環境に配慮した宿泊施設を目指す|Green Keyグリーンキー

国際的なサステナブル認証であるGreen Key(以下、グリーンキー)をご存じでしょうか?グリーンキーの取得は、環境に対する取り組みだけでなく、サービスの質の向上やブランド力の強化に繋がります。
また、同認証は観光業界でサステナブルな認証として高い評価を得ており、2024年時点で世界で5,000以上、日本国内では12施設が認証を取得しています。
Green Key(グリーンキー)とは

グリーンキーは、ホテルやキャンプ場、レストランなどの施設を対象に、環境方針や持続可能な運営を評価している国際的なサステナブル認証機関です。グリーンキーは1994年にデンマークで始まり、2024年1月現在、世界の60を超える国において合計5,000以上の施設が認証を取得しています。
世界持続可能観光協議会(GSTC)は、GSTC クライテリア(基準)と呼ばれるサステナブルツーリズムのための国際基準を策定し、管理しています。GSTCが認めた第三者機関に向けて発行しているガイドラインでは、観光産業が取り組むべき課題や達成基準を示しており、観光地域向け、旅行会社向け、宿泊施設向けの大きく3種類に分類されます。

グリーンキーは、GSTCが認めた第三者機関として、2016年に「宿泊施設向けのGSTC承認(GSTC-Recognized Standards for Hotels)」を取得しました。ホテルなどの宿泊施設が、グリーンキー認証を取得すると、GSTCによる国際基準を満たしていることを意味します。
認証取得のメリットと特徴
グリーンキー認証の取得は、サステナビリティへの取り組みが加速するだけでなく、環境に配慮した観光をしたい人々のニーズを満たすことにも繋がります。サステナブルツーリズムが主流になりつつある欧州では、グリーンキー認証が既に旅行者がホテルやレストランを選ぶ際の一つの目安として活用されています。
また、グリーンキーは、世界40ヵ国に専用窓口を設置しています。自国に窓口がある場合、自国の規制や宗教、習慣を考慮しながら母国語での審査やサポートを受けることが可能です。
日本では、一般社団法人JARTAが日本国内のグリーンキー認証に関わる窓口業務を行っています。年会費や審査費用は、施設の規模や業態によって異なります。詳細はJARTAのサイトをご確認ください。
認証の基準とプロセス
グリーンキー認証を取得するためのプロセスを解説します。グリーンキー認証の取得プロセスは、1.申請、2.現地調査、3.判定の大きく3つに分けられます。
1. 申請
認証を取得したい施設は、JARTA窓口に審査書類を送付します。申請書には、施設が行っているサステナビリティに対する取り組み状況や今後の改善案を記載します。
2. 現地調査
1年目と2年目は、年1回の現地調査にて、書類確認と申請内容に関わる目視検証が実施されます。その後、現地調査は3年に1度、書類確認は年に1度行われます。
グリーンキーは、対象となる6種類の施設別に評価項目を記載した文書を公開しています。全ての施設に共通している評価項目は13項目あります。

- スタッフの意識について
- 環境マネジメントについて
- ゲストへの周知・情報提供について
- 水資源について
- エネルギー資源について
- 環境に配慮したクリーニング・洗濯
- 環境と地域に配慮した食べ物・飲み物
- ごみの分別やコンポスティング
- 組織の運営体制について
- 施設内の宿泊環境について
- グリーンエリアの有無
- グリーンアクティビティの有無
- CSR(企業の社会的責任)について
監査役が、現地を視察し、上記の13項目の取り組み状況を定量的に評価します。対象施設は、水やエネルギーの消費量の削減、 廃棄物の排出量の削減、オーガニック商品の活用といった評価項目130項目のうち80以上の項目で基準を満たすことが求められます。
3. 判定
評価の結果、基準を満たしていると判断された場合、施設からの申請書と現地調査のレポートをグリーンキーの本部に提出します。しかし、判定はグリーンキーではなく、公平性を保つため第三者機関(独立監査役または審査員)によって行われます。合格と判断されれば無事に認証され、盾と認定証が渡されます。ただし、認証の有効期限は1年間のため、継続を希望する場合は更新手続きを行う必要があります。
グリーンキーを取得した施設の事例紹介
グリーンキーの公式サイトによると、2024年10月現在、日本国内で認証を取得している施設は12カ所です。各施設の取り組み事例を紹介します。
長野県「扉温泉 明神館」

扉温泉 明神館は、1931年に創業した長野県松本市にある老舗旅館です。使用する食材は、地産地消にこだわり、自家農園で栽培した有機野菜を中心に提供します。また、室内には空気を浄化するといわれる珪藻土や無垢材のフローリング、リネンにはオーガニック素材を使用しています。
群馬県「別邸 千寿庵」

別邸 千寿庵は、谷川温泉に佇むラグジュアリーな温泉施設です。静かなプライベート空間と個性的な5つの温泉を楽しむことができます。同施設では、月ごとに廃棄量の目標値を定め、食品ロスの削減に積極的に取り組んでいます。
奄美群島「伝泊」

奄美群島でまちづくりに取り組む「伝泊」が運営する4つの宿泊施設のうち、「伝泊」と複合施設「まーぐん広場」の2施設が、Green Key認証を取得しています。伝泊は、奄美の豊かな自然と集落文化をオーバーツーリズムから守ります。
また、同施設は、奄美の自然と集落と人に寄り添う宿泊施設の運営を目指しており、コンポストや自社の畑を活用した循環の仕組みや定期的な海岸清掃といった環境への取り組みを行っています。

岩手県釜石市「根浜シーサイド」

根花シーサイドは、東日本大震災の後、2019年に復旧オープンしたキャンプ施設です。目の前に海があり、「三陸ジオパーク」「みちのく潮風トレイル」などの自然遺産の拠点としても位置づけられています。「環境にやさしい」をコンセプトに、地域力を生かしながら、環境共生と持続可能な取り組みを行っていく「まなびのキャンプ場」として運営されています。[2]
大阪府「リッツカールトン大阪」

リッツカールトン大阪は2024年11月にグリーンキー認証を取得しました。環境保護の取り組みとして、省エネ型照明の導入や再生可能エネルギーの利用、プラスチック製アメニティの削減を実施。また、敷地内での合成洗剤や化学農薬の使用制限により自然環境の保全に努めています。持続可能な社会に向けて、多様な人材の雇用や従業員の働きやすい環境づくり、地域清掃や献血活動などの社会貢献活動も展開しています。[3]
メズム東京 オートグラフコレクション

メズム東京は2020年の開業時からサステナビリティを重視し、環境配慮の取り組みを実践しています。具体的には、ジェンダーレスなユニフォームの導入や客室のペーパーレス化、プラスチック使用量の削減を推進。さらに、地域の自然環境保護として、近隣の干潟清掃や浜離宮恩賜庭園の保全活動にも積極的に参加しています。[4]
マリオットインターナショナルグループ
2024年10月から2025年1月にかけて、マリオットインターナショナルグループの5つのホテルが一気にグリーンキー認証を取得しました。
- シェラトン鹿児島
- ウェスティンホテル東京
- 東京エディション銀座
- 東京エディション虎ノ門
- W Osaka
これらのホテルは環境と持続可能な社会の実現に向け、廃棄物の細分化・リサイクルを徹底し、食品廃棄物の削減にはAIシステムを導入。水道やエネルギー使用量の削減、有害な化学物質を含む洗剤の使用制限、プラスチック製品の削減にも取り組んでいます。
さらに、ヴィーガン対応メニューやオーガニック・フェアトレード食材の採用、ジェンダー平等の推進、産休・育休後の復職支援など、多方面でサステナビリティを意識した取り組みを行っています。
中でも228室もある大型ホテルのシェラトン鹿児島は2024年10月にグリーンキー認証を取得しました。主な取り組みとして、部署横断型のサステナビリティチームを発足させ、従業員教育を強化。地元食材を活用した食のフェアの開催や、レストランの生ごみを堆肥化して野菜栽培に活用する循環型リサイクルを導入しています。
また、食品廃棄量測定システム「Winnow」による廃棄傾向の分析や、LED照明の導入、空調管理の最適化など、多角的な環境保全活動を展開しています。
最後に
日本においてもグリーンキー認証を取得する宿泊施設が続々と増えているのは良い流れだと言えます。Google Travelや大手旅行サイトExpediaを含むオンライン予約サイトでは、サステナブル認証取得の有無が分かり、欧米を中心に宿泊客にとって宿泊先を予約する際の一つの指標となっています。
コロナ禍が過ぎ、訪日外国人の数は激増しています。今後、サステナブルツーリズムに対する意識が高い欧米からの観光客や、環境・社会問題に対して関心のあるZ世代がどんどん日本に訪れています。その際、彼らを誘致するためにも、グリーンキーを含むサステナブル認証を取得することを経営戦略の一つとして検討してみませんか。


参考文献
[4]GreenKey|Sustainability|メズム東京、オートグラフ コレクション
JARTA – 持続可能な観光を実践する「責任ある旅行会社アライアンス」Japan Alliance Of Responsible Travel Agencies