環境に配慮した宿泊施設を目指す|Green Keyグリーンキー

国際的なサステナブル認証であるGreen Key(以下、グリーンキー)をご存じでしょうか?グリーンキーの取得は、環境に対する取り組みだけでなく、サービスの質の向上やブランド力の強化に繋がります。
また、同認証は観光業界でサステナブルな認証として高い評価を得ており、2025年2月時点で世界で7,500以上、日本国内では14施設が認証を取得しています。
Green Key(グリーンキー)とは

グリーンキー(Green Key)は、地球環境にやさしい観光を実現するための国際的なエコラベル制度です。デンマークに本部を持つ「国際環境教育基金(FEE)」が運営し、世界60か国以上、5,000以上の宿泊施設がこの認証を取得しています。(2024年1月現在)
このラベルを取得するためには、エネルギーや水の節約、ゴミの削減、地域への配慮など、環境に配慮した運営ができていることが求められます。認証後も定期的な審査を受ける必要があり、持続的な取り組みが評価の対象となるのです。
グリーンキーの施設を選ぶことで、旅行者もサステナブルな観光に貢献できます。つまり、グリーンキーは施設と旅行者の両方にとって意味のある「環境にやさしい証」なのです。
グリーンキー認証の歴史
グリーンキーは1994年にデンマークで始まった国際的なエコラベルで、2003年からは国際NGOのFEEによって認証プログラムとして運営されています。
日本では2009年に制度が導入され、少しずつ取得施設が増加。2022年には一般社団法人JARTAが日本国内の窓口として始動し、審査やサポート体制が整いました。
現在では世界66カ国以上、3,000を超える施設がグリーンキーを取得しており、持続可能な観光の証として国際的に評価されています。
年 | 出来事 | 世界の取得施設数 | 取得国数・地域数 | 日本国内の動き |
---|---|---|---|---|
1994年 | デンマークでグリーンキー制度開始 | – | – | – |
2003年 | 国際NGO FEEが国際認証プログラムとして運営開始 | – | – | – |
2009年 | 日本で制度開始 | 820施設 | 14カ国 | 3施設が取得 |
2010年 | – | 1,250施設 | 18カ国・地域 | 2施設が取得 |
2011年 | – | 1,500施設 | 28カ国・地域 | 1施設が取得 |
2019年 | – | 約3,100施設 | 66カ国・地域 | – |
2022年4月 | 一般社団法人JARTAが国内窓口として運営開始 | – | – | サポート体制が本格化 |
日本でも取得可能に
日本では、2022年4月から一般社団法人JARTAがグリーンキーの公式窓口として本格的に活動を始めました。これにより、日本語での手続きが可能になり、審査員も日本人が対応するようになりました。
これまで海外対応が必要だった取得手続きが、国内でスムーズに進められるようになり、費用や手間が軽減されたのです。宿泊施設の運営者にとって、グリーンキー取得のハードルが下がり、より多くの施設が持続可能な観光への第一歩を踏み出せるようになっています。
また、グリーンキーの基準は具体的かつ明確に文書化されているため、何をどう改善すればよいかが分かりやすいのも魅力の一つです。
グリーンキー取得にかかる費用
グリーンキーを取得するには、年会費と審査料がかかります。施設の規模や種類によって金額が異なるため、以下に分かりやすくまとめました。
年会費(税込)一覧
区分 | 対象施設 | 年会費 |
---|---|---|
A | 取得前のシステム登録料 | 55,000円 |
B | ホテル・旅館(100部屋未満) | 143,000円 |
C | ホテル・旅館(100部屋以上) | 220,000円 |
D | 小規模施設(15部屋以下)※民宿、ゲストハウスなど | 88,000円 |
E | キャンプ場(グランピング含む) | 110,000円 |
審査料
- 通常の施設:77,000円(税込)+審査員の交通費実費
- 大規模施設(C区分):審査員2名×77,000円(税込)+2名分の交通費実費
金額は決して安くはありませんが、環境に配慮する姿勢が利用者からの信頼を高めるため、将来的なブランド価値の向上につながります。
グリーンキー取得がもたらすメリット
グリーンキーを取得することは、ただ環境にやさしい施設であることを証明するだけではありません。それは、サービスの質や経営のあり方を見直す機会にもなり、施設全体のレベルアップに直結します。
また、サステナブルな取り組みを行うことで、「環境に配慮した宿泊施設」としてブランドの信頼が高まり、旅行者から選ばれる理由になります。これは、長期的な集客力アップや差別化にもつながるといえるでしょう。
さらに、グリーンキー施設が増えることで、旅行者の環境意識も育ち、サステナブルな選択をする人が増えていきます。
このように、グリーンキーの広がりは社会全体に良い影響を与える「好循環」を生み出すのです。
認証の基準とプロセス
グリーンキー認証を取得するには、申請→現地調査→判定という3つの段階を経る必要があります。
1. 申請
認証を取りたいホテルや旅館などの施設は、まずJARTA(日本持続可能観光推進機構)に書類を提出します。申請書には、その施設が環境に配慮してどのような取り組みを行っているか、今後どのような改善を予定しているかを詳しく書かなければなりません。
2. 現地調査
認証を取得してから最初の2年間は、年に1回ずつ専門の調査員が実際に施設を訪れます。調査員は提出された書類の内容が本当かどうか、実際に目で見て確認します。3年目以降は現地調査は3年に1回になりますが、書類での確認は毎年行われます。
グリーンキー認証では、ホテル、レストラン、会議場など6種類の施設ごとに評価の基準を設けています。どの施設でも共通して評価される項目は13個あります。
共通評価項目13項目
- スタッフの意識について
- 環境マネジメントについて
- ゲストへの周知・情報提供について
- 水資源について
- エネルギー資源について
- 環境に配慮したクリーニング・洗濯
- 環境と地域に配慮した食べ物・飲み物
- ごみの分別やコンポスティング
- 組織の運営体制について
- 施設内の宿泊環境について
- グリーンエリアの有無
- グリーンアクティビティの有無
- CSR(企業の社会的責任)について
調査員は実際に施設を見て回り、上記13項目の取り組み状況を点数で評価します。施設は全130項目のうち80項目以上で基準をクリアする必要があるとのことです。
水や電気の使用量を減らしたり、ゴミを少なくしたり、オーガニック商品を使ったりすることが求められます。
3. 判定
評価の結果、基準を満たしていると判断された場合、施設の申請書と現地調査の報告書をグリーンキーの本部に送ります。
ただし、合格か不合格かの最終判断は、公正さを保つために第三者の専門機関が行います。見事合格すれば認証が与えられ、認定の盾と証明書がもらえるという流れです。
注意すべき点として、認証の有効期間は1年間のみになります。そのため、認証を続けたい場合は毎年更新の手続きを行わなければなりません。
グリーンキーを取得した施設の事例紹介
グリーンキーの公式サイトによると、2025年6月時点で、日本国内で認証を取得している施設は20カ所です。各施設の取り組み事例を紹介します。
長野県「扉温泉 明神館」

扉温泉 明神館は、1931年に創業した長野県松本市にある老舗旅館です。使用する食材は、地産地消にこだわり、自家農園で栽培した有機野菜を中心に提供します。また、室内には空気を浄化するといわれる珪藻土や無垢材のフローリング、リネンにはオーガニック素材を使用しています。
群馬県「別邸 千寿庵」

別邸 千寿庵は、谷川温泉に佇むラグジュアリーな温泉施設です。静かなプライベート空間と個性的な5つの温泉を楽しむことができます。同施設では、月ごとに廃棄量の目標値を定め、食品ロスの削減に積極的に取り組んでいます。
奄美群島「伝泊」

奄美群島でまちづくりに取り組む「伝泊」が運営する4つの宿泊施設のうち、「伝泊」と複合施設「まーぐん広場」の2施設が、Green Key認証を取得しています。伝泊は、奄美の豊かな自然と集落文化をオーバーツーリズムから守ります。
また、同施設は、奄美の自然と集落と人に寄り添う宿泊施設の運営を目指しており、コンポストや自社の畑を活用した循環の仕組みや定期的な海岸清掃といった環境への取り組みを行っています。

岩手県釜石市「根浜シーサイド」

根花シーサイドは、東日本大震災の後、2019年に復旧オープンしたキャンプ施設です。目の前に海があり、「三陸ジオパーク」「みちのく潮風トレイル」などの自然遺産の拠点としても位置づけられています。「環境にやさしい」をコンセプトに、地域力を生かしながら、環境共生と持続可能な取り組みを行っていく「まなびのキャンプ場」として運営されています。[2]
リッツカールトン大阪、ザ・リッツ・カールトン福岡
リッツカールトン大阪は2024年11月、ザ・リッツ・カールトン福岡は2025年4月にグリーンキー認証を取得しました。環境保護の取り組みとして、省エネ型照明の導入や再生可能エネルギーの利用、プラスチック製アメニティの削減を実施。
また、敷地内での合成洗剤や化学農薬の使用制限により自然環境の保全に努めています。持続可能な社会に向けて、多様な人材の雇用や従業員の働きやすい環境づくり、地域清掃や献血活動などの社会貢献活動も展開しています。[3]
メズム東京 オートグラフコレクション

メズム東京は2020年の開業時からサステナビリティを重視し、環境配慮の取り組みを実践しています。具体的には、ジェンダーレスなユニフォームの導入や客室のペーパーレス化、プラスチック使用量の削減を推進。さらに、地域の自然環境保護として、近隣の干潟清掃や浜離宮恩賜庭園の保全活動にも積極的に参加しています。[4]
マリオットインターナショナルグループ
2024年10月から2025年1月にかけて、マリオットインターナショナルグループの5つのホテルが一気にグリーンキー認証を取得しました。
- シェラトン鹿児島
- ウェスティンホテル東京
- 東京エディション銀座
- 東京エディション虎ノ門
- W Osaka
- アロフト東京銀座
- ウェスティンホテル大阪
- ウェスティンホテル横浜
- コートヤード・バイ・マリオット名古屋
これらのホテルは環境と持続可能な社会の実現に向け、廃棄物の細分化・リサイクルを徹底し、食品廃棄物の削減にはAIシステムを導入。水道やエネルギー使用量の削減、有害な化学物質を含む洗剤の使用制限、プラスチック製品の削減にも取り組んでいます。
さらに、ヴィーガン対応メニューやオーガニック・フェアトレード食材の採用、ジェンダー平等の推進、産休・育休後の復職支援など、多方面でサステナビリティを意識した取り組みを行っています。
中でも228室もある大型ホテルのシェラトン鹿児島は2024年10月にグリーンキー認証を取得しました。主な取り組みとして、部署横断型のサステナビリティチームを発足させ、従業員教育を強化。地元食材を活用した食のフェアの開催や、レストランの生ごみを堆肥化して野菜栽培に活用する循環型リサイクルを導入しています。
また、食品廃棄量測定システム「Winnow」による廃棄傾向の分析や、LED照明の導入、空調管理の最適化など、多角的な環境保全活動を展開しています。
Hotel The Flag 心斎橋
Hotel The Flag 心斎橋では社会課題解決のため、フロント業務で顧客との人的接触を重視する一方、バックオフィスはAI導入で効率化を図っています。
環境面では年間10万本のペットボトル削減や共用ウォーターサーバー導入、ペーパーレス化を推進。組織運営では完全実力主義を採用し、女性管理職比率80%を実現。多様性を重視しながら従業員の成長機会を積極的に提供し、持続可能な社会実現に貢献しています。
アンテルーム那覇
ホテルアンテルーム那覇では、連泊客向けのECOプランでリネン清掃を削減し、環境負荷を軽減しています。
レストランではパイナップル葉のストローや木製容器を使用し、沖縄県産の食材やアメニティを積極的に活用することで地域経済を支援。スタッフには多様な働き方を推進し、ホテリエ以外のスキルも活かせる環境を整備するほか、同性パートナー制度なども導入し、誰もが安心して働ける職場づくりに取り組んでいます。[5]
メルキュール札幌
メルキュール札幌では、アコーグループの使い捨てプラスチック削減目標に基づき、客室アメニティを大幅に見直しました。
歯ブラシやコームを竹製に変更し、歯磨きペーストや茶葉は紙パッケージを採用。ボトルウォーターも紙製パックに切り替えています。シャワーキャップやランドリーバッグは必要時のみ提供し、環境負荷の軽減に取り組んでいます。[6]
最後に
日本においてもグリーンキー認証を取得する宿泊施設が続々と増えているのは良い流れだと言えます。Google Travelや大手旅行サイトExpediaを含むオンライン予約サイトでは、サステナブル認証取得の有無が分かり、欧米を中心に宿泊客にとって宿泊先を予約する際の一つの指標となっています。
コロナ禍が過ぎ、訪日外国人の数は激増しています。今後、サステナブルツーリズムに対する意識が高い欧米からの観光客や、環境・社会問題に対して関心のあるZ世代がどんどん日本に訪れています。その際、彼らを誘致するためにも、グリーンキーを含むサステナブル認証を取得することを経営戦略の一つとして検討してみませんか。


参考文献
[4]GreenKey|Sustainability|メズム東京、オートグラフ コレクション
[5]ホテル アンテルーム 那覇 サステナブルな取り組み | UDSリゾート公式サイト
[6]Mercure Sapporo – 使い捨てプラスチックごみ削減に向けた取り組みについて
JARTA – 持続可能な観光を実践する「責任ある旅行会社アライアンス」Japan Alliance Of Responsible Travel Agencies