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正解を疑い、揺らぎを経営する。隠岐・海士町 Entô が「余白」から問いかける、リジェネラティブな未来。

2025 12/03
ピックアップ リジェネラティブツーリズム
企業事例 取材 宿泊施設 持続可能な観光 隠岐
2025-12-3

島根県・隠岐諸島、海士町(あまちょう)。人口約2,300人のこの島は、島全体がユネスコ世界ジオパークに認定された「大地の公園」である。

その中核的な役割を担うのが、泊まれるジオパークの拠点施設であるEntô (エントウ)だ。都市から遠く遠く離れた、地球にぽつんとある島。かつて後鳥羽上皇や後醍醐天皇が島流しされた地であった遠島(えんとう)の歴史に由来する。

離島における、高付加価値化の成功事例 ——。 近年、メディアなどを通じて、Entôにそうした印象を抱いている読者もいるかもしれない。

しかし、Entôを率いる青山さんへの取材で浮かび上がったのは、単なる表面的な高付加価値戦略ではなかった。そこには、観光のあり方そのものを問い直し、既存の宿泊ビジネスモデルの再生にまで挑むという、効率や標準化とは対極にある「生きた思想」が貫かれていた。

青山 敦士さん
株式会社海士 代表。北海道出身。2007年に島根県隠岐諸島・海士町観光協会に入社。2013年に株式会社島ファクトリーを分社化し、旅行業・リネンサプライ業を運営。2017年より株式会社海士の代表に就任し、2021年に泊まれるジオパークの拠点施設「Entô 」を開業。

浅川 友里江さん
Entô  マーケティング担当。東京生まれ、山梨育ち。デザインや編集を軸に、企業や自治体のブランドづくりに携わる。京都ではホテル開業プロジェクトのマーケティングを担当。2021年に宿泊客としてEntô を訪れた「縁」をきっかけに、2024年より海士町へ移住し現職。


Entôの挑戦は、既存の観光ビジネスが示す「正解」を疑うことから始まった。

プロジェクトの発端は、Entôの前身である老朽化したマリンポートホテル海士別館の建て替えと、隠岐ユネスコ世界ジオパークの拠点施設整備という、二つの異なる目的を「いかに両立させるか」という問いにあった。

当初、代表の青山さんには、この議論の前提となる「これまでの観光のあり方」そのものへの強い違和感があったという。

2016年頃の検討委員会当時、青山さんは十数年にわたり団体旅行などを扱ってきた。観光による地域の潤いを理解しつつも、価格競争や画一的なサービスを前提とした「量を追う観光」が、土地固有の魅力をすり減らしていく限界を感じていた。

「量を追う観光」に違和感を覚えるなら、道は二つしかない。コストを抑える「規模縮小」か、単価を毅然と上げる「高付加価値化」だ。

海士町は「高付加価値化」の可能性を探るため、リサーチ会社に高額な調査を依頼する。しかし、返ってきた答えは「海士町では、高付加価値な旅は成り立たない」という現実を直視したものだった。

本土からフェリーで約3時間。決してアクセスが良いとは言えないこの島で、富裕層向けのマーケットは成立しない。それが、既存のマーケティングデータが導き出した「解」だった。

だが、海士町は「攻めよう」と決断する。データを鵜呑みにせず、自分たちが求める価値を追求した背景には、海士町ならではの文化があった。「みんなで、しゃばる(=強く引っ張る)」という言葉に象徴される、誰もが“自分ごと”として挑戦する文化だ。

青山さん:もちろん議論はありました。ですが、海士町は「どうやったらできるのか」をとことん議論する文化なのです。

リサーチの答えは「成立しない」でしたが、我々はそもそも既定路線の「解」を求めていたわけではない。

だから、データ上は成立しなくとも、高付加価値化へ攻めようと舵を切りました。

量を追う観光から、質を深める滞在へ。

結果、宿泊者の変化は明白だった。高付加価値化の戦略がもたらしたのは、経済的な客単価の変化だけではない。宿泊者に豊かな時間と体験、ひいては地域にもたらされる「リジェネティブな価値」の創出も見られた。

前身のマリンポートホテル時代の客層は、団体客やビジネス利用が中心で、慌ただしい短期滞在が主流だった。滞在時間が短ければ、宿泊客が島で消費する機会(海士町でいう「外貨」)も失われ、地域への経済効果は限定的となる。

photo by Kentauros Yasunaga(画像出典:Entô  )

ところが、Entôとして再スタートを切り、客層は一変した。経済的だけでなく、時間的にも自由度の高い宿泊者が、「Entôでの滞在そのもの」を目的に訪れるようになった。

その変化は、インバウンド(訪日外国人)の動向にも顕著だという。まだ全体の1割に満たないものの、従来のヨーロッパや北米に加え、近年は、台湾や中国からの旅行者が急増している。「カップルや夫婦での利用が非常に多い。特に台湾、中国では口コミの影響が絶大で、驚くほど数が動く」と青山さんは語る。

青山さん:むやみに経営的な数字を追うつもりはありません。

ですが、「Entôの価値を世界に届けたい」という思いにおいて、この反響は大きな手応えであると同時に、向き合うべき新たな課題だと捉えています。

Entôの宿泊者に見られる、時間的な自由度。それを象徴するエピソードを、Entôのマーケティングを担当する浅川さんが語ってくれた。興味深いことに、浅川さん自身も元はEntôの宿泊者であり、その時の「縁」がきっかけでスタッフになった経緯を持つ。

浅川さんは以前から、ブランディングやデザインの仕事を中心に、自治体や地域の案件に関わることも多く、移動しながら働く場面が少なくなかったという。隠岐へ向かう直前も出雲や松江ではリモートで仕事をしており、当然、Entôでも仕事をするつもりだった。

ところが、目の前に広がる隠岐の雄大な景色に心を奪われ、「今はしっかり旅を満喫しよう」と、自ら手を止めた。そして、スタッフとなった今、かつての自分のように「景色に心を奪われる」宿泊者の姿を見ることが、何よりの喜びだと語る。

photo by Kentauros Yasunaga

安易に答えを出さず、「揺らぎ」を経営する。

Entôは「Honest(誠実さ)」と「Seamless(境界線のなさ)」をコンセプトに掲げる。しかし、それらを突き詰めようとすれば、ホテルとしての快適性や事業性といった、現実と両立しにくい場面も出てくる。

2026年夏でオープン5周年を迎えるEntôは、今も葛藤を抱え、何度も「揺り戻し」を経験してきたという。“Entôらしく”あるために誠実さと境界線のなさを追求すれば、スタッフはフランクで近しい距離感を心がける。しかし、それだけでは礼節やホスピタリティを担保できない。この理想と現実の葛藤について、青山さんは「揺らぎ」が大切だと語る。

青山さん:安易に答えを出しません。現場は大変だと思いますが、“もやもや”を抱え続けています。

理想と現実の葛藤は正直なところ、乗り越えられてはいません。むしろ、常に葛藤し、揺らぎ続けるということを今も実践しています。

この「揺らぎ」は、組織の根幹である採用においても貫かれてきた。Entôは当初、「当たり前を疑う」ために、あえて“ホスピタリティ未経験者”を中心に採用した。だが、そこにも大きな揺り戻しがあった。

青山さん:未経験者が中心となる組織運営は、品質担保の面でやはり葛藤がありました。元々、当たり前を疑いたかったので、既存の当たり前をそのまま持ち込まれるような採用には、少し慎重になっていたのです。

ですが、いざやってみると、ゼロがゼロすぎて…。分からないことも多く、やはり経験は大事だと気づかされ、経験者の方にも入っていただくことにしました。

そうして分かったのは、経験者の方の中にも、一緒に“当たり前を疑える”人たちがいる、ということ。彼らの経験をリスペクトしつつ、けれども、一緒に疑っていく。そういったことを、ずっと続けています。

青山さんはこの経験から、どちらか一方に振り切ることの危うさを学んだ。全員が臨機応変に対応する組織も、徹底的にルールで固めた組織も、どちらもうまくいかなかった。

当初、ルールや仕組みはほとんど無かったため、未経験のスタッフから「不安で仕方がない」という声が相次いだ。「ある程度の型は必要だ」とルールを増やすものの、クレームがあるたび、ルールは増殖していってしまう。

その結果、重要なのはルールそのものではなく、それを運用する「人のバランス」だという結論に至る。ルール運用が得意な人と、臨機応変に対応できる人。その両者が良いバランスでチームにいることが重要なのだ。

Entôはどちらかに振り切るのではなく、常にその間で「揺らぐ」ことを選ぶ。状況の変化に応じて柔軟に方針を調整するこの動的アプローチこそが、思考停止を防ぎ、組織を進化させる。

提供:Entô

この「揺らぎ」の経営は、現場にどう受け止められているのか。宿泊者としての訪問をきっかけにEntôに参画した浅川さんは、当時の戸惑いを率直に語る。

浅川さん:入った当初は、本当にルールや仕組みがほとんどなくて、とても戸惑いました。答えを出しては、それを疑う。また答えを出して、また疑う…。その繰り返しをずっとやってきている感じです。

ですが、今はその「揺らぎ」が大切だと感じています。決めきらず、全てを作りすぎないからこその良さがある。時には、一つの言葉について、何時間も議論することもあります。

そういった「揺らぎ」を繰り返すことで、誰の心にも“疑問の種”を残さないようになるのではないかと思います。

では、多様な価値観がぶつかり合い、議論に「折り合い」がつかない時はどうするのか。Entôでは、その「折り合いがつかない」という事実自体を「着地点」として受け入れるという。合意していないにも関わらず「折り合いがついているふり」をすることは、最も避けるべき“誠実でない姿勢”だ 。

Entôが重要視しているのは、偽りの合意で停滞するのではなく、その状態からどう「変革」を起こし、次の段階へ動かすか、ということなのである。

そして、組織内部の「揺らぎ」を許容する哲学は、宿泊体験における「余白」という価値として宿泊者に現れる。

多くの事業者が、顧客満足度のためにサービスを「足し算」する中、Entôはあえて「引き算」で価値を守ろうとする。青山さんは、サービスが過剰になる理由を「減点方式」にあると分析する。ネガティブな評価を恐れ、ルールを追加し続けた結果、本来は望まれていないものまで課してしまうのだ。

当たり前を疑うことが大切と、青山さんは語る。サービス、アメニティ、チェックイン。そうした“当たり前”を問い直し、削ぎ落として生み出した「余白」を、Entôは「希望」として大切にしている。

しかし、意図的に「余白」を作ることは、賛否両論を覚悟することでもある。実際、アメニティやスタッフの対応、食事に対しても様々な声が寄せられるという。Entôは、寄せられたすべての声に真摯に目を通し、感謝をもって受け止める。

その上で、それが「改善すべき(=足すべき)点」なのか、あるいは守りたい「余白」の伝え方を問い直すべき「きっかけ」なのかを、徹底的に考え抜いている。

空間や関係性が「良い状態」であること。

青山さんの原点には、「気付けるかどうか」というシンプルな問いがある。これは、前職のリネンサプライ業で培われた、「小さな汚れやシワに気づく」という視点だ。

だが、こうしたマニュアル化できない「気づき」の思想を、どう組織文化として根付かせるのだろうか。青山さんは、そのヒントは観光協会時代、島の先輩たちから学んだ「当たり前」にあると語る。

青山さん:気付けるかどうかは、マニュアル化できません。「目の前にゴミが落ちてたら拾えるか?」というシンプルな話です。

それを愚直にやる姿を、当時の町長から島の先輩たちまで、多くの人が実践しているのを見てきました。自分もそうなれるか、と常に考えています。

また、気づきの感度を高めるには、空間や関係性が「良い状態」であることも大切です。「良い状態」が作れていると、逆に違和感へ気づきやすくなる。

「良い状態」をどこまで作っておけるかが、組織文化において非常に大事だと考えています。

この「良い状態」という空気感は、島全体にも共通する。訪れた旅人は、港や道にゴミが全く落ちていないことに気づくという。これは、海士町に暮らす人々のオーナーシップ(当事者意識)の表れだろう。誰もが「港にゴミが落ちていたら気持ち悪い」と感じ、自分の地区を綺麗に保っているのだ。

海士町ではEntôを中心に、様々な地域連携の取り組みが行われている。例えば、Entôのスタッフが有志としてプライベートで関わっている、マルシェが挙げられる。これらを持続させる「仕組み」は何かと尋ねると、意外にも「マニュアルやルールはない方が、続く」という答えが返ってきた。

青山さん:「スタッフである前に、島民であってほしい」とずっと言い続けています。一住民として楽しいことと、自分の仕事が重なる瞬間があると、結果的に続くのではないでしょうか。

私も、繁忙期であるお盆であっても「盆踊り大会」は外せないので、現場にいないことも多いです。

提供:Entô

仕組みがなくても続くのは、海士の町に根付く「みんなで、しゃばる」(=全員で主体的に関わる)という文化の強さの表れだろう。

明確なルールに縛られず、まずは島民としてやってみる。実体験を通じて改善を繰り返す。このサイクルを回すには、失敗や非効率を受け入れる「余白」が要る。そして、その「余白」を許容する組織の「揺らぎ」こそが、Entôの文化を支えている。

「境界」を溶かす、リジェネレーション。

Entôの取り組みは、海士町、さらには隠岐諸島全体へと波及し、既存の「境界」を溶かし始めている。その思想は、設計にも見てとれる。改築の際、新棟にはCLT(Cross Laminated Timber)工法が導入された。CLTとは、木材の板(ラミナ)を、各層の繊維方向が直交するように重ねて接着した木質系建材パネルのことだ。

コンクリートや鉄に比べ、製造・建設時のCO2排出量を抑えられる。加えて、原料の木材が樹木の成長過程で吸収したCO2を長期間固定する「炭素貯蔵」の効果も高く、環境負荷の低い持続可能な建材として注目されている。

だが、Entôがこの工法を採用したのは、環境負荷の視点からだけではない。島の将来の大工がホテルの修復を生業(なりわい)として関われるよう、「未来の島の仕事」を創出するという視点も含まれていた。

photo by Kentauros Yasunaga(画像出典:Entô  )

青山さんが語るEntô最大のミッションは、「まだこの土地に来ていなかった顧客」を呼び込むことだ。宿泊者がEntô館内で消費を完結させるのではなく、飲食店や土産屋など、地域全体に経済効果を波及させる。観光には、その土地を訪れていない顧客と地域の“縁”をつくる役割があり、Entôはその使命を果たしている。

青山さん:私たち株式会社海士は「旅をきっかけに豊かさを巡らせる」をミッションに掲げています。

旅をきっかけに、いろんなものが巡る。経済的な循環かもしれないし、宿泊者と島民、あるいは島民同士の出会いが繋がっていくことだと感じています。

Entôは単なるジオパーク内の宿泊施設ではなく、地域リソースと連携するハブでもあり、宿泊者は「触媒」の役割を担う。島の「内と外」の境界さえも溶かしていくのだ。

例えば、こんなエピソードがある。Entôのスタッフが、リピーター客に地元の農家を紹介したところ、二人は意気投合。後日、その宿泊客が再訪した際、今度は仲良くなった農家をEntôのダイニングに招待し、一緒に食事を楽しんだという。スタッフが繋いだ“縁”が島民との交流に発展し、再びEntô へと巡ってきた。島の「内と外」が繋ぎ直された瞬間だ。

「境界」を溶かす波は、隠岐諸島全体にも広がる。Entôの高付加価値化への挑戦は、U・Iターン者の開業など、新たな挑戦者を生む土壌となるだけでなく、産業の境界さえも溶かし始めている。

かつて激しく対立したこともあった競合ホテルが、Entôに触発され、今や連携相手として共にジオパークを盛り上げている。地元の観光協会や民間企業とも手を取り合い、「ふるさと納税」を使った挑戦の支援など、様々な取り組みが行われている。

青山さん:あるときには対立していたこともある企業と今では連携し、祭りの時期には、隣の島から一緒に踊りに来てくれるシーンもありました。

数あるユネスコ世界ジオパークのエリアにおいて、一般的には競合する民間事業者が連携して、ジオパークを活用した観光を牽引している事例が、4年に1度の世界審査においても高い評価を頂きました。

隠岐の島を盛り上げようとする挑戦者と、それを支援する側。両方が活発になってきた印象を受けます。

提供:Entô

Entôには「遠い島」だけでなく、「縁の島」の意味も込められている。Entôがもたらす波及効果の一つは、「宿泊者」と「島民」という境界を曖昧にすることだ。

元はEntôの宿泊者だった浅川さんは、前職の上司に誘われEntôを訪問。その際、島の魅力に深く感動したという。他のスタッフにも浅川さん同様、元宿泊者が見受けられる。その関係性は「都会が嫌」や「田舎が良い」という二項対立ではない。ただ「縁が繋がったから」と、流動的に変化していく。

浅川さんはEntôでの宿泊後、三年にも渡って情報を受け取り、海士町との「縁」を育てた。海士町は情報発信に長けており、人口の倍近い登録者がいる公式LINEや、海士町の情報集約サイト「あまとめ」、全国的な注目も集める「海士町note」の活用などを通じ、遠く離れていても島の“今”が届く。

観光案内はもちろん、「ゴミ出しの方法」といった暮らしの情報まで、リアルな情報が島の生活感を伝え、海士町で生まれた“縁”をていねいに紡いでいる。

画像出典:海士町

浅川さん:私は仕事のために引っ越すことが多く、日本各地を転々としてきました。魅力的な場所、住んでみたい場所はたくさんありますが、“縁”がないとなかなか移り住めません。私はいつも、縁がある場所へ動いている感覚です。

海士町とはその縁がしっかりと紡がれていたからこそ、移住できたのだと思います。

浅川さんのように、宿泊者が「縁」によって島と深く関わっていく。こうした「宿泊者の内面の変容」や、それを受け入れる「住民の誇り」は、Entôが生み出す重要な価値だ。しかし、こうした定性的な成果や価値を、事業としてどう測るのか。青山さんは、その明確な評価軸がまだ作れていないことが課題だと率直に語る。

青山さん:2026年7月の5周年に向け、この5年で私たちが作れたものをもう一度、洗い出したいと考えています。

もちろん、地域への経済波及効果といった定量的な側面も測り直します。ですが、それと同時に私たちが今まさに分析し直しているのが、従業員の多様性です。

現在、従業員は100名を超えましたが、その中には島の高校出身者、「大人の島学」の卒業生、そして(浅川さんのように)宿泊者からスタッフになった方もいます。

私たちは、このメンバーの多様性やルーツこそが、目指してきた「内面の変容」や「地域への愛着」が生まれたことの、何よりの表れだと考えています。

Entôの目指す、未来への問い。

ジオパークという雄大な自然に根差し、何もしない贅沢な時間の中で景色と向き合う。日常から切り離されたとき、人は「自分はどうありたいか」といった本質的な「問い」と向き合うことになる。Entôは、訪れる宿泊者自身にそうした「問い」を投げかける空間だ。

では、Entô自身にとっての、未来への「問い」とは何だろうか。

浅川さん:Entôは、“ない”ことがいかに贅沢かを実感できる場所です。普段は、何かをしていることが正しいと思われがちですが、何もしないで、時間に囚われずに“ぼーっ”とすることは、きわめて贅沢です。

この価値を保つには、“ある”方へ向かわないことが大切です。私たちは「あった方がいい」や「分かりやすい方がいい」と、つい何かを足してしまいがちですが、それをどこまで自制できるか。ゲストも私たち運営側も、どれだけ“ない”ことを許容できるか。それがEntôの目指す未来だと考えています。

photo by Kentauros Yasunaga(画像出典:Entô  )

青山さん:私自身は、大好きな書籍の受け売りなんですが、個人のテーマとして「良き祖先であるためには、何をしなければいけないのか」ということを、人生の大事な問いにしています。

この問いは、隠岐がジオパークであることと深く繋がっています。ジオパークとは、きわめて長い時間軸の中で、物事を捉える視点そのものですから。

特に、人新世(ひとしんせい)*と呼ばれる現代の地球環境下において、隠岐やジオパークが果たす役割は非常に大きい。だからこそ、この時代に隠岐がジオパークとして果たすべき役割とは何か。その問いに向き合い続けたいと思います。

*人新世(ひとしんせい): 人類の活動が、地球の地質や生態系に重大な影響を及ぼすようになった時代(地質時代)を指す言葉。


海士町には「ないものはない」という考え方がある。

それは、都心部のような消費型エンターテイメントは「ない」と潔く割り切る(=ないものはない)という意味であると同時に、生きる上で本当に大切なものは「すべてここにある」(=ないものは、ない)という豊かさの宣言でもある。この二重の意味を持つ「ない」ことの受容こそが、Entôと、そこを訪れる人々の「余白」を生み出しているのだ。

Entôは、訪れる者に「答え」ではなく「問い」を手渡す。 情報社会に生きる私たちは、あらゆる答えをすぐに知りたがり、検索ひとつで問いを解消しがちだ。だが、Entôが投げかけるのは、そうした即物的な答えでは満たされない、本質的な「問い」だ。

安易な答えに飛びつかず、葛藤や「揺らぎ」を抱えたまま、その「問い」と向き合い続ける。その余白に満ちた時間こそが、訪れる人自身の内なる変化(リジェネレーション)を促していく。Entôの挑戦は、私たちに「いかに生きるか」という、最もシンプルで、最も大切な「問い」を突きつけている。




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