ヒルトンが仕掛ける新たなサステナビリティ戦略「グリーン・ラマダン」

ヒルトンは以前より食品ロスの50%削減に取り組んでいましたが、ラマダン期間中は普段よりも食品ロスが起きやすいことに課題がありました。
そこで、持続可能な食文化を守るために「Green Ramadan」の活動を開始。ビュッフェでの少量提供などによる食品ロス削減や、食材の地元調達など、持続可能性に挑んでいます。
この取り組みは、宗教行事がサステナビリティ実践の場になり得るという、新しい業界基準へつながるものです。
ラマダンにおける食品ロスとは

ラマダン期間中、日が昇っている間は食事を摂れません。日の出前に「スフール」という断食前の食事と、日没後に「イフタール」という断食明けの食事をまとめて摂ります。[1]
とくにイフタールでは「断食を頑張ったご褒美」という心理が働き、料理の過剰な提供とそれによる食品ロスが大量に発生しています。
また、こうした食品ロスは、家庭だけの問題ではありません。ホテルやレストランでも「施し(ザカート/サダカ)」を強調して、イフタールやスフールで豪華なビュッフェを出します。
一度提供した料理は、再利用できず廃棄されやすいので、食品ロスが発生してしまいます。
食品ロスの廃棄率や温暖化への影響
UNEP(国連環境計画)によると、ラマダン期間中にサウジアラビアで30~50%、カタールで25%、アラブ首長国連邦で40%の食品が廃棄されています。[2] [3]
さらに食品の廃棄過程では、食品に含まれる有機物が微生物によって分解されます。このとき、分解される環境によって発生するガスの種類は異なりますが、場合によっては温室効果の高いメタンガスが発生します。
ラマダンの精神における核心とサステナビリティの接点
本来、ラマダンでは浪費の禁止・分かち合い・持続可能な行動変容といった精神性が重要視されています。[5]
また、断食によって空腹を体感することは貧困層への共感を促進。食資源の大切さを理解して余剰食品の再配分を行うなどの取り組みへとつながります。さらに断食期間中に消費行動を見直し、欲求をコントロールする姿勢は、過剰消費からの転換をうながします。
このように、サステナビリティへの配慮はイスラム教やラマダンに本来あった教えです。ラマダンは信仰を通じてサステナブルな生き方を体現する月と言えます。
ヒルトンが提唱する「Green Ramadan」とは | 食のサステナビリティへの挑戦

中東を中心とした近年のイスラム圏では、ラマダン中の食品ロス削減や、地産地消、植物性食品中心のイフタールなど、サステナビリティを意識した取り組みが行われています。
ヒルトンが2023年に始めた「Green Ramadan」も、その一つです。2025年には中東・北アフリカ(MENA)を中心に14カ国45箇所で展開し、食品廃棄率の削減など、多くの成果につながっています。
Green Ramadanを打ち出した背景
ヒルトンは、以前からグローバルなESG戦略として、食品廃棄物を50%削減するという目標に取り組んでいます。[6] しかし、ラマダンの期間中は、通常期より食品ロスが大幅に増えることが課題でした。
そこで本来のラマダンがもつ精神に回帰しつつ、食のサステナビリティに挑む「Green Ramadan」の試みを始めました。[7]
豪華さよりも宗教的意味や配慮、循環を価値にする取り組みは、宗教行事もサステナビリティ実践の場になり得るという、新しい業界基準を提示しています。
また、宗教文化を尊重した経営姿勢は、中東市場でのブランド信頼を獲得することにもつながっています。
ヒルトンが実践する提供量の最適化と食材へのこだわり
ヒルトンはGreen Ramadanの取り組みとして、まず「余剰が出る前提」の運営を見直しました。
ラマダンにおける過去のデータをもとに需要を予測し、できる限り食品ロスが出ないよう提供量を決めています。選択肢が多いと食品ロスを生みやすいため、品数を抑えつつ廃棄が出やすい料理の見直しなどを行いました。
また、地域の食の持続可能性を意識して、地産や旬の食材を選定する点にもこだわりを見せています。
| 通常時 | Green Ramadan | |
|---|---|---|
| 提供方法 | 大皿・多品目・一斉提供 | 小皿・品目数の厳選・段階提供 |
| 食材 | 輸入 | 地産・旬 |
| 余剰 | 廃棄 | 寄付・循環 |
| 目的 | 満足・豪華さ | 節度・共有 |
| 結果 | 廃棄増 | 廃棄減・行動変容 |
社内研修による運営改革
Green Ramadanにおけるヒルトンのサステナブルな取り組みは、CSR部門だけのものではありません。研修を通して、キッチン、サービススタッフ、マネジメントの意識と行動の変化をうながしています。
データ活用による改善サイクル
Green Ramadanでは、AIツール「Winnow」を導入して食品廃棄量を測定し、翌年の購買・調理計画、提供量の改善などに活用しています。
ラマダン期間中の余剰量削減・再分配率は、通年の社内評価やサステナビリティ報告でも重要な結果として注目されています。
余剰食を「廃棄しない」ための連携と循環
ヒルトンは余剰を「発生させない努力」に加えて、発生してしまった余剰を「活かす仕組みづくり」にも取り組んでいます。
ヒルトンの各ホテルが地元NGOやフードバンクと連携し、安全基準を満たした余剰食のみを即日回収。その後、再加熱・再包装を行い、必要とする人々へ再配布しています。
さらに、食べられない余剰食も堆肥化・飼料化することで、バイオ廃棄物として再利用しています。
「自然にそうしたくなる」行動変容のプログラム
Green Ramadanは「何を選び、どれだけ取って、食べきるか」をゲスト自身に気づかせることで、共感や納得感を生み出すよう設計されています。
ラマダン期間中は、人々が行動を変える心構えを持っているので、行動変容を起こしやすいタイミングといえます。環境への取り組みに宗教的・倫理的意味を見出すことで、自発的な行動をうながしやすい状態です。
多くのエコな施策は、その場限りになりやすいという課題があります。しかし、Green Ramadanはゲスト自身に気づきがあるため、ラマダン後も「量を抑える」「無駄にしない」といった習慣が続きやすいと考えられます。
各ヒルトンホテルによる独自の取り組み

Green Ramadanは、ヒルトンの各ホテルが独自の工夫を凝らしている点も興味深いポイントです。
食材の調達方法や余剰食品の活用など、各地域・ホテルの特性に合った取り組みを行っています。
Hilton Riyadh Hotel & Residences|地元農産物の活用と再利用

サウジアラビアの首都リヤドにあるヒルトンホテルでは、地元産の食品を使ったサステナブルな取り組みが行われています。地元産の厳選メニューを提供することで、食品の搬送によるCO2の排出を大幅に削減。
さらに、食品廃棄物の収集とコンポスト化※を行っている企業と提携し、イフタールビュッフェで残った食材を堆肥化する活動にも力を入れています。[10]
※コンポスト化:生ごみや野菜くずといった有機物の生ゴミを、微生物の働きで堆肥化する仕組み。
Hilton Dubai Palm Jumeirah|植物由来の料理を強化

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにあるヒルトンホテルでは、地元の農場から仕入れた新鮮な肉・魚・野菜を使ってイフタール料理を提供しています。 [11]
とくに、プラントベース(植物由来)のメニューを強化している点が当ホテルの特徴です。これにより、畜産業で発生するCO2や水資源の利用を削減し、環境負荷を大きく低減しています。
また当ホテルでは、他にもプラスチックの使用削減や、地元フードバンクと連携した余剰食材の再分配など、多様な取り組みを行っています。
Hilton Istanbul Bosphorus|食材の切れ端を前菜に活用

トルコのイスタンブールにあるヒルトンホテルでは、食品ロスを可能な限り減らすため「ゼロ・ウェイスト・キッチン」の取り組みを行っています。[12]
野菜や果物の皮、切れ端まで活用するメニュー設計により食品ロスを最小化。単に廃棄量を減らすだけでなく、それぞれの食材を活かしたレシピを考案し、持続可能で魅力的な料理へと仕上げています。
さらに、10名以上のグループ向けイフタールでは、Green Ramadan基準に則った特別なゼロ・ウェイスト・メニューを提供し、廃棄削減と豊かな食体験を両立しています。
DoubleTree by Hilton Putrajaya Lakeside|食材くずの再加工

マレーシアのプトラジャヤにあるヒルトンホテルは、食材くずの再加工を通してGreen Ramadanに取り組んでいます。[13]
キッチンから出る野菜の皮や余り、切れ端などの食材くずを廃棄せず、 ピクルスやチャツネ、シーズニングなどに再加工。通常なら捨ててしまう食材くずを新たな料理に活用し、食品ロスを減らしています。
他にも、食材を100%地元産で調達する取り組みや、プラスチックの削減にも力を入れています。
サステナブルなGreen Ramadanから見える未来
ヒルトンのGreen Ramadanで行われている活動は、日本のホテルやレストランにとっても参考になる取り組みです。地元食材の活用やメニューの厳選など「豪華さ」に頼らないアプローチは、サステナブルな施設運営のヒントとなるでしょう。
また、Green Ramadanは宗教的な価値観を持続可能な行動の動機づけに活用している点も特徴的です。ESGのように外から押し付けるのではなく、人の中に内在する価値観から、行動変容をうながしています。
ヒルトンは、毎年ラマダン期間中に改善を重ねながら、通常期への波及にも取り組んでおり、今後の展開が注目されます。
参考文献
[1]UNHCR「ラマダンについて、知ってみませんか?ラマダンQ&A」
[2]UNEP「Campaign Sustainable Ramadan」
[3]UNEP「The State of Food Waste in West Asia」
[4]UNEP「UNEP Food Waste Index Report 2024」
[5]INSTITUTE OF ISLAMIC UNDERSTANDING MALAYSIA 「Thinking Of Food Waste In Ramadan」
[6]Hilton「Travel With Purpose 2024 Report」
[7]Hilton「Hilton Launches ‘Green Ramadan’ in Partnership with UNEP West Asia, Winnow and Goumbook」
[9]AL RAJHI GROUP「Saudi Food Bank」
[11]ZAWYA「Hilton Dubai Palm Jumeirah showcases Green Ramadan initiatives」
[12]Hilton「Hilton Introduces Sustainable Ramadan Initiative in Türkiye」
[13]HUB ASIA「Hilton Malaysia rolls out AI-powered Green Ramadan initiative to cut food waste」
