観光地が変わる。気候変動時代の“再生型ツーリズム”最前線【国内外事例8選】

「観光が、地域を壊すのではなく、再び育てるものになる」という考え方が、いま世界中で広がっています。気候変動の影響が深刻化する中、日本の観光地でも、猛暑、雪不足、豪雨、湯量の変化など、これまで想定されなかった課題が次々に現れています。打撃を受けるのは、地域を支える中小の宿泊・飲食・体験事業者たち。
それでも、各地で「適応」から「再生」へと舵を切る動きが始まりました。温泉地のデータ管理、ゼロカーボン観光地の挑戦、そして海外では星空や森林を守る再生型ツーリズムが進化しています。
本記事では、国内外8つの現場から、観光と自然が共に生きるためのヒントを解説します。
気候変動は観光の季節を変えている

ここ数年、観光地の風景が少しずつ変わり始めています。
かつて「雪の名所」だったスキー場は営業日が減り、真夏の祭りや屋外イベントは熱中症対策に追われています。沿岸地域では高潮や豪雨が観光施設を寸断し、山岳地帯では道の崩落や水資源の変動が相次ぎました。
観光の「旬」や「体験のかたち」そのものが、気候変動によって揺らいでいます。
こうした影響は、とりわけ地域の宿泊・飲食・体験事業など、中小の観光事業者に直撃します。
【国内編】温泉地の再生型ツーリズムの事例5選
日本では、気候変動への「適応」から、地域そのものを再生する取り組みへとシフトが始まっています。
別府市:温泉の“見えない資源”を科学で守る

国内最大級の温泉地・別府市では、地表から見えない“地下の変化”をデータで追う取り組みを行っています。
これまでは「経験と勘」で行われてきた温泉経営が、いまでは“科学的なガバナンス”に進化。データを地域共有することで、観光と環境の共存を目指す姿勢が根づきつつあります。
川湯温泉(北海道):20年かけて再生する温泉街

北海道弟子屈町の川湯温泉は、かつて観光バスで賑わった温泉街でした。
湯の川を中心とした歩行者空間、景観ガイドライン、自然体験施設の整備など、20年を見据えた再生計画が進行中。観光を「消費」から「共創(一緒に作り上げること)」へ変える、地域リデザインの試みです。
那須塩原市:ゼロカーボンパーク化で脱炭素の聖地へ

那須塩原市の塩原・板室温泉地区は、環境省の「ゼロカーボンパーク」に登録されました。
再エネ導入やエコツアーの実施など、“観光地全体を実験場にする”という考え方が特徴です。
温泉地ネットワーク:学び合う“横の連携”

阿寒湖、草津、有馬、道後、由布院、黒川など、全国の温泉地が参加する「温泉まちづくり研究会」。
ここでは人材育成、脱炭素、地域経営など共通の課題を共有し、成功事例を横展開しています。
ニセコ町:観光開発と水源保全のバランスを探る

人気リゾート・ニセコ町では、外国資本による開発と水源保護がせめぎ合っています。町は水道水源保全条例を設け、観光開発との調整を進めています。
観光による豊かさと自然の持続性をどう両立させるか、その問いに地域が真剣に向き合っているのです。[7]
【国外編】自然と人の関係を再設計する再生型ツーリズムの事例3選
気候変動が進む中、世界では「観光を通じて地域を再生する」動きが広がっています。
観光が環境を壊すのではなく、観光が再生の手段になっている事例を紹介します。
ニュージーランド・テカポ湖:夜空を守るために灯りを消した町

南島のテカポ湖は、世界屈指の星空観測地でした。しかし観光開発が進むにつれ、光害で星が見えなくなり、町の象徴を失いかけます。
その後、国際ダークスカイ協会によって世界最大級の星空保護区に認定。観光客は星を観に来るだけでなく、「星を守るために来る」存在になりました。
「星を見に来た人たちが、星を守る仲間になった」、地域住民のこの言葉が再生型ツーリズムの精神を象徴しています。
アイスランド・ブルーラグーン:廃熱が生んだ奇跡の温泉

1980年代、地熱発電所の廃熱水が偶然つくり出した青白い池。当初は“工業廃水”とされたその池に入浴した人々が、肌の改善を実感したことから物語が始まりました。
「廃熱」を「観光資源」に変えたブルーラグーンは、温泉地が環境技術と共存できる未来像を示しています。
コスタリカ・モンテヴェルデ:観光が森を蘇らせた

かつて乱伐で荒れたモンテヴェルデの雲霧林(うんむりん)。地域の教師や住民たちが立ち上がり、自然観察ツアーを通じて森の再生を始めました。ツアーの収益は保全基金に回り、教育や研究にも投資されています。「観光客は森の消費者ではなく、再生の共犯者」。
中小事業者が踏み出す“適応×再生”の実践ステップ

観光地の未来を左右するのは、現場の小さな事業者の行動です。できることから始める「適応×再生」の4つのステップを紹介します。
1.自社のリスクを見える化する
洪水・土砂災害・湯量変化などを洗い出し、A-PLATや自治体ハザードマップを活用して対策を立てましょう。
2.省エネ・再エネ・資源循環に投資する
温泉熱の再利用、太陽光発電、省エネ改修など、環境省の補助金で小規模でも始められます。
3.季節外の体験をつくる
猛暑や雪不足の変化を逆手に取り、通年で魅力を生む体験を企画。ヘルスツーリズムやワーケーションなどは好例です。
4.地域で共創する
空き施設の再生や共同の熱利用ネットワークなど、地域連携が再生の鍵に。川湯温泉のような“共創型マスタープラン”が指針になります。
「適応」から「再生」へ。観光地が未来を選ぶ時代に
気候変動に「耐える」だけでなく、自然や文化を再び育む。それが、これからの観光の使命です。
国内外の事例が示すのは、小さな決断の積み重ねが地域を変えるということ。別府のデータ管理、川湯のまちづくり、那須塩原の脱炭素、そしてテカポやモンテヴェルデの挑戦。それぞれの地域が、同じ問いに向き合っています。
「観光とは、地域を再生する力になれるのか」。その答えは、すでに動き出している現場の中にあります。
参考文献
[4] 北海道弟子屈町公式ホームページ
[5] 那須塩原市公式ホームページ
[6] 一般社団法人 日本温泉協会
[7] ニセコ町公式ホームページ
