの離脱
大阪市では特区民泊の新規受付が停止
大阪市には全国の特区民泊の約95%が集中しており、その分ゴミや騒音などによる近隣住民とのトラブルも圧倒的に多いのが実情です。
こうした問題を受けて、大阪市の横山英幸市長は大阪市での新規の特区民泊受付停止を検討。すでに開業に向けた手続きを進めている事業者を考慮して一定の猶予期間を設け、2026年中ごろには停止したいとの考えを示しています。
また、不適切な事業者への指導強化や認可取り消しなどの制度改正についても、国と協議を進める方針です。
寝屋川市も特区民泊から離脱
寝屋川市は特区民泊制度に対して”住宅都市としての魅力を高めることを目指していて、規制緩和をしてまで旅行客を受け入れるという方向性とは大きく異なる”との考えを示しています。つまり、規制を緩和して観光客を増やすことよりも、地域住民の住みやすさを優先する、というのが寝屋川市の方針です。
ただし、特区民泊制度からの離脱について、明確に定められたルールはなく、市の意向だけで業務を停止することは難しい状況です。そのため、寝屋川市は大阪府に対して申し立てを行い、離脱に向けた具体的な手続きを進めるよう求めています。
特区民泊を巡って、国と自治体との間で観光に関する方針の違いが表面化したケースとして、注目を集めています。
経済か地域の声か?バランスが求められる局面に突入
全国の国家戦略特区では、特区民泊による経済効果を優先するか、騒音やゴミ問題に悩む地域を優先するか、バランスが求められる局面に突入しています。
大阪市の新規受付停止や寝屋川市の離脱表明は、経済効果よりも地域住民の声を重視する姿勢の表れです。しかし、近年の急激な観光客増加への対応や観光産業の成長という観点では、特区民泊の縮小は経済的な損失を生む可能性もあります。
今後は住民の生活環境を守りつつ、適切な管理体制のもとで特区民泊をどのように運営していくかを模索していくことが重要となります。
まとめ | 特区民泊から考える持続可能な観光の形
特区民泊の現状は、今後の観光における重要な課題を表しています。
持続可能な観光発展においては、単に観光客数や経済効果の拡大を追求するだけでなく、地域住民との共生を前提とした観光の仕組みが不可欠です。そのためには、事業者による適切な管理体制はもちろん、行政による監督や地域コミュニティとの対話が重要です。
特区民泊によって表面化した問題を教訓に観光の形を見つめ直し、持続可能な観光地づくりを目指しましょう。

参考文献
[1] 特区民泊について | 民泊制度ポータルサイト「minpaku」
[6] 経営・管理ビザ 許可基準厳格化求める外国人材等特別委員会 | お知らせ | ニュース | 自由民主党
