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シニア向けリジェネラティブツーリズム|地域とともに価値をつくる旅のカタチ

2025 12/19
リジェネラティブツーリズム
リジェネラティブツーリズム 企業事例 各国の事例
2025-12-30

日本では高齢化が進む一方、元気で意欲的なシニア層が増加しています。リタイア後の時間的・経済的余裕を持つ人々は、単なる観光ではなく、地域との交流や社会的意義を感じられる体験を求めるようになっています。こうしたニーズに応える旅のスタイルが、シニア向けリジェネラティブツーリズムです。

旅行者が地域の一部として関わり、生活や文化に触れることで、旅そのものが地域の力になります。

目次

シニアとリジェネラティブツーリズムが相性の良い理由

シニア層がリジェネラティブツーリズムと高い親和性をもつのは、主に次の3つの特徴によるものです。

時間的なゆとり

平日や長期での滞在、季節ごとの再訪など、地域との関係性を深めるための柔軟な動きが可能です。

たとえば、農閑期に訪れて収穫準備を手伝ったり、冬季の保存食づくりに参加したりと、地域の営みが落ち着く時期を選んで関われる点が大きな強みです。

豊富な経験と知識

農作業、文化活動、地域行事のサポートなど、人生で培ってきた技能や知見がそのまま地域の力になります。

地域側でも「説明に時間をかけず、すぐに作業に入れる」参加者を求めることが多く、その点でシニア層の経験値が大いに活かされます。

高いコミュニケーション力

地域住民や他の参加者との自然な対話が生まれやすく、交流の質が高まります。

地域での活動には、作業だけでなく「暮らし」「地域の歴史や文化」などの語り合いが伴うことが多く、シニア層の “語る力” “聞く力” が交流を深める大きな要因となります。

このように、シニア層が持つ特性は、旅行者と地域の双方にとって価値ある関わりを生み出す土台となっています。

活動内容と地域との関わり方

シニア向けリジェネラティブツーリズムでは、体力に合わせた軽作業や生活文化体験、自然散策など、無理なく参加できる多様な活動が用意されています。

その上で、シニア向けリジェネラティブツーリズムで大切なのは以下の2点を満たすことです。

  • 負担なく参加できること
  • 地域の営みに寄り添うこと

旅行者は地域の活動をサポートしつつ、生活文化や自然に触れることで、旅そのものが学びや気づきの場になります。

農作業や山菜採り、保存食づくりなどの体験は、シニア層にとって馴染みやすく、ゆったりとした時間の中で地域に貢献できる機会となります。

地域住民との交流も自然と生まれ、旅行者と地域の双方にとって、心に残る豊かな時間が育まれるのです。

国内外の取り組み事例

シニア向けリジェネラティブツーリズムの具体的な活動例を、

  • 活動内容
  • 設計上の工夫
  • 地域との関わり

こちらの3つの観点から紹介します。

春蘭の里(石川県能登町)

画像出典:春蘭の里

石川県能登町の宮地・鮭尾・柏木・太田原地区に広がる春蘭の里は、世界農業遺産「能登の里山里海」に認定された農家民宿群です。

白壁や黒瓦の家並みが残る集落景観が特徴で、滞在者が里山の暮らしを理解しやすい環境が整っています。[1]

体験内容は地域の生活文化に基づき、農村の営みを具体的に学べる仕組みが用意されています。

  • 山菜・キノコ採り
  • 田畑の手入れ
  • 薪割り
  • 五右衛門風呂の焚き付け
  • 囲炉裏での郷土料理づくりなど

上記は観光向けの体験にとどまらず、地域での生活の成り立ちを理解するプロセスも組み込まれています。[2]

運営面では、農家民宿は2010年代に47軒まで拡大し、地域住民が主体となって宿泊と体験を提供しています。1日1組限定の貸切形式や地元食材100%の食事など、滞在の質を高める工夫が導入され、参加者が落ち着いて地域と関われる環境が整っています。[3]

シニア層にとって、農作業や生活技術を通じて地域文化を理解する機会となり、滞在中も柔軟に体験を選べるため、自分のペースで地域との関わりを深めやすい点も魅力です。

観光事業者は、地域住民と連携し、シニアが無理なく関われる農作業や暮らし体験を小単位で設計することが第一歩となります。

加えて、1日の体験量を選択制にし、休息と交流の時間を十分に確保することで、滞在の質を高められます。

地域食材や生活文化を「学び直し」として位置づけることで、シニアにとって価値あるリジェネラティブツーリズムが実現します。

みちのく潮風トレイル(東北:青森~福島沿岸)

画像出典:みちのく潮風トレイル

「みちのく潮風トレイル」は、東日本大震災を契機に整備された、沿岸地域の復興・環境保全・暮らしをテーマにしたロングトレイルです。

青森県八戸市から福島県相馬市まで、4県29市町村をつなぐ全長1,000km超の自然歩道として運営されています。[4]

ルートは海岸、里山、森、川など多様な環境を縦断し、単なるハイキングではなく「地域に触れながら歩く」体験が可能です。

道中ではビーチ清掃やトレイル整備への参加、ガイドによる地域文化の紹介、地元宿泊施設での滞在や交流イベントなど、地域と関わる機会が数多く設けられています。

これにより、歩くこと自体が地域との深い結びつきにつながります。[5]

運営は、環境省の「グリーン復興プロジェクト」の一環として地域住民・行政・民間団体が協働で管理。初心者からアクティブ層まで楽しめるよう、短時間で歩ける区間をモデルコースとして整備している点も特徴です。[6]

長距離を歩くことで海・山・里が連続する景観を味わえるだけでなく、地域の人々との交流も印象に残ります。ゆったりと歩く時間の中で日常とは異なる価値や出会いを体験できるトレイルです。

観光事業者はこの事例を参考に、ハイキングに清掃活動やガイド交流など、地域と関わる「貢献」の要素を組み込みましょう。

体力に合わせた短距離コースも整備し、シニア層が無理なく参加でき、地域への愛着が深まる仕組みを作ることが重要です。

旅は人まかせ(愛媛県/高知県)

画像出典:旅は人まかせ

愛媛県西条市・久万高原町と高知県いの町・大川村の4自治体が連携する「旅は人まかせ」は、地域住民(キャスト)と来訪者(ゲスト)をつなぐマッチング型旅行体験サービスです。[7]

2025年2月に本格運用が始まり、単なる観光消費ではなく「人とのつながり」を重視した旅のスタイルを提案しています。地域側は案内役にとどまらず、ゲストと共に体験を作り上げる姿勢を大切にしています。[8]

体験は農家、林業者、職人、地域ガイドなど80名以上のキャストから選べます。[9]

例として、以下のような体験が用意されています。

  • 地元祭りでだんじり(屋台)を48時間担ぐ
  • 林業の早朝作業を体験
  • 山小屋でガイドと星空観察など

どれも一般的な観光では味わえない、地域住民の生活に近い体験ばかりです。

運営面では、キャストのプロフィールや体験内容を公開し、ゲストが事前に興味や相性を確認できる仕組みがあります。

さらに、オンラインで事前に雑談できるマッチングも検討され、旅の前から地域との関係づくりが可能です。地域住民とゲストが一緒に体験を作ることで、協働型の旅が実現しています。

このサービスは、来訪者が地域の営みに参画し、消費だけで終わらない関係を築くことを目的としています。地域側も外部の人を単に受け入れるのではなく、ともに行動することで「地域の魅力を一緒に育てる来訪者」という新しい視点が生まれ、地域住民と事業者の双方に新たな価値をもたらしています。

シニア向けに展開するには、地域住民が無理なく関われる役割を体験メニューとして可視化しましょう。

事前交流や説明の機会を設けることで、シニアが安心して参加でき、「地域に迎えられる旅」を実現できます。

体験後も関係が続く仕組みを組み込むことで、訪問が一過性で終わらないリジェネラティブな関係が育ちます。

遠山郷応援会(長野県飯田市・遠山郷)

画像出典:遠山郷応援会

長野県飯田市上村にある遠山郷(下栗の里などを含む)は、急傾斜地や高齢化、耕作放棄地の増加などの課題を抱えています。[10]

地域では、遊休農地の手入れや畑の整備、そばの脱穀体験などが定期的に行われ、参加者は農作業を通じて土地の傾斜や気候、栽培の難しさを実感できます。[11]

そば脱穀では「どれだけ手間がかかるかを身をもって知った」といった声もあり、地域の営みに深く関わる機会となっています。

運営は、月1〜2回の短期作業を設定し、体力や時間に余裕のある人でも無理なく参加可能です。初参加者向けに顔合わせや説明会も用意され、「応援団」やサークル形式により、参加者同士や地域住民との継続的なつながりも育まれています。

この取り組みは、遊休農地という課題に対し、参加者が手を動かして直接貢献できる仕組みです。

農地再生や景観維持は地域だけでは限界がありますが、外部の人を担い手として巻き込むことで地域の持続力を高め、参加者にとっても単なる観光以上の価値ある体験となっています。

観光事業者は、農作業や環境整備などの地域課題を、短時間で参加できる体験として再設計するとよいでしょう。

初回説明や交流の場を用意することで、シニアが「手伝う人」ではなく「地域を支える仲間」として関われます。定期的に参加できる仕組みを整えることで、地域の持続力と来訪者の生きがいが両立します。

Mālama Hawaiʻi プログラム(米ハワイ州)

画像出典:Mālama Hawaiʻi

ハワイ州観光局が主導する「Mālama Hawaiʻi(マラマ・ハワイ)」は、旅行者が環境保全や文化継承活動に参加することで旅を通じた地域貢献を促すプログラムです。

ハワイ語の “mālama” には「世話をする」「大切にする」の意味があり、自然や文化を次世代へ受け継ぐ責任を示しています。[12] 

体験内容は、海岸清掃、在来植物の植樹、サンゴ礁保全、文化施設の支援など多岐にわたり、島や季節ごとにさまざまなボランティア活動が用意されています。滞在中に参加することで、旅行者は一般的な観光とは異なる「地域との関わり」を体感できます。

ホテルやツアー事業者が参加を後押しし、宿泊費割引などの特典を提供する場合もあります。[13]

運営面では、ハワイ州が地域コミュニティ、行政、観光産業、非営利団体を結び付け、「旅行者が地域にどう貢献できるか」を明確に設計。専用ウェブポータルで参加条件・スケジュール・作業内容を提示し、安心して参加できる仕組みになっています。

このプログラムは、旅行者を地域保全の“担い手”として迎え、旅を消費行動ではなく地域への“還元”に転換します。自然・文化・観光が一体となった持続可能な地域づくりが進み、シニア層も体力に応じて貢献を実感できる貴重な体験となっています。

観光事業者は、清掃や保全活動を旅程の一部として組み込み、地域に貢献できる選択肢を提示しましょう。

短時間・選択制にすることで、シニアも体力に応じて無理なく参加できます。滞在体験と結びつけることで、旅が消費から還元へと転換し、地域への愛着が深まります。

シニア世代の参加が地域にもたらす価値

シニア層が地域に関わることは、地域側に多様なメリットをもたらします。

担い手不足の補完

農村や漁村で慢性的に不足しがちな人手を、滞在型での関与によって補うことができます。短期的な作業支援であっても、地域にとっては大きな助けになります。

文化の継承

生活文化や伝統行事は、「体験し、語り継ぐ」ことで続いていきます。豊かな経験をもつシニア層の参加は、地域の文化を次世代へ橋渡しする役割も果たします。

地域経済への貢献

宿泊、食事、特産品の購入など、滞在中の消費が地域内で循環し、経済的な活力につながります。

外部の視点が生む刺激

旅行者が持ち込む多様な経験や価値観は、地域に新たな気付きや変化をもたらし、地域づくりのヒントになることがあります。

シニア向けリジェネラティブツーリズムが拓く地域との新しい関わり方

地域と旅行者が協働する旅のかたちは、今後ますます多様化し、広がりを見せると考えられます。ICTの活用が進むことで、遠方に住んでいてもオンラインで地域活動に参加したり、現地の取り組みの進捗を共有してもらったりすることが可能となり、物理的な距離を超えて地域とのつながりを維持しやすくなっています。

また、シニア層が季節ごとに特定の地域を訪れる「多拠点生活」というスタイルも広がりつつあります。短期滞在をきっかけに“第二のふるさと”を持ち、定期的に地域の営みに関わることで、シニア自身の暮らしの選択肢が増えるとともに、地域の活性化にも寄与します。

さらに、国内に限らず、海外のリジェネラティブ・ツーリズムを実践する地域との交流も進んでおり、国際的なシニア層のネットワークが形成されつつあります。こうした交流は、地域に新たな視点や知見をもたらし、旅を通じた地域貢献のかたちをより豊かで立体的なものにしています。

参考文献

[1]いしかわ風景街道 – 寄り道パーキング 春蘭の里(しゅんらんのさと)

[2]【春蘭の里の今】復興への希望を紡ぐ~能登で歩む人々にインタビュー~(春蘭の里代表 多田真由美さん)|特集|【公式】石川県の観光/旅行サイト「ほっと石川旅ねっと」

[3]春蘭の里,石川県 | 北陸旅行なら COREZO TRAVEL

[4]みちのく潮風トレイル/久慈市

[5]モデルコース|環境省_みちのく潮風トレイル

[6]みちのく潮風トレイル(種差海岸区間)|スポット・体験

[7]人と地域のマッチングサービス「旅は人まかせ」始動 | いしづちジャーニー

[8]大広ほか3社、自治体と協働で、旅人と地域のマッチングサービス『旅は人まかせ』を開始サービス開始記者発表会 2025年2月10日(月)を実施しました | 大広 Daiko Advertising Inc.

[9]誰とつながる? 新しい旅のカタチ「旅は人まかせ」

[10]一般社団法人遠山郷応援会

[11]そば脱穀体験in下栗|遠山郷しぜんとあそぼう!上村体験プログラム

[12]Malama Hawaii – Mālama Hawaiʻi

[13]Malama Hawai‘i




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