企業版ふるさと納税でつくる旅プラン。企業の社会投資を「訪問・参加・学び」へ

企業版ふるさと納税は、企業が地方公共団体の地方創生プロジェクトに寄附を行うことで、最大9割の税額控除を受けられる制度です。
税制面の優遇だけでなく、CSR(企業の社会的責任)の発信になったり、地方とのパートナーシップ強化につながったりとさまざまなメリットがあります。
本記事では、企業版ふるさと納税の基本的な仕組みや、旅プランとしての活用方法、具体的な国内事例などを詳しく解説します。
企業版ふるさと納税とは?地域プロジェクトを企業が支える制度の基本

企業版ふるさと納税とは、地方公共団体の地方創生プロジェクトに企業が寄附を行った場合、法人関係税から税額控除を受けられる制度です。令和9年度まで利用できる時限措置として設けられており、地方創生の推進を目的としています。[1][2][3]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 控除される税金の種類 | 法人住民税、法人税、法人事業税 |
| 控除額の上限基準 | 法人住民税:寄附額の4割または法人住民税法人税割額の20%のうち小さい方 法人税:寄附額の1割または法人税額の5%、もしくは法人住民税で4割に達しなかった場合の残額のいずれか最も小さいもの 法人事業税:寄附額の2割または法人事業税額の20%のうち小さい方 |
| 寄附上限 | 1回あたり10万円以上本社が所在する地方公共団体以外への寄附 |
寄附は、1回あたり10万円以上で、本社所在以外の自治体が対象です。控除上限額は「寄附額の割合」と「税額上限」のうち、いずれか小さい方が適用されます。
個人版ふるさと納税との違い
| ふるさと納税の種別 | 企業版ふるさと納税 | 企業版ふるさと納税 |
|---|---|---|
| 返礼品の有無 | 無し(経済的な利益のある返礼品は禁止) | 有り |
| 寄附先の制限 | 本社が所在する地方公共団体への寄附は禁止 | 制限無し |
個人版ふるさと納税との最も大きな違いは、返礼品の有無です。個人版では寄附に対する返礼品が認められていますが、企業版では経済的な利益のある返礼品は禁止されています。
具体的には、地方公共団体が寄附をした法人に対して、以下のような行為を行うことができません。[4]
- 寄附を理由とした補助金の交付
- 寄附を理由とした他の法人より低い金利での貸付け
- 合理的な理由なく、市場価格より低い価格で財産を譲渡すること
- 寄附を理由とした換金性の高い商品(商品券やプリペイドカード等)の提供
- 寄附を活用して整備した施設を専属的に利用させること
一方で、以下のような事例は禁止行為に該当せず、実施しても問題ありません。
- 感謝状などの贈呈
- 地方公共団体のHPや広報誌などで、寄附を活用した事業の紹介に合わせて寄附を行った法人の名称を他の寄附者と並べて紹介すること
- 社会通念上許容される範囲内での記念品などの贈呈
また、寄附先の制限も個人版と企業版の大きな違いです。個人版では寄附先に制限がありませんが、企業版では本社が所在する地方公共団体への寄附が禁止されています。
企業版ふるさと納税が注目される背景
企業版ふるさと納税が注目される背景には、地域課題の深刻化とCSRへの要求が高まっていることがあります。
多くの地方において、人口減少や産業の衰退は大きな課題です。これらの解決策として企業から資金や人材の援助が求められており、その手段として企業版ふるさと納税が注目されています。
寄附を通じて地方創生に参加することで、企業はESG(環境・社会・経営という企業の長期成長に必要な3つの観点)やSDGsへの取り組みを強化できる点も利点です。
また、自治体とのパートナーシップの構築や社内の人材育成につながるといったメリットもあり、企業価値の向上に役立つ制度として導入が広がっています。
企業版ふるさと納税の旅プランとしての活用
企業版ふるさと納税には「人材派遣型」という制度があります。人材派遣型は、企業が地方公共団体に対して人件費を含む事業費を寄附するとともに、自社の人材を派遣する形態です。
派遣された人材は、以下のような形で寄附活用事業に関わります。
- 寄附活用事業に関与する地方公共団体の職員として派遣される
- 地域活性化事業を行う団体などに派遣される
長期滞在により地域課題の本質を理解できるほか、越境学習としての価値も高く「学びの旅」として有効活用できます。
また、返礼品は禁止されていますが、寄附先を任意で訪れるのは問題ありません。寄附を行った地域を社員旅行や研修などで実際に訪れることで、学び・労働・交流を通じてより深い体験ができます。
企業版ふるさと納税のメリット | 企業サイド
企業版ふるさと納税は、地域社会への貢献を通じて企業の社会的責任を果たせるだけでなく、新規事業の開拓や自治体との強固なパートナーシップの構築、さらには社内の人材育成にもつながる制度です。
CSR(企業の社会的責任)が向上する
企業版ふるさと納税は、地方創生という社会課題の解決に貢献できるため、CSR(企業の社会的責任)の向上につながります。
また、環境課題に取り組んでいる地方公共団体も多く、こうした団体に寄附を行うことで直接環境保護にも貢献可能です。
地域の実情に合わせた具体的なプロジェクトを支援することで、企業は自社のESG活動を可視化し、社会的な信頼を高められます。
新規事業開拓の可能性がある
企業版ふるさと納税を通じて地域と関わることで、新規事業の開拓につながる可能性があります。地域ならではの資源や特性への理解は、新たなビジネスチャンスを見つける良い機会となるためです。
自治体との強いパートナーシップを構築できる
企業版ふるさと納税は経済的な支援だけでなく、企業のノウハウや技術・人材を提供することで、より深い信頼関係を構築できます。
こうしたパートナーシップは、将来的な事業展開や地域での活動基盤にもつながり、企業の持続的な成長を支える資産となります。
社内の人材育成につながる
人材派遣型の企業版ふるさと納税は、人材育成に効果的です。
地方公共団体や地域の関係者と協働する経験は、課題発見力や問題解決力を高める貴重な機会となります。限られた資源の中で成果を出す工夫や、さまざまな関係者との調整能力は、企業に戻った後も活かせる実践的なスキルです。
越境学習の一貫として若手社員に経験させることで、自律的に行動できる人材を効率的に育成できます。
企業版ふるさと納税を活用するメリット | 地域サイド
企業版ふるさと納税は、地域にとっても大きなメリットをもたらします。経済的な支援や人的支援を受けられるだけでなく、地域だけでは実現が難しかった施策やイノベーションが生まれる可能性が広がります。
地域課題解決のための財源を確保できる
当地域は厳しい財政状況から独自に防災対策を整えるのが困難な状況にありましたが、企業版ふるさと納税を活用することで、課題解決に必要なリソースの確保に成功しました。
企業版ふるさと納税による寄附は、その場限りの資金提供ではなく、地域の持続可能な発展を支える重要な財源です。
企業との協働によるイノベーションや人材交流が生まれる
参考事例として、岡山県玉野市と三井E&Sホールディングスの「たまの版地方創生人財育成プロジェクト」が挙げられます。
本プロジェクトでは、市立玉野商業高校への工業系学科新設を柱とした、多くの革新的な取り組みが進められました。[7]
企業版ふるさと納税と連動した旅プランの国内事例
企業版ふるさと納税を活用し、観光振興を行う自治体が全国各地で増えています。
企業からの経済的支援やノウハウ・技術の提供と、地域の強みを生かした取り組みが見られます。
青森県弘前市「援農ボランティアツアー」

青森県弘前市は、国内で流通されるりんご生産量の4分の1を占める、日本一のりんご産地です。りんご産業が経済を支える一方で、環境問題や人手不足、高齢化の課題に直面しています。
2020年度時点で生産者の平均年齢は63.8歳に上昇し、経営体数は平成22年の約6,500から令和2年には約4,700へと、約10年で2,000近く減少しました。[8]
さらに、以下のような環境問題も深刻化しています。
- 温暖化による着色不良や日焼け
- 初夏や晩秋に気温が急に下がることによる農作物や果樹への被害
そんなりんご産業の人手不足と、環境変化への対応のために取り組まれているのが「弘前援農プロジェクト」です。
また、参加者には、弘前の工場で製造された「ニッカ弘前生シードル」がお土産として提供されるなど、弘前のりんご産業への理解を深める工夫も行われています。
普段は限られた人々との交流が中心の農家にとって、さまざまな業種や地域から訪れるボランティアとの出会いは、新鮮な刺激となっています。一方、参加者にとっては、弘前の魅力との初めての出会いや、りんご収穫作業という新鮮な体験が高い評価を獲得。
このように、弘前援農プロジェクトは参加者と農家の双方に、新たな価値を生み出しています。
奈良県天理市「スポーツツーリズム」

天理市は奈良県北中部に位置し、日本最古の道「山の辺の道」をはじめ数々の文化財や史跡が残る地域です。
さらに、柔道、ラグビー、野球などのスポーツが盛んで、トップアスリートを輩出する「スポーツのまち」としても知られています。
具体的には、以下のような活動を行っています。
| ツアー種別 | アスリート強化合宿ツアー | ファミリー向けツアー | ファミリー向けツアー |
|---|---|---|---|
| 内容 | 合宿目的で天理大学に訪れる国内外のアスリートに対し、宿泊所の手配や移動手段の確保などのサポート、酒造見学や石上神宮参拝などのオプショナルツアーを提供 | 天理大学柔道部指導のもと、ファミリー向けの柔道体験ツアーを実施 | 企業に対し、当市の歴史文化を学べるオプショナルツアーや、天理柔道の講話学習・柔道体験などを組み入れたツアーを実施 |
上記の活動に加え、将来的にはスポーツコミッション(スポーツイベントの誘致や地域活性化を推進する組織)の設立も構想されています。アスリートがコミッションに所属し、セカンドキャリアを築ける仕組みを整えることで、人口流出の抑制、地域経済の活性化を図る計画です。
茨城県県北地域「県北ニューツーリズム推進事業」

茨城県県北地域では、現在「県北ニューツーリズム推進事業」が進められています。
当地域には「常陸国ロングトレイル」と呼ばれる、全長320kmのロングトレイルコースがあります。里と山をつなぐルートを歩くことで、非日常的な体験ができる点が特徴です。
また、整備と並行してロングトレイルコースの情報発信や体験型観光の推進も行われています。具体的には以下のような活動を行っています。
- ロングトレイルコースや周辺の地域の情報をホームページなどで発信
- 地域資源や休息所、宿泊施設などをまとめたマップの作成
- ロングトレイルコースを活用したアクティビティや温泉、健康食などを組み合わせたプログラムの作成
- 地域の事業者と連携した特産品などの新たなお土産品の開発
ロングトレイルコースを基盤とした観光プログラムを整備することで、高齢化や人口減少の対策につなげる狙いです。
旅プランを実施するための手順|企業版ふるさと納税の流れ
企業版ふるさと納税を活用した旅プランを実施するには、計画的な準備と手続きが必要です。事前に申請や税務処理の流れを把握しておきましょう。
- 寄附先の地方公共団体・プロジェクトの選定
- 社内提案資料などの作成・社内調整
- 地方公共団体との調整
- 広報の準備・実施
- 税務処理
1. 寄附先の地方公共団体・プロジェクトの選定
まずは、寄附先の地方公共団体とプロジェクトを選定しましょう。
自社の事業内容やCSR方針、SDGsへの取り組みと親和性の高いプロジェクトを選び、より意義のある支援につなげましょう。
2. 社内提案資料などの作成・社内調整
寄附先を選定したら、社内提案資料を作成し、社内調整を行います。企業版ふるさと納税を活用するメリットを社内や関係者に説明し、理解を得ましょう。
3. 地方公共団体との調整
社内調整が完了したら、寄附先の地方公共団体と具体的な調整を行います。
まず、企業は対象となる地域の事業内容を確認し、自治体へ寄附申出書を提出しましょう。
自治体は内容を確認し、受入れ可能と判断した場合に、寄附金の振込口座や手続き方法などを通知します。その後、自治体側で納付の方法と時期を調整し、企業側に連絡が入ります。企業は指定された納付書払いや振込により寄附を行う流れです。
人材派遣型を活用する場合は、派遣期間や業務内容、受入れ体制などについても調整しましょう。
4. 広報の準備・実施
寄附の手続きが完了したら、広報活動の準備・実施します。
主な取り組みは次のとおりです。
- 寄附目録贈呈式の開催
- 報道発表(プレスリリース)の実施
- 地方公共団体のホームページや広報誌における寄附企業名の紹介
- 寄附を活用して整備した施設への銘板の設置
企業にとっては、CSR活動やSDGsへの取り組みを対外的にアピールする良い機会です。自社のウェブサイトやSNS、プレスリリースなどで寄附の目的などを発信することで、関係者や顧客に対して社会貢献の姿勢を示せます。
5. 税務処理
寄附が完了したら、税務処理を行います。税額控除は、実際に寄附を行った日が含まれる事業年度に適用されます。
申告時には、地方公共団体から交付された受領証を添えて、企業版ふるさと納税の適用があることを申告し、税の控除を受けましょう。
企業版ふるさと納税を活用した旅プラン設計のポイント
企業版ふるさと納税を単なる寄附や視察で終わらせず、企業と地域の双方に価値のある体験を創出するためには、綿密な設計が欠かせません。
企業への非金銭的リターンを高める工夫をする
企業版ふるさと納税では経済的利益のある返礼品は禁止されています。そのため、非金銭的なリターンを高める工夫が重要です。
たとえば、自治体の広報媒体で企業の取り組みを紹介すれば、企業の認知度向上に大きく貢献できます。
長期的なパートナーシップを結ぶ視点で、効果的なリターンを設計しましょう。
地域側の受入れ体制と評価設計を整える
地域側の受入れ体制と評価設計を整えることは、企業版ふるさと納税を活用した旅プランを成功させる重要な要素です。
企業が安心して寄附や人材派遣を行えるよう、地域には以下のような取り組みが求められます。
- 受入れ窓口の明確化
- 宿泊施設や移動手段の確保
- 現地でのサポート体制の整備
あわせて、成果を客観的に示す評価設計を整えることで、企業は寄附の価値を実感できるようになり、その結果、持続的なパートナーシップの形成にもつながります。
まとめ|企業版ふるさと納税と旅が生む新しい地域共創モデル
企業版ふるさと納税は、単なる寄附制度ではなく、企業と地域が共に成長する新しい地域共創モデルです。
本制度を旅プランと組み合わせることで、企業は人材育成や新規事業開拓の機会を得られ、地域は財源の確保やイノベーションの創出につなげることができます。返礼品こそ禁止されていますが、地域との深い関係性や非金銭的なリターンは、長期的な企業経営にとって大きな資産となります。
本記事で紹介した事例やポイントを参考に、自社に適した企業版ふるさと納税の活用方法を検討し、地域と共に持続可能な未来を築いていきましょう。
参考文献
[1] 企業版ふるさと納税をぜひご活用ください! – 内閣府
[2] 企業版ふるさと納税とは | ふるさと納税サイト「さとふる」
[3] 企業版ふるさと納税とは? メリットをわかりやすく解説! | 企業版ふるさと納税なら、ふるさとコネクト
[4] 「寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与すること」についての解説
[5] ごみ焼却からの二酸化炭素を利活用 カーボンリサイクルで地域を活性化!
[8] 【事例紹介】企業版ふるさと納税令和6年度大臣表彰受賞 青森県弘前市 弘前援農プロジェクト – 企業版ふるさと納税バトンパス
[9] 奈良県天理市の企業版ふるさと納税 | スポーツだけじゃない! 観光だけでもない! スポーツツーリズムで地方創生 | 企業版ふるさと納税なら、ふるさとコネクト
