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「仕事は幸せの手段」サニーサイド代表・多田周平が語る共生と地域の可能性

2026 4/09
ピックアップ リジェネラティブツーリズム
サステナブルツーリズム 企業事例 取材 持続可能な観光
2026-4-9
画像提供:株式会社サニーサイド

「人が幸せになるための手段として仕事がある」

香川県で清掃や宿泊、チョコレート工場など多彩な事業を展開する株式会社サニーサイドの代表・多田周平さんはそう語る。

サニーサイドが大切にしているのは、障害の有無や個性の違いを「区別」するのではなく、互いに補い合いながら共に働く「共生モデル」だ。その思想は、会社の中だけにとどまらず、地域のあり方や観光のあり方にも広がっている。

効率や合理性が優先されがちな現代において、人間本来の姿や、土地に根づく文化の価値をどう生かすか。多田さんの言葉から、地域と人が共に輝く未来を探る。

多田周平さん

画像提供:株式会社サニーサイド

株式会社サニーサイド 代表取締役

1977年生まれ。香川県出身。大学卒業後、ビルメンテナンス会社に就職。その後独立し、「個性が共生し調和が発展を生む」という経営理念のもと、個性あふれる仲間と共に10年間、会社経営を行う。趣味は風呂とサウナ。たくさんの人の輪の中にいるのは苦手だが、人の輪を眺めるのは好き。

目次

「仕事とは何のためにあるのか」——サニーサイド誕生まで

─── 現在は株式会社サニーサイドを立ち上げ、清掃業や宿泊などさまざまな事業を展開されていますが、そこに至るまでにはどのようなご経験や背景があったのでしょうか。

多田さん:僕が大学を卒業する頃はちょうど就職氷河期の真っ只中で、大学生の半数以上が就職できないまま社会に出ていくような時代でした。

そんな中、アルバイトで経験していた清掃の仕事は人手が不足していたので「就職できるかもしれない」と考え、面接を受けてその会社へ入社しました。それが社会人としてのスタートです。

入社後はさまざまな仕事を任せてもらううちに、少しずつ「やりがい」や「社会との向き合い方」が見えてきたと感じました。

そのままその会社で働き続けるつもりでいましたが、あるときお世話になっていた上司が亡くなってしまいました。その人のために頑張ろうと思っていた分、目標を見失ってしまったんです。

そんなタイミングで、兄から「帰ってこい」と声をかけてもらい、兄の会社で働くことになりました。

売上を追っても、なぜか満たされなかった

─── お兄さんも会社を経営されているんですね。

多田さん:兄の会社も同じような業種でした。そこでは「会社を大きくしたい」「兄が喜ぶような結果を出したい」という目標を持って、売上をどんどん伸ばしていきました。

でも不思議なことに、目標を達成しても全然満足できなかったんです。売上が上がっても、幸せにならない。「これはちょっと違うな」と感じました。

目標を設定して、それを達成すると燃え尽きてしまう。仕事が面白くなくなるんです。結果的に兄とぶつかることも増えてしまい、会社を辞めて自分で起業することにしました。

「人が輝く社会」をつくるために会社をつくった

画像提供:株式会社サニーサイド

多田さん:こうして立ち上げたのが、サニーサイドです。ただ起業したときから、清掃という業種にこだわりはありませんでした。

仕事というのは、人が幸せになるための手段だと思っています。だから、仕事そのものが目的ではないんです。仕事を通じて、人が充実して生きられるような会社。いわば「会社という名前の社会」をつくりたいと思って立ち上げたのがサニーサイドです。

清掃も、人を輝かせるための手段の一つにすぎません。だからゲストハウスもやるし、チョコレート工場もやる。そういう形で事業が広がっていきました。

“日の当たらない人に光を当てる”——サニーサイドという名前に込めた思い

画像提供:株式会社サニーサイド

─── サニーサイドというネーミングには、多田さんの特別な思いが込められているように感じます。改めて、多田さんにとって「サニーサイド」という言葉には、どんな意味や力があるのでしょうか。

多田さん:サニーサイドという名前は「人にとって働くとはどういうことなんだろう」と考えたときにつけたものです。

最初から僕は人間に焦点を当てた事業を作りたいと思っていました。そういう視点で社会を見ていると、さまざまな人たちが社会の中で取りこぼされていると感じたんです。

取りこぼされている人がいるということは、社会としてちゃんと機能していないということ。だから「今の社会は何かおかしいな」と感じていました。

「日の当たらない場所」に光を当てる会社

多田さん:サニーサイドという名前には、日の目に当たっていない人たちに「こっちにおいでよ」と言えるような存在になりたい、という思いを込めています。進むべき道を照らす光になれるような、そんな会社になったらいいなと思ってつけました。

多田さんの語る「サニーサイド」は、単なる明るいイメージの言葉ではない。社会の中で見えにくくなっている人、能力や個性が発揮されないまま埋もれてしまっている人に光を当てたい——そんな思いが込められている。

それは、特定の誰かを「支援する」という発想とは少し違う。むしろ、社会の仕組みそのものに問いを投げかける言葉のようにも聞こえる。

多田さん:太陽って誰にでも平等に当たりますよね。でも太陽の位置や光の当て方によって、同じものでも輝き方が変わる。

人も同じで、照らし方によって価値が変わると僕は思います。そういうことも、この名前で表現したいなと思いました。

共生は人間社会にとっての当たり前

画像提供:株式会社サニーサイド

─── 多くの組織では人を能力などでカテゴリー分けすることが多い中、サニーサイドではそれぞれの得意不得意をカバーし合う「共生モデル」を大切にされていると伺いました。そのあたりについて、改めて多田さんの言葉で教えていただけますか。

多田さん:世の中には、カテゴリーがあるから便利なことがたくさんありますよね。でも同時に、不便になっていることも結構あると思います。

効率的・合理的という観点で人をカテゴライズしていくと、社会はわかりやすくなります。でも、それが人と人のコミュニケーションというわかりにくいものの邪魔をしてしまうことも多いと思うんです。

たとえば障害のある人は、人口のおよそ1割ほどいるといわれています。実はAB型の人や左利きの人も、同じくらいの割合です。[1][2]

東京が1000万人の都市だとしたら(令和8年2月時点の人口統計では約1400万人[3])、100万人は障害のある人という計算になります。でも実際には、日常生活の中で障害のある人にはそんなに出会わないですよね。

なぜかというとカテゴリーが作られて、それぞれ別の場所に分けられているからです。もちろんそのほうが過ごしやすいとか、管理しやすいという面もあると思います。

でもその結果、出会うはずの人と出会えなくなってしまう。「障害のある人は特別な人だ」とか「福祉の仕事をしている人は奇特な人だ」といった先入観も、そこから生まれてしまう。

こうした社会は、本来あるべきお互いを思いやる社会から離れてしまっている気がします。

多田さんが語るのは「障害者雇用」という枠組みの話だけではない。人が過ごしやすくするために作られたカテゴリーが、いつの間にか人と人の距離を広げてしまう。そんな社会の構造そのものへの問いかけでもある。

「取りこぼされる人」がいる社会は健全ではない

多田さん:本来、取りこぼされている人がいる状態は、社会として不健全だと思います。

左利きの人やAB型の人と同じ割合で、社会には障害のある人がいる。自分たちの身近に本来いるはずなのに、現実には出会わない。それに対して、あまり疑問を持たない社会になっているのが僕は嫌だなと感じます。

だからサニーサイドでは、そういった区別やカテゴライズされた環境の壁を、できるだけ曖昧にしていきたいと思っています。

サニーサイドの現場ではさまざまな背景を持つ人が同じ場所で働きながら、お互いの得意不得意を自然に補い合う関係が生まれている。

それは制度として設計された「多様性」というより、日常の関係性の中から立ち上がる共生のかたちに近い。

「個性の共生」は、本来人間にとって当たり前のこと

画像提供:株式会社サニーサイド

─── なぜ多田さんは、そこまで「個性の共生」を自然に語れるのでしょうか。

多田さん:逆に、僕は「なぜそれが自然に語れないのか」が問題だと思います。

人間はもともと進化の過程で社会を作ってきた生き物ですよね。一人では生きられないからこそ社会を作ってきました。そう考えると個性の共生や調和って、本来は当たり前にできていたはずです。

だから「なぜ語れるのか」ではなくて「なぜこんな当たり前のことを自然に語れない社会になっているのか」というほうが、僕にとっては不思議です。

ただ一緒に働くだけでいい

画像提供:株式会社サニーサイド

─── 「個性が共生し、調和が発展を生む」を会社の理念として掲げられていますが、それを社内で実現するためにどんな仕組みや工夫を取り入れていますか。

多田さん:基本的には、区別せずに一緒に仕事をすることですね。特別に何かコントロールしようという考えはあまりありません。

たとえば子どもたちを見ていると、役割を決めなくても自然と年上の子が年下の子の面倒を見たりしますよね。会社も同じで、そうした自然な関係が勝手に生まれると思っています。

一つの目標に対してチームを組んで、それぞれができることをやる。できないところは別の人が補う。それって社会では当たり前のことですよね。僕たちは、それをやっているだけなんです。

サニーサイドの「共生モデル」は、制度や仕組みで作り込まれたものではない。むしろ、社会の中で本来自然に起きているはずの関係性を、職場という場所でもそのまま成立させようとしている。

誰かの不得意を別の誰かが補い、できることを持ち寄って一つの仕事を成し遂げる。特別な理念のように聞こえる「共生」が、サニーサイドでは日常の延長として語られている。

人はなぜ旅に出るのか

合理性や効率性が重視される社会では、人間そのものを見つめ直す問いは、どうしても後回しになりがちだ。多田さんの話は、企業経営やマネジメントの話のようでいて、その奥には「人間とはなにか」という根源的なテーマが流れている。

その視点から見ると「旅」という行為の意味もまた違って見えてくる。

多田さん:都会のように合理性や効率性ばかりを求められる社会で生きていると、やっぱりストレスは大きいですよね。だからこそ人は、ときどきそこから離れる必要があるのだと思います。

たとえば田舎に行ったり、都会とは対極にあるような環境に身を置いたりする。つまり、非合理的で、非効率的で、非経済的なものに触れることで、人はバランスを取っている。

そういう意味で、人は人間性を再生するために旅に出るんじゃないかなと思います。

多田さんの語る「旅」は、単なる移動や消費ではない。合理性や効率性に偏りがちな日常から一度離れ、人間としてのバランスを取り戻す時間——そんな意味合いを持っている。

それは、サニーサイドの仕事観ともどこか通じている。人の価値を数字や効率だけで測るのではなく、その人らしく生きられる環境をどうつくるか。そうした問いは、働き方だけでなく、リジェネラティブな旅のあり方にも重なる。

地域の文化や営みは、次の世代へどうつながれていくのか

─── 事業を続けていく中で、宿泊や観光、清掃の社会的な役割のようなものは感じていますか。

多田さん:宿泊と観光と清掃は、それぞれ役割が違うと思います。

宿泊や観光の社会的な役割は「つなぐこと」です。

地域にある文化や歴史、伝統といったものを次の世代へきちんとつないでいくこと。そして、自分たちの文化を観光で訪れた他の地域の人たちに伝えること。

「こういう場所もあるんだよ」と伝えることで、人と文化をつないでいく。宿泊や観光という仕事には、そういう意味合いがあると思っています。

一方で、清掃の社会的な役割はなんだろうと考えると、正直あまり難しいことは思い浮かばなくて、整えることなんじゃないかなと思うくらいですね。

「ここにあってよかった」と思われる存在でありたい

─── 現在多田さんはさまざまな事業を手掛けておられますが、新たな事業を始める際はどのような思いを大切にされているのでしょうか。

多田さん:僕は「ここにあってよかった」と思われることをしたいと考えています。「ここにサニーサイドがあってよかったな」と、地域の人たちに思ってもらえるようなことをしたい。

なので、特別に新しいことをやろうとはあまり思っていません。この地域にあったらいいな、必要なんじゃないかなと思うことをやっているだけです。

サニーサイドでは「地域にとって必要かどうか」というシンプルな問いが、すべての出発点になっている。

地域に根ざして事業を営むということは、単にその土地でビジネスをするということではない。

地域の人々の暮らしや文化と向き合い、そこに何が足りないかを感じ取り、自分たちにできることで応えていく。その繰り返しの中に、本当の意味での地域貢献がある。

新しいものより「廃れないもの」を大切にする

─── 多田さんにとって「文化」や「文化性」という言葉は、とても大切なもののように感じています。その点に対する多田さんのこだわりについて、聞かせていただけますか。

多田さん:大切なのは、新しいものに目を奪われないこと。それから、正しいものに目を奪われすぎないことだと思っています。

新しいものは、新しければ新しいほどすぐ通り過ぎていきます。消費されるといってもいいかもしれません。

古くからあるものをどう生かすか。どうディレクションして、どうデザインして新しさを生むか。そこにセンスがあると思っています。

古いものは、実は古くならないんですよ。

情報が絶えず更新される現代では「新しさ」そのものが価値として扱われがちだ。それは観光産業も例外ではない。

次々と生まれる新しいスポットや体験が注目を集める一方で、その土地に長く根づいてきた文化や営みは、見過ごされてしまうことも多い。

だからこそサステナブルツーリズムやリジェネラティブツーリズムが必要とされている。

古くからあるものをどう生かし、次の世代へつないでいくか。多田さんの言葉は、旅のあり方を考える上でも、大切な視点だ。

多田さん:僕はサン=テグジュペリの『星の王子さま』がすごく好きなんです。

古くから読み継がれている本って、読むたびに新しい発見がある。廃れないものの価値というか、いつも身近にあるけれど意識しないと気づかないものの価値というか。

古典やスタンダードになっているものには、やっぱりそういう価値があると思います。

小さな県だからこそ面白い——香川という地域の可能性

─── では香川県という地域において、不変なものやスタンダードなものとは何だと思いますか。

多田さん:良い意味での「狭さ」ですかね。狭いから、会いたい人にもすぐ会えるし、行きたいところにもすぐ行ける。それってすごい価値だと思います。

地域の魅力として広さや人口規模が語られることの中で、多田さんが挙げたのはむしろ「小ささ」だった。人と人の距離が近く、移動にも時間がかからない。そんな暮らしやすさが、香川という土地の大きな価値になっている。

多田さん:ただ、香川県はもともと狭いのに、さらに小さい市町村単位で観光事業をやっているのがもったいないと思います。結果として日帰り観光が多くなってしまうなど、観光の深みが出し切れていない状況です。

地域同士が「共生」すれば、もっと面白くなる

─── 自治体ごとの境界線は、香川県ではとくに強いのでしょうか。

多田さん:他の地域について詳しく知っているわけではありませんが、香川県はなんとなく境界が強い気がしますね。

香川県の文化圏は大きく西讃・中讃・高松・東讃の4つに分けられます。[4] なので観光も市町村単位ではなくて、それくらいの単位で取り組んだほうが自然だと思います。

たとえば琴平・まんのう・多度津・善通寺(いずれも香川県中部の市町)を全部足しても人口は7万人くらいしかいません。[5] 規模でいうと、普通の市より小さいくらいなんですよね。

だからこそ、そういう地域同士が共生して調和できたらちょうど良い規模になります。でも今はそれができていないので、もったいないなと思います。

人と人の「共生」を語る多田さんの視点は、地域のあり方にも向けられている。

小さな町がそれぞれ独立して動くのではなく、互いに補い合いながら一つの地域として魅力を生み出していく。もし香川の小さな町同士がそうした関係を築くことができたなら、この土地の可能性は今よりももっと広がっていくだろう。

小さな県から始まる大きな未来

画像提供:株式会社サニーサイド

─── 多田さんやサニーサイドのみなさんが、これから始めたいことや取り組みたいことはありますか。

多田さん:香川県立アリーナ(あなぶきアリーナ香川)を借り切って、香川県中の素敵なお店を集めるイベントをしたいという話があります。香川県には本当に素敵な生産者さんやお店がたくさんあるので、そういう人たちを集めて紹介するイベントを開催できたらいいなと思っています。

自分たちが住んでいる土地に、少しでも誇りを持ってもらえて「香川って素敵だな」と感じてもらえるような場をつくりたいんです。

そのためには「行って楽しかったね」で終わるのではなく、そこで体験したことや感じたことが、日々の暮らしにつながっていくような取り組みが必要だと思っています。

そうした体験を通して、来てくれた人たちの感受性や文化性が少しずつ広がっていく。そんなきっかけをつくることができたらいいですね。

人の個性が共生する社会をつくりたいという思いは、地域のあり方にもつながっている。小さな県だからこそ、人と人、町と町がつながりやすい。その特性を生かしながら、地域の文化や魅力を日常の中で体験できる場としてつくっていく。

多田さんが思い描く未来の挑戦は、そんな香川の可能性を少しずつ広げていく試みになるだろう。

参考文献

[1]血液型について|兵庫県赤十字血液センター|日本赤十字社

[2]利き手に関する基礎的研究

[3]東京都の人口(推計)|東京都の統計

[4]おすすめエリアガイド 香川県東部|香川県

[5]香川県推計人口及び人口移動(令和7年9月1日現在推計)|香川県




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