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フランス発・観光公害に警鐘 Evaneosの問題提起キャンペーン

2026 1/07
経済(働き方、生産・消費、産業・技術)
サステナブルツーリズム フランス 各国の事例 持続可能な観光 気候変動
2026-1-8
フランスのリヨン

フランス・パリ拠点の旅行代理店「Evaneos(エヴァネオス)」は、広告代理店「Socialclub」と協力し、オーバーツーリズムに対する問題提起を目的としたキャンペーンを実施しました。これは、毎年夏になると人口の数十倍の観光客が押し寄せるギリシャのサントリーニ島とミコノス島に対し、ネガティブなメッセージをあえて掲げることで、深刻化する観光問題を可視化しようとする試みです。

パリの地下鉄ホームには、以下をはじめ、多数のメッセージが記載された広告が掲出されました。

「Mykonos en juillet, c’est comme le métro à l’heure de pointe. Sauf qu’on est tous en maillot de bain.(7月のミコノスは、まるでラッシュアワーの地下鉄みたい。みんな水着を着ているっていう違いだけ。)」

6月9日から22日にかけて行われた同キャンペーンでは、こうした強いメッセージを掲示するだけでなく、旅行代理店としてオーバーツーリズムにどう向き合うべきかをあらためて示し、「旅行者に働きかけ、旅のあり方を見直し、より良識的な観光を実現するために協力しよう」と呼びかけています。

これは、せっかくのバケーションがストレスや混雑と結びついてしまう状況を避け、旅行そのものの価値を守る意図も含んでいます。

さらに「Evaneos」は、2025年からサントリーニ島およびミコノス島への夏季旅行プランを販売しない方針を発表しました。オーバーツーリズムが両島の生態系や限られた資源に深刻な負荷をかけていることを受け、その影響を最小化するための具体的な対策とされています。

オーバーツーリズムはサントリーニ島とミコノス島だけに限られた問題ではありませんが、今回のキャンペーンが象徴的な事例としてこの2島を取り上げたことは、状況が特に深刻であることを物語っています。

目次

旅のオンラインプラットホーム「Evaneos」とは?

「Evaneos(エヴァネオス)」は、いわゆる一般的な旅行代理店とは異なり、世界各国に点在する現地エージェントと旅行者を直接つなぐオンライン・プラットフォームとして2009年に設立されました。創業者のエリック・ラ・ボナルディエールとイヴァン・ウィボーの理念のもと、現在はベルギー、ドイツ、エクアドル、フランス、イギリス、インド、イタリア、カナダ、マダガスカル、メキシコ、スペイン、アメリカの12カ国にわたり、120人以上の現地エージェントを擁しています。

社名の「Evaneos」は、フランス語で「(日常から)逃れる」を意味する evasion と、古代ギリシャ語の「新しい」を意味する néo を組み合わせた造語です。「旅は現地の人々との関係性を通して築かれるものであり、単なる消費ではない」という信念を掲げるEvaneosは、マスツーリズム(消費型観光)がもたらす負荷に対し、明確な問題意識を持って活動しています。

またEvaneosは、ドイツ・ミュンヘンに本拠を置く欧州最大級のコンサルティング企業「Roland Berger(ローランド・ベルガー)」と協力し、観光地における観光客の集中度や過剰度を測定するための指標「オーバーツーリズム指数(Overtourism Index)」を作成しています。同指数は世界70以上の観光地を対象としており、観光圧力を可視化するために複数の要素をもとに算出されています。

1.観光客の数(宿泊者数・訪問者数)

2.地域人口との比率

3.交通・宿泊・公共施設のキャパシティ

4.環境・社会への影響(ゴミの増加、住民生活への圧迫など)

数値が高いほど、オーバーツーリズム状態と判断される仕組みとなっており、これまでに、イタリア・ヴェネツィアやスペイン・バルセロナなどの人気観光地がオーバーツーリズムと認定されました。

サントリーニ島とミコノス島の現状

ギリシャ銀行の最新データによると、2023年にギリシャを訪れた観光客は過去最多となる3610万人に達し、観光収入は約200億ユーロに上りました。

しかし、オーバーツーリズムによる深刻な影響が懸念される中、ギリシャ政府は2025年7月からクルーズ船で来訪する観光客に対して税金を徴収する方針を発表しました。サントリーニ島とミコノス島では、他地域よりも高い1人20ユーロの「サステナブル観光税」が導入され、観光負荷の軽減を図るとしています。

さらに、サントリーニ島の港湾管理団体(Municipal Port Fund of Thira)は、2025年および2026年を対象に、クルーズ船客の上陸者数を1日最大8,000人に制限する措置を本格的に導入しました。

こうした厳しい規制が必要とされる背景には、両島で続いてきた急激な観光客増加があります。

サントリーニ島とミコノス島では2000年代初頭から訪問者が増え始め、インターネットやソーシャルメディアが普及したことで人気はさらに加速。2010年代後半にはすでに環境負荷の増大、水資源の圧迫、住民生活への悪影響、自然環境の破壊といった問題が明らかになっていたにもかかわらず、観光業への依存度が高かったため十分な対策が取られてこなかったのではないかという指摘もあります。

サントリーニ島:
「世界一美しい」と称される夕日で知られるサントリーニ島は、ギリシャ南部、エーゲ海に浮かぶキクラデス諸島の一部で、人口約2万人、面積約76km²。古代の火山活動によって形成されたカルデラの地形が特徴で、断崖に立ち並ぶ真っ白な壁と青い屋根の建物が織り成す景観は世界的に人気があります。

年間の観光客数は300万人を超え、特に夏季は1日1万人以上のクルーズ船客が上陸し、島全体が大混雑します。また、島外からの投資が急増し、ホテルや短期滞在用アパートの建設が相次ぐことも問題を深刻化させています。

ミコノス島:
「エーゲ海に浮かぶ白い宝石」と呼ばれるミコノス島は、真っ白な壁の家、青い窓枠、丘の上の風車、ドーム型の教会、そして夏の強い日差しが照らす深い青色の海が象徴的な島です。

人口約1万人、面積約85km²の小さな島ながら、バーやクラブが集中し、世界的DJを招いたパーティーが頻繁に開催されることから「欧州のパーティーアイランド」としても知られています。夏のピーク時には、島の人口の20〜30倍もの観光客が押し寄せ、島のキャパシティを大幅に超える状況が常態化しています。

オーバーツーリズムによって起こる深刻な問題

では、オーバーツーリズムによって具体的にどのような問題が生じているのでしょうか。ギリシャを例に見てみましょう。ギリシャは地中海地域の中でも最も地球温暖化の影響を受けている国のひとつと言われ、近年では夏の気温が45℃前後に達する異常な熱波が増加し、毎年のように大規模火災が発生しています。

さらに、サントリーニ島やミコノス島を含むキクラデス諸島では、海面上昇や嵐の増加によってビーチの侵食が進み、観光船の受け入れや安全性にも影響が及んでいます。

こうした深刻な状況にもかかわらず、ギリシャではGDPの約20〜25%が観光産業に依存しており、観光が欠かせない産業となっているため、問題への対応は複雑化しています。

ギリシャの多くの島々は地下水が乏しく、雨水に依存していますが、人口を大幅に超える観光客が押し寄せることで、ホテルのプール、ランドリー、シャワーといった観光施設での水使用量が急増し、水資源の枯渇を招いています。

また、観光客の増加により交通渋滞、下水処理の逼迫、ゴミ問題が深刻化し、環境破壊につながっていることから、地元住民が反対デモを行うほどの事態に発展しています。

「オーバーツーリズム指数」が世界各地に警鐘を鳴らす

前述の「オーバーツーリズム指数」によれば、ギリシャだけでなく、キプロス、モーリシャス、クロアチアなどもオーバーツーリズムの悪影響を受けやすい地域として挙げられています。これらの国々はギリシャ同様に観光業への依存度が高く、GDPの約25%を観光業が占めています。

例えばモーリシャスでは、人口の約22%が観光業に従事していますが、地球温暖化による海面上昇、海岸浸食、サンゴ礁の白化、暴風雨の激化、ビーチの劣化といった環境変化によって観光地としての魅力が低下しつつあります。

サンゴ礁やマングローブといった重要な生態系が破壊され、漁業資源の過剰利用も進んでいるため、観光経済そのものが脅かされており、2050年までにビーチ浸食によって最大5,000万米ドルの収益が失われると推定されています。

最後に

オーバーツーリズムは日本語で「観光公害」とも呼ばれ、日本も決して対岸の火事ではありません。円安の影響もあり、2024年には訪日外国人数が年間3,700万人に達し、今年は過去最多を更新する見込みです。現在一時帰国中の筆者も、2年前と比べ明らかに外国人観光客が増えていると実感しており、東京、京都、奈良といった人気観光地だけでなく、長野の田舎でも同様の傾向が見られることに驚かされています。

インバウンドの増加自体が悪いわけではありません。しかし、経済的利益が見込まれるからと観光業に過度に依存すれば、地球温暖化と相まって、美しい自然や貴重な資源の破壊を招きかねません。旅とは、観光客で溢れ返った場所へ行き、インスタグラムに写真を投稿することが目的ではないはずです。

「Evaneos」が掲げるように、私たちは改めて“本来の旅とは何か”を考える必要があるのではないでしょうか。




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