再生型観光の鍵は音楽フェスにある? 地域共生型イベントの最新形態

長年、若者を中心に人気を集めている音楽フェス。近年は、この音楽フェスが再生型観光(リジェネラティブツーリズム)の手段として注目を集めています。
再生型観光とは、訪れた場所の環境や文化にポジティブな影響を与える観光のあり方です。従来の観光が地域資源を消費するだけだったのに対し、再生型観光では来訪者が地域の環境保全や文化継承に積極的に関わります。
本記事では、国内外の先進事例をもとに、音楽フェスと再生型観光がどのように結びつき、地域共生型イベントとして変化しているかを詳しく解説します。
音楽フェスと再生型観光が結びつく背景

音楽フェスは多くの人が訪れる人気イベントですが、その分環境負荷も大きく、持続可能な運営を求める声が高まっています。
こうした流れのなかで単なる環境配慮にとどまらず、地域の自然や文化を積極的に再生する「再生型観光(リジェネラティブツーリズム)」の手段として、音楽フェスが注目を集めています。
音楽フェスが環境に与える主な影響と課題
音楽フェスでは、以下のようなさまざまな環境負荷が発生します。
- 観客やアーティストの移動によるCO2の排出
- 会場への電源供給によるCO2の排出
- 廃棄物の大量発生
また、環境への影響はCO2の排出だけにとどまりません。飲食やグッズ販売によって使い捨てプラスチック容器が大量に発生したり、観客が残すテントやタバコ、ごみなどが大量に発生したりします。
2017年にアメリカで開催されたコーチェラ・フェスティバルでは、1,612トンもの廃棄物が発生し、そのうちリサイクル可能なものはわずか20%でした。
こうした状況を受けて、環境への配慮を理由にライブやツアーを取りやめるアーティストも増えています。[3]
音楽フェスと再生型観光の親和性
音楽フェスは、来場者の行動変容を促すのに最適な環境です。フェスの高い没入性やコミュニティ形成力には、参加者の意識や価値観に働きかける強い影響力があります。
また、アーティストが環境配慮や地域貢献のメッセージを発信することで、ファンの行動も変わる可能性もあります。
このように、音楽イベントを通じて得られる体験や共感には参加者の意識を変える力があり、音楽フェスは再生型観光を実践する上で適した場として注目されています。
国内音楽フェスに見る再生型観光の実践例
日本国内でも、再生型観光の視点を取り入れた音楽フェスが増加しています。これらの多くは環境配慮の取り組みとしてスタートしましたが、現在では地域の自然環境や文化を積極的に再生するモデルへと変化しました。
具体的な事例として、以下のような音楽フェスが挙げられます。
- フジロック(新潟県・苗場)
- アース・セレブレーション(新潟県・佐渡市)
- RISING SUN ROCK FESTIVAL(北海道・石狩市/小樽市)
- GREENROOM FESTIVAL(神奈川県・横浜)
- CENTRAL(神奈川県・横浜市)
- SUNSET LIVE(福岡県・糸島市)
フジロック(新潟県・苗場) | 森林保全と資源循環を軸にした共生モデル

フジロックは「自然と音楽の共生」をテーマにした、国内最大級の野外音楽フェスティバルです。毎年夏に新潟県湯沢町・苗場スキー場で開催されます。[4]
全長4kmにもおよぶ広大な敷地には大小さまざまなステージが点在し、毎年世界各国から200組を超えるアーティストが出演します。フジロックは開催規模や出演アーティストの豪華さで広く知られていますが、環境保全やイベント内資源循環などに力を入れているイベントとしても有名です。
具体的には以下のような取り組みを行っています。
フジロックの森プロジェクト
フジロック会場周辺で、植樹などの森づくり活動を実施。地元の間伐材を活用した紙製品を製造・販売し、売上の一部を間伐材の搬出経費に還元。
NEW POWER GEAR
一部のステージの電力を、バイオディーゼル燃料に転換。
ごみゼロナビゲーション
ごみの分別回収を徹底し、リサイクルを実施。紙コップなどをトイレットペーパーにリサイクルして次年度のイベントで利用。
NGOヴィレッジ
地球環境、森林保全、被災地支援、平和などさまざまな問題解決のために活動するNGOが集まる場を会場内に設置。
とくに森林保全と資源循環に力を入れており、苗場の自然環境を第一に考えた運営を行ってています。
アース・セレブレーション(新潟県・佐渡市) | 文化継承と滞在観光の両立

アース・セレブレーションは、新潟県佐渡市にて太鼓芸能集団「鼓童」が、1988年より開催している夏のフェスティバルです。毎年、国内外からアーティストを招き、さまざまな音楽・文化イベントを3日間にわたって開催しています。[5][6]
単なる音楽イベントではなく、佐渡の滞在観光も推進している点がアース・セレブレーションの特徴です。イベントでは、音楽以外に佐渡ならではの魅力を楽しめる、以下のようなアクティビティを提供しています。
- シーカヤック体験
- たらい舟体験
- ゴールドパークでの砂金取り
音楽イベントを通して、佐渡の伝統芸能や自然の魅力を広めることに貢献。単一のイベントで終わることなく、文化継承や持続的な観光の発展をサポートしています。
RISING SUN ROCK FESTIVAL(北海道・石狩市/小樽市) | 環境対策活動「Earth Care」

RISING SUN ROCK FESTIVALは、日本初の本格的オールナイト野外ロックフェスティバルとして、1999年に初めて開催された音楽フェスティバルです。[7]
「50年後も野外で気持ちよく音楽を聴いていたい」という思いで、2000年に環境対策活動「Earth Care(アースケア)」が開始されました。[8] 過去25回の開催を通して、以下のような環境対策活動を行っています。
- ごみの13分別
- オリジナルごみ袋の配布
- One tempo One action(プラスチック削減キャンペーン)
- 自然エネルギーを活用したエリアの展開
- 生ごみをたい肥にしたオーガニックファーム
北海道という自然に恵まれた環境を活用して、音楽フェスと再生型観光を組み合わせた取り組みを行っています。
GREENROOM FESTIVAL(神奈川県・横浜) | 海とアートを媒介にした海浜保全

GREENROOM FESTIVALは「Save The Ocean」をコンセプトに持つ、カルチャーフェスティバルです。2005年にスタートし、今では2日間で約12万人が来場するほどの人気イベントとなりました。[9][10]
GREENROOM FESTIVALでは、以下のような活動を通して海浜保全につとめています。[11]
- 海や自然をテーマにしたアートエキシビジョンの開催
- 海や自然環境をテーマにしたフィルムの上映
- リユースアルミカップの使用
- 湘南海岸エリアでのごみ箱の設置
- ビーチクリーンの定期開催
- 流木や廃材、海洋ごみなどを使用したフィールドアートの展示
- 廃棄ビーチサンダルなどの素材を再生使用した商品販売
海をテーマにした発信や活動を行っている点が、GREENROOM FESTIVALの特徴です。海をテーマにしたアートの展示や、ビーチサンダルを活用した商品の販売などは、豊かな海・ビーチをもつ横浜ならではの取り組みといえます。
CENTRAL(神奈川県・横浜市) | 「リソースハブ」を活用した都市型フェス

CENTRALは、ソニーミュージックグループを中心とした実行委員会が主催する都市型フェスです。[12]
「感動に満ちた世界を創り、次世代へつなぐ」というソニーのサステナビリティ方針にもとづき、以下のような活動が行われています。[13]
- ダイバーシティをテーマにしたワークショップの開催
- 海洋プラスチックを活用したキーホルダーの作成ワークショップ
- ごみ回収ステーション「リソースハブ」の活用
とくに「リソースハブ」は特徴的な取り組みです。来場者が自らごみを捨てるのではなく、サービスカウンターのような受付でごみを手渡し、受け取ったスタッフが分別して捨てる仕組みになっています。
従来のごみ回収ステーションは、来場者がごみ箱に直接捨て、それをスタッフが指導する方法が一般的でした。そのため「こっちではありません」といった注意が命令口調に聞こえ、ネガティブなコミュニケーションにつながることも少なくありませんでした。
一方で、リソースハブではスタッフが笑顔でごみを受け取り「私たちが分別しますよ」と声をかけます。リソースハブは単なるごみ捨て場ではなく、ポジティブな会話が生まれる場にしたいという思いから生まれた仕組みです。[14]
SUNSET LIVE(福岡県・糸島市) | 海と共生する夏の循環型フェス

SUNSET LIVEは、福岡県糸島市にある芥屋海水浴場・キャンプ場で開催されるフェスです。1993年に初めて開催され、2024年に30回目にして最後のイベントが行われました。[15]
SUNSET LIVEでは、参加者へ環境保全の意識やマナーの徹底を訴えるために「ECONET」と呼ばれるさまざまな取り組みが行われていました。「ECONET」は「SUNSET LIVEでの”ECO”活動を通じて、人と人のつながり(”NETWORK”)を感じ環境への意識を高めて欲しい」という思いから生まれた造語です。
全30回の開催で以下のような活動が行われました。[16]
- 竹やヤシの葉を利用したステージ・ゲート設営
- エコブースの設置と13分別の徹底
- リユース食器・バイオマスプラスチックカップの導入
- 会場で発生した生ごみをたい肥にリサイクル
海と山に囲まれた糸島市ならではのイベントとして、多くの人に親しまれてきた音楽フェスでした。
海外音楽フェスに学ぶ先進的なサステナブル運営
海外では、日本よりも早くから環境配慮型の音楽フェスが数多く開催されています。もともとは欧州を中心に広がった動きであり、現在では世界各地でサステナブル運営のモデルとして注目を集めています。
Øyafestivalen(ノルウェー) | 徹底的なゼロウェイスト設計

Øyafestivalenは、ノルウェーの首都オスロで開催されるフェスです。市街地から徒歩10分の緑あふれるTøyenparken(トイエン公園)で開催されています。
1999年の初開催以来、持続可能性と多様性をテーマに数々の革新的な取り組みを行い、世界中から注目を集めてきました。具体的には、以下のような点が特徴的です。[17]
- 2009年より再生可能エネルギーで運営
- 提供される食品の95%以上がオーガニック
- プラスチックフリーの飲食提供
- 全廃棄物を手作業で分別しリサイクル製品へと再生
- 来場者の98%以上が徒歩・自転車・公共交通機関で来場
とくに、徹底したゼロウェイスト設計が特徴です。すべての食品包装は堆肥化可能な素材でつくられ、すべての飲料はリユースカップで提供されています。
さらに2016年以降はプラスチック使用量を75%削減し、全廃棄物を手作業で分別するなど、ゼロウェイストを達成するために数々の取り組みが行われています。
Secret Solstice(アイスランド) | 自然エネルギーの最大活用

Secret Solsticeは、アイスランドの首都レイキャヴィークで開催される音楽フェスです。「世界で最もユニークでサステナブルなフェス」として知られています。
以下の3点が、ユニークでサステナブルと呼ばれる理由です。[18]
- 白夜の中行われる
- 100%自然エネルギーでまかなわれる
- 自然の一部をステージとして活用している
白夜とは一日中太陽が沈まない自然現象で、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アラスカなど、北極圏に近い場所で発生します。レイキャヴィークでは、6月に約72時間の白夜が発生し、この期間を利用して行われる3日間のフェスがSecret Solsticeです。
太陽が沈まないため、照明に使う電力が少ないという特徴があります。また、アイスランドは地熱発電と水力発電が盛んで、これらを利用して音響や照明に必要なエネルギーを供給しています。
さらに、氷河や溶岩の洞窟内でコンサートを開催しており、エネルギー供給だけでなくステージとしても自然を活用している点が特徴的です。
白夜という自然現象の利用、自然エネルギーの活用、自然フィールドの利用という点から、Secret Solsticeは唯一無二の音楽フェスとして人気を集めています。
DGTL(オランダ) | 完全循環型音楽フェス

DGTLは、オランダのアムステルダムで開催されるエレクトロニック音楽フェスです。サステナビリティを追求する音楽フェスとして世界的に有名で、2013年に音楽、アート、そして人々のつながりを探求するイベントとして始まりました。[19]
DGTLがサステナビリティなフェスとして有名なのは、以下のような理由からです。
- 100%再生可能エネルギー利用
- 使い捨てプラスチックの全面廃止
- 提供される料理は全て植物由来
- 水の使用量削減と排水の再利用
音楽フェスティバルは、長年、さまざまな文化の発展を支えてきた場です。DGTLはそんな音楽フェスのエネルギーを活用し、よりよい社会を作るための変化をもたらすイベントであることを目指しています。
環境に配慮した音楽フェス・イベントづくりのポイント
これまで紹介した国内外の事例から、環境に配慮した音楽フェス・イベントづくりにはいくつかの共通するポイントが見えてきます。単に環境負荷を減らすだけでなく、来場者の意識変容や地域と共生するための設計が重要です。
来場者参加型の環境アクションを組み込む
環境に配慮した音楽フェス・イベントづくりには、来場者が「再生への貢献」を実感できる仕組みが欠かせません。運営側だけが取り組むのではなく、来場者自身が主体的に参加できる設計が重要です。
以下のような取り組みを通じて、来場者が環境アクションに関わる機会を提供しましょう。
- 分別行動
- 寄付
- ワークショップ
- 保全プログラム
たとえば、フジロックの「NGOヴィレッジ」やGREENROOM FESTIVALのビーチクリーンのように、環境保全について学び、実際に行動できる場を設けることは効果的な手法です。
地域資源・自然資源を活かしたストーリー設計を行う
地域固有の資源をストーリーとして組み込む設計も重要です。森・海・文化など、その土地ならではの魅力を音楽フェスの中心にすることで、来場者の環境意識が変化するきっかけを与えられます。
たとえば、フジロックでは苗場の豊かな森林環境を活かし「自然と音楽の共生」というテーマでイベントを展開。こうした地域資源を軸としたストーリーは、単なる環境配慮を超えて、来場者が地域との関係性を実感するきっかけになります。
サーキュラーエコノミーと地域経済への還元を両立させる
音楽イベントを再生型観光として活用するには、サーキュラーエコノミーと地域経済への還元を両立させることが大切です。
サーキュラーエコノミーとは、再生資源を使った製品の製造や物の再利用によって資源の循環を目指す経済システムです。[20]
再生型観光では、このサーキュラーエコノミーに加えて、食材や資材調達などを地域と連携するなど、地域にとって経済的なメリットを生み出す仕組みが求められます。
こうした取り組みは、環境負荷を減らすだけでなく、地域の産業や雇用創出などにも効果的です。
まとめ | 世界中で進化する音楽フェス×再生型観光モデル
音楽フェスやイベントが持つ高い没入性とコミュニティ形成力には、再生型観光を推進する力があります。
音楽フェスはこれまでエンターテインメントの場という側面が強いものでしたが、これからは地域の自然や文化を再生する「共生の場」としての役割も担っていくでしょう。
本記事で紹介した、音楽と自然、文化が融合する数々の事例を通じて、地域とのつながりを深めるイベント作りを学びましょう。
参考文献
[2] Music Festival Impacts – The Starfish Canada
[3] 「環境に配慮」でコンサートツアー中止 コールドプレイ – BBCニュース
[4] FUJI ROCK FESTIVAL ’25|ABOUT
[6] アース・セレブレーション(8月22~24日) | さど観光ナビ
[7] RSRとは? | RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO
[8] アースケア | RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO
[9] ABOUT | GREENROOM FESTIVAL
[10] EVENT | GREENROOM CO. [株式会社グリーンルーム]
[11] ACTION | GREENROOM FESTIVAL
[12] CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2025
[14] STYLE100 | 地球にやさしいフェスをひらこう! | 地球1個分で暮らそう STYLE100 CITY OF YOKOHAMA
[15] ヒストリー | 30th Sunset Live 2024
[16] 環境保全活動 | 30th Sunset Live 2024
[17] Case study: Øyafestivalen | Cultural events | MICE | Norway
