北欧から学ぶサステナブルな食の楽しみ方と最新トレンドを紹介

北欧と聞くと、衣や住に関わるサステナブルなライフスタイルを想像しますが、北欧の食のトレンドはご存知でしょうか。
今回は、国連で定義される「北欧」に則り、筆者が暮らすバルト諸国も含めた北欧エリア(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、デンマーク、エストニア、ラトビア、リトアニア)を中心に、サステナブルな食事情を紹介し、私たちが日常でも取り組めそうなヒントを探っていきます。
北欧のサステナブルフードに対する関心の高まり
サステナブルフードには明確な定義はありませんが、気候変動を引き起こす地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を抑える農法、調達方法をクリアした食材を指します。
例えば、
- 地元の食材を選ぶ
- 農薬や化学肥料を使用して栽培していない食材を選ぶ
- その他、環境や人権に配慮された方法で生産・調達された食材を選ぶ
などです。
また、魚介類を含む食肉や、卵・乳製品においては、周囲の生態系に配慮するだけでなく、アニマルウェルフェアにも寄り添った方法で飼育・収穫をしたものが含まれます。
サステナブルフードに着目しているのは、北欧も同じです。とりわけ、環境や人権問題にいち早く関心を持ち、国を挙げて取り組んできた国々だからこそ、北欧の事例や取組から私たちが学べることはたくさんあるはずです。
参照:What is sustainable food?|Sustain
北欧のサステナブルフードの背景

まずは、北欧におけるサステナブルフードの背景を探っていきましょう。
北欧諸国の環境意識の高さ
北欧諸国は、かねてより環境問題への意識が高いことで知られています。
例えば、スウェーデンは世界に先駆けていち早く環境保護法を成立させて国であり、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)を含む北欧エリアでは、誰もが自然のある場所にアクセスできる「自然享受権」を法律で保障しています。
北欧の国々には、都市部でも森や湖へ簡単にアクセスでき、仕事終わりや週末の空いた時間を使って、自然を感じながらのんびり過ごせる環境が整っています。
おかげで国民の多くにとって「自然は身近で欠かせない存在」という意識が芽生え、環境問題へ意識を向けることを当然のように思っているのです。

北欧のサステナブルフード具体例

ここからは具体的な事例を挙げながら、北欧で見られるサステナブルフードについて紹介します。
地元で採れる食材の利用
サステナブルフードの基本として挙げられるのは、地元でとれる食材の活用です。冬は暗く寒い気候が特徴の北欧エリアでは、栽培・収穫できる野菜が限られる中、自然の恵みを上手に活かした料理が多く見られます。
例えば、秋に森へ入ると、たくさんのきのこに出会えます。多くの市民は「食べられるきのこ」「食べられないきのこ」を認識し、自分で狩りに行くことも珍しくありません。高級食材としても人気のポルチーニや、黄色が目を惹くアンズダケのほか、時期や場所によって採れる稀少な種類も存在します。きのこを採ったあとは、家に戻って丁寧に土や虫を取り除き、採れたてを調理したり、ピクルスや乾燥状態にして保存したりと、旬の食材を上手に利用するのです。
黄色いアンズダケは、バターソテーにするのが定番で、晩夏から秋にかけて広い地域で収穫できることから、北欧の多くの地域では家庭料理としても親しまれています。
オーガニック農法の普及

北欧各国は、環境問題や持続可能な農業・健康問題への意識の高さから、オーガニック農法への取り組みも積極的です。特に、北欧の中でも農業の盛んなデンマークは、オーガニック大国として世界を先導してきた存在ともいえます。
1987年に世界で初めて、国を挙げてオーガニック農法の管理を開始したデンマークですが、国内におけるオーガニック商品の市場シェアは、2020年時点で12.8%であり、世界でも高い割合を誇っています。内訳としては、乳製品と卵が最も多く、次いで乾燥食品、野菜と果実、肉と続いています。
このように、オーガニック食品を見ていくと、野菜や果実・穀物といった植物の畑だけに限らず、動物を飼育する環境と安全な飼料の供給も重要な点です。
北欧を始めとした欧州の国々では、動物の福祉や権利の保障を意味する「アニマルウェルフェア」に関する法律があり、動物の飼育環境・処分などに関する様々な規制が定められています。
上記すべてのオーガニック食品として認められた商品には、デンマーク独自のオーガニック認証ラベル「Øラベル」が付いています。買い物の際に簡単に見分けられるため、消費者にとって質の高いオーガニック食品を選択しやすい環境が整っているのです。
参照:
The Danish Organic Label|ORGANIC DENMARK
Facts Figures about Danish Organics|ORGANIC DENMARK
Animal welfare|European Commission


水産業の持続可能な取り組み
北欧諸国の食材を語るうえで欠かせないのが、水産業による魚介類です。海や川の環境を壊さず、生態系を維持しながら持続可能な水産業を続けるために、それぞれの国で厳しいルールが設けられています。
豊富な水資源で有名なノルウェーでは、EUでの規制が始まるよりも30年早く、漁獲後の魚を海に捨てる行為を禁止するなど、厳格な法律が定められました。ほかにも、年間の漁獲量の上限や、獲ってもよい漁獲類のサイズなど、私たち人間が周りの生き物と共生しながら持続可能な水産業を営むための細かいルールが設けられています。
国を挙げての弛まない努力により、一度は水産資源の枯渇を経験したノルウェーですが、現在はタラやニシンなど年間270万トンもの水産資源を輸出しています。
参照:Why Norwegian wild caught seafood is sustainable
北欧のサステナブルフードシーンの最新トレンド

北欧諸国ではどんなサステナブルフードが楽しめるのかについて、最新のトレンドを例に挙げながら見ていきましょう。
流行のレストランやカフェは?
まずは、今年の北欧エリアにおけるミシュランガイドのリストを見てみましょう。北欧諸国のミシュランガイドは、北欧5か国で85、エストニアを含むと87とまだ少ないものの、年々その数を増やしています。
2024年には、リトアニアとラトビアで初めてミシュランの視察が行われ、リトアニアでは4つのレストランが1つ星を獲得したほか、メインセレクションには34のレストランが掲載されました。ラトビアでも、1つのレストランが1つ星を獲得、26のレストランがメインセレクションに選ばれています。
このように、これまでは「フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイスランド」の5か国が北欧と定義され、とりわけスカンジナビア半島(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)でセンスの光るスカンジナビア料理が注目されてきましたが、近年はバルト三国を含むエリアでもフードシーンの盛り上がりが見られるようになりました。
参照:
Lithuania’s First MICHELIN Guide Is Unveiled!
The First MICHELIN Guide Latvia Is Out!
ミシュランでも注目される「サステナブルフード」
2024年のミシュランガイドを確認すると、多種多様な料理を提供するレストランが掲載される中、地元の食材を利用したサステナブルフードに力を入れているレストランの存在が目立ちます。
例えば、ノルウェー・オスロで長年にわたって3つ星を獲得し続けているMaaemoでは、料理人たちが自ら森へ出かけて食材を獲りに行くこともあるほど、地元の食材にこだわっています。
また今年、1つ星を獲得したリトアニアのレストラン・Red Brickでは、ゲストに提供する食材の多くを自ら持つ畑から調達し、残りの食材についてもできるだけ近い場所から仕入れています。
このように、拠点からできるだけ近い距離で食材を調達することで、移動によって排出される二酸化炭素排出量を削減でき、環境にやさしいサステナブルフードを提供できるのです。
また、近いエリアから仕入れることで新鮮な食材を手に入れ、食材のベストなタイミングで収穫・調理が可能です。おいしい料理の質向上にも繋がります。
プラントベースの食事にも注目!
ベジタリアンやヴィーガンなど、日常の食生活において動物性の食材を避ける人が年々増えていますが、北欧でも例外ではありません。
筆者のまわりにも、若い人を中心に「肉を食べない」「卵や乳製品も避けている」といった選択をする人が増えている印象です。
そんな北欧エリアでは、2010年代から既に多くのレストランで「ベジタリアンメニュー」「ヴィーガンメニュー」といった選択肢を見ることが当たり前でした。
一見すると普通に肉や魚を提供するレストランでも、メニューを見るとヴィーガン・ベジタリアンに対応した品目を見つけることができます。
2023年エストニア・タリンで訪れたレストランの例を紹介します。
旧市街の中に佇む古い建物に、地元の人にも人気のレストラン「Rataskaevu 16」があります。中世の雰囲気が残るこの場所では、エストニアで定番の食材を中心とした料理が提供され、一部のメニューはヴィーガンやグルテンフリーにも対応しています。
筆者がこの日注文した料理は、ヴィーガンのリゾットです。生のホウレンソウや色鮮やかなビーツなどから「サラダ?」と疑ってしまいましたが、器の底には温かい古代小麦のクリームリゾットが仕込まれており、見た目や味だけでなく温度のバランスにも驚かされる一品でした。

(メニューの内容は季節によって変動します。当時はイースターの時季でした)
一般的なメニューでは、メインとして肉や魚介類などボリュームのある動物性食材が選ばれやすく、プラントベースの食事は物足りないと思われがちですが、こちらのリゾットと、付け合わせにあったエストニアの国民食・黒パンを食べると、かなりお腹いっぱいになりました。
プラントベースの食材を駆使した食事のクオリティが、レストランの評判を大きく左右する時代が、北欧には既にやってきているのです。
サステナブルフードの波で「国民食」ブーム再来
サステナブルフードを語るうえで欠かせない「地元の食材」の再注目によって、各国で伝統的に楽しまれてきた家庭料理が再びブームを巻き起こしています。
リトアニアでは、夏の間にだけ楽しまれるスープ「シャルティバルシチャイ」に注目が集まっています。刻んだ茹でビーツと長ネギ、キュウリに、塩、東ヨーロッパで主流な発酵乳ケフィアを混ぜ、茹で卵と刻んだディルを添えるだけのシンプルな料理です。

見た目にも鮮やかなピンク色のスープは、バルト諸国や東ヨーロッパの一部で親しまれてきましたが、リトアニアのシャルティバルシチャイは「世界の冷製スープランキング(2024年)」で見事トップ3に輝き、2023年からはこのスープを主役にした「Pink Soup Fest」というイベントが開催されるなど、大きな注目を集めています。
一方、ノルウェーやデンマークでは、古くから小麦と塩、水のみでつくる発酵種による「サワードウ」パンのブームが再来しています。シンプルな小麦のパンだけでなく、全粒粉を含むもの、パンプキンシードなどを含むものもあり、サワードウを得意としたベーカリーが続々オープンするだけでなく、家庭でもパン作りに励む人が増加傾向にあります。
このように、自国で長年に渡り親しまれてきた食材や料理が、サステナブルフードの注目によって再考される動きがあり、ブーム再来に繋がる動きが見られます。
参照:Top 26 Cold Sops in the World|Tasteatlas
「動物を介さない代替材料」で広がる食のイノベーション
肉や魚介類・乳製品などを避けるベジタリアン・ヴィーガンの増加に伴い、世界中で動物性食材を使用しないプラントベースド・フードが続々と市場に進出しています。近年は特に「本当に植物だけでできているの?」と疑いたくなるほど味も食べ応えも満足できる製品が増えてきましたが、食のイノベーションは留まることを知りません。
フィンランド発のフード・テック企業Onego Bioは、微生物の一種を発酵させて作る、プラントベースの卵白を製造・販売しています。ビールの発酵プロセスのような製法を用いることで、微生物が卵白とほとんど同じ成分を生み出すため、栄養分はもちろん、味や質感も卵白と同じ感覚で食べられる点が魅力です。驚きなのは、卵白と同じような使い方ができるため、メレンゲなどシンプルな卵白菓子も作れるということ。洋菓子職人などプロフェッショナルからも好評のようです。
また製造プロセスで家畜を介さないため、本来なら飼料の栽培や飼育の段階で出てしまう温室効果ガスや水の使用量を大幅に削減でき、環境への負担が少ないのもうれしいポイントです。
このような食のイノベーションによって、動物の命や環境への負担に配慮しながら、より幅広い食の選択肢を楽しめるようになっています。
参照:egg protein by fermentation|Onego Bio
サステナブルな食生活のための実践方法

北欧のサステナブルフードから、私たちは何を学べるのでしょうか。日常で取り組めるヒントを挙げながらご紹介します。
北欧から学ぶ味付けの極意
北欧を訪れ、地元の料理を口にした日本人の多くがまず口にするのは「味付けがシンプル」です。人によっては、醤油や味噌といった塩味の強い料理に慣れているせいで、物足りないとすら思うかもしれません。
北欧の料理は、本当に味がシンプルです。食材そのものが持つ香りや風味を最大限に活かし、調味料は必要最低限なことが多いように思います。まずはシンプルに味つけをしてみて、必要があれば好みに合わせて少しずつ足していく、というスタイルによって、旬や質の高い食材をふんだんに使ったサステナブルフードを楽しむことができます。
食材は「旬」を意識

サステナブルフードにおいて重要なポイントのひとつは、旬を意識することです。旬を意識することで、自然と住んでいる地域の食材を取り入れることに繋がるためです。
北欧といえば、夏はベリーや新じゃがいも、秋はきのこ、といったように、時期によって食べ物の旬があり、その季節にめいっぱい楽しむもの。食べ物のベストシーズンを意識しながら食材を選んでみるとよいでしょう。またできれば、オーガニックや減農薬といった、地球の環境にも配慮した方法で作られた食材を選択するのも、大切な点です。
その土地で受け継がれてきた「発酵食」にも着目
日本の場合、気候や土地の特徴からさまざまな発酵食品が見られますが、北欧でも近年はクラフトビールやサワードウブレッドのように、発酵によってつくられる質の高い食べ物が増えています。また、一部のレストランやイベントスペースでは、自家製キムチやビールを作るワークショップが開催されるなど、自作も人気です。まずは自分の住む土地にどのような食文化があるのかを知り、意識して選ぶようにすると、自然にサステナブルフードを楽しめるようになるかもしれません。
最後に
欧州の中でも独自の文化を持ち、進化を遂げてきた北欧エリアの国々は、厳しい気候によって日本ほど豊富な食材を得られないからこそ、質の高い食材にこだわり、旬を意識したサステナブルフードと上手に付き合ってきたといえます
望めば何でも手に入る時代ではありますが、皆さんも今一度食生活を見直し、身体と地球のためにもサステナブルフードを意識してみてはいかがでしょうか。同時に、北欧の国々の取り組みにも今後注目して頂ければと思います。

