世界観光倫理規範(GCET)の役割と10の原則

世界観光倫理規範(GCET)とは?
観光は経済成長を促し、異なる文化間の交流を深める貴重な機会です。一方で、観光に伴う経済活動は、地球環境への負荷や、歴史的価値のある遺産の損傷、さらには地域住民への負担といった課題も引き起こしています。
こうした課題に対応し、責任ある観光を推進するために策定されたのが、「世界観光倫理規範(GCET)」です。
GCETは、国や旅行会社、地域住民、そして旅行者自身など、観光に関わるすべての人々が守るべきルールを示しています。その目的は、旅行がもたらす良い影響を最大限に活かしつつ、地球環境や多様な文化、そして地域に暮らす人々の生活への悪影響を最小限に抑えることです。
なぜ今、世界観光倫理規範(GCET)が必要なの?
この規範は、1999年に世界観光機関(UN Tourism、旧UNWTO)の会議で採択され、2001年には国連にも正式に承認されました。これを受けて、UN TourismはGCETの原則が実際に守られるよう、積極的な普及と推進の役割を担っています。
GCETには法的な強制力はありませんが、その実効性を高めるために「世界観光倫理委員会(WCTE)」が設置されています。GCETの解釈や適用に関して疑義や意見の相違が生じた場合には、WCTEが中立的な立場から、関係者同士が対話を通じて解決できるよう支援します。
このように、GCETは法的拘束力こそ持たないものの、自発的な実践を促す体制が整えられており、観光業界全体に持続可能で責任ある変化をもたらす仕組みとなっているのです。
GCETの10の原則

GCETは、観光のさまざまな側面を考慮して策定された、10の原則から構成されています。これらの原則は、それぞれが持続可能な観光の推進に向けた具体的な指針となっています。
各原則の内容は以下の通りです。
お互いを理解し尊重しよう
責任ある観光の基本は、全ての人が大切にするべき倫理観を理解し、多様な宗教や考え方を尊重することです。観光に関わる人は、少数民族を含む地元の人たちの文化や伝統を深く理解し、敬意を持たなくてはいけません。観光は、訪れる地域の法律や習慣に従い、調和がとれた形で行う必要があります。
同時に、旅行者の安全を守るのは国の責任であり、犯罪や文化・自然を傷つける行為は厳しく取り締まる必要があります。旅行者自身も、訪れる国の文化を尊重し、違法行為や環境を損なう行為はしないように努めましょう。
旅行で自分を豊かにしよう
旅行は、ただ休んだり楽しんだりするだけでなく、自分を成長させ、異文化を深く知る貴重な機会です。広い心で旅をすることで、様々な民族や文化の多様性を学び、お互いを理解する気持ちを育むことができます。
また、観光は男女平等や人権を尊重し、子ども、高齢者、障害のある人など、特に弱い立場にある人たちの権利を守るべきです。いかなる形であれ、人、特に子どもを搾取する行為は観光の本来の姿に反するため、国際的な協力によってなくさなければいけません。
持続可能な発展に貢献しよう
観光開発は、今も未来も、みんなのニーズを満たすような持続可能な経済成長を目指すべきです。水やエネルギーといった大切な資源を節約し、ゴミをできるだけ減らす観光の形が推奨されます。
観光客が集中しないように時期や場所を分散させることで、環境への負担を減らし、地域経済への良い影響を最大限にすることも大切です。自然を守り、様々な生物を守ること、絶滅しそうな生き物を保護することは、観光施設を計画したり活動する上で最も優先されるべきことです。
文化遺産を大切に使おう
観光資源や文化遺産は、人類共通の宝物であり、それがある地域の人たちは特別な権利と義務を持っています。観光政策は、芸術的、歴史的、文化的な遺産を守り、次の世代に引き継ぐことを目指す必要があります。
観光で得られるお金は、これらの遺産の維持、保護、発展のために使うべきです。また、観光は、伝統的な文化財や工芸品が廃れることなく、発展するように計画されなければいけません。
受け入れ地域に利益を還元しよう
地域の人々は、観光に積極的に関与し、そこから得られる経済的・社会的・文化的な利益を公正に享受すべきです。特に、雇用の創出は重要な要素の一つです。観光開発は、地域住民の生活水準の向上を目指して計画されるべきであり、観光施設も地域の経済や社会構造に調和する形で整備されることが望まれます。
また、海岸地域や島嶼部、農村など、開発が遅れている地域においては、観光が発展のための貴重な機会となることから、特に丁寧な配慮が求められます。
観光に関わる人たちの義務
旅行会社は、目的地に関する情報や旅行・滞在の条件について、客観的かつ正確な情報を提供し、契約内容を明確にする責任があります。また、旅行者の安全と健康を守るために事故防止に努め、適切な保険や支援体制を整備することが求められます。
国には、自国民が海外旅行をする際に必要な情報を提供する義務がありますが、その際、受け入れ国の観光産業に不当な損害を与えることがあってはなりません。
また、メディアは観光に関する公正かつ正確な情報を発信し、児童労働や性的搾取を助長するような報道や表現は避けるべきです。
誰もが観光を楽しむ権利
誰もが観光を楽しむことは、世界中の全ての人に平等に与えられた権利です。旅行は、自由な時間が増えたことを示すものであり、邪魔されるべきではありません。
休憩やレジャーを楽しむ権利は人権の一部であり、社会的な観光、特に若者、学生、高齢者、障害のある人でも旅行に行けるような環境にする必要があります。
旅行者の移動の自由
旅行者は、国際法および国内法に従い、過度な手続きや差別を受けることなく、国内外を自由に移動する権利を有しています。また、通信手段を利用する権利、行政・法律・医療に関するサービスを迅速に受ける権利、さらには自国の領事館と自由に連絡を取る権利も保障されるべきです。
国境を越える際の手続きは、できる限り簡素化され、国際的な旅行が円滑に行えるよう工夫される必要があります。
観光産業で働く人たちと起業家の権利
観光産業で働く人々(従業員や個人事業主)の基本的な権利は、その職務の特性を踏まえて、適切に保護されるべきです。適切な研修の提供、十分な社会保障、そして安定した雇用の確保が重要です。
また、観光分野における新規事業の開始に対する自由は尊重されるべきであり、多国籍企業は自らの優位な立場を不当に利用することなく、地域社会の発展に貢献する姿勢が求められます。
GCETの原則を実行しよう
観光開発に関わる国や民間企業の関係者は、これらの原則を実行するために協力し、それが効果的に適用されているかを見守る責任があります。
UN Tourismをはじめとする国際機関や、関連する分野のNGOの役割は非常に大切です。問題が起こった場合には、世界観光倫理委員会(WCTE)のような公平な第三者機関に話し合いの仲介を頼むことが勧められます。
あなたも責任ある観光の実践者になろう
世界観光倫理規範は、単なる理想ではありません。それは、私たちが旅をする時、そして観光産業がどうあるべきかを示す、具体的な行動のガイドラインです。
この規範を理解し、その原則に従って行動することで、私たちは旅行を通じて、より良い世界を作り、次の世代に豊かな地球を引き継ぐことができるでしょう。
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