出張の「宿選び」でScope3を削減。サステナブル認証ホテルを活用した、新しい出張モデル

製造や輸送、販売などのサプライチェーン全体で排出される温室効果ガスの量は、ESG評価や企業価値を左右する重要な指標です。
本記事では、サステナブル認証の宿泊施設を選ぶビジネス上のメリットや、具体的な認証制度などについて詳しく解説します。
なぜ宿泊施設の選択がScope3の削減につながるのか
宿泊施設の選択は、Scope3の削減に影響します。
Scope3とは、自社の事業活動に関連して、他社(サプライチェーン)で排出される温室効果ガスのことを指します。[1] これには原材料の調達や輸送だけでなく、従業員の「出張」に伴う排出も含まれます。
出張においては、移動手段だけでなく、滞在先である宿泊施設でのエネルギー消費(空調、照明、給湯など)も見逃せません。これらはすべて、自社の活動に伴う排出量としてカウントされるからです。
そのため、サステナブル認証を取得した宿泊施設や、省エネ設備を導入した施設を選ぶことは、出張に伴うCO2排出量を抑え、結果として全社のScope3削減に貢献することにつながります。
Scope1・2・3の違いを解説
事業者が行う、原材料の調達・製造・販売などで排出される、全ての温室効果ガス排出量の合計を「サプライチェーン排出量」と呼びます。[2]
サプライチェーン排出量はScope1・Scope2・Scope3の3つに分けられ、それぞれ排出の主体や範囲が異なります。[3]
| 区分 | 定義 | 排出活動例 |
|---|---|---|
| Scope1 | 事業者による直接的な排出 | 自社での化石燃料の燃焼、セメントの製造、フロンガスの漏洩など |
| Scope2 | 他社から供給された電力や熱、蒸気の使用による間接的な排出 | 自社が購入・使用した電気、熱、蒸気の生産 |
| Scope3 | Scope1・2以外の間接的な排出。自社事業の活動に関連する他社の排出 | 原材料の調達、生産設備の増設、従業員の出張、従業員の通勤、商品の保管・輸送など |
Scope1は、自社の活動による直接的な温室効果ガスの排出です。Scope2は電力会社など、外部から自社にエネルギーが供給されることによる排出を指します。
Scope3は、Scope1・2以外の間接的な排出です。他社の排出が該当するため範囲が広く、最も管理が難しい領域といえます。
サステナブル認証の宿泊施設を選ぶビジネス上のメリット
サステナブル認証を取得した宿泊施設を選ぶことは、Scope3の削減につながり、結果的に企業経営にも大きなメリットをもたらします。環境に配慮した出張方針は、株主や投資家からの信頼獲得、そしてESG評価の向上という2つの側面から企業価値を高めます。
IRで株主や投資家からの信頼性が高まる
近年、機関投資家は企業の財務情報だけでなく、環境への取り組みを重視する傾向が強まっています。
ESGの評価が向上する
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を取った言葉です。企業の長期的な成長に欠かせない要素とされており、近年は財務情報に加えて、企業価値を左右する要素として認識されています。
環境配慮型ホテルの認証制度
環境配慮型ホテルの認証制度には、さまざまなものがあります。各制度は独自の評価基準や項目を持ち、宿泊施設の環境パフォーマンスをさまざまな面から評価しています。
GSTC認証

GSTC認証とは、世界持続可能観光協議会(GSTC=Global Sustainable Tourism Council)が定める、サステナブルツーリズムの認証制度です。[4]
この認証では、以下の4つの柱に基づいて、宿泊施設や観光地が持続可能な運営を行っているかを評価します。
- 持続可能なマネジメント
- 社会経済への影響
- 文化への影響
- 環境への影響
GSTCは、国連環境計画や世界観光機関などの支援を受けて設立された組織です。そのため、GSTCの認証制度は国際的にも信頼性が高く、多くの国でサステナビリティ基準として採用されています。
Green Key | 世界65カ国以上で展開される環境認証プログラム

Green Keyとは、デンマークに本部を置く「国際環境教育基金(FEE)」が運営する環境認証プログラムです。宿泊施設や観光関連施設向けの認証制度で、2024年1月時点では世界60か国以上、5,000以上もの施設が本認証を取得しています。[5]
Green Keyの特徴は、環境保護に関する取り組みを評価する点です。水やエネルギーの使用削減、廃棄物の管理、環境保護活動など、13の分野にわたる厳格な基準が設けられています。
LEED | 建築物の環境性能を総合的に評価する国際認証制度

LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)は、米国グリーンビルディング協会が開発した、建築物と敷地利用の環境性能評価システムです。建築・不動産業界における環境認証の基準として、世界的に広く利用されています。[6]
以下のような内容が、評価項目として定められています。
- 持続可能な建築資材の使用
- 水やエネルギーの効率性
- 室内環境の品質
- 敷地選定による生態系と水資源への影響
LEED認証の取得には、立地や建築材などの選定も重要です。そのため、LEED認証を受けた宿泊施設は、建築段階から環境配慮がなされた施設といえます。
EarthCheck | 科学的データに基づく持続可能性の測定・認証システム

EarthCheckは、1987年にオーストラリアで発足された団体です。観光産業に関する調査や認証、ベンチマークの作成などを行っています。[7]
さらに、認証は12か月ごとに更新されるため、認証取得施設には、評価後も継続的な取り組みが求められます。
サクラクオリティグリーン | 日本発の宿泊施設向け環境配慮認証制度

サクラクオリティグリーンは、日本国内の宿泊施設を対象とした認証制度です。株式会社日本ホテルアプレイザルが運営しており、国際的にも高い認知度を誇ります。[8][9]
サクラクオリティグリーンでは、宿泊施設の持続可能性をESG(環境・社会・ガバナンス)の視点から総合的に評価します。環境配慮、地域貢献、雇用・多様性など、国連のSDGs17目標を基にした、172項目が評価基準です。
施設に与えられる評価は「1御衣黄(ぎょいこう)ザクラ」から「5御衣黄ザクラ」までの5段階に分けられています。
サステナブル認証を取得している国内宿泊施設5選
日本国内でも、環境配慮の取り組みを積極的に進め、国際的なサステナブル認証を取得する宿泊施設が増えています。出張時の宿泊先を選ぶ際は、こうしたサステナブル認証を取得した宿泊施設を利用し、Scope3の削減につなげましょう。
パレスホテル | 日系ホテル初のGSTC認証取得

パレスホテル東京は、東京都千代田区に位置するホテルです。1961年の開業以来、落ち着きと品格に満ちた上質なホテルとして、多くの利用者に愛されています。[10]
同ホテルは、日系ホテルとして初めてGSTC認証を取得したホテルとしても知られています。サステナビリティの概念が広まる以前から、環境や社会に向けた取り組みを続けてきました。[11]主な取り組みは以下のとおりです。
- 生ごみを有機肥料に変える循環型リサイクルシステムを整備
- ロスフード食材を使用した商品の開発
- 代替肉を用いた環境配慮メニューの提供
- 高効率な冷暖房機器の導入
- 再生可能エネルギーを利用した発電システムの導入
とくに、ホテル内の生ごみを利用して作られた有機肥料「エコパレス」は、東南アジア諸国の行政、環境省関係者からも注目を集めています。
こうした取り組みの結果、2021年には「エコマーク認定」を取得。エコマーク認定は、環境への取り組みが高いレベルで実施されている宿泊施設を評価する制度です。
さらに、2025年10月8日には、GSTC認証を日系ホテルとして初めて取得しています。
帝国ホテル | 日本初の5御衣黄ザクラ取得

帝国ホテルは、日本を代表する老舗の国際的なホテルです。1890年に迎賓館として開業して以来、世界各国の著名人から利用されています。[12]
「社会の要請に応え、貢献する」という初代会長・渋沢栄一の信念を受け継ぎ、SDGsの達成に向けたさまざまな取り組みを行っています。
帝国ホテルが行う主な取り組みは、以下のとおりです。
- 客室アメニティなど12品目をプラスチックから代替素材に切り替え
- 廃棄食材を活かした商品・メニュー開発
- CO2フリー電力の導入
- 地域の団体・学校などと協働したイベントの開催
帝国ホテルでは、とくにプラスチック使用量の削減に力を入れています。
こうした取り組みの結果、2023年3月19日には東京・大阪・上高地の三つの事業所にて、サクラクオリティグリーン認証制度の最高評価「5御衣黄ザクラ」を取得しました。
また、2025年には帝国ホテル東京が「VERIFIED™ Responsible Hospitality」を、取得。本認証は、世界的なホテルの格付けで知られる「フォーブス・トラベル・ガイド」によるサステナビリティ認証です。
オークラ東京 | 最新テクノロジーでCO2排出量を44%削減

オークラ東京は、東京都港区に位置するラグジュアリーホテルです。老舗ホテル「ホテルオークラ」が、2019年に本館の建て替えとともに「オークラ東京」として生まれ変わりました。
2019年の建て替えで、以下のような最新のテクノロジー・設備を導入し、環境に優しいホテル運営を行っています。[14]
- 厨房からの排水や発電時に発生する排熱を再利用するシステム
- 人感センサー付き照明やコンピューター連動の空調制御などの省エネ機器
- 雨水やプール排水を再利用するシステム
他にも、緑化政策や生ごみ処理機を活用した食品廃棄物削減などにも取り組んでいます。
2023年3月17日には、サクラクオリティグリーン認証制度にて、5段階評価のうち4番目の「4御衣黄ザクラ」を獲得しています。
GOOD NATURE HOTEL KYOTO | 世界初のWELL・LEED同時取得

GOOD NATURE HOTEL KYOTOは、京都府京都市にあるホテルです。宿泊者の心地よさを追求しつつ、地球環境にも配慮したサステナブルなホテルとして知られています。
太陽光発電など再生可能エネルギーでの発電に加え、非化石証書も購入。「非化石証書の購入」とは、自社で使用している電気を再生可能エネルギー由来として扱うことのできる制度です。[16]
こうした取り組みの結果、同施設は、ホテル版評価基準による「WELL認証」と「LEED認証」を、世界で初めて同時に取得しました。
※WELL認証:人々の健康・快適性に焦点を当てた世界初の建物・室内環境評価システム。
※LEED認証:米国グリーンビルディング協会(USGBC)によって開発された、国際的な認証プログラム。
ホテル日航関西空港 | 空港直結ホテル初の4御衣黄ザクラ取得

ホテル日航関西空港は、関西国際空港直結のホテルです。空港ターミナルビルから徒歩で直結し、大阪市内へも最短35分と利便性が高く、ビジネスでの利用にも適しています。
こうした取り組みの結果、2024年1月12日にはサクラクオリティグリーンにおいて4御衣黄ザクラを獲得。空港直結ホテルでは初めての取得となっています。[18]
まとめ | 企業価値向上につながるサステナ認証宿泊施設の利用
出張時の宿泊施設選びは、単なるコスト削減や利便性だけの問題ではありません。企業価値にも影響する重要な要素です。サステナブル認証を取得した宿泊施設を選ぶことで、Scope3削減を通じて企業価値をアピールできます。
今後の宿泊先選びでは、本記事で紹介したような認証取得施設を積極的に活用し、環境負荷の削減と企業価値向上を両立させましょう。
参考文献
[1] Scope3排出量とは | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
[2] サプライチェーン排出量全般 | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
[3] Scope1、2排出量とは | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
[6] LEEDとは | Green Building Japan
[7] アースチェック:グローバルなサステナブル認証 – Ecotourism World
[9] サクラクオリティ認証の基準|宿泊施設の品質認証制度・品質向上プログラム
[10] 最上質の日本|パレスホテル東京について|パレスホテル東京
[11] サステナビリティに対する取り組み | パレスホテル東京
[13] 帝国ホテル 東京:サステナブルなホテルを目指して | トピックス | サステナビリティ | 帝国ホテル
[15] Sustainability | GOOD NATURE HOTEL KYOTO
[16] 「非化石証書」を利用して、自社のCO2削減に役立てる先進企業|エネこれ|資源エネルギー庁
[17] 取り組み| ホテル日航関西空港が取り組むSDGs | ホテル日航関西空港【公式】
[18] SDGs を実践する宿泊施設の国際認証『Sakura Quality An ESG Practice』 「4 御衣黄(ぎょいこう)ザクラ」を空港直結ホテルで初めて取得
